機動戦士ガンダム ghost chaser   作:凛九郎

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前回が物凄く分かりにくいお話になってしまったと反省しております。
今回は分かりやすく書けていると良いのですが…読みにくかったらすいません。


蒼い棺桶

レインとサニー、戦闘における両者の腕の差は歴然だった。サニーの生き物の如く滑らかに繰り出されるヒートホークの斬撃にレインは受け止める事が精一杯で反撃一つ行うことが出来なかった。それでもバーニアを蒸しながら小刻みなステップを踏み一定の距離を取りながら戦う事で辛うじて撃墜は逃れている。しかし、言い方を変えればレインはサニーに対抗しうる手段を講じる事ができないないことを示していた。

相手のモビルスーツは高速機動、パイロットは自分たちよりも遥かに手練れ。この状況で新米兵のレインが生き残ることは極めて困難な状況であった。

 

「ふっ、ちょこまかと動き回るだけか?連邦のパイロット。理想と行動が何一つ合致していない…そんなひ弱な実力で不殺を説くとは呆れた奴だ。」

 

サニーの侮蔑の声がコクピット内に響く。レインはあがった息を整えながらその言葉に耳を傾ける。今の自分に彼の言葉に反論することは出来ない。現実として今追い詰められ、いつ自分の機体が切り裂かれるか分からない状況が彼の言葉の正当性を示している。

 

しかし

 

それが何だと言うのか。力を持って相手を殺さず挫き弱者を守る。それは犠牲者を減らす方法の一つだ。しかし、それだけが犠牲者を減らす術の全てではないはずだ。方法論を貶められたと言って自分の理想は揺るがない。自分にとって一番重要なことは、犠牲者を出さない様にするという意思そのものだからだ。例え、笑われても自分の理想は決して捨てない。捨ててなるものか。

 

「呆れたければ、勝手にどうぞっ!」

 

レインは自身の陸戦型ジムにマシンガンを持ち直させると、サニーのヅダ向けて発砲する。この戦いの中で初めてレインが攻勢に転じた。

放たれた弾丸をサニーは難なく避けてみせ、レインに再度向き直る。

 

「そう簡単には折れないか…」

 

サニーの声がまたコクピット内に響く。

先程の侮蔑とは違う、人を推し量ろうと試みているのが言葉から理解できた。レインは敢えて何も答えなかった。相手の土俵で戦うつもりはない、モビルスーツでも心理戦でも。

 

ーーーーーー

 

やりにくい相手だ。サニー・コールディは向かい合った陸戦型ジムを苦々しい思いで一瞥した。理想主義者は理想と自身のギャップに苦しむものだ。崇高な理想故に、それに追いつかない自身を貶めれば簡単に逆上して隙が生まれる。そう思っていたが、相手は案外冷静に戦いを進めていると見える。自身の機体、ヅダは機動力が一番の取り柄だ。それを生かすには距離を取られての戦闘ではなく、距離を詰めての近接戦闘が最も強みを活かせる。それを理解しているのかいないのか、敵は攻撃をいなしては距離を取り遠距離での迎撃をしてくる。目障りこの上ない。

 

しかし

 

それでも自身の有利は揺るがない。敵はこちらの攻撃をいなすことしか出来ていない。攻め続ければ必ず綻び、崩れ去ることは間違いない。

ならば挑発は止めだ。徹底的に叩き潰す。あの思い上がった理想主義者に凄惨な現実を突きつけてやることにしよう。他ならぬ奴自身の死によって。

敵の苦し紛れに放ったマシンガンを軽く躱し切り再度敵機に接近戦を挑もうとしたその時、サニーのヅダの眼前を猛スピードでモビルスーツが横切っていく。それは空を急上昇したかと思えば、蛇行しながら高度を落としたりと傍目から見れば意味不明な暴走行為をしている。パイロットにとって一瞥するまでもない未熟者の機体コントロールだ。しかし、サニーはそのモビルスーツから視線を外す事が出来なかった。何故ならその機体は自身と同じコバルトブルーの機体ヅダだったからである。

 

その直後、少女の絶叫が通信を通してサニーに伝わる。

 

「きゃああああ!!」

 

「エリカァァァァ!大丈夫か!何があった!」

 

「た、隊長!機体の、機体の加速が止まらないんです!機体のコントロールも…上手く出来な、離れてください隊長!!」

 

そこで通信は途絶えた。サニーの脳裏にはヅダの抱える致命的欠陥がよぎっていた。

 

(エンジン出力の過剰な上昇に伴う、暴走及び機体の空中分解…くそっ、そんなことになればエリカは…だが、こうなればもうエリカを助ける手立てはない…!!)

