機動戦士ガンダム ghost chaser   作:凛九郎

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大変しばらくぶりの更新です。
いつの間にか夏が過ぎ、w杯も終わり年も越してwbcも終わっていました…光陰矢のごとしってこういう事を言うのでしょうか。


捕虜独り 人一人

宇宙世紀0079 11月17日 午前5時52分

 

地球連邦軍の捕虜となった少女、エリカ・ローズマリーは静かに微睡みから目を覚ました。微かに鼓膜に届く小鳥の囀りがほんの一時ではあるが自身の不遇を忘れさせてくれる。いや、今生きているだけ不遇ではなく、むしろ幸運なのかもしれない。本来なら昨日、自分の人生はその幕を下ろすはずだったのだから。

 

自身が操るモビルスーツ、ヅダの機体制御が不能になった時エリカは死を悟った。しかしながら必死に操縦桿を握り締め、友軍機に通信を試みた。己の死を悟ったとて生きる事を放棄することは出来なかった。そして眼前に迫る敵モビルスーツの近接武器の刃…。その状況から捕虜になったとはいえ、ほぼ無傷で生存したことは奇跡と言って差し支えないはずだ、そして今自分が拘束一つされていないこの状況も。エリカは静かにテントの中から這い出した。そして辺りを見回す、大丈夫だ敵はいない。

 

「やめといた方が良いと思うよ、逃げ出すの。今いるところからゴールドコーストまではかなり距離があるから女の子1人じゃまず無事に辿り着けないから。」

 

不意に背後から声がする。驚き振り返るとクリーム色のショートボブに少し紫がかった瞳の女性が立っていた。周囲に気を回していたはずだったのにいつの間に気づかれたのだろう。

 

「ここにいたら殺されちゃうとか…思ってる?」

 

「………」

 

思わない方がどうかしている。エリカは声には出さないが、自然と女軍人に対して後退りしようとする足が口よりも雄弁に答えを示している。

 

「まぁ、昨日の今日じゃ答えたくもないよね。けど、あたしは貴女を殺さない。絶対に。」

 

「……」

 

殺さない、つまりある程度「キズモノ」になって貰うと言うことか。エリカは連邦軍人同士の昨晩のやり取りを思い出し身構える。

 

「ああ、大丈夫大丈夫。殺さないってだけじゃなくてちゃーんと無傷で基地に同行してもらうから。」

 

この紫の瞳の女は勝手に捲し立てながらニコニコと距離を詰めてくる。その言葉一つ一つがエリカの心中を見透かしている様で、その不躾さに少なからず嫌悪感を覚えた。

 

「アイリスさん!1人で勝手に話しているせいでこの娘引いちゃってますよ!?

良いですか!会話はコミュニケーションですよコミュニケーション!お互いに話すことが大切なんです!」

 

昨晩隣で眠っていた女連邦軍人もテントから頭だけをひょっこりと覗かせて、気味の悪い女アイリスに苦言を呈している。やたらハキハキと話しているせいか少々暑苦しさを覚える。

 

「何なんだよ朝からうるせーな。緊張感ってもんがねーのかおニ人さんよ。」

 

「シトラスおはよー。えっとね、あたしは今この娘とお話ししてるの。」

 

「だからアイリスさん、これはお話しじゃなくて1人喋りです。シトラスさんからもしっかりコミュニケーションを取るよう言って下さいよ。」

 

「……おニ人さんのマイペースさに俺はついていけねー。」

 

シトラスと呼ばれていた男連邦軍人は肩をすくめて溜息をつく。その様は端正な顔つきを相まって鼻につくキザっぽさを放っている。その様子にもお構いなしに話し続ける2人にもう一度溜息を吐くと2人とは反対の方向へと歩き始める。

 

(同じ部隊だって言うのに考え方がまるで違うんだ…私たちの部隊とは全然大違い。)

 

