機動戦士ガンダム ghost chaser   作:凛九郎

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新兵達の決死行

レインはビームサーベルを持つとザクに突撃を仕掛けた。数に劣る状況で自分に出来ることは敵の的になることで仲間を守ること、いわゆる弾除けになることだった。 

 

「連邦のシロウトが…落ちろっ!」

 

「そこを通してもらう!なんとしてもね!」

 

レインの乗る陸戦型ジムはザクのヒートホークを受け止めると、右脚でザクの左脚を引っ掛け押し倒した。柔道で言うところの内股の格好になりその隙にザクのモノアイ、右腕を切り捨てた。残りは2機、レインとはまだ少し距離があるせいかヒートホークではなくマシンガンを撃ち込んできた。レインはバーニアを蒸して左に機体を走らせこれを回避し、細かなステップを刻みながらザクとの距離を詰めて行く。2機のうちの1機がマシンガンでの迎撃を諦め接近戦を仕掛けようとヒートホークを持ちレインに切りかかって来る。レインはそれを躱すとザクの両手をビームサーベルで切断した。これで戦闘ができるザクは1機のみになった。

 

ーーーーーー

 

「ちっ!あいつら連邦なんかに良いようにやられやがって…」

 

ザクのパイロット、マラドは戦闘不能になった仲間に悪態を吐くと共に自分はその二の舞になるまいと陸戦型ジムにマシンガンを撃ちながら鋭い視線を向けた。相手はマシンガンでの撃ち合いではなく斬り合いを誘っている。おそらく射撃の腕に自信がない故の行動だろう。だから自分はその誘いには乗らない、間合いに近づけずに奴を落とす。マラドは強く決心していた。その時、『何か』が自分に向けて飛んで来た。まさか飛び道具を使って来ると思わなかったクラドは上への飛び上がりその『何か』を確認する。

 

(あれは…ビームサーベルだと?まさかビームサーベルを投げ込むバカがいるとはな!)

 

マラドは見知らぬ連邦のパイロットを嘲り笑った。接近戦の道具を飛び道具として使うなど聞いたことがない、やはり連邦のパイロットはモビルスーツ戦において素人なのだと思った次の瞬間、ガガガガガと音がしたと思ったら強い衝撃が自身のザクを襲い両脚が黒煙を上げた後爆散した。

 

(何!?両脚を撃たれたのか!まさか…これが奴の狙いか!)

 

脚がなければ射撃は安定性を欠き命中率は格段に下がってしまう。射撃戦を行う上で脚を失うことは致命的な失策なのである。

 

「侮っていたぞ連邦のパイロット。だが、こっちにも意地がある!道連れになってもらうぞ!」

 

マラドはヒートホークを持つと陸戦型ジムに突進して行く。大破寸前の自身の機体では勝ち目はない、しかし行かなければならないのだ。それがジオン軍人としての精一杯の覚悟なのだと信じて。

 

(奴はビームサーベルを投げた。つまりもう接近戦の道具を持っていない!懐に入り込めば奴を斬れる!)

 

陸戦型ジムのマシンガンを掻い潜り、マラドは距離を詰める。そして陸戦型ジムをついに間近で捉えた。この間合いならば斬れる。

 

「これで最後だぁ!!」

 

左手に持ったヒートホークを振り上げ斬りかかろうとしたその時、陸戦型ジムはマシンガンを横に放り投げるとあるものを取り出した。

それはビームサーベルだった。ビームサーベルは2本あったのである。

 

(まさか…そんなバカな…ビームサーベルが2本あったなんて…)

 

マラド渾身の特攻も虚しく、ザクは左腕とモノアイを一太刀の下に切り捨てられた。

連邦の背後を取っていたザク3機は1機の陸戦型ジムによって大破。撤退のための道を切り開かれてしまうこととなった。

 

ーーーーーー

 

「こちらレイン、退路は確保したよ。アイリス、そっちはどう?」

 

「第三班で連絡がついたのは2機だけ…後の人は多分…」

 

「…了解」

 

