機動戦士ガンダム ghost chaser   作:凛九郎

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お酒飲んでたら不意に思いついたので投稿します。


手帳と羽

 

宇宙世紀0079 11月22日

サニー・コールディの死から3日が過ぎた。

 

亡霊部隊長サニー・コールディ少尉の死はジオン公国ゴールドコースト基地のネス・アンカインド中佐の耳にも届いていた。ネスは執務室で、一人ほくそ笑んだ。

 

(ふっ、あのカラスめ。ようやく死んでくれたか…役立たずだったが死して初めて役に立ってくれてものよ。)

 

ネス・アンカインドは元はダイクン派に組みしていたジオン国防隊の軍人であり、サニーの父であるフロスト・コールディとは盟友だった。フロストと異なっていたのはフロストは政治思想でジオン・ズム・ダイクンを支持していたのに対しネスはただ長いものに巻かれていただけで思想面で共感していた訳ではなかったことだ。

 

ダイクンの死後、ネスは自身の権力が失われることを恐れた。早々にザビ派への鞍替えを決意し、その手みあげとして盟友フロスト・コールディの犯罪行為をでっち上げた上でその首をザビ派に差し出した、自身の保身の為に盟友を陥れた挙句に売ったのである。

挙句、看守達を買収し獄中死に見せかけてフロストの殺害を指示。それを実行させた。

 

フロストの暗殺はネスにとって世間に隠しておきたい最も大きな恥部だった。それを誰かに知られることはネスの権力の喪失、最悪の場合自身の死に直結しかねない。その為、真相に近づく可能性のある人間達を処理していく必要があった。その第一候補がフロストの血縁であるサニーだった。

ネスはサニーを自身の部下として迎え入れると、度々激戦地に赴く部隊に編成させて出撃させるということを繰り返した。無論サニーの戦死を誘発させるためである。しかし、その目論みはハズレ続ける。サニーは何かに守られているかのような驚異的な悪運の強さを発揮し悉く生還していた。

しかし、今回の特攻命令で自身の権力を脅かす存在はいなくなった。ネスは邪魔者を消すことができたこの戦争に感謝しつつ一人笑いを噛み殺していた。

 

その時、執務室の窓から1羽のカラスが入ってきた。ネスは鬱陶しそうにそのカラスを壁に掛けてあった飾り剣で追い払う。するとカラスは窓枠の縁にハラリと降り立つとネスに向かって一声鳴くとそのまま外へ飛び出ていった。

 

不意に部屋に聞き慣れた声が響く。

煩わしく煩わしくてたまらない不快なあの青二才の声だ。

 

ーーーカラスは意外としぶといぞ。舐めてくれるなよ。 

 

ネスは思わず自身の周りをぐるりと見渡した。無論そこには誰もいない。ただ1人部屋には少し広すぎる西洋風の部屋が広がっているだけだ。

 

まさかそんなはずはない…そんなはずは…

 

ネスは大袈裟にかぶりを振ると、どっかりとリクライニングチェアーに座りタバコに火をつけ煙と共に不吉な不安を吐き出す。タバコを持つ右手は自然と震えていた。

 

すると突然執務室の電話が鳴る。それは今後の連邦との戦闘について、部隊長以上クラス全員への緊急でミーティングを行うというものだった。

 

詳細を語らない不気味さに自然と背中から冷たい汗が流れた。

 

カァカァカァ

 

また何処からかカラスの鳴き声が聞こえた気がした。

 

ーーーーーー

 

亡霊部隊に所属していたミノス、ジュリアス、エリカの3名はマラド・アルタナ軍曹率いるマラド隊に配属され活動していた。

 

ミーティングルームで共に活動報告を書き留めるミノスにジュリアスは声をかけた。それは3日間胸中に秘めていた思いだった。

 

「どうして、俺は今も生きているんだろうな。」

 

「どうしたんすか、いきなり。そんな思い詰めた顔でまた。」

 

「別に大した話ではない」

 

「自分を見失ってるのが大した話じゃないって…意味が分かんないすけど。相変わらず急にセンチになるっすよねジュリアスは。」

 

やれやれと言った具合に溜息をつくとミノスはジュリアスの方に体を向ける。どうやら業務よりも自分との話を優先したらしい、そこまで深刻そうな顔で話していたつもりはなかったのだが。もしかしたら自分が思う以上に今の自分は危うく見えているのかもしれないとジュリアスは自身と周囲とのギャップを感じ取った。

 

「大体、そんなこと言い始めたらオレはどうなるんすか?2人に置いてかれて…出撃しようとしたらマラド軍曹達に事情説明された挙句に自室に缶詰にされたんすよ!?」

 

