仄暗い深海からのヴィランコレクション 作:ターンアウトエンド
お陰様でランキングに入ることができました。
もし良ければ、今後ともよろしくお願いします。
今回のお話は少しグロいかもしれません。
ただ、『ソウ』や『羊達の沈黙』を見慣れている皆様なら大丈夫だと思いますので、あまり気にしないでください。
肌がチリつく。
乗っているバスの周りに視線を巡らすが、特に異常は見られない。
ならばバスは何故止まった?
道路への飛び出し。飛び出した人はフロントの影になって見えない、が。運転手が困惑している。
これは…
瞬間、チリつきが大きくなった気がした。
全員、伏せろ!
思わず喉から声が出たことに自分でビックリした。
三つ前の席のおばぁさんが肩を震わせるのが見えた、が。
もう、遅い。
気がつけば、バッグを盾に構えて席と席の間にしゃがんでいた。
と、ほぼ同時に、頭上で轟音。
肌を撫でる熱波。
視界を横にずらせば、輻射熱だけで燃え上がるサテン地のシート。
悲鳴は聞こえない。
そうだろう、この熱風をまともに浴びたなら、一瞬で肺が焼け、喉が張り付き、声など出しようもないのだから。
視線を巡らし、頭上を見てみれば、炎が滝のように流れている。
言い表すなら、暴炎風か。
ふと気づく。
妙に落ち着いている。
状況だけ見るなら、ガス爆発にでも巻き込まれたか。
リアルバスガス爆発である。
危機感を感じないのは、やはり身体能力がこの状況を危機と認識させないからか。
実際、恐らく伏せなくても問題はなかった。
いや、上半身が裸になる可能性があるのは問題か。
取り敢えず、一般的には危機的状況である。
ただ私にとってはそうでないと言うだけだ。
だがそれでも、多少混乱位はするはずだ。
人間、誰でも自分の目の前で死亡事故があれば、パニックかそれに近い状態に位なるだろう。
だが、今の私にはそれも無い。
むしろ、思考は澄みきって状況判断の速度が上がっている。
これは?
いや、今出てくるな。
うちの連装砲君が、対応しようか?と問いかけてくるが、無理矢理抑える。
こんな状況で出てこられたら、周囲の人間が余計混乱するだけだ。
じゃあ敵はどうするのって?
『敵』?
炎の暴風が突然無くなる。
流れた熱波を洗い流すように、冷たい風が吹き込んでくる。
バスの車体が急激な冷却に歪み、カンカンと音を奏でていた。
先程までの地獄のような状況から一転して、音はそれくらいだ。
と、遠くから足音が聞こえる。誰かが近付いて来るみたいだな。
状況を確認しようと顔を上げると、バスの中の現状が目に入ってきた。
生き残りは、もちろん私を除けば居ない。
前に近いほど炭化していて、自分の三つ前の席のおばぁさんは形だけは辛うじて判る状態だ。
運転手のいた辺りは、蒸発したのかもはや跡すらない。
毛の焼ける臭いが鼻に付く。
唇は、空気中に舞った脂でベタつき、嫌に勘に障った。
近付いてくるのは一人。
先程までいた周りの人間は、誰もいなくなった。
賢い選択だ。
この状況を齎した原因が
見晴らしの良くなったバスの前方、地面まで良く見える。
なるほど、前方から後方上部に向かって熱波は駆け抜けたのか。
だから後方の席は輻射熱だけで済んだようだ。
肩でチリチリ焼けているナイロン生地をはたいて鎮火させながら、妙に納得した。
「おいおいおい、アンだけ大きな口利いといて、結局此れかよぉ! 丸焦げじゃねぇかぁ? アァン?」
頭の悪そうな台詞で煽るように
ナニか。
それは恐らくヒーロー
ここからでも分かる。
もう生きてはいない。
成る程、これが、本物の“ヴィラン”か。
「つまんねぇなぁ、アンだけ言ってくれたんだからモット保てよお前ぇ」
男は
私と目があった。
「おぉ、マジかよ、生きてんの?おぉ!しかもカァイイ女の子ジャーン」
気味の悪い笑みを浮かべながら、男はバスの中に入って来た。
癖なのかいつもやっている脅しの一環なのか、右手を閉じたり開いたりしながら炎を弄ぶ。
手袋をしている状態や体と炎との距離を見るに、ある程度は耐性が有るが、某火ダルマオヤジの様に炎を纏うと言うことは出来ないのかもしれない。
まとめると、放射に特化した
男が私のすぐ前まで来た。
ちなみに私は、バッグの燃えカスをはたいて消していた。
「カァイイ上にイィカラダしてんじゃん?こりゃ暫く楽しめそうだ」
男の視線がイラつかせる。
嫌悪感で肌が粟立ち、自分がここまで影響される事に、驚いた。
「なんか怖がってるぅ?カァイーねぇ!…とりあえず来いよ」
イラつきを抑えて、どう対処しようか考えていると、そんな私の状態を勘違いしたのかテンションが上がった態度で私に手を伸ばした。
男を殴り飛ばすのを抑えたのと、死ななければ良いかと腹を括ったのが要因か。
気付くのが遅れた。
やめろ!
