「…………」
「兄さん。昨日から何をソワソワしているんですか?」
「やっぱりそう見えるか?」
「いや、普通にそう見えるけど、何かあったのか?」
「…………これを見てくれ」
「どれどれ……ってこれ婚姻届!? しかも文香さんの筆記済み!?」
「ああ。最近会うたびにこれを渡してくるんだ。なぜだろう?」
「兄さん。私にはわかります」
「ありす。わかるのか!?」
「はい。簡単に言うと兄さんを繋ぎ留めたいんです」
「えっ? どうしてそんな必要が?」
「兄さん。逆の立場になって考えて下さい。
戦ってケガをして、あまつさえ片腕を失う戦いをする人。
何としても戦わせたくないでしょう?
だから法的な鎖で兄さんを繋ぎ留めたいんでしょうね」
「…………」
「で、どうするんですか?」
「こうするんだ」
俺は婚姻届にサインする。
「良し完成。後は役所に出すだけだ」
「兄さん。覚悟を決めたんですか!」
「おお! 漢だぜ!」
「結婚式には是非呼んでくださいね!」
「はは。今日は勝負の日だからね。気合入れないとね」
そう言って俺は懐から箱を取り出す。
「兄さん。その箱って……!」
ありすの言葉と共に箱を開ける。
「見ての通り婚約指輪だ。今日、文香にプロポーズする予定だ」
その言葉に三人はおおーっと言う。
「兄さん! 場所は大丈夫なんですか!?」
「プロポーズの文言は大丈夫か?」
「失敗しないように祈ってますね」
「ありす達は心配してくれているのか、けなしているのかどっちなんだ?」
どっちなのかわからないまま、俺は文香との約束の場所へ向かった。
「文香お待たせ」
「いえ。私も今着いた所ですので……」
「それじゃいこうか」
俺はいささか緊張した面持ちで告げる。
「はい」
文香も察しているのか緊張してる気がした。
俺は夜景の見えるレストランを予約しておいた。
料理もおいしく、終始和やかに文香との食事は進んだ。
ふー、はー。よし。落ち着け俺。
橘レイジ。一世一代の大勝負を仕掛けます。
「あの、文香」
「なんでしょう、レイジさん?」
き、緊張する! スカサハや武蔵と戦った時とは別の意味で緊張する!
ええい。ままよ。
「文香! 結婚して下さい!」
そう言って指輪を見せる俺。
文香は驚いた表情を見せた後微笑んで、
「よろしくお願いします」と言ってくれた。
よし!
俺は内心ガッツポーズをした。
その後俺と文香は役所へ婚姻届を提出。
晴れて夫婦となった。
そして、翌日。
「みんなおは……おお、大勢いてどうしたんだ?」
「橘さん。プロポーズは成功したの!?」
本田さんがえらい勢いで食いつく。
「ありすちゃんも知らないから結果を教えてください」
島村さんも同じのようだ。
他のメンツも昨日の結果を知りたくて集まっていた。
「ええと、端的に言うと成功した」
その言葉に拍手が沸き起こる。
「婚姻届は出したの!?」
「昨日の内に役所に出しに行ってきた」
「ということは、鷺沢文香ではなく橘文香になったということですね」
ありすが現状を確認する。
「それで式はいつの予定?」
本田さんが食い気味に食いついてくる。
「その辺はまだ決まってないんだ。
フォトウェディングという形になるかもしれないしね」
「ふーん、そうなんだ」
「ところでみんなこの話に食いつくね」
「それは女の子の憧れですから」
島村さんが笑顔で応じる。
「そうそう。誰だって女の子はウェディングドレスを着たいものだよ」
本田さんがそう言ってきた。
「そっか。それじゃちゃんとしないとな」
「うんうん。文香さんを大事にね」
「はは。本田さんに言われなくてももちろん」
そうだよな。文香との関係が変わるんだよな。
頑張らないとと思うレイジだった。