「隊長に会えずに戦死を知らされるのはジュリアスが思ってる以上にキツイっすよ…?」

 

そう言うとミノスは視線をジュリアスから外し手元の書類に目を落とした。その横顔からは後悔の念が滲み出ていた。彼もまた自分と同じように隊長の死をまだ何処かで受け止めきれていないのかもしれない。今の彼と同じような顔を自分もきっと周りにしていたのだろう、だからミノスは自分の話に耳を傾けてくれたのかもしれない。

 

「……まさか、お前だけじゃなくて俺やエリカまでマラド隊に異動になっていたとは。」

 

「ジュリアスも知らなかったんすか?」

 

「俺が知っていたのはお前を特攻させない為に別部隊に異動させるという事だけだ。エリカと共に基地に戻った後にマラド軍曹から話を聞かされるまで、いや聞かされても全く意味が分からなかった。」

 

「そりゃ戻って来ていきなり、今この時をもって両名はマラド隊に配属となった。隊長命令に基づきサニー・コールディ少尉との合流を禁止するとか言われても理解しろって方が無理っす。」

 

「あの後暴れてマラド軍曹達に止められてたっすよね。」

 

「……一緒に付いて行きたかったんすか?」

 

「それはミノス、お前もそうじゃないのか。」

 

「そりゃ〜そうっすけど…でもそれって隊長の気持ち無駄にしちゃうかなって。」

 

「……隊長からの最後の命令、無駄に出来ないっすよ。」

 

「最後の命令…」

 

ミノスの瞳には先程の後悔の念は消えていないまでも僅かに希望が灯っているように見えた。隊長を慕っていたからこそ命令を全うせんとする健気さがジュリアスには眩しかった。そんなジュリアスの心情も知らず、ミノスは何かを思い出した口ぶりで言葉を続けた。

 

「そう言えば、オレ気になってることがあるんすよね。」

 

「どうしたいきなり。何の話だ。」

 

「…エリカのことっす。隊長はエリカが生きていることを出撃前には当然知らなかったはずっす。なのに、オレ達と同じようにマラド隊に異動させていた…どうしてなんすかね。」

 

ミノスの質問にジュリアスはしばらく沈黙すると言葉を選ぶ様にゆっくりと口を開いた。

 

「隊長なりのやり方で守りたかったんだろう。忌み嫌われ特攻を強いられる部署に居たという事実から。エリカの名誉をな。」

 

名誉を守る。その言葉の重みは隊長自身が1番分かっていたはず。もしかしたら彼にとっては命を守る事よりも大きな意味を持っていたのかもしれない。だから亡霊部隊にいたという事実を強引に捻じ曲げようとしたのか。

戦死したであろう部下に対してのせめてもの手向けのつもりだったのだろうか。

……あの人は、馬鹿だ。大馬鹿だ。そんな事をしても自分だけ死んでいれば世話がない。隊長と共に過ごした時間を苦にしたことなどなかった。あの人と一緒だったから冷遇されようが生き延び耐え忍んで来れたのだ。

それなのにあの人は…。

 

「隊長らしいことだ全く。本当に。

生きて…欲しかった。」

 

ジュリアスは絞り出すように呟いた。ミノスはそれをただ伏せ目がちに見守ることしか出来なかった。

 

ーーーーーー

 

ジオン軍軍曹マラド・アルタナは顔を顰めた。その訳は先刻の基地内ミーティング、謂わゆる軍議の内容にあった。連邦軍オーストラリア大陸で大規模反抗作戦開始、しかもその規模は過去に類を見ないほどのものだと言う。

 

(大陸3ヶ所からの同時進軍なんて聞いたことがねぇ。ただでさえ物量で差があるってのに同時多発的に攻められたら、コッチはひとたまりもねえぞ!)

 

このオーストラリア大陸においては辛うじて保たれていたバランスの潮目が今大きく変わろうとしている。それも最悪な方向に。

おそらく数日前の連邦軍の基地襲撃もその前ぶれに過ぎなかったということなのだろう。

 

こんな状況になる前に防衛線を強固するべきだったのではないか。亡霊部隊への特攻指令などという馬鹿げた事をするよりもやるべき任があったのでは無いか。ただ悪戯に時と人命を浪費しただけじゃないかとマラドは内心上層部に悪態を吐きながら自室へと歩みを進めていた。

 

すると道中で扉が開いている部屋が何故か目に止まった、その部屋はかつてサニー・コールディが使っていた部屋だった。おそらくまだ荷物もそのまま放置されていることだろう、訳もなく開いているその部屋にマラドは吸い込まれるように入っていく。何故入ったのか分からない、ただ入らなければならないそんな気がしたのだ。

