機動戦士ガンダム ghost chaser   作:凛九郎

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今年はWBCもオリンピックもありましたしW杯もありますね。
スポーツはからっきしですが応援することは好きです、頑張れ日本!


我が軍に勝利を

地球連邦軍シドニー基地の食堂の一角、仄かに陽光が差し込む窓辺のテーブルで1組の男女が談笑しながら昼食を食べている。その雰囲気は戦時中に不釣り合いなほどに和やかなものだ。

 

「レイン聞いて聞いて!さっきのモビルスーツ機動訓練で教官にお前は近接格闘に弱いって言われちゃってね〜。どうしたら良いかな?」

 

「それでもオレよりは成績は良いだろ。相談する相手、間違えてるんじゃないんか?」

 

「もう!!あたしはレインに聞いて欲しいんだけど〜!!」

 

膨れっ面アイリス・ベルガモットにレイン・ウォーミングは宥める様に自分の皿に盛られたタコのカルパッチョサラダをアイリスの皿によそう。アイリスは満足しなかったのか薄紫の瞳に不服の色が宿る。レインはやれやれと肩をすぼめながら小皿のフルーツポンチを差し出すとニッコリと笑いありがとうと言って幸せそうに頬張る。どうやら機嫌は直ったらしい。レインが胸を撫で下ろすのと同じタイミングでガラガラと部屋の扉が開くと青年が申し訳なさそうに顔を覗かせた。

 

「あっ、2人ともここに居たんですね。えーっと…これからロシアから来た中尉が新人パイロット向けに公演していただけるみたいです。全員参加厳命だそうです。」

 

ほぼ坊主頭に近い短髪に髪色と同じ薄茶色の瞳を持つ青年ダルタニアン・クレベルがレインとアイリスに声を掛ける。その視線はどこから泳いでいて言葉も少し吃っている。

 

「えーなんか嫌だな。イヤな予感がするっていうか…。」

 

「あの…全員参加厳命なんだけど…」

 

フグの様に頬を膨らして抗議するアイリスにダルタニアンは言いにくそうに言葉を繰り返す。

気弱であっても決まりには厳格な性格の様だ。

ダルタニアンが視線をレインに送る。その目は物をねだる子どものような少し甘ったれた期待と嘆願が宿っている。上手く言いくるめてくれということだろう。

 

「ダルタニアンを困らしちゃダメだって。それにイヤな予感がするからって理由で周りが納得すると思う?」

 

「それはそうだけど…うーん、仕方ないか。」

 

不承不承ながらアイリスは器しか残っていない食事トレーを持ち離席し返却口に歩き出した。

 

「だから全員参加なんだってば…」

 

ダルタニアンの言葉にも悲壮感がこもる。話を聞いてもらえなかったと捉えたのだろう。レインがダルタニアンの肩にそっと手を添えて気にするな。アイリスはマイペースなんだ…オレも時々どう反応して良いか分からないとフォローするとダルタニアンは少し無理した顔で曖昧に微笑んだ。レインはダルタニアンが自分同様心労を溜めやすい人間なのだと思った。だが口には出さず心の中でエールを送りながら微笑み返しトレーを持ちアイリスの後を追った。

 

ーーーーーー

 

ミーティングルームに来たのはレインたちが最後だったのか入室した時何人かの刺す様な視線を浴びながら2人は席に着いた。

 

「随分とお偉い立場なのね、2人とも。これが緊急招集だったらどうするつもりだったの。」

 

「そんなに詰めてやるなよ、チェリッシュ。まだクラウディア大尉も来てねえし。時間には間に合ってはいるんだからよ。」

 

「シトラスあんた甘すぎ。間に合ったかどうかより日頃の姿勢を含めて言ってるのよ。」

 

微かに灰色ががった瞳を三角にしている女ーーチェリッシュ・コンパティールが苦言を呈する。少しウェーブがかかったパステルピンクの髪がフワリと揺れた。その苦言を2人が返すより早くモデルのような風貌を持つ男ーーシトラス・アルグレイが宥める。才気活発と品行方正が行き過ぎている堅物と軽佻浮薄(けいちょうふはく)が行きすぎて人間関係や色恋沙汰のトラブルの種を作るアウトローのコンビは両極端であるせいか不思議と噛み合っている。

