機動戦士ガンダム ghost chaser   作:凛九郎

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夏頃に投稿したいですねと書いて一年後の夏…帰ってまいりました。


亡霊の足跡

 

「何故だっ!何故俺を殺さない?またつまらん理想主義かレイン・ウォーミング!」

 

サニー・コールディは自らの敗北を悟ってすぐに猛烈な怒りに襲われた。それは敗北したのにも関わらず自分が生きているという辱めへの怒り、そしてそれを行ったレインに対しての怒りだった。何も戦果を得られないばかりか、戦って死ぬことすら許されないとは。サニーは自身を呪いながらもモビルスーツの中にいて見えるはずのない仇敵に鋭い眼光を飛ばしてやった。それがサニーに出来る唯一にして精一杯の抵抗だった。

そんなサニーのささやかな抵抗と悪態を尻目にレインは穏やかな口調を崩さずに彼の憤怒を時間をかけ受け入れるかの様にゆっくり話し始めた。

 

「前にあなたオレに言いましたよね、現実や痛みを知らない理想論に何の意味があるのかって。」

 

「……あなたの言っていたことの全てを理解したわけではありません。それでもあなたの部下を捕虜にしていた時間の中で、少しだけあなたの言葉の意味が理解出来たような気がしました。」

 

「理想論や綺麗事をただ並べるだけではその理想は叶わない。それどころか、その理想に苦しめられることや傷つくことだってあるかもしれない。」

 

「それでもオレは…理想を平和な生活が出来る世界を諦めなくないんです。苦しみや痛みはきっと理想と向き合う為に必要なことだと思うから。」

 

「現実の痛みを知らない理想には何の説得力もないし理解もされない。現実と向き合い続けることで培いたい理想だってきっとあるはずだから。」

 

「理想に殉ずるとでもいうのかお前は?お前の言葉はただの恵まれた立場にいる人間のポジショントークに過ぎない。地べたを這いずり回る様な、貴様の綺麗事で救われるべき人間達には何の意味もなさないただの空論だろう!」

 

サニー・コールディの感情を露わにした反論とは対照的にレインの態度は舞台中の役者を客席から眺めているかの様に落ち着き払っていた。しかし何処か分かり合おうと歩み寄ろうとするように言葉を選びながらゆっくりと返してゆく。

 

「…確かにそうかもしれません。けど、思うんです。理想は願いと同じなんだって。確かに日々を必死に生きている人々の中には、願うことさえも難しい人もいるかもしれません。それでもオレは理想を追うことと、現実を直視することが対極にあるものだとは思えないんです。」

 

「理想は現実の中から、現実の辛さや苦しさを良くしたいと思う気持ちから生まれるはずです。オレ達1人1人の命だって誰かの願いから生まれ現実を生きている。そこに主義や思想の違いがありますか?」

 

「サニー・コールディ少尉、あなたも誰かの願いを理想を受けて生まれ生きてきたんじゃないんですか?」

 

その言葉に思わずサニーは息をのんだ。

 

ーーーーーーどんな事があっても諦めないで欲しいんだ。

 

サニーの脳裏に父フロストの姿と言葉がよぎる。博物館で彼はその言葉と共に形見となるペンダントを託し涙した。自分は今までその姿を自身の理想を成し遂げることが叶わなかった無念さだとばかり思っていた。

しかし、もしもそうでなかったとしたら?

あの涙はこの先の苦境に負けず理想を必ず実現しようとする決意の表れだったのか?

自分に送った言葉は父自身にも向けられた言葉だったとしたら?

自分が託されたのはペンダントだけでなく苦境に折れない生き方、即ち折れることなき信念だったとしたら?だとするなら父は…

 

(俺に生き抜いて欲しかったとでもいうのか?)