「はぁーん?ッおっと!」
男の視線がバランスを崩したかの様に、下がる。
私に伸ばした手で、そのまま側の座席の背もたれを掴んだ。
「なん、だよぉ!」
バランスを崩した原因に、苛立ちをぶつける
その目に映るのは、
失くなった己の右足と
今正に噛み千切られる左足
そして、噛み千切った黒い『ばけもの』
「ふぁ、ひぁ、おれの、お
バキッ、ごりゅ、グチィっ、と、思ったより響く咀嚼音。そして群がる、我が眷属たち。
おい、お前らぁ…
ユルサナイ
あん?
アルジニフレルノ、ユルサナイ!
クラウ!!
コロス!
ツブス!!
オマエハァ!!
キサマァ!!
ユルサナイ
お、おう、そうかぁ
それは仕方ないなぁ
「ひっ、ふっ、たすけっ、たすけてっ…いゃぁっ…あ゛ぁっ!?」
足下で咀嚼音と汚い悲鳴をBGMに、取り敢えず周囲の状況を確認して目撃しているヒトやカメラがないか確認した。
ついでに壊れたプレイヤー内蔵イヤホンを弄る。買い直しだなこりゃ。
暫く周囲に気を張っていたけど、幸いヒトもカメラも無いようだ。
私の勘も大丈夫だと言っているのだけど念のため。
よかった。
どうやら、誰も
気付けば静かになっていた。
咀嚼音がしなくなった跡にはもう、血痕すら、見当たらない。
「ご協力、感謝します」
渋い顔をした刑事さんが頭を下げる。
現在、私は近くの総合病院の個室にてベッドの住人となっている。
あのあと、駆け付けたヒーローや警察の人たちに私は保護され(退避が間に合わず)、即座に病院に担ぎ込まれた。
怪我が無いか入念に検査され(流石に産婦人科は断った)、どうやら今日一日は検査入院の必要性がある、とかなんとかで無聊を囲っている。
と言うのも、ここまで病院側が神経質になるのは、今回のヴィラン被害の状況は割と凶悪案件らしく、被害者が精神に変調を来すのも無理ないレベルだからだそうで。
入院後に自殺をしたヒトまで居たそうだ。私の場合も、カウンセリングが後日に入るらしい。
どうも病院側は私がヴィランに何かされたと思っているような?そう言うヴィランだったのかもなぁ。
しっかし、改めて思い返すと、ワタクシはなっから変調を来してませんかね?
死体を見て、あぁ、原形ねぇなぁ、なんて呑気に観察できるほどタングステンメンタルじゃなかったはずなんだが…。
お、何だって?
深海棲艦になった影響?
聞いてないけど!?
言ってなーぃって、ぶっ殺すぞテメェ!!
それに普通に流してたけど、オメェらがヴィランバリボリ喰ってたの見て、
あ、腹壊さねぇよな?
くれーしか感想出てこねぇ時点で大分狂っとるァ!
何、深海棲艦って主食ヒトなのか!?
東京グールも入ってる系なのか!?
はぁ、まぁ良いか。
メンタルが人外になった程度で、どこが悪いって訳でもないんだし。
人を喰ったのも、今回は不可抗力ということで納得したるわ。
…え、なに?戦闘モード?なんやそれ
あー?あ、あれか!妙にクリアになったやつ…
…おいダイソン、オメェ他に隠してること無いだろうな?
ナ、ナイヨーって分かりやすく吃るんじゃねぇ!
チッ、まだ隠していることは後々問い詰めるとして。
私が警察に渡した情報は、見てない、踞って気を失ったら誰もいなかった。
何度も聞かれたが、目を合わさずに首を振って答えたりして、ヴィランは逃走した、で警察は納得した筈だ。多分。
そのせいでみょーに周りの対応が優しいのは、やっぱ何か勘違いされてるよね?
バレるよりはマシか。
ついでに聞いた話だが、別の場所ではカメラに犯人が写っていたらしい。
やっぱり指名手配中の凶悪ヴィランだったそうだ。
被害に遭われた方々にはご冥福を祈ります。
そう刑事さんに言うと、
「貴女だけでも、無事で良かったっ」
と絞り出すような声で喜んでいた。
全力で犯人確保に血道を上げるそうな。
無駄に税金使わせてごめんな?
ま、もう被害は出ないからそれで勘弁してくれや。
私は心のなかでそう呟いた。
「ミズキ!」
「ミズキちゃん!」
「ねぇちゃん!」
泣きべそかいた我が家族に揉みくちゃにされちう。
悪い気はしないね!
大事にされとるよ。
残っていた刑事さんが微笑ましい顔をしながらも、父に声を掛けるタイミングを伺っている。
刑事さん、ごめんだけど暫くは無理だよ。
父の抱擁が一番ヤバイ。ミシミシいってるよ。ベッドが。
しっかし、抱き付きを受け止めたときも思ったが、妙にカラダの調子が良いなぁ。何でだ?
え、パワーアップしてるって?なんで?
他人の個性を喰ったから?
え、何その機能。
じゃあ何だ、個性を持った人をお前が喰えば喰うほど、パワーアップすんのか?
マジで?
どうせなら個性まで使えたら良いのに。
使える?何が。
個性、使えんの?
次のお話と、閑話までは1日更新が可能ですが、そのあとからは更新頻度が落ちるかと思いますので、ご了解下さい。