仄暗い深海からのヴィランコレクション   作:ターンアウトエンド

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沢山の方に見ていただいて嬉しいです。


第三話

「ミズキ、お前サポートアイテムの開発に回りたいって言ってたらしいけど、どんなのが作りたいんだ?」

 

 

休日、リビングでソファに寝転んでいたら、同じく休日だった父に話しかけられた。

父は隠していたお菓子とお酒を持って、昼酒を楽しむ準備をしていた。

 

その持っているお菓子は、私が見逃していたやつだな。ピリ辛は要らん。

 

 

んー?

いきなりどうしたの。

 

「いや、母さんに聞いてな。サポートアイテムってんなら、俺がテスターやれるかもしれないだろ?」

 

なるほど。

今は特に具体的には考えてないからなぁ。

父さんは私にヒーローになれとは言わんね?

 

「ん、あぁ。人助けなんて、本人のやる気が無けりゃ有り難迷惑ってもんだ。お前はお前がやりたいことをすれば良いさ」

 

へー、さすが大黒柱。

 

じゃニートで。

 

「それは話が別」

 

前言撤回が早すぎるぞぉおやじー。

 

 

かかか、と笑う父は、気の良い漁師みたいな為りだ。

骨太で大柄な体は重厚な筋肉で覆われていて、第一印象は軍人かプロレスラーである。

 

父の職業は、レスキュー隊員。

これはヒーローとかではなく、そのサポートもこなす真っ当なレスキュー隊員だ。

海難に限らず、山岳遭難、交通事故、災害救助まで、所属している管区内の事故・災害に日夜対応している。

その他にも、緊急のレスキュー要請がなければ、消防活動や、訓練、延いては教導まで行っているそうだ。

 

何でこんなに詳しいかって?

定期的にこう絡み酒で自慢するからだよ。耳にオクトパスだぜ。

 

 

そういえば、

父さんはなんでヒーローにならないん?

やってることヒーローと変わらないじゃん。

 

「あー、それな。それはなぁ」

 

さっきまでのテンションと違い、やや言い辛そうに言葉を選ぶ父。

これは気になるが?

 

 

なんかあった?

ヒーローに虐められたとか?

 

「んー、これ、龍鬼(りゅうき)に言うなよ」

 

と言って話し始める父。

龍鬼ってのはヒーローに憧れる弟の名前だ。

変身しないよな?

 

「昔な、俺の高校の恩師が事故で亡くなったんだ」

 

ふむ。

でも事故ならヒーロー関係なくない?

 

「まぁ聞け。でな、その事故で亡くなる前から、方角先生って言うんだが、方角先生はある活動をしてたんだ」

 

活動?

 

「ああ。ヒーローのな、この名前は言わないが、昔の教え子のヒーローを辞めさせようとしていたらしい」

 

辞めさせるって、ヒーローを?

またなんで?

 

「精神的にかなり憔悴していたらしくてな、何度か相談を受けていたみたいだ。それで、暫くヒーローから離れてはどうか、と勧めてたみたいだが…」

 

辞めなかった?

 

「いや、辞めさせて貰えなかったらしい」

 

誰に?

事務所の社長?

 

「いや、……ヒーローの、公安委員会がだな」

 

…なるほど。

 

 

あれか、なんか漫画の方でも居たな。公安の暗部。

と言うことは?

 

 

その方角先生は公安に殺された?

 

「いや!…さすがにそれはない、と、思いたい」

 

なんでそんなにブレブレなの。

 

「その後の対応がな…でも何かはしたんだろうな。方角先生は事態を大きくしようと色々と、教育委員会なんかも巻き込んでいたんだ。でもニュースどころか地域広報にすら載らなかった。それに結局、そのヒーローも辞めて音沙汰無くなったし、…色々後味の悪い結果だったんだ」

 

だからヒーローに不信感があるんだ?

 

「ヒーローには無いさ。ただそのまとめ役の公安委員会は、ちょっと信用がならん。そのあと、俺らの世代でも何人かはヒーロー志望を辞退したんだ。俺も含めて、な」

 

そっか。でも龍鬼はいいの?