 

部屋に入ったマラドを待っていたのは、細部に渡るまで整理が行き届く調和された空間だった。テーブルや椅子がまるで号令でもかかったかのように寸分のズレなく置かれ、私物であろうピアノに至るまで埃ひとつ被っていない。サニー・コールディという人間は豪胆に見せていたものの、その実態は繊細で神経質だったのだろうとマラドはその人となりを慮った。

 

そんな調和の取れた空間に1つだけ無造作に置かれているものがあることにマラドは気がついた。それは茶色の皮で外装された手帳と万年筆だ。故人の私物を覗き見するのは多少気が咎めたが、この空間に異質さを放っているその中身を確かめたいという知的好奇心に負けて重厚感のある手帳のページをめくり始めた。 

 

ーーーーーー

 

ーーーーーー俺の人生は明日までだ。後悔はないが、ただただ無念だ。おそらく犬死に終わるであろう自分が、死んだ父さんの名誉を取り戻せずに死ぬであろう自分が情けなくて仕方ない。ただ希望もある、マラド・アルタナ…アイツがミノス達を守ってくれると約束してくれた。もしかしたら反故にされるかもしれない、それでも必ず守ると、任せてくれと言ってくれたその心意気が嬉しい。

これで後顧の憂いは断たれた。思い残すことは数あれど部下の命の不安に比べれば多くのことは些事だ。あとは…俺の番だ。

 

ーーーーーー

 

 

部屋の内装同様に整った字体で書かれていたのは、遺書とも言えるような手記だった。

マラドは静かに手帳を閉じテーブルにまるで花を生けてある花瓶を扱うかのような手つきでそっと置いた。

 

(憂いは断たれた…か。)

 

今しがた見た一節がマラドの脳裏で反響する。ただの文字の羅列ではあったが、マラドにはその一節が実感の伴った生きた言葉のように感覚に絡み付いてきた。

基地内のバーで部下のことを懇願された時のことを思い出す。酒を飲んでいるせいか、いつもよりも強い眼力ではあった。しかし、その強さは酒の力というよりも彼の元来持つ強い意志を思わせるものだった。

殺意や野心ではなく、意志を託そうとする目。その強い輝きは酒に溺れていた最中でも強くマラドの心に焼きついた。

 

その記憶の想起はマラドにより強くサニーとの約束の成就を決意させた。死んでたまるか必ずこの戦争を生き残る。どんな困難がこの先あろうとも。

 

マラドは誰もいない部屋に向かって、敬礼した。それはこれから如何なる死線を掻い潜ることになろうと必ず約束を守り抜くという覚悟。そして何より願いを託してくれた者へのせめてもの意思表示だった。

 

ーーーーーー

 

時を同じくして宇宙世紀0079 11月22日

地球連邦軍 シドニー基地

レイン・ウォーミング伍長含む4名の新米パイロットの命懸けの帰還から3日が過ぎた。

その3日間は正しく怒涛の言う言葉がふさわしい程に慌ただしいものだった。

レイン・ウォーミング達の報告を受けた上層部は基地内のスパイの調査、処罰に動き出しスパイ活動に関与していた者の多くを追放。組織の健全化を僅か3日の間に完了させた。

オーストラリア大陸をめぐる一大反抗作戦の地盤固めの為に憂いを断つ…それが上層部が掲げた大義だった。

しかし、レインはこの一連の動きに違和感を覚えていた。あまりにも行動が早すぎるのだ。スパイの証拠を揃えるだけでも相当な時間を要するはずなのに処罰も含め僅か3日でかたが着くなんて尋常ではない。そんな思いを秘めていた時、丁度自身の上官であるクラウディア・フラッツから呼び出しを受けた。レインはこれを機会にこの違和感を吐き出そうと決め1人執務室の扉を叩いた。

 

入りたまえと少ししゃがれた声が聞こえた。作法通りに部屋に入るとクラウディアはレインからを向け窓の方に身体を向けている。まるで興味がないとでも言いたげな応対だ。しかしレインもそれに面食らう事なく、今回の呼び出しの要件は何かと話を切り出した。それにクラウディアはただ静かに窓の外を眺めている。まるで間合いでも探っているかのようだ。壁に立てかけてある時計の秒針だけが音を発している異様な時間が数分ほど経った時、その沈黙を破ったのはクラウディア・フラッツだった。




お酒のテンションで書くと話がとっ散らかってそうで怖いですね。
誤字脱字あればすいません。
多分次回かその次で完結する…はずなので気長にお待ち下さい。
出来るなら一年位内に戻って来たいですね。笑
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