レインは思わず自身の両膝に拳を打ち付けた。味方部隊に戦死者を出してしまった、不利な戦況ではあるものの死傷者がいない越したことはない。それがたとえ敵であったとしても。人の死はその人だけのものではない、その人を愛する人、その人を支え、また支えられている人たちがその人の背後にいる。銃口を向ける時、それはその人を思う人たちにも向けているのだとレインは思っている。故に無闇に武器を振り回すことを彼は好んでいない。それがまた軍人としての彼を孤独に誘う呼び水の1つとなっている事に彼は気が付いていない。

 

「レインはシトラス達と合流して退路を死守して、あたしはその間に第三班のメンバーを回収して来るから。」

 

「そんな無茶な!1人での行動なんて危険過ぎる。」

 

「えー、それ1人でザクと大立ち回りしたレイン君が言っちゃうの?」

 

「そ、それは…」

 

「大丈夫。あたし実戦経験、割とあるし。それじゃ後よろしくね♪」

 

言うや否やアイリスは通信を切り、隊列を離れて行った。レインはアイリスの無事を祈りながら再度操縦桿を握り直した。2人で生きてシドニーへ帰る為に。

 

ーーーーーー

 

「こちら第4班、アイリス・ベルガモットです。第3班、再度応答願います。」

 

「こちら第3班、シボレー・リンス。部隊は私が乗る陸戦型ジムとガンタンク1機のみ、今はザク2機と黒塗りにピンクの目をしたモビルスーツと交戦中!付近にいるなら応援をお願いします!」

 

「了解!」

 

黒塗りにピンクの目、アイリスはそのモビルスーツに覚えがあった。確かジオンの新型で名前はドム。熱核ホバーでの高速移動が可能である機体でザクを超える高機能モビルスーツとして最近導入されたものであると。

アイリスにはドムとの戦闘経験はない。しかし仲間を助ける為にはそんなことを言っている場合ではなかった。アイリスはバーニアを蒸して急いで通信のあった場所に向かった。

 

「これは完全に押されてる、いつ落とされても可笑しくない状況ね。」

 

現場に向かったアイリスが見たのはザクの猛攻に逃げ惑う陸戦型ジムと陸戦型ジムから離れまいとついて行くガンタンクの姿だった。その様子はまるで見知らぬ街を歩く親子連れのようにアイリスには映った。

その様子を黙って見守っている機体が1つ。黒塗りの外装とピンクのモノアイにスカートを履いているかのような特徴的な下肢、間違いないドムだ。おそらく隊長格のパイロットが搭乗しているのだろうとアイリスは勝手に想像した。

 

その時、ドムに動きがあった。どうやらアイリスの乗る陸戦型ジムに気がついたようでバズーカをぶっ放して応戦してきた。このバズーカただのバズーカではなく、ジャイアントバズと言われるザクの持つマシンガンとは比にならない破壊力を有している兵器なのだ。

アイリスはそれを間一髪で躱した。友軍機の動きのみを追っていたら間違いなく直撃していただろう。アイリスはここにいたるまでに自身にモビルスーツでの戦闘経験があって良かったと安堵すると共にすぐさま背部に付属している、ショートバレルのロケットランチャーを取り出しドム目掛けて撃ち込んだ。

 

(こんな攻撃で落とせるなんて思ってない、大切なのは第三班メンバーの回収!)

 

アイリスは正面切ってドムとやり合うつもりはサラサラなかった。あくまで友軍機と合流しこの修羅場からの撤退が目的でロケットランチャーはその為のただの牽制だった。

しかし相手はジオンの新型モビルスーツ、そんな程度の牽制でまごつく相手ではなかった。ホバーによる高速移動で見る見るうちにアイリス機との距離を詰めて行く。相手は完全に自分をターゲットとして命を狩りにきているとアイリスは悟るとアイリスはロケットランチャーを再度打ち込み続けるが、軽く避けられてしまう。

そして、ドムはアイリス機の眼前に迫りその手にはヒートサーベルが握られていた。

 

(このままだとやられちゃう!!)