エリカはそう内心呟いた。自身が所属している亡霊部隊は個々人、それぞれバックボーンは異なるものの戦果を求め居場所を求め1つの目的の元に纏まっている部隊だ。しかし、彼らはただただ無軌道に振る舞っているだけで部隊としてその体を成していないように思えた。そんな部隊に捕虜として囚われている自分は一体何なのだろう。

アイリスとシボレーの2人の姦しいやり取りを聞き流しながらエリカは自身の惨めさに打ちひしがれていた。

 

ーーーーーー

 

その後、エリカを帯同させながらの逃避行は黙々と進んで行く。あれだけ姦しかった軍人達も別人の様に落ち着き払った様子で連邦軍のシドニー基地へと歩を進めていった。

静寂が場を支配する無言の行進は時折休憩を挟みながら1日通して行われた。エリカはおもちゃ箱に仕舞われたおもちゃの様に、揺れるモビルスーツの中で虚に時を過ごした。ある意味一番の辱めではないか。こんなことなら死なせてくれた方が良かったとさえ思い始めた、その夜のことだった。

 

ある男がエリカの元を訪れた。赤茶髪の髪を束ねた気弱そうな男は自らの名をレイン・ウォーミングと名乗った。昨晩私刑されそうだった自分を助けた男であり、自機のヅダを墜し殺そうとした男…。エリカは空虚な目に怒りの光を宿し男を一瞥した。男はしばらく何も言わなかったが小さく息を吸うと語り始めた。

 

「君になんて言葉をかけていいのか、オレには分からない。君の命は本当なら無くなっていてもおかしくは無かった。」

 

「そんなことを…そんなくだらないことを言いにわざわざ来たんですか?」

 

「君は戦場で敵を殺した事があるのかい?」

 

「……ありません。」

 

「それはよかった。」

 

「嫌味のつもりですか。」

 

「違う、断じて違う。君がその若さで人を殺す経験をするなんて残酷なことしてなくて良かったと思ってね。」

 

「何を…言ってるんです。今は戦争なんですよ?昨日の夜あなたの仲間が言ってましたよね…?」

 

「戦争は永遠には続かない、いずれ必ず終わる。その後もオレ達の人生は続いて行く。戦争で負う傷も負わす傷も少ない方が良い。」

 

不思議なことを言い出す男だとエリカは思った。殺しの是非を自分に問うたのは、自分が戦争による心身の傷を負っているか否かを聞くためだった言うことか。見え透いた懺悔と言い、今の問答といい敵にそんなことをする軍人は聞いたことがない。

 

「では、あなたも今『安心』されているんです…?私が生きているから。」

 

エリカは自分でも驚くほど低い声で男に毒づいた。こんな嫌味いつもなら決して口にすることもしようと思うことも無いというのに、戦争は人の暗部、醜さを露わにするものなのだなと独り勝手に嗟嘆した。

 

「ああ、『安心』しているよ。けど、だからと言って自分の行為の全てを無かった事には出来ないんだ。だから話を聞かせてほしいんだ。」

 

「何をです?」

 

「君やその仲間の話、家族やペットの話だっていい。君という人となりをオレは知りたいんだ。」

 

「お生憎ですけど、尋問なら答えませんよ。」

 

「戦術やジオンのことなんて何一つ話さなくて良い。君の話したいことを話してほしい。話したくないなら…日を改めるさ。少し前にも似た様な事があったからこういうことには慣れてるんだ。」

 

「……敵にナンパされるなんて。どこまで私をバカにすれば気がすむんですか…!!そうやって蔑んで嘲笑って…優越感に浸りたいだけでしょう!?」

 

「そうじゃない!!そうじゃないんだ!!」

 

今まで平静を保っていた男が初めて声を荒げた。その目はいくらか悲壮感が漂っている。突然の声に気圧されエリカは口をつぐんだ。

 

「オレは過ちを犯した。オレの中でそれは許される事じゃないんだ、戦争であったとしてもね。だから覚えておかないといけない。自分が尊い命を手にかけようとした事を。」

 

