to the beginning 作:ヘルメス・トリスメギスタス
「バックダンサーですか?」
「はい。ニュージェネレーションのバックダンサーをお願いしたいのです」
武内さんが部屋を訪れて、ありす達にバックダンサーの依頼をしてきた。
「こちらとしては願ってもない事ですが、よろしいのですか?」
「はい。橘さんには楽曲の提供をしていただいたので是非」
「わかりました。ありす達に伝えておきます」
その日からありす達のレッスンが始まった。
「はあ・・・はあ・・・」
「はい。スポーツドリンク」
「ありがとうございます兄さん」
「しっかしきっちいな」
「はい。基礎レッスンとは違いますね」
「ライブに向けてのレッスンですからね。厳しいのは当然です」
トレーナーさんが皆に語りかける。
「バックダンサーとはいえお客さんが見てるんだ。
恥ずかしいパフォーマンスは出来ないぞ」
俺は三人を見据えて言う。
ありす達がミスすると、ニュージェネレーションに迷惑が掛かるからな。
ありす達のレッスンは連日夜遅くまで続いた。
数日後、ニュージェネレーションと一緒にレッスンをすることになった。
ここで曲に合わせて一緒に踊れるかの確認である。
しかし・・・。
「橘さん一歩遅いです! 結城さんターンが遅れてます!」
トレーナーさんが険しい顔をしている。
俺も渋面を作らざるを得ない。
武内さんも難しい顔をしている。
やはり経験の差か、ありす達の動きがぎこちない。
何とかすり合わせていくしかないか・・・。
更に数日が経ち、何とかニュージェネレーションと合わせられるレベルまでになった。
出来る事ならもう少し時間が欲しいが、もう時間がない。
これで行くしかないだろう。
武内さんには後で謝る必要があるだろう。
俺は内心でため息を吐いた。
ライブ当日、その日は土砂降りの雨だった。
スタッフが集まっての緊急ミーティングが開かれた。
「だから中止にするしかないだろ!」
「しかしファンも会場入りしてますし、雷電Pの新曲ということも告知されてるんです。
これで中止になったらどうなるか・・・」
「じゃあどうしろと言うんだ! この雨だぞ!」
スタッフ達の怒号が響く中、俺はそっとミーティングを抜け出した。
俺はステージの裏手に回り、外に出る。
折からの雨は強くなる一方だった。
「出番だ。起きろ『エア』」
俺は奥の手の一つを取り出す。
「兄さん!」
声の方を見るとありす達がいた。
「橘さんそれは一体・・・」
「武内さん。すぐにわかります」
俺は『エア』を起動させる。
すると三つの円筒が回り始める。
「こいつの全力は初めてだな・・・」
「原初を語る。天地は別れ無は開闢と言祝ぐ。世界を裂くは我が乖離剣!
星々を廻す臼、天上の地獄とは創世前夜の終着よ。死を以て鎮まるが良い――『天地乖離す開闢の星』ッ!!」
それは天地を分けた一撃。
それを雨雲に向けて俺は放った。
その威力は凄まじく、雨雲を瞬く間に散らした。
青い空がライブ会場を照らす。
皆が皆あっけにとられていた。
「武内さん。ライブの準備をお願いします。ありす達もだ」
俺に言われて皆弾かれるように動き出す。
後からの説明が面倒だなと俺は思った。
ライブは成功に終わり、ありす達も役目を果たせた。
俺達は事務所に戻ったが、俺は取り調べを受けていた。
「さあ! キリキリ吐いてもらいましょうか!」
本田さんがノリノリで言ってきた。
「俺が使ったのは『エア』。乖離剣と呼ばれるものです」
「乖離剣?」
「世界が天と地に別れていなかった時に天と地を分けた剣。それが乖離剣です」
「ふうん。それってどういう原理?」
渋谷さんが尋ねてくる。
「簡単に言うと強烈な風で空間断裂を引き起こします」
「なんでそんなの持ってるの?」
「黙秘します」
「他にもあるの?」
「あります」
「カツ丼食べる?」
本田さんが聞いてくる。
「いえ。いいです」
「これ以上は教えられないと?」
「はい。武内さん。詳しく聞きたいなら神崎さんが知っていますので、
神崎さんに聞いて下さい」
「そうですか・・・。わかりました。ありがとうございます」
「いえ。今回はありす達に良い体験になりました」
そう言って俺は武内さんの部屋を辞去した。