仄暗い深海からのヴィランコレクション 作:ターンアウトエンド
中学生の授業なんてもう記憶の彼方である。
あ、前世、前世の話な。
今は絶賛受講中なわけで。
難しい訳じゃないぞ?寧ろ簡単だ。
と言うかこの体のスペックやっぱりおかしいな。
一度覚えたものは忘れないし、公式を覚えたらそれが使われそうな問題はきちんと想起も出来る。
そもそも頭の回転が早い。
肉体的スペックだけでなく、頭脳面でのスペックも規格外のようだ。
今も、授業を受けながらもこの教室内の状態が手に取るように分かるし、なんなら別のことを考えていても問題ない。
足下の、私の影からじわじわ顔を出してきた浮遊要塞を、ゆっくり踏みつけることで押し戻していくことも、視線をやらずにこなしていける。
あぁ?ゴホウビー?ぶっころすぞてめぇ。
艤装に、いや、名称がないと面倒だな。
ダイソンで良いか?え、嫌なの?じゃあ連装砲君でどうよ?それでいいって?じゃぁ連装砲君で。
で、だ。連装砲君のスペックも知りたかったので、中学に入学する前に色々と動き回ったのよ。
海に行って、港で釣りをしながら連装砲君のフルサイズを確認したり、作れるという浮遊要塞を作ってサイズを確認したり。
浮遊要塞もサイズの変更が自在だったので良かったけど、でかくても宙に浮くのは違和感バリバリだった。だって1メートルサイズの鉄球が宙に浮くんやぞ?
だが一番の問題は、こいつらの戦闘力が洒落にならんと言うことだった。
連装砲君が言うには、海ならかなり遠くまで遠隔で動けるとのことだったので、私は釣りをしながら、彼らには遠征に行ってもらった。
遠くまで行けても見えないなら意味無いと思ってたら、意思だけじゃなく彼らが見た映像も受信できるらしい。都合の良いやつらだな。
小笠原かな?近くの諸島に、ちょうど良さそうな無人島があったので、そこで射撃演習をやってみたんだが…
島が消えてしまった。
いやな、最初浮遊要塞に撃たせたのよ。
そこそこ攻撃力あるかなぁ、といっても所詮たこ焼きだしなぁ、と思ってたら、外周2㎞はあるだろう無人島の、真ん中に大きな湾が出来てしまった。
解せぬ。
これでも抑えたらしい。
というのも、現在はノーマル状態で、ここから二段階はパワーアップ出来るんだと。
お前ら仕様の違いだけじゃ無かったんか。
そして満を持して登場する我らが連装砲君。
ぶっちゃけ、こいつもう撃たなくても良いやと思っていたんだが、どうしても私に自分の主砲の威力を見せたいと懇願されたので、着弾後を確認したら即撤退を条件にやらしてみた。
したらさ、もう。
島が消えてしまったと。
着弾の衝撃はそれはもう凄まじかった。と言うか、距離が近すぎて着弾後後方まで衝撃波が延びていた。
巻き上げられた土砂と水の柱は、フルサイズの連装砲君の10倍は越えるだろう高さにまで昇り、その衝撃範囲は視界一杯まで広がるほどに広大だった。
え、戦艦って、こんなに主砲の威力あったっけ?
射撃位置から着弾地点の島まで、300mは離れていた筈だが、正直近すぎたみたい。なまじヒトガタのサイズに収まっているから勘違いしていたが、そういやコイツら戦艦よりも凶悪な装備してるんだったな。
とまぁこんな感じで。
最初の射撃実験は威力を知るという点では大成功に終わった。
え、何。まだ上に4段階ある?