「君を捕虜としてじゃなく1人の人間として話を聞きたいんだ。そうすればきっとオレはオレの罪をもっと理解する事が出来る…そう思うんだ。」

 

エリカは何故か男の言葉に心が惹かれた。も自己満足と自己陶酔が入り乱れていて鼻につく部分はもちろんある。しかし、それ以上に1人の人間として話を聞きたいという男の姿勢に好感を持った。幼い頃から不法移民の子としてでしか周りから見られず、不当な扱いを受けた事もある自分が見ず知らずの人間に1人の人間として受け入れてもらえる事が少なからず嬉しかったのかもしれない。

 

訳知り顔をして心中を言い当ててくる不躾な女や私刑に処そうとしてきた女など連邦軍のパイロットにも様々いたが、この男になら雑談の一つくらいしても良いかもしれない。エリカはそう思い、分かりました、あなたの酔狂な自己満足に付き合ってあげましょうと開口一番毒づいた後に身の上話を始めた。自らの出自に始まり、自身の家族、ジオン軍への入隊理由、配属部隊の仲間との日々を話した。男は目線をエリカから離す事なく時折微笑を浮かべ相槌を打っていた。

 

「サニー隊長は少し顔が怖いんですけど、とっても良い人なんです。仲間思いだし優しいし…あとピアノがすごく上手く弾けるんですよ?」

 

「それは凄い!オレは手先はダメダメでそれに音痴だし。君の上官には逆立ちしても叶いそうにないな。」

 

「そうです…あなたなんてあっという間に堕とされちゃいますよ、本当に凄い人で私あの人の部下なのが本当に…本当に誇らしくて…」

 

不意に頬に滴が垂れた。エリカは驚きながらそれを拭う、自分も知らない間に涙していたらしい。

 

「……仲間が恋しいのかい?」

 

「そんなの愚問ですよ…」

 

男はエリカに感謝と謝罪を述べた後静かにエリカの元を離れた。入れ替わりに入ってきた暑苦しい女の言葉を聞き流しつつエリカは亡霊部隊の仲間たちに静かに思いを馳せた。

 

ーーーーーー

 

宇宙世紀0079 11月18日 午後10時58分

逃げる連邦軍の後方500m地点、夜の闇に乗じて2機のモビルスーツが森林地帯に降り立った。搭乗者はサニー・コールディとジュリアス・ヴァルトロ、死に場所を探し彷徨う哀しきパイロットだった。

 

「ったく、連邦の野郎共がここまで遠くに逃げてたとは思わなかったな。運が良いというかジオンのお偉方がだらしねえというか。」

 

「隊長、言い過ぎですよ。同胞や上官への悪態は職務規定に触れかねない。ご法度ですよ。」

 

「その上官に俺達は死んで来いと言われてる訳なんだがな…職務規定違反も悪態も多めに見ろよ。」

 

「……」

 

自虐も含んだ皮肉のつもりだったが思いの外重苦しい言葉になってしまったのかもしれない。無線での会話であるとはいえど、その憂いを帯びた声色にサニーはジュリアスの気持ちが沈んでいるのを感じた。

 

「そう沈んだ雰囲気を出すな、ジュリアスお前は真面目すぎる。そんなんじゃ今まで浮いた話の一つもなかったんじゃないか?」

 

咄嗟に彼の色恋に話題を振ることにしたが、気休めにもならないかもしれない。だが、沈痛な面持ちと声色で居られるよりはずっと良い。生きていられる時間と結果は限られている、ならばより良い過程を選び取ろうとするのは傲慢だろうか、それとも無駄な足掻きか…。

 

「オレには…遠い昔の話ですよ。犯罪者に身を堕とす前の話ですから。」

 

「遠い昔でもあるにはあったんだろうが。どんな女だったんだ。」

 