 

「それに日頃の姿勢ってお前、座学でも実技でも2人に勝ってねーじゃん。」

 

「!!……あんた人が気にしてることをベラベラと…!!」

 

チェリッシュはそう言うや否や右ストレートをシトラスの眉間めがけて叩き込む。グオオオと怪獣の断末魔の様な声をあげてシトラスは椅子ごと真後ろにひっくり返り声に負けない程の大音量がミーティングルームに響く。それと同時に部屋の扉が開かれる。

 

「ここは保育園ではないはずだが…じゃれあいたいなら他所でやってもらおうか?」

 

入ってきたクラウディア・フラッツは蛇のような舐め回す目で新兵達を睨みつける。新兵達は居心地悪そうに俯き場に静寂が戻る。戦禍のミーティングルームというよりは学校のホームルームに近い雰囲気だ。雰囲気が締まったことを感じ取ったのかクラウディアが改めて口を開く。

 

「今日は極北戦場の第一線で活動されている、アレキサンドラ中尉にこの戦争の大義を講義してもらう機会だ。さっきのようなバカ騒ぎをしたら即刻辞表書いてもらうからそのつもりでな。」

 

「いやいや、血気盛んなのは若人の特権だと思うけどな〜。そういう風に批評しちゃうとロートルって言われるよ大尉様?」

 

アレキサンドラ・ライオネルがケタケタ笑いながら皮肉を飛ばす。クラウディアは面白くなさそうにジロリと睨むがアレキサンドラは意もかえさない様子でレイン達に向き直る。その顔からはいつの間にか笑みが消えている。

 

「まぁ、取り敢えず始めよっかな。真面目な話するからちゃんと聞いててよ、新人君たち?」

 

ーーーーーー

 

「まったく…よくそんなペラペラ舌が回るもんね。水車でもそんなに回らないわよ。」

 

私、ベリル・フリージアは身振り手振りを交え弁舌を振うアレキサンドラをミーティングルームの片隅で見つつ小声で毒吐いた。きっとアイツのことだ、そんな視線すら快感にして口上を述べているに違いない。アイツは話すのが大好きで口も達者だ。女をその口で何人も誑かし、私が同期として鉄拳制裁を喰らわせたことも何度かある。その達者な口をナンパにだけ使っていればどれだけ良かったんだろう。

 

「ジオンによる戦争犯罪は、あまりにも数多い。それの対価はもう彼ら自身の命を持ってしても相殺し切れるものではない!痛みには痛みを持って対処するほか無いのです!」

 

「正義はこの様な戦争の最中でも存在するものです!我々は今正義の中にあります。我々連邦軍は、ジオンのいう悪き国を滅ぼして正義はここにあるのだと証明する時に今来ているのです!」

 

罪作りな奴。そんな事カケラも思ってやしないくせに一丁前な大義を並べて語ってる。正義とか大義とかそういうの昔は1番嫌いだったはずでしょ。それでもアンタの周りには人が集まってた。どこかほっとけない魅力があったのかもしれない。ルウム戦没でアイツを喪ってから私達は変わってしまった。アンタはその口を人を扇動する為に使うようになって、人を切り捨て踏みつけ戦果を挙げて上に登って行った。そして、私はそんなアンタに嫌気がさして他人行儀になった。僅か半年足らずで人の関係がこうも変わるなんて…ホントびっくりよね。

 

「我々ロシア極北戦線部隊は、近日中に全勢力を賭けた決戦を仕掛ける!必ずやロシアに蔓延るジオン兵を打倒し、安寧と平和をもたらすつもりだ!ここに集まった新兵諸君も全力で訓練や業務に邁進して貰いたい!それが我が軍に必ずや勝利をもたらすことに繋がると強く信じる!以上!」

 

アレキサンドラが話し終えるとミーティングルームは一瞬の沈黙の後危うい熱気と喝采に包まれた。ベリルには見慣れた光景だが何度見ても気分の良いものではない。特に純粋無垢な若者の瞳が同期の扇動で汚されていくのは見ていて憤慨を抑えるのに苦労する。