 

機体の空中分解、それは即ちパイロットの死を意味する。サニーが目をかけ見守って来た幼き部下の命はいつ爆散するか分からない蒼い棺桶に弄ばれていた。そしてエリカを乗せた棺桶は錐揉み回転をしながらサニーの眼前に迫ってくる。サニーは咄嗟に対モビルスーツ用ロケットランチャーであるシュツルム・ファウストを構える。しかし、その指は震え引き金を引かせることを躊躇わせていた。

 

その時、先程まで斬り合っていた陸戦型ジムが、自分のモビルスーツに背を向ける形でエリカの乗るモビルスーツに向き合っているのが見えた。陸戦型ジムの手にはビームサーベルが握りしめられている。

 

「おい、何をするつもりだ…やめろ、やめろぉぉぉぉ!」

 

ーーーーーー

 

敵に背後を向けるなんて、自分は軍人として落第もいいところだ。そうレインは内心自嘲した。しかし、だからといってこの状況を黙って見ているわけにもいかない。このままでは、友軍機のみならず敵機にも甚大な犠牲が出てしまう。それだけは避けなければならない。敵でも味方でも犠牲が少ない方が良いに決まっている。もっと言えば0であることが理想だ。

 

(だけど…ダルタニアンは死んでしまった。きっと暴走している機体になっているパイロットも助からないだろう…それでも、オレは。)

 

命を。今ある助けられる命だけでも守りたい。

この考えは自分でも冷徹で傲慢だと思う。命を救える救えないとふるいにかけて、今自分は明確にモビルスーツを墜とそうとしている。

人の命を絶とうとしている。その行為の正当化に過ぎない、自己欺瞞の最たるものだ。

 

眼前にはブースター部分から黒煙を吐き出しながら自分の機体に向けて突進してくるヅダ。

まるでその様は失われかけている命の精一杯の足掻きに見えた。

 

(オレは絶対に忘れない…この感覚を、痛みを悲しみを罪の意識を…)

 

震える手を必死に抑えてビームサーベルを握る。そして自機とのすれ違い様に、ビームサーベルで横一文字に切り捨てた。

ブースターを切り落とされた機体は爆発と共に地面にめり込みながら数メートル進み、そして停止した。

 

(だから…だから。どうかオレを許さないでくれ…)

 

ーーーーーー

 

「エリカァァァァ!!!貴様っ、よくもよくもエリカををを!!!」

 

 

サニーの目は憎き陸戦型ジムの姿しか見えていない。音も聞こえない。奴を殺す。ただその萎えたがるような殺意だけがサニーの四肢をヅダを動かしていく。その動きは平時のような緻密で相手を撹乱する様な動きではなく、直線的で動線が読みやすい非常に安直なものだった。

しかし、敵機の背後を突く形となった為、敵機の対応は後手に回った。サニー機のヒートホークが陸戦型ジムを捉えようかとしたその時、自機が突然大きな衝撃と共に右斜め前に吹っ飛んだ。敵機の攻撃が直撃したのだと理解したのは機体が地面に叩きつけられてからだった。

 

「くそっ!このオレが直撃だとっ!?」

 

サニーは攻撃を受けた方向に目をやるとそこにはショートバレルのロケットランチャーを手にした別の陸戦型ジムの姿があった。

 

「オレの動きを読まれたのか…くそっ!」

 