 

アイリスが自身の死を覚悟した時、ドムの背部から小さな黒煙が上がったかと思うと動きの速度が目に見えて落ちた。これはチャンスとばかりにアイリスはロケットランチャーを投げ捨てビームサーベルでドムを横一文字に引き裂いた。ドムは派手な音を立てて爆散し、搭載していた武器が周囲に散らばった。

 

「あと少しであたし死んじゃうところだったな…危なかった。」

 

アイリスが安堵のため息を1つ吐いていると友軍機から通信が入る。

 

「こちら第3班ダルタニアン・クレベル。ドムと戦闘していたパイロット、聞こえますか?応答願います。」

 

「はい、こちらアイリス・ベルガモット。何とか生きてます。」

 

「それは良かった、ボクの援護射撃も無駄じゃなかったってことですかね」

 

どうやらドムの機動力が低下したのはガンタンクに搭乗している彼からの援護射撃によるものだったらしい。アイリスはしっかりとお礼を述べるとダルタニアン達の状況を問うた。

どうやらザクを1機落とすことは出来たもののもう1機と未だ交戦中らしかった。

その通信の直後ザクがシボレーの乗る陸戦型ジムに斬りかかる姿をアイリスは捉えた。シボレー機は何とかビームサーベルで受け止めてはいるものの力負けしているのか劣勢に見えた。

 

(大変!何とかしなきゃ!)

 

すぐに援護しようと思案するが、自身が向かうまでには距離があり間に合わない可能性が高かった。飛び道具を使うしかない。すると自身の傍にドムが使っていたジャイアントバズが落ちていた。

 

(これだ!)

 

アイリスはすぐにジャイアントバズを構え照準を定める。そして祈る思いで弾頭を発射した。

勢いよく打ち出された弾頭はザクの右腹部に命中し派手な爆音と共に大破した。

 

「…こちら第3班シボレー、援護感謝ありがとうございます。」

 

「いいえ、困った時は助け合いですから♪」

 

宇宙世紀0079 11月16日 午前7時

降下部隊第3班及び第4班は合流及び退路の確保に成功した。

 

 

無事に部隊を合流させることに成功したレイン達。後は確保した退路からこの修羅場を脱出するのみなのだが、それをジオンが容易に許すはずもなく、複数のモビルスーツがレイン達を目掛け接近して来ていた。シトラスはレインに今後の作戦について通信を飛ばす。

 

「さーて、レインどうする?このままだとジリ貧だぞ。最悪脱出する前にやられちまう。」

 

「ガンタンクの砲撃でゴールドコースト基地に攻撃をかけよう。そうすれば敵の注意と人員をそっちに割けるかもしれない。チェリッシュ達頼めるかい?」

 

「分かったわ、ド派手にぶちかましてやるわ!」

 

「こちらダルタニアン・クレベル、了解しました。」

 

レインからの要請を受けたガンタンク2機は砲撃の体制に入る。そしてしばらくしてガンタンクからキャノン砲が発射され、ゴールドコースト基地からいくつか黒煙が上がり始めた。

 

「やりぃ!そらそらもっとお見舞いしてやるわ!」

 

チェリッシュは砲撃の命中に気分が高揚したのか、2度、3度と基地に砲撃を加える。その度基地は爆音と黒煙が多くなっていく。想定外の出来事にジオンの指示系統は乱れ始めレイン達への攻撃が少し和らぎ始めた。

 

(よし今だ!)

 

レインは今が撤退のタイミングと判断し、各々に戦場からの撤退を要請した。アイリスを始め多くのパイロットはそれに従ったが、チェリッシュだけはレインに反抗した。

 

「どうして!?今こそ敵基地を破壊するチャンスでしょ?それを逃すバカがどこにいるって言うのよ?」

 

「オレ達の目的はここからの脱出、そしてシドニーに生きて帰ることだ。基地を破壊することじゃない。」

 

「だけど…」

 

「それに今は敵が隙を見せているけど、そんなのは一時的なものに過ぎないさ。すぐに反転攻勢をかけて来る。そうすれば、数で劣るオレ達は絶対的に不利なんだ。」

 