 

ひとときも早くこの場から、アレキサンドラを引き離さなければ…扇動の犠牲者をこれ以上増やしてはいけない。ベリルは早歩きでアレキサンドラに歩み寄る。すると1人の新兵と話し込んでいる様だった。パステルピンクの髪が印象的な新兵の目には心酔の情がありありと見て取れた。

 

「確か…チェリッシュ・コンパティール君だったかな?君の様な危機意識を持った人間にこそ、戦況を変える力があると私は確信しています。期待していますよ…なーんてカッコつけかな?」

 

「いえ…本当にありがとうございます。誰もそんな風に私に言ってくれなかった。真面目だ、堅物だってそればっかりで…。私救われた気がします。もし戦場に出たら私は自分の正義のために邁進します!絶対ブレずに戦い抜きます!」

 

「期待してるよ…頑張ってね。」

 

アレキサンドラの言葉に新兵は髪の色と同じく頬をピンクに染めて元気に返事をすると周り右して少し辿々しく部屋を出ていく。

……籠絡した。またこの男は業を重ねた。人を操り煽り、それをせせら笑う…クズめ!

私は無意識に掌を丸め力を込めて握りしめ同期を心から侮蔑した。そんな事しか出来ない自分にも軽蔑の念を覚えた。無力さと同期の犯し続ける罪への罪悪感で押し潰されそうだった。ただでさえ広いミーティングルームが余計に広く思えた。

 

ーーーーーー

 

ああいう子は部下に持ちたくないな。

 

桃色の髪をした女新兵を見送りながら僕は心の中で毒づいた。チェリッシュ・コンパティール、シドニーに着く間に流し見した新兵の資料のデータを思い起こしてみたけど確か成績は中の上。とびきり優秀であるならまだしもただ生真面目ってだけでは戦場じゃ役に立たない。典型的な頭でっかちちゃんだ。

 

そういう生真面目な子に限って自分の正義を認めて欲しくてもがいて足掻いてドツボに嵌っていくんだ。だからそっと背中を押してやって放っておくのが一番だ。勝手に突き進ませておけば良い、その先は自分で決めてくれ、僕の領分じゃない。僕は僕の守りたいものを護るので手一杯さ。せいぜい期待しているよチェリッシュ君。

 

「……アレク、アンタ絶対碌な死に方しないわよ。とんだクズね。」

 

僕の『愛しい愛しい』同期のベリルが物騒な発言をぶつけてくれる。昔はあんなにフランクに話しかけてくれたのに、本当嘆かわしい話だよ。大体人のことをよく喋るとかいう癖に君だって十分お喋りだと思うんだ。現に今も僕に絶え間なく口撃を加えてくれているし。別に僕は君のそういうところ嫌いじゃないけどさ。

 

そろそろ良い加減一言くらい返さないと機嫌が悪くなるかなと思い口を開こうとした時、ベリルは急に驚いた様な声を出し言葉を詰まらせた。その視線はある一点に集中している。僕は気になってその視線になぞる様に目を向ける。

僕もまた一瞬言葉を失った。そこにいるはずの無い男の姿がそこにあった。ルウム戦没で戦死したはずの同期ロシフォール・クレベルと瓜二つの男が机に座っていた。

 

「ロシフォール…そんな訳ないわよね…」

 

「当たり前でしょ…アイツは死んじゃったんだから。」

 

ベリルが呟く様な声で言った言葉は微かに震えて目には涙が溜まっている。彼女は彼が好きだったんだから当然だよね。僕にはそれが手に取るように分かったし、それを静かに見守っていた、僕にもそれくらいのデリカシーはあるさ。僕達は三人一組でいつも一緒に居たからその関係を壊したくなったって言うのもある…関係が壊れちゃうのは怖いよなんだってさ。ずっと一緒にいた僕らが離れたのはロシフォールが死んだルウム戦没の時だけだったっけ。ロシフォールが死んだと知った時のベリルの悲しみ方は尋常じゃなかった。狂乱って言うのはああいうことを言うんだって心で理解した。僕ももちろん悲しかったさ。けどそれ以上に思うところがあったから。僕は上に立つ、どんなことをしてもどんな事を言われてでも必ず。そして僕は…。