 

胸中で問うてみてもその答えは当然出てくることはない。答えが返ってきたところで自分の運命は既に決まっている、そうしなければ

ネス・アンカインドという男はジュリアス達もろとも死地へと赴かせるに違いない。

 

自分の天命は今この時に尽きる…いや尽かさなければならない。心に火が灯った様に身体が熱くなるのを感じた。待ち受けているものが死であるはずなのに不思議と少し高揚し、胸が高鳴った。父の思いをこの世の最後に感じ取れた喜びが死を超えたのだろうか。

青二才、癪だが礼を言うぞ。お前の言葉は生への未練を今ここで断ち切らせてくれたっ!

男は一人心中で快哉を叫び力強く操縦桿を握り締めた。

 

「願いか。確かにあったのかもな。

だが、今となってはどうでもよいことだ。

今の俺の願いは…これだ!」

 

ドガーン

 

静寂の戻った大地に再び轟音が鳴り響く。鋼と鋼がぶつかり滲む、戦場の音だ。

レインは一瞬呆気に取られたが直ぐに身体、特に後頭部に伝わる強い衝撃が自身の機体がヅダに蹴り飛ばされ仰向けに転倒させられたということを彼に解らせた。

 

「くっ…まだ戦うって言うのか貴方は!?」

 

「勘違いするな!最後の場所くらいは自分で選ぶさ。お前を本当は殺してやりたかったがお生憎武装が残ってない。だからここで寝ていろ。」

 

「最後の場所って貴方やっぱり…。ダメだ!貴方を信じて基地に帰還した部下達の為にも生きてください!」

 

「敵に生きるように説得するバカがいるとはな…数奇な奴だな。世の中には居場所も生きる意味も無くしてる奴がごまんといるんだ。俺の父はダイクン派の政治家の息子で政治犯の汚名を着せられ殺された。その子どもの俺には閑職しか道がなく這い上がることも出来ない。」

 

「……」

 

先程まで怒りに身を任せ狼狽していた男とはまるで違う眼光にレインは思わず言葉を失い閉口する。

液晶越しに映るその表情は不鮮明ながらただ今を真っ直ぐ見据えているように思え何故かハツラツとしている様にすら見えた。

その先にあるのは死であるはずなのに。

 

「俺も俺の部下も脛に傷持ってる様な奴らばかりだ。俺達の様な人間が地球にもコロニーにもこれから益々増えてくる事だろうよ。この戦争のおかげでな。その時お前の理想がどこまで通用するか…地獄の底から眺めててやるよ。」

 

「だから、せいぜい生き延びろ」

 

ブオオォォ

 

耳をつん裂く様な音が轟いたかと思うと、ヅダは少しずつ上昇し浮遊する。飛行能力を持たず青天井を見上げている陸戦型ジムでは決して届くことのない領域。

レインはコクピットから飛び出し、ただ届くはずもない手をコクピットから伸ばし続ける。そこに高尚な理由などない。死なせたくないただそれだけだった。

 

しかし、それを嘲笑うかの様にヅダは高度を上げ瞬く間に視界から消えていく。

 

「どうして…生きていれば、いくらでも歩み直せるのに立ち上がれるのに。生きてこそ……生きてこそじゃないかぁぁ!!」

 

理想を棄て去る事が出来ない哀れな男は独り咽び泣く。その涙は乾いた絵の具のパレットに水を垂らすかの如く、コバルトブルー色の空に溶けていった。

 

これより2時間半後、レイン・ウォーミングは先に帰還した仲間たちの要請を受けた部隊に救出され、無事にシドニー基地へと辿り着く。辿り着いた彼の顔は泣き腫らした跡があったという。

 

ーーーーーー

 

「起きてくれないか。おい、おいったら。」

 

何処か懐かしい声で男は目を覚ます。見渡すと周りは黒一色の部屋、よく言えば簡素悪く言えば殺風景な空間がそこに構築されていた。おそらく自分を呼んだであろうワインレッドのスーツに目深にシルクハットを被った男が肩に手を置いている。おそらく肩でも揺さぶって覚醒を促したのだろう、肩を揺さぶって人を起こすとは気遣いのないガサツな奴だと男は思った。不思議と部下に仮眠を邪魔されたことを思い出す。確かあの時も同じようなことを思ったはずだった。