「あまり話さない奴でした。それでも共にいて落ち着ける、そんな奴でした。犯罪者になってからは一度も会ってないんですがね。もしかすると…もう。」

 

死んでいるかもしれないとでも言いたげに言葉を濁す部下にサニーは深くため息を吐く。いかんせん後ろ向きが過ぎる。何を話しても悲観的に返してくれる。きっと明日の天気の話を振ってもネガティブ全開な言葉を返してくれる事だろう。

 

「…ジュリアス、その性格どうにかならないのか?」

 

「どうにかならないから性格なんでしょう。」

 

サニーは諦めの気持ちと一緒にもう一度大きくため息を吐くと2人の間に沈黙が流れた。しばらくしてその沈黙はジュリアスによって破られた。

 

「隊長はどうだったんです?」

 

「どうって何がだ。」

 

「異性の話ですよ、オレだけ話させて自分が話さないというのは不公平でしょう。」

 

与太話に不公平も何もないだろうとサニーは苦笑した。どうもこのジュリアスという男は度を越えた堅物であるらしい。もっとも自分の色恋沙汰に碌な話があるわけでもない。だが連邦軍が進軍を止めている今、死までの時間の暇つぶしの1つにはなるかもしれないと思い直し、士官学校の頃の話だ。面白い話でもないぞと予防線を張ると口を開いた。

 

ーーーーーー

 

一通り話が終わると先程よりも長い沈黙が訪れた。何かリアクションをしてくれよとサニーは内心自身の暗部を晒した後のような恥ずかしさを覚えつつ部下にツッコミを入れる。

 

「……隊長はその人のこと好きだったんですか?」

 

「分からない、ただこう言う話題で口にするって事はありふれた奴だとは思ってなかったんだろうな。」

 

「……不器用な人ですね、隊長は。」

 

「ジュリアス、お前にだけは絶対言われたくない台詞だぞそれは。」

 

生意気な後輩に悪態を吐きながら、サニーは士官学校の卒業式の日を回想していた。交際していたわけではないが、学友として時間を共にしたことは多かった。その別れが辛いのかあの時アイツの顔は冴えなかった。

生きていればまた会えると見え透いた言葉を言ってみるとアイツは少し潤んだ瞳で泣くのを堪えながらこう返して来た。

 

「私もアンタも赴任地が違うでしょ、もし何からあった時これが最後の時間って事になるのよ。」

 

潤んだ瞳に驚いて狼狽えながらどうしてそんな顔をしているのかとアイツに返したのを覚えている。

俺の目に映っていたその顔も少し震わしながら握っている拳も何一つオレには語りかけてはくれなかった。どうしてアイツがあんな顔をしてこんなことを言ったのか正直今でもよく分からない。

 

「言われなきゃ分からない?言葉にしなきゃ分からない?」

 

アイツはそう言って顔を覆い俺の前から姿を消した。この時以来、アイツがどうなったのかは分からない。ただ、もう一度会うことがあったならあの時の真意を聞きたいものだ。

 

もう一度会えたら?

 

ああ…そんな機会は2度とないのか、オレは死ぬんだから。

どこかで生きることを捨てきれていない自分がいるのかもしれない、こんな事では任務を遂行することはおろか、天上にいる父上や母上に顔向けできない。

 

「捨て去らないとな…こう言ったものは。」

 

「隊長…?大丈夫ですか。」

 

「ああ、大丈夫だ。俺は大丈夫だ。」

 

「……」

 

「明朝4時に連邦の奴らを強襲する、攻撃場所をワザとずらして奴等を撹乱して各個潰していく。」

 

「了解」

 

「雑談は終わりだぞ、ジュリアス。ここからは殺し合いだ。」

 

サニーは声色を一段と低くして『狩り』の開始を告げる。それは宇宙世紀0079 11月18日午後11時33分のことだった。

 

 

 

 




次はもう少し失踪期間が短くなると良いなと思っております。
皆様もお身体に気をつけてお過ごしください〜♪
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