 

「ああ、ヒーローを目指すことは悪いことじゃない。人を助けるために体を張ることは、とても尊い事だ。龍鬼がそれを目指すなら、父さんは応援するさ。でもな、もし公安委員会が龍鬼を利用しようってんなら、俺が許さねぇ。例え何かされようと、俺の息子は守ってやる」

 

さすが父さん。

でも決めるならそのお菓子とお酒は手を離そうよ。

 

「これがないと気恥ずかしくて無理」

 

さすが父さん

締まらないね。

 

「るせえゃ。じゃあお前だお前。ミズキは何したいんだよ?」

 

私は家族が笑って過ごせるように頑張るよ。

 

「お、おう?」

 

 

 

 

戸惑ったような父の顔が、少し面白かった。

 

もし家族を害しようとする者が居るのなら、私は力を使うことを躊躇わない。

父が守ろうとするものを、(かぞく)ごと守るだけだ。

その結果、この世界が混乱しようとも、ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ん、何。お前達も頑張るって?

有り難う。ただ、撃つなよ。

 

あん?フリじゃねえよ。威力の調整も出来ねぇモン使えるかよ。

 

あ?上に調整してどうするんだバカ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇちゃんは俺が守る!」

 

お、おぅ、いきなりどうしたよリュー坊。

 

 

「ヒーローってすげェよねぇちゃん、オールマイトすげェよ!」

 

あぁ、そういやあの映像か。

あれだろ?

 

「もう大事ョーブ!わたしがきたぁ!」

 

可愛いなこいつ。

身長(たっぱ)はもうすぐ私に並ぶくらい成長が早いのに、中身はまだ子供っぽい。そのギャップも良いんだが。

何より性格がまっすぐで、ひねくれた私にとってみれば非常に眩しく映る。

よかったぜ、クソを下水で煮込んだ様な性格にならなくて。

 

 

で、いきなりどうしたんだ?

 

「ん?ねぇちゃんヒーローにならないんだろ?だから俺が守ってやろーと思って」

 

ほぅ、そう言うのは姉弟喧嘩に勝ってから言うんだな。

 

「ねぇちゃんに勝つ?俺は無理なことはしねぇんだ」

 

何言ってんだおめぇ。

ヒーローだってピンチは有るだろうに。

 

「大丈夫だよ!」

 

おう?

 

 

 

「そんな時は、オールマイトが来てくれるから!」

 

 

 

…お、おぅ、そうか。

 

 

 

まぁ、お前がピンチになるこたぁ無ぇよ。

 

 

「なんで?」

 

 

父ちゃん()居るからな。

 

 

「おぉ、父ちゃん強いもんね!」

 

 

おう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふう。

 

バスの中でも、空いていれば一番後ろに乗り込むのは前世からの習慣だな。

 

視線が一番高くて、見晴らしの良いのが好きなのだ。

あ?何と何が高いとこが好きって?

最近調子のって無いかオイ浮遊要塞さんよ。あとで覚えとけよ。

 

休日のバスは余計好きだ。なんてったって空いてるからな。

まそうそう休日にバス乗ることもないか?

 

席について、ポータブルプレイヤーを耳に掛ける。

イヤホンと一体型だからワイヤレスで鬱陶しくない。この辺は、個性が広がる前の時代からそんなに変わってないらしい。

企業のリソースの問題かね。安全保障が優先だものな。

 

久しぶりにバスにのって向かう先は楽器店だ。

前世はギターを嗜んでいた。生まれ変わってからは引いていないので、すぐに引けるかは疑問だが…

 

父と話した折、父も昔ギターをやっていたそうだ。

なので自分もやりたい旨を伝えた。

 

計画通り、父から軍資金をせしめることに成功したというわけだ。

 

私はやりたいと言っただけで金の無心はしていない。

なので母に怒られるのは父だけである。

 

父の犠牲は無駄にはしないよ。

 

窓の外の光景はゆっくり穏やかに流れ、治安の悪さは感じさせない。

私の住む地域のベッドタウンは、結構治安が良い地区なのだけど、市内は軽犯罪が多いと聞く。

路地には入らないように気を付けよう。

 

 

と、バスが急に止まった。

速度が出ていなかったとはいえ、急ブレーキに乗客の声が上がる。

私は何となくブレーキが掛かるのを事前に察知して身構えていたので、大した衝撃はなかったが。

 

 

 

肌が、チリついた。

 

 

 

 

 

 

 




おや~?

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