「司令部からの連絡は以上だ。これより1時間後オレ達、亡霊部隊はゴーストコーストを南西方向に逃げている連邦軍残党に向けて攻撃を開始する。各自準備を怠らない様に、以上散会!」
サニー・コールディは、格納庫に集まった隊員達に任務の内容を説明すると散会の指示を出した。出撃前にはやることや心を整える時間も必要だろう、これから出るのは戦場だ。いくら敗残兵と言えども、何が起こるかは分からない。悔いを残して戦場に臨んで欲しくないというサニーなりの心遣いだった。
かく言うサニーには心残りは既にない。あるのは武功をあげて出世する功名心と萎えることのない闘志があるだけだ。サニーは自機のコクピットの中で時間が来るのを待とうと機体に乗り込もうと歩み始めた。その時、隊員の1人がサニーに声をかけた。
「た、隊長!そ、その私どうしたら…訓練みたいに上手くいかないかも…しれないし…」
しっかり聞いていないと聞き取れないほどのか細い声の主は亡霊部隊隊員のエリカ・ローズマリー2等兵。歳は15歳、肩までかかるほど長く艶のある黒髪は彼女のあどけなさを象徴している。また体の線も細く、軍人というよりは軍人のコスプレをしているのではないかと思うほどだ。それほど軍服が似合っていない。では何故彼女がジオン軍人として任にあたっているのか、その理由は彼女の出自にある。
彼女は不法移民の子どもだ。その為、ジオン公国の国民として数えられてはいない。幼い頃からサイド3に住んでいる彼女にとってはジオン公国は母国そのものであるはずだ。しかし法と周囲が彼女を、彼女の存在を許さない。周囲からはいじめられ、言われのない排斥を受け、戦争になれば都合良く強制召集され閑職に追いやられた。そして、挙げ句の果てには空中分解するかもしれないモビルスーツのパイロットとして充てがわれる始末だ。サニーには彼女が周り、ひいてはジオン公国から弄ばれているようにしか思えなかった。その為、サニーは殊更エリカに対して隊長として親身に向き合っていた。せめて自分だけでも彼女の拠り所となれる様に。
「大丈夫だ、何かあったらオレが必ず守ってやる。だから心配するな。」
「ホント隊長はエリカには特別っーか、年頃の娘いるパパかよってくらい過保護っすよね。」
エリカへの激励にミノス・カンパニュラ伍長が茶々を入れる。軍の規律には変に厳しいくせに上官への口の利き方はあまりなっていないとサニーは評価している。しかし、彼は基本的には業務に忠実で従順なジオン軍人であることもサニーは知っている。ジオン公国のため、彼は日夜業務に励んでいる。しかし、ジオン公国に彼の戸籍は存在しない。ミノス・カンパニュラは無戸籍なのである。異性の交友関係の派手だったミノスの母は、子持ちだと言い寄ってくる男が居なくなると思い出生時に戸籍を出さず、その存在を秘匿した。その為、彼は父親の顔すら知らない。そして戸籍の無いせいで、ろくな教育も支援や医療も受けては受けては来なかった。
それを考慮すれば上官への口の利き方の1つ2つ粗末なことだとサニーは思う。
「うるさいぞ、ミノス。オレはまだそんな歳を取ってるわけじゃない。」
「分かってますよ、あくまで例えですからね例え。」
ミノスは快活に笑ってサニーの苦言を丸め込む。彼の身の上を鑑みると、この様に笑うことができる気丈さが彼の強さの原点なのだろう。
ーーーーーー
ミーティングを終えて40分、出撃まではまだ20分ほど時間がある。しかし、格納庫にはサニー含めた隊員4名が既に集まっていた。いや、正確に言えば誰も格納庫から出て行っていないのだ。各々談笑したり、コクピットで時間を潰したりして出撃時間が来るのを待っていた。出撃前とは思えないほど亡霊部隊の雰囲気は穏やかだった。その雰囲気を一気に破壊したのは、他部隊のジオン軍人の一言だった。
「おいおい、亡霊部隊が一丁前に集まって何してんだ?ろくな仕事もしねーし、出来ねー穀潰し部隊が良いご身分なこって。」