 

「随分な挨拶だな、なんの用件だ。」

 

スーツの男は黙って人差し指を向ける。そこには一台のグランドピアノが置いてある。周囲の全てが黒一色の異質な空間に鍵盤の白がまるで異物かような存在感を放っている。男はそのピアノに覚えがあった。

 

「これはガキの頃に弾いていたピアノ…?なんでこんなところに」

 

「弾いてくれないか?」

 

弾いてくれとせがまれる程大した腕じゃないと男はかぶりを振ったがスーツの男は私は君のピアノだから聴きたいんだと言って取り合わなかった。しばらく沈黙した後、ため息を一つ吐いて男は鍵盤に手を置いた。昔取った杵柄か自然と指が踊る。父が1番好きだった曲…この曲を弾くと父は決まって喜んでくれた。幼少の頃の記憶が、父との思い出が脳裏に浮かんでは消えてゆく。消えてゆく永遠を惜しむかの様に指は忙しなく動き続ける。

 

♫♫♪♫

 

 

演奏を終えて男はスーツの男をチラリと見た。スーツの男はただ穏やかな笑みを浮かべこの演奏が聴きたかったんだと一人感慨に耽っている。男がその理由を尋ねると、私が1番聴き続けて来た曲だからねとスーツの男は答えた。

 

「どういうことだ…?」 

 

「サニーまだ分からないのかい?」

 

スーツの男はシルクハットにゆっくりと手をかけた。そこにいたのは幾年も前にこの世の人ではない人物…誰よりも自分のピアノの音色を喜んでくれた人物…

 

「父さん…」

 

「サニー、すまなかったね。お前には苦労ばかりかけてしまった。」

 

「違う、違うんだ父さん…俺の方こそ父さんの名誉を守ることが出来なかった。その為にその為だけに俺はここまで戦って来た。それなのに…」

 

「いいんだ、どんな道であれ生き抜こうとしてくれた。それに価値があるんだ。」

 

「父さん…」

 

「さあ、今度はこの曲をもっと多くの人に聴かせてあげてくれないか?」

 

その言葉に呼応する様に辺りが光の灯った電球の様に明るくなると、知った顔が次々と現れる。ピアノを教えてくれた先生、士官学校で一緒の時を過ごした仲間、そして…写真でしか見たことがなかった母。

 

「よく頑張ったね、サニー。」

 

初めて聞く母の声に男は忘れかけていた穏やかな笑みを浮かべる。

そして…

 

 

ーーーーーー

 

上司からカラスと疎まれ周りから亡霊部隊(まどぎわぶたい)の隊長と蔑まれた男、サニー・コールディの決死の特攻は地球連邦軍シドニー基地内南東部の地面に巨大なクレーターを作る結果に終わった。

結果のみを見れば彼の特攻は無意味なものだったと言っていい。

しかし、彼の特攻によって痛手を被ったシドニー基地は数日後に敢行された地球連邦軍のオーストラリア大陸における大規模反抗作戦に本格的な参戦を行うことが出来なくなり、後方支援に回されることとなる。

オーストラリア大陸において連邦に傾いていたパワーバランスを僅かながらジオンに引き戻すことに彼は図らずも成功していた。

しかし、この戦果は誰の目にも止まることも賞賛されることも記録に残ることすらない。

シドニー基地内南東部の地面の巨大なクレーター、それだけがサニー・コールディの戦い、生き抜いたことを示す唯一の痕跡 亡霊の足跡である。

サニー・コールディ 戦死

享年23

 

 

 

 

 




久しぶりに書いたので誤字とかキャラクターがぶれていたりしたらすいません。コメントで教えていただければ幸いです。

今後の更新はいつになるのか…それは私に分かりません。
気長にお待ちくださいね。
暑い日が続きますがご自愛ください。
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