自機を撃ったのは、おそらくエリカ機の相手をしていた機体だろう。自分の手が空いた為、友軍機の支援に回ったというところだろうか。敵ながら状況判断の早い奴め、サニーはコクピットを右手で思わず殴りつけ狼狽した。そして急いで機体を立て直そうとしたのだが、そこでサニーは事態の深刻さに気がつく。自機の左腕が敵機の攻撃の影響で欠損していたのである。機体の左側にはシールドとシュツルム・ファウストが内蔵されている。それを失ったとなると自身の戦力低下は避けられない。機体の優位性はここに失われた。それに加え、敵機の数はガンタンクを含めて5機。部隊の隊長機である自機の戦力低下を見逃すはずもなく一気に攻勢に転じるはずだ。

 

(くそっ…どうする。いや、ここはいっそ道連れにしてでも!!)

 

 

サニーが再び機体の操縦桿に手をかけるのと同時に部下のミノス・カンパニュラから通信が入る。

 

「こちらミノス、ジュリアスは隊長を連れて先に戦線を離脱して欲しいっす。それまでの時間稼ぎはオレがやるんで!」

 

「何ふざけたことを言ってんだ、馬鹿野郎!!まだオレ達は戦えるんだよ!ここで逃げたら戦果もエリカの仇も取れねぇだろう!」

 

自身の短絡的行動に端を発したものであることを棚に上げてサニーは声を荒らげる。その様はまるで逆上する子どもの様だ。

 

「バカなこと言ってんのは隊長の方だろうが!今アンタを失っちまったらオレ達亡霊部隊はお終いなんだよ!エリカの居た場所を、形見をぶち壊すつもりかよ、アンタ!」

 

「ミノス、言葉が過ぎるぞ。それくらいにしておけ。隊長…気持ちは痛いほど分かります。しかし、無礼を承知で申し上げるのならば引き際も戦果を上げることと同じく重要なはず。今回の指令は玉砕命令ではありません。エリカも隊長にその様なことは決して望んではいないはずです。」

 

「…………これより亡霊部隊は撤退する。命令はただ一つ、生きて必ず基地に戻るぞ。」

 

『了解!!』

 

宇宙世紀0079 11月16日 午前11時37分

亡霊部隊 撤退開始

 

ーーーーーー

 

ああ、なんだか柄にも無いこと隊長に言っちまった気がする。もっと軽いテンションが自分らしさって感じがするんだけど。ミノスは操縦桿を握りながら呑気に考えを巡らせる。

けど、それだけ亡霊部隊って場所が好きなんだなきっと。それはきっと隊長だってジュリアスだってエリカだって…一緒のはずだ。

 

オレが護るんだ、命以外の全てを賭けて亡霊部隊を。絶対にエリカの分まで。

 

「さあ来いよ!連邦の三下共!お前らの相手はこのオレだぁ!」

 

ミノスの奮戦は目を見張るものであった。陸戦型ジム2機とガンタンク1機の攻撃をいなしつつ、サニーとジュリアスの戦線離脱までの時間をたった1人で稼いでみせた。その姿は亡霊などではなく決死に仲間を守ろうとする阿修羅にも似ていた。

 

やがてミノスも、敵を牽制しつつ少しずつ戦線を離脱していく。時間にして約7分程の出来事だった。ミノス・カンパニュラは三面六臂の活躍で見事サニーとジュリアスの戦線離脱及び自身の戦線離脱を成功させた。それは亡霊部隊が無事守られた瞬間でもあった。

 

時に宇宙世紀 0079 11月16日 11時44分

サニー・コールディ、ジュリアス・ヴァルトロ、ミノス・カンパニュラの3名が戦線離脱に成功。オーストラリア ウォランビンでの戦いはここに集結した。レイン・ウォーミングとサニー・コールディの間に浅からぬ遺恨を残して。




レインとサニーの1度目邂逅も終わり、物語も後半に差し掛かって来ました。総文字数は40,000字を超えております。
こんなに文字数を打つことが自分の人生であるとは思いませんでした…何事も経験ですね。

ちなみに皆さまは連邦派でしょうかそれともジオン派でしょうか。
もし宜しければ感想欄に書いて戴ければ幸いです。
寒の戻りもある時期です、お体には十分留意してお過ごしください。
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