「んだと、この野郎!バカにしやがって!」
ミノスが顔を紅潮し、他部隊のジオン軍人の方へ歩みを進めて行く。他部隊のジオン軍人は挑発するかの様に言葉を続けていく。
「亡霊部隊なんてまともな人間が居ねーじゃねーか。不法移民に無戸籍野郎に犯罪者に極め付けにゃ、サニーのアホ隊長なんて…」
「……もういい。やめろ。」
色黒のドレッドヘヤーの大男が静かにだが、はっきりと言葉で静止をかける。その目は一瞬もズレることなく悪態を吐く男の目を睨みつけている。その目を見た男は足がすくんだ。何せ、彼の目に宿る殺意は他の軍人達よりも余程凄みがあったからだ。男の名はジュリアス・ヴァルトロ。
彼は生まれた時から貧困と隣り合わせの生活をしていた。家の畑を耕し、大した金額にもならない内職に家族共々精を出し、学校にも行けず馬車馬のように働き続けた。しかし、貧困から抜け出すことが出来ず、彼は次第に空き巣や強盗で生活費を稼ぐようになり、犯罪者に落ちぶれた。ある時、空き巣に入った家でジュリアスはその家の家主と鉢合わせもみ合いになり、その最中に家主の命を奪ってしまったのだ。無論、彼に家主を殺すつもりはなかった。ただ、行ったことは強盗殺人に他ならず彼は獄中生活を7年経験した。出所をしてもろくな仕事はなく、入職しても前科者と分かるとすぐに解雇されるその繰り返しだった。ジュリアスは社会での行き場を無くし、流れ着くようにジオン軍に入隊した。しかし、軍隊でも閑職に身を置いているのが現状だ。ジュリアスの起こしたことは犯罪だ、しかし改心しやり直そうとする彼を冷遇する社会は果たして正しいと言えるのだろうか、サニーは無骨でありながら誠実なジュリアスの性格を知っている。故に彼が更生し報われることを心から願っていた。
「…なんならお前たちも天国に送ってやろうか?」
ジュリアスはドスの効いた声で他部隊のジオン軍人を威嚇する。サニーには、この言葉が場を収めるためのハッタリであることは分かっていた。だから何も言わず彼を見守っている、むしろミノスの方が思わず手を出してしまわないかと心配しているほどだった。
ジュリアスのハッタリが効いたのか、ジオン軍人はすごすごと引き下がっていった。その背中に向かってジュリアスはポツリと呟いた。
「…こんなハッタリを本気にされるのか。オレは、オレはいつになったら犯罪者じゃなくなるんだ?」
哀愁と絶望が混じった背中にサニーは手でポンと叩き激励する。
「これからだ、お前もエリカもミノスもそしてオレも。これから成り上がって行くんだ、皆で一緒に。」
そうだ、ここから始まるのだ。戦果を上げ軍内での影響力を強め、権力を得る。そして確固たる地位を、居場所をこの部隊と共に作り上げる。その為には、何としても連邦軍残党を狩り尽くさなければならない。そんなサニーの眼差しを部下たちも真剣な視線を送ることで答えている。部隊の士気は最高潮、団結に1つの綻びもない。あとは、獲物をこの手で蹂躙するだけだ。サニーは自身の腕時計を見る。時刻は9時を指し示そうとしている。出撃時間は間近だった。
「これより、出撃準備に入る!各自機体の確認を怠るなよ!」
そして各員が自機であるヅダFへと乗り込む。
サニーは部下たちが乗り込むのを確認し最後にコクピットに入った。機体の状態は上々だ。
装備にも不備は無い。右手を胸元に置く。胸元には大砲をかたどった小さなペンダントがつけられている。鬼籍に入った父親と自分を唯一結びつけてくれる形見の品、彼はこのペンダントを強くて握ると今度はその手で操縦桿を握った。
「行ってくるよ、父さん」
と呟いて
その30秒後4機のヅダFがゴールドコーストの空に舞った。
時に宇宙世紀0079 11月16日 午前9時のことである。
いつも読んでいただきありがとうございます。
駄文ではございますが、今後ともよろしくお願い致します。