to the beginning 作:ヘルメス・トリスメギスタス
「三人共レッスンお疲れ様。体力がついてきたじゃないか」
「そりゃ毎日やってりゃな」
「でもそろそろ次にステップアップしたいなって」
「そうですね。兄さん、どうなんですか?」
「そんな三人に耳よりの話を持って来た」
そう言って俺は三人に紙を配る。
「Kalafina? これは何ですか兄さん?」
「三人のグループ名だよ」
「ってことはつまり・・・」
「ああ。デビューということだ」
そう言うと三人共笑顔になった。
「よっしゃ! やっとか!」
「いよいよですね」
「千枝達責任重大ですね」
「それで曲がこれだ」
「『to the beginning』・・・ですか」
「音源があるから流すよ」
そう言って俺はCDを流す。
「~~♪」
「・・・何というか切ない曲ですね兄さん」
「ダンスは少ないけど、三人の声を上手く重ねないといけない歌だ。
だけど三人なら歌いこなせると信じてる」
俺は三人を見渡して言った。
翌日から新曲のレッスンが始まった。
「~~♪」
三人共音を合わせようと集中している。
しっかり基礎レッスンを重ねてきたのが効いているようだ。
「トレーナーさん、どうですか?」
「橘さん。いい感じです。これなら当日までには充分に実力を発揮できそうです」
「そうですか。それは良かった」
俺はトレーナーさんの返事に満足して三人を見た。
デビュー当日、三人は緊張の面持ちでいた。
お客さんも小さなライブハウスながら、結構な人数が入っている。
事前にSNSで雷電P作曲でデビューと発信しておいたおかげだろう。
「三人共緊張してるな」
「に、兄さん! 当り前じゃないですか!」
「前にバックダンサーやった時より人数少ないのに緊張するぜ」
「この緊張感は初めてです」
んー、緊張をほぐすか。
「星の内海、物見の台。楽園の端から君に聞かせよう・・・・・・君たちの物語は祝福に満ちていると。
罪無き者のみ通るがいい――『永久に閉ざされた理想郷』!」
「・・・お花畑?」
「兄さんこれは?」
「宝具、『永久に閉ざされた理想郷』。緊張が解けたはずだよ」
「そういえば千枝はリラックス出来たような・・・」
「それじゃアヴァロンから戻るよ」
そう言って俺は宝具を解除する。
すると、皆が控室に戻った。
「どうだったかな?」
「兄さん。さっきと違っていい意味で緊張感があります」
「へへっ。いい感じだぜ」
「これならいけます」
よし。これなら大丈夫だな。
「すいません。時間です」
スタッフさんから声がかかる。
「三人共、出番だ。思いっきり楽しんで」
俺の言葉に三人はステージに飛び出していく。
さてと、俺は見守るとするか。
結論から言うと、三人のデビューは成功に終わった。
三人共やり切ったという表情をしていた。
俺達は一度事務所に戻った。
そこにはにこやかな笑顔のちひろさんが出迎えてくれた。
「ライブ成功おめでとうございます!」
「はは。ありがとうございます」
俺がちひろさんと話していると、ありすが服を引っ張った。
「兄さん、約束を守って下さい」
「わかってるよ。ケーキを奢るよ」
俺達は346プロのカフェに向かった。
「兄貴! お久しぶりです!」
「おっ? 拓海か。久しぶりだな」
「兄さんの知り合いですか?」
「ああ。コイツは向井拓海。俺の高校時代の後輩だよ」
「橘さん、こんにちは」
「多田さんか。それにそっちは木村さんと藤本さんか」
「ああ。確か初対面のはずだけど、何で名前知ってんだ?」
「事務所の名簿で顔と名前を全て覚えたのさ。だから木村さんも知ってるよ」
「千枝達がレッスンをしてる時に何してるのかと思ったら、
そんなことしてたんですね」
「拓海は橘さん知ってるみたいだけど、どんな人だったの?」
「『赤鬼』」
「へ?」
「ヤンキー界隈じゃ兄貴はそう呼ばれてた。ヤンキーの返り血で全身が真っ赤に染まったからな」
「もしかして橘さんはヤンキーだったの?」
「いや。兄貴は普通の学生だったぜ。ただ怒らせるとヤバいんだ」
「・・・見た目普通ぽよ?」
「兄貴は滅多に怒らないからな。その分キレるとヤバいんだ」
「まあまあ。昔の話だから。若気の至りというやつだよ」
「そう言えば兄さんが怒った所を見たことはないですね」
「力も抑えているからね。怖いとかそんな感じはしないはずだよ」
「兄貴のプレッシャーは凄えからな。本気だと息も出来ねえくれえだ」
「うわー・・・。想像したくないな」
「はは。ケーキも来たし食べようか」
俺は笑って誤魔化した。