「……分かったわ、軍人としては甘いというか戦果を惜しむ変わり種だとは思うけど従っておいた方が良さそうね。」

 

レインの説得に嫌味を交えてしぶじぶ従うチェリッシュにレインはまた自身と周りの連邦軍人との差異を突きつけられた気がした。レインは考える。戦果の為に戦うことに意味はあるのだろうか。いくら戦果をあげても名誉が与えられるだけで人を傷つけ、殺して得た名誉を誇ることは自分には出来ないし、そんな名誉で人は守れない。自分の考えはきっと甘くて変わっているのだろう、それでも自分の考えに従って生きる他にこの戦争と戦う術を知らなかった。レインの信念は揺らぐ、しかし折れることはない。

 

(レインも少し頼もしくなったかな?あたしは応援してるからね!)

 

そしてそんな彼に優しく暖かい眼差しを送る人がいることを彼は知らない。

 

ーーーーーー

 

「こちらマラド・アルタナ応答を願う!こちらマラド・アルタナ至急応答を願う!」

 

中破したザクのコクピットの中でマラドは声を上げる。陸戦型ジムとの戦闘で退路を確保され、自分の乗っていた機体は中破し自身も気絶した。気絶自体は数分前の爆音で覚醒に至ったが、機体が動かないことにはどうにもならない。司令部に連絡を試みようとするも基地を執拗に砲撃され、指示系統が混乱しているのか連絡もつかない。そうこうしているうちに自分達の横を連邦軍が通り抜けようとしている。マラドはコクピットの中で地団駄を踏みながら悪態を吐く事しかできなかった。

その時、自身の通信に応答があった。それはマラドが望んだ司令部からの通信ではなく、共に1機の陸戦型ジムと戦ったザクのパイロットからだった。

 

「マラド、無事なのか?」

 

「ああ、お前も無事なのか?」

 

「オレは無事だ、機体はバラバラにされちまったけどな。ヨーデルの奴も無事だぜ。さっき通信があったからよ。」

 

そのパイロットが言うにはもう1人のザクのパイロットも無事であるとのことだった。マラドは仲間の無事を安堵すると共に1つ疑問が湧いた。自分たち3人はビームサーベルで機体を切り裂かれたはずだ。それなのにどうして3人とも無事でいられたのだろうか。ヨーデルの機体は左腕と下肢しかないし、連絡をくれたミカルロの機体も両腕がない。自分の機体に至っては上半身と右腕しか残っていない。これだけの損傷で何故生きていられるのか。

…まさか、あいつは『わざとコクピットを狙わなかったのか?』敵が背後を突く形で現れ、しかも1対3の不利な戦況の中で敵兵の命まで思慮が及んでいたとでも言うのか。マラドは連邦軍のパイロットを素人だと侮っていた自分を恥じた。完敗だ。あいつは素人なんかではない、立派なモビルスーツパイロットだ。敵の命すら思慮するパイロットに自分は最初から勝てるはずがなかったのだと理解した。マラドの横を陸戦型ジムが通り過ぎて行く。マラドはコクピットの中から敬礼した。司令部に知れれば自分は軍法会議で処罰されるだろう。しかし幸いにして今、司令部は混乱している。薄暗いコクピットから敬礼したとしてどうして問題になることがあるだろうか。これも戦場の中の1つの『混乱』に過ぎないのだから。

朝日に照らされながら走り抜ける連邦軍をマラドは静かに見送った。1人の陸戦型ジムパイロットに敬意を表しながら。

 

時に宇宙世紀0079 11月16日 午前7時18分

第3班、第4班はジオン公国ゴールドコースト基地からの撤退を完了し、同刻に地球連邦軍シドニー基地への帰還作戦に移行した。

奇襲作戦崩壊からおおよそ1時間が経過していた。




こんな小説に星を付けてくださったオリーブドラブ先生に厚く御礼申し上げます。
お気に入り登録して下っている方もいらっしゃるようで、いやホントありがとうございます。m(_ _)m
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