機動戦士ガンダム ghost chaser   作:凛九郎

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2つの話を1つにまとめたら長くなってしまいました。
いつもいつも読みにくくて申し訳ありません。


sun shine

宇宙世紀0079 11月16日 午後9時24分

ジオン公国ゴーストコースト基地配属のパイロットであるマラド・アルタナは基地内のバーのカウンター席で亡霊部隊長のサニー・コールディと隣り合わせで座っていた。ジャズピアノが流れるややムーディーとも言える店に、マラドは何故自分が呼び出されたのか全く見当がつかなかった。そして、どうして1日に2度もこの目つきの悪い男に呼びつけられなければならないのかと、自身の不運を嘆いていた。

 

「どうしたマラド軍曹、酒が進んでいないようだが。飲む気分ではないか。」

 

マラドの顔を覗き込む様にしながらサニーが視線を送っている。その両手にはワインが並々と入ったグラスが握られている。これもある意味ではハラスメントなのではないかとマラドは思った。

 

「いえ、そんなことは…」

 

仮に上官と言えでも顔つきの悪く、軍内での立場も悪い男とサシで飲んでいる自分の運の無さを嘆いていますとはとても言えない。その場しのぎの愛想笑いで茶を濁す。このままでは雰囲気が悪すぎる。どうにかして、このナチュラルハラスメント上官の気を逸らさなくては…。

マラドはやや強引にサニーに話を振ってみることにした。

 

「しかし、意外でした。私をバーに呼び出すなんて。呼び出すなら直属の部下の方を呼ぶものかと思っていましたが。」

 

「そういうわけでもない。オレともう1人の部下しか酒を飲める歳になっていないからな。だから、こういう場所には大体1人で来るんだオレはな。」

 

それならば尚のこと不思議な話である。いつもの通りに1人で飲んでいれば良いものを何故、わざわざ直属の部下でもない自分を呼ぶのだろう。マラドの疑問は更に深まった。

 

「それに今日の酒はやけ酒だからな。部下の前ではあまり見せたくないんだよ。」

 

サニーは自嘲気味に笑うと自分の持つグラスに視線を移した。バーの照明が暗いせいか、表情を読み取ることは出来ない。しかし、その声のトーンから冗談で話しているわけでは無い様だった。こういう時に、下手な相槌やリアクションは必要ない。ただ静かに相手が話し始めるのを待つのが上策であるいうことをマラドは知っていた。

 

「……部下が1人死んだ。連邦のモビルスーツに機体を真っ二つに斬られてな。」

 

「墜したのはお前と戦った連邦のパイロットだった。ブースターをビームサーベルで斬り捨てやがった。」

 

自分と戦った時同様に、コクピットを狙わなかったのか。本当に思慮深いパイロットだ。しかし何故ブースターを斬ったのか。自分の時は四肢を狙って行動不能にしていたはずだ。

 

「……部下の機体はエンジントラブルで機体の制御が出来なくなっていた。空中分解は時間の問題だった。オレはせめてもの情けだと思って引き金に手を掛けた。でも…撃てなかった。」

 

「そしたら奴がオレの前に出てきて部下の、エリカの機体を斬り裂いた。理想論を語っておきながら無慈悲なことをしてくれたもんだ。」

 

午前中に自分に見せていた殺気にも似た刺々しい雰囲気は見る影もない。弱々しさを感じる男の姿だった。そんな姿を尻目にマラドは、連邦パイロットの真意に思いを巡らせた。

 

本当に無慈悲なのだろうか。敵の前に出るということは敵に背を向けたということだ。そんなハイリスクなことを好むパイロットなどいないだろう。何より、そのまま無視していれば敵同士で衝突して同士討ちする可能性だってあった。連邦からすればこんな危険なことをする理由が全く無い。

あのパイロットは、自分と戦った時も数的不利な戦況でも人命を優先した。ならば今回の行為にも同様の意図があるはずだ。

…まさか、あのパイロットはサニー少尉を守ろうとしたのでは無いか。状況が切迫していたとは言えども、部下の機体を墜したとなればサニー少尉は味方殺しの汚名を着せられることになっただろう。奴は敢えて自らが手を下すことで、少尉の『軍人としての名誉』を守ろうとしたのでは無いか。コクピットではなくブースターのみを斬ったのも精一杯の慈悲であったのだとしたら……いや、考え過ぎか。

長々と考えた後マラドは自身の妄想にも近い行き過ぎた思考を振り払う様に首を横に振った。

 

「どうした?何かあったか?」

 

1人首を振っているのを不審に思われたのか、サニー少尉が声をかけてくる。その言葉でマラドは我に返り、今しがた思考したことが口に出ていやしなかったかと不安に思い意味もなく口を覆った。もし、口に出ていたとしたら軍法会議どころか、内通を疑われ刑に処されることは明白だ。

 

「……おい、本当に大丈夫か。お前、もしかして酒が受け付けない体質だったのか?」

 