はぁ?お前『壊』の上ってなんだよ。知らねぇし撃たせねぇよ?だめ。絶対駄目です。
後でアイスやるからそんなに落ち込むなよ…
私の個性で分かったことはそう多くない。
戦闘に特化した個性であることは言うまでもないが。
それでも、中には使い勝手の良さそうな能力も有った。
『眷属作成』
これは浮遊要塞も含め、小型の深海棲艦を作れる能力だ。未だ強力なのは出来そうにないが、鍛えていけばその限りじゃ無いだろう。
出来ればヒトガタ欲しいなぁ。
この個性『戦艦水鬼(仮)』を纏めると、以上の能力になる。
・身体能力強化(筋力・耐久力・反応及び思考能力)
・艤装展開能力(砲雷撃含むその他)
・眷属生成能力(要調査)
・艤装・眷属格納能力(これも要調査)
のんびり調べただけでもこれだけある。
ちなみに、何故(仮)なのかというと、次点で『深海棲艦』の可能性も否定できないからである。まぁ、どちらでもヤバイことに代わりはない。
この持ち得る能力が、それぞれが独立した個性として扱っても良いレベルなのだ。しかも悩ましいことに、現状個性伸ばしを殆どしていないことが問題だ。
まだ伸びる余地があると言うことだから。
この能力が伸びるという可能性は、この個性自体から来る勘の良さで確信している。
と言うか、一部能力は強力すぎて担い手が混乱しないよう出力を制限している節が有る。
具体的にいうと、身体能力強化だな。
一応、前世では拙いながらも体の使い方は納めた。
この強化のお陰で一切活用できておらんが。
今暫く、この強化に慣れることからやっていかねば。
活用しようにも、『力こそパゥワー』状態では上手くいかん。
個人的には柔よく剛を制すのが理想なんだが、なぁ…
「あら?ミズキはヒーローにはならないの?」
学校から帰ってきて、リビングで寛いでいると、母から行きなり質問された。手元には学校からもらった封筒が。
どうやら前に学校で出した進路調査の結果が親元に知らされたらしい。
まぁ、別に隠していることじゃないから良いけど。
ならないよ。
戦うの嫌だし。
「ミズキなら、海難救助ヒーローにもなれると思うんだけどなぁ」
母が残念そうに用紙を見つめている。
母は、昔ヒーローを目指していたそうだ。
水上を歩けるから、海難救助ヒーローとして人助けをするのが夢だったと。
しかし母の身体能力は、ヒーローとして活動するには遠く及ばなかったようだ。
結局ヒーローになることを泣く泣く諦め、現在の海上警備のオペレーターとして、自分の夢だった海難救助ヒーローのサポートをしている。
そんな母にとって、中途半端であれ力もあり、水上歩行が出来る私は、自分の代わりにヒーローに成って欲しかったんだと。
うん、泣かせる話だなぁ。
でも絶対嫌だ。ならない。
人のために命を懸ける職業は尊敬するよ?
素晴らしいと思う。
だからと言って、自分がそれをやろうとは思わんね。
現在、角を出さずにパワーアップすることも、水上歩行することも出来るようになった。
後々、某ミスターアメリカンな超人的活動も出来るかもしれない。
だがね、私はこの現在のヒーローとヴィランに分かれた社会構造そのものが気に食わないんだ。
構造的欠陥だらけじゃないか。
現状を維持している管理者側に改善の意思がない限り、私はヒーローに与する気はない。
自分が管理者側になる気もないしね。
それに今のヒーロー制度も、圧倒的にヒーロー側にとって不利じゃないか。
戦力情報は開示されるし、達成条件は厳しく設定されている。
ヴィラン側はウェポンズフリー(なんでもあり)なのに対して、ヒーローは警棒のみ(非殺傷)は厳しいだろう。
え、何?昔の日本の警察はやってたって?
あれは数がいたから可能だったんだよ。戦いは数だよ。
そんなわけで。
母さん、私は開発に進んで、ヒーローのサポートに回るよ。
今の母さんと同じことをしたい。
「ミズキ…この可愛い娘め!」
ふっ、チョロいもんだぜ。
母が襲いかかってきたので軽くあしらいつつ、自分の将来について考えた。
…当分は宝くじで生活出来ないかな?
んだよ?
影の中から何か物言いたげな気配を感じたが、気のせいのようだ。
続くと良いなぁ
やる気スイッチ兼ブレーカー