 

「そう言えばロシフォール、弟がいるなんて話昔にしてくれた気がするわ。」

 

「……話してきたら良いんじゃない?僕は先に戻って補充要員の選定してるから。終わったら戻って来てね、ベリル。」

 

「どういう風の吹き回し?貸しでも作ろうって魂胆?」

 

「僕はいつだって君の…同期の味方なんだけどなぁ。」

 

その言葉を無視する様にベリルは彼の元へ小走りで向かって行ってしまった。その姿はロシフォールに勇んで話しかけようとしていた士官学校時代の彼女を想起させた。その時も僕は同じような言葉をかけてその後ろ姿を黙って見ていることしか出来なかった気がする。あの時と何も変わっていない。変わってしまったのはロシフォール、君がいなくなってしまったことだよ。君がいなくなって僕達は変わってしまった。ベリルはほとんど笑わなくなったし毒突くことが増えたし、僕も昔ほど人に優しくなくなった気がするよ。また屈託の無い笑顔を見せて欲しかった。ナンパで結託して一緒にベリルから折檻されたかったし、一緒に戦場で戦いたかった。

ロシフォール、僕は…君が恋しいよ。

 

僕は静かにミーティングルームを出た。出来ればこの感傷が少しでも遅く消えてくれることを願いながら。

 

ーーーーーー

 

その夜、寝静まった居室の中で一部屋だけ薄明かりがついていた部屋があった。白い机に座るその部屋の主シスール・チェスカはその机と同じくらい白い指で通信端末を操作している。周りを見渡し周囲に人がいないことを確認するとイヤホンマイクを着けて通信端末のボタンを押した。

 

5回ほどコール音が鳴ると何か情報が手に入ったのかと野太い声が返ってくる。

 

「こちらの基地に極北戦線の司令官にあたるアレキサンドラ・ライオネルが来ました。シドニー基地から人員を補填した後、近日中に総攻撃を仕掛ける可能性が高いと情報を入手しました。」

 

その情報は確かなのかと問う通信士にシスールは自分の同期2名が選抜されその両名から言質も取っています。おそらく私含めた連邦軍新兵に向けての演説はこれに付随する形で行われたデモンストレーションの可能性があります。かなりアレキサンドラの発言から推察する部分はありますが信用に値する情報ではないかと思いますと声を潜めながら答えた。

 

通信士はしばらくの沈黙の後に了解した、報酬は連邦軍の作戦行動中行方不明兵リストにある名前を使って渡す為、作戦行動中行方不明兵を一名教えるようにと返答して来た。シスールは今は夜である為、明日情報を抜き取りまた連絡すると伝えると通信士はよろしく頼むぞと言い最後にこう言い加えた。

 

「これがお前の読み通りならば極北戦線は大きく動く…報酬にも期待してくれて良い。ジークジオン!(我が軍に勝利を)」

 

「ええ、私も報酬には目がありませんの…期待していますわ。ジークジオン(我が軍に勝利を)」

 

シスールは氷の様な冷ややかな微笑を浮かべながら通話を切った。もし連邦軍が優勢になったら今度はジオンから仕入れた情報を連邦軍に流してやろう…情報は金になる。蝙蝠と呼ばれようが構わない。この非常時に信じられるものは自分と盗んだ情報とそれで得られる報酬だけだ。生き抜いてやる狡猾に。

シスールは目を細めながら遠くを見る、その姿は肌の白さも相まって白蛇のようだった。

 

このシスールの密告により連邦軍総攻撃による短期決戦はジオン軍の知るところとなり極北戦線に大きなうねりを生むことになるのだった。




ここから少しずつ少しずつお話が動いていきます。前章よりは短い話になると思いますが気長にお待ちください。
個人的には前の章で出番が少なかった人や名前だけ出て来た人を書くことが出来てとても満足してます。(超自己満)

余談ですが、オリーブドラブ先生リスペクトでウルトラマン系の話「青の巨人」を書きました。宜しかったらご一読いただければ幸いです。アレをウルトラマンの二次創作と言っていいかは微妙ですけど…。
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