無意味に口を抑えたせいか、吐き気を我慢しているのだと誤解を招いてしまったらしい。サニー少尉の子どもの無茶を心配する様な視線が自身の羞恥心を加速させる。

マラドは本当に大丈夫ですからと答えると目の前のグラスに注がれていたワインを一気に流し込んだ。赤ワイン特有の苦味と共にマラドの思考は腹中に消えていった。

 

ーーーーーー

 

サニーは、コロコロ表情を変えるマラドを見て退屈しない男だと思った。シラフなのにこんなに考えていることが顔に出る男も珍しい。十中八九、奴なりに自分の話を咀嚼し考察をしていたのだろうが、こんなに顔に出るのならいっそ話してくれた方が清々しい程だ。

マラド・アルタナという男は嘘がつけない男なのだろう。それならば、きっとこの問いにも嘘なく答えてくれるはずだ。

 

「マラド軍曹、お前がもしオレと同じ立場だったなら部下の機体を撃ち落とせたか。いや、撃ち落とそうと思えたか。」

 

マラドは、一瞬言われていることの真意が分からなかったのかキョトンとしていたが、すぐに真顔に戻ると撃ち落とすと思いますと答えたあと、こう続けた。

 

「戦場とはそういうものだと思います。もしそういう事態になったなら私は撃つでしょう。そして、その咎めと罪の意識を背負って生きると思います。しかし、そういう事態にならない様最善を尽くすことが軍人としての務めだと思っています。部下や同僚は自分にとって命も同じです。」

 

淀みなく発せられるマラドの言葉に、自分の弱さを言語化された様な気がして少し胸が痛んだ。しかし、彼の軍人としての心意気を理解するには十分な言葉だとも思った。

よかった、自分の見立てに間違いは無かった。自身の直属の上官でもない男の呼び出しにもすぐ来た従順さ、嘘をつかない誠実さ、そして人の発言から自身で考察をしようとする思慮の深さ。その全てが『協力者』として相応しい。

 

「そうか、それなら安心だ。その言葉を1つ頼まれてくれないか?」

 

「オレの部下を1人お前に預けたい。」

 

マラドは虚をつかれたのか口に含んでいたワインを軽く噴き出しむせ込んだ。軍人としては立派な心意気だが、社会人としては落第も良いところだ。マラドは声がやや裏返りながら真意を問うてきた。当然と言えば当然だ、直属の上官でもない男から部下を託されるなど前例が無い。

 

「オレの部下の上官がお前なら、安心だと思ってな。元亡霊部隊だったからと言って無下に扱うこともないと思ってな。」

 

マラドは理由になっていない、何故隊長がいるのにも関わず部隊の再編成が必要なのかと強く抗議して来た。おおよそ、部下を無責任に放り出す上官に怒りを隠し切れないのだろう。やや紅潮した表情と充血した目がそれを物語っている。マラドの手元には空になったグラスが2、3置かれている。どうやら感情だけでなく酔いも顔に出やすい男の様だ。

 

「お前、何か勘違いしてないか?オレは部下を放り出したいんじゃない。守りたいんだよ、この腐った命令からな。」

 

それからマラドに亡霊部隊が撤退した連邦軍に追い討ちをかけた後、帰還せず連邦パイロットシドニー基地に特攻するよう命令されたことを伝えた。マラドは黙って聴いていた。彼の顔から表情がドンドンと失われていき、話終わる頃には蒼白になっていた。それはきっとワインの飲み過ぎなどではないはずだ。

 

「……こんな命令が許されていいんですか?」

 

話を聴き終えた後、マラドが絞り出すような声で呟いた。それを言うのが彼にとって精一杯の表現だったのだろう。

 

「許されるんだよ。窓際部隊で隊員の大半は純粋なジオン公国の国民じゃないから、ゴミのように扱っても良いって理屈でな。」

 

「そんなもの、理屈でもなんでもないじゃないですか!?」

 

「そう言う思想の奴等が上にいて、戦争を仕切ってる。オレはそんな奴等の為に部下の命を散らせたくない。だからお前に託す。」

 

「………少し時間を下さい。感情が物事に追いついてないんです。」

 

「正直な奴だな。3日の間に結論を出してくれ。そうしないと部下もオレもこの世から居なくなった後だからな。」

 

「分かりました…よく、考えます。」

 

そう言うとマラドはまたグラスに入ったワインを一気に飲み干した。これではどちらがやけで酒を煽っているのか分からないなとサニーは苦笑した。

 

ーーーーーー

 

その時、店内に響いていたジャズピアノの音色が止んだ。しばらくしてアナウンスが入る。どうやらピアニストが体調を崩してしまったらしい。誰か飛び入りでピアノを弾いてくれる人はいないかというものだった。以前の自分なら無視を決め込んだだろう。しかし、今の自分は違う。もう数日後にはこの世に居ない、ピアノを弾ける機会などほとんど無いだろう。折角だから弾いてみようと不思議と前向きな気持ちになりジャズピアノの椅子に腰かけた。

ギャラリーからは窓際部隊だとピアノを練習する時間もとれるのかよ、暇な連中だなとヤジが飛んできた。あながち間違っていない。後数日もすれば自分は永遠に暇になるのだから。

 

〜〜♪♪♪♫♪♫♪

 

サニーは、ゆったりとしたテンポで鍵盤を弾き始める。そして滑らかに指を動かしながら自身の幼い頃の思い出を回想していた。

 

ーーーサニーのピアノは素晴らしいね。音が輝いてる。指さばきも滑らかだ。きっと死んだ母さんに似たんだな。きっと、良いピアニストになるよ。

 

ーーーそうかな?ボク自信ないよ?

 

ーーーハハハ、大丈夫。私が保障するよ。サニーのピアノはジオン公国で1番さ!

 

ーーーじゃあお父様はジオン公国で1番のパパだね!

 

ーーー嬉しいこと言ってくれるね。じゃあ私も仕事もっと頑張ろうかな。サニーがピアノを元気に弾ける日がずっとずっと続くような政治をしていかないとね。

 

ーーーうん!頑張ってお父様!

 

…そんな日々は来なかった。ピアニストどころか父が死んでから楽しんでピアノに触れる機会は殆どなかった。触れていたのはモビルスーツの操縦桿だ。滑らかに動くことを褒めてくれたこの手は今は敵の機体を切り裂き、引き金を引く為に使われている。父さん、貴方の願っていた息子の姿はもう何処にもいないんだ。

 

ーーー隊長、絶対上に行きましょう!

 

ミノス、すまない。その約束は果たせない。お前だけでも生きてくれ。お前の生意気さ、割と好きだったな。

 

ーーーオレにはこの場所しかないんです!オレは生きること全てをこの隊に捧げる!オレが死んでもこの隊が残ればそれでいい!

 

ジュリアスありがとうな。お前の様な部下を持てて、オレは最高に幸せだ。けど、ジュリアス本当にお前死にたいのか?オレに無理に合わせることないんだぞ?

 

エリカ、守ってやれなくてすまない…。オレは上官失格だな。だからせめて、お前の名誉だけはオレが守る。それがオレの最後の仕事だ。

 

自分の脳裏に両親、エリカを始めとする部下の笑顔と思い出が浮かんでは消えていく。

生きていた過去が、今が輝いて見える。あれだけ戦果を出し仲間と出世することしか頭になかった自分が今、生きている事そのものに価値を見出している。

 

〜〜♪♪♪♫♪♫♪

 

そうか、これが「死」なのか。

 

曲が終わり、ギャラリーからは拍手と喝采を浴びた。父との約束は果たせなかったが、この拍手が自分の出せる精一杯の成果だ。今なら胸を張ってそう言える気がした。

 

ーーーーーー

 

演奏が終わり、元いた席に着くとマラドが涙と鼻水を垂らしながら近づいて来た。頼むから鼻水は拭いて欲しい。

 

「か んどう しました! お、オレ、少尉の部下絶対守ります からっ!だから、安心して 預けて 下さいぃ!」

 

ワインの飲み過ぎのせいか、顔面どころかやや言語も崩壊しかけていて見ているこっちが不安になってくる。本当にミノス預けて大丈夫なんだろうか。

 

「分かった、ありがとう。折角だ。もう一つだけ頼みがあるんだが良いか?」

 

「ゑ?」

 

追加条件をマラドに伝えるとマラドは大きく頷き、そして…30分後泥酔しカウンターを枕に眠り始めた。本当に大丈夫だろうか。

 

結局マラドが眠ったまま閉店時間を迎えることになった為、マラドはおんぶされている。オレの背中に…。どうして直属の部下でもないのに酒の席の世話をしなければいけないのか、普通逆じゃないのか。そんな不満を溜めながら廊下を歩いていると顔も見たくない男に出会った。

 

「他のものから聞いたよ、バーでピアノを弾いたそうだな。今からでもピアニストに転向したらどうかな?」

 

「……部下に死を強いておいて良く言えますね。ネス・アンカインド中佐」

 

「お前は部下ではない。私に害をなす存在だ。そうだな、お前の機体にある羽を冠するならカラスといったところかな。」

 

そう言うとネス・アンカインド中佐は歩いていく。限りある時間を無駄にした後悔が胸の中に広がったせいか、オレは思わず悪態を吐いた。

 

「……カラスは意外としぶといぞ。舐めてくれるなよ。」

 

「カラスのくせに粋がるな、痴れ者が!立場を弁えて黙って死んで来い!」

 

オレは無視してその場を立ち去った。死んでいく人間に弁える立場などないのだから。

 

ーーーーーー

 

そして2日後

宇宙世紀0079 11月18日 午前8時半

2機のヅダがジオン公国ゴールドコースト基地を飛び立った。行き先は連邦軍シドニー基地、その果ては死である。




三寒四温という言葉は嘘なんじゃないかと思っています。最近最早暑いくらいの日もありますもの。私も夏を前に早くもバテております。
皆様もお身体に気をつけてお過ごし下さい。
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