黄金の暴君×永遠の二番手=星の皇帝(僕)   作:パンダコパンダ

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菊花賞です。ご都合主義です


競走馬ー9:最後の戦い 菊花賞 京都3000M

 初めに言っておく。今日この日の記憶は、とても封印したい。

 

 簡単に言うと、走った。それはもう全力で走った。何も考えず、無我夢中で走り抜いた。

 先生の気合いもすごかったし、大魔神と僕の名付け親である大魔神の奥さんも来てくれて、おっちゃんなんか顔がいつもより怖かった。

 

 会場の熱気もすごくて、耳がやられたんじゃないかってぐらいすごい声だった。

 

 オッズは1.0倍。賭けても何も返ってこないのは、誰もが僕が勝つと思っていたから。

 その想いに応えたくて、走った。真面目に、なりふり構わず、()()()

 

 だって僕は、愛されてるから。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『さあ、13万を超える人が集まりました。ここ。菊花賞の舞台京都競馬場です。ここにいる人は、どんな夢を見るのか。

 6戦無敗。ズヴィズダツァーリの頭上に、三つ目の冠がかけられるのを夢みるか。それとも、新たなヒーローが現れるのか。この場にいる競馬関係者のほとんどは、たった一頭の世代と思わせたくないでしょう。

 

 皐月賞二着。神戸新聞杯でも二着に入ったサートゥルナーリアは、秋の天皇賞へ向けて舵を切りました。

 ダービー二着のロジャーバローズは、屈腱炎からの回復を目指し、動いています。

 これまで善戦してきたダノンキングリーは、先日行われました毎日王冠を制覇。つぎはマイルでのチャンピオンを目指す道のり。

 

 壁はいない。それが現れた、祖父と同じオッズ1倍という事実』

 

 パドックでの視線。相変わらず慣れないそれで出された僕の体重は499キロ。前走の神戸新聞杯からはマイナス3キロ。

 個人的には500より上の方がいいと思うけど、実際はわからん。おっちゃんが色々気にして、考えた上で500以下がベストって言うから、そうなんだろう。

 

「チビ。今日が最後だ」

 

 ターフに入る前。ギリギリ会えた大魔神は、僕の顎を撫でてそんなことを言う。

 

「尻尾がないあの子からヴィルシーナが生まれて。そんなあの子から、お前が生まれた。皐月も勝って、ダービーも勝って。お前は孝行馬だ。勝とうが負けようがなんでもいい。怪我せず、しっかり走って返ってこい」

 

 そうか。今日が最後なのか。

 

 突然の言葉に、僕は固まる。

 

 馬になって、なんだこれは!? なんて思った。

 四足で走る感覚は掴めるまで変だったし、視界の高さも違う。人の時よりも頭は上下に動くし、口呼吸ができないのも新鮮だった。

 でも、走るのは嫌いじゃなかった。

 

 母さんの横に引っ付いて走り、おっちゃんに指示を受けて坂路を登る。雪が積もった栗東トレセンは寒くて、でも、僕を見に来てくれた見学者のためにも頑張って。

 

「今日は、静かなんだな」

「ブルルッ……」

 

 そんなことない。ただ、不思議なだけ。

 

「行くよツァーリ。今日も勝とう。最内通り続けて、最後のカーブから大外一気」

 

 僕の手綱を持つ先生。いつものお姉ちゃんが、僕のことを引っ張って行く。

 

 ヒシヒシと背中から伝わる、先生の気迫。

 どうすれば勝てるのか。勝たせてやれるのかと考えているのが分かる。普段は冷静な彼の、少し特別な気持ち。

 

『さあ! 本日の競馬は対抗馬不在と言われるほどの一強ムード。誰もがこの馬を見に来たでしょう! 1枠2番! 無敗の二冠馬ズヴィズダツァーリが本馬場入場です!!

 非常にゆっくりとした足並みで、ゲートの方へと向かっていきます。

 

 本日は良馬場ですし、大波乱と言えるものは起きないでしょう。神戸新聞杯で見せた、10馬身程の大差勝ち。今日はその繰り返しになってしまうのか』

 

 僕の横を通り過ぎて行く大勢の馬。それを僕は見送った。

 

 

菊花賞 出馬表

馬名脚質適正人気

ザダル◁◁◀︎◁

ズヴィズダツァーリ◁◀︎◁◀︎

カリボール◁◁◀︎◀︎10

ユニコーンライオン◁◀︎◁◁11

ワールドプレミア◁◁◀︎◁

ディバインホース◁◁◁◀︎17

ヒシゲッコウ◁◁◁◀︎

メロディーレーン◁◁◀︎◀︎13

ヴァンケドミンゴ◁◀︎◀︎◁18

10カウディーリョ◁◀︎◁◀︎14

11シフルマン◁◀︎◁◁15

12レッドジェニアル◁◁◀︎◁

13ヴェロックス◁◀︎◁◁

14サトノルークス◁◀︎◀︎◁

15ホウオウサーベル◀︎◁◁◁

16ニシノデイジー◁◁◀︎◁

17タガノディアマンテ◁◀︎◁◁12

18メイショウテンゲン◁◁◀︎◁15

 

『逃げ馬不在。先頭のペースメーカーが本日はいないですから、少し難しい展開になるでしょう。ダービーの時のように縦に伸びる展開は予想し難い状態です

 

 それでは枠入りです。すんなり入る1枠1番のザダル。奇数枠が順々に入りますが、特にトラブルなく入って行きます』

 

「ツァーリ。今日も楽しもう」

 

 うん。楽しむよ。全力で。最後なら。

 

『菊が彩る18頭の優駿。その先頭に立ち、頂に登るのはどの馬なのか。本命か。それとも対抗か。ズヴィズダツァーリか、ヴェロックスか。はたまた違う大穴か。

 

 第80回。菊花賞。ゲート開いてスタートです!』

 

 ゲートが開いた。

 それに合わせて、18の足音がターフに響く。

 

『さあ大方の予想通りスタート後に飛び出す馬はいません! 逃げ不在。先行集団が固まってハナを争っている状態。注目の2番ズヴィズダツァーリは後方集団。後ろから3番目ほど。いや後ろから4番手。

 出遅れたシフルマンが最後尾。カリボール、牝馬メロディーレーンが並走状態でその前に1馬身間を開けたところにズヴィズダツァーリがいます。

 

 ハナ争いは9番と10番。ヴァンケドミンゴとカウディーリョです。一つ目3コーナー曲がって行きます。3番手争いは4番13番18番。鞍上豊丈は何を思うワールドプレミアは馬群の真ん中ラチ横最内を通ります。12番15番14番で固まっている馬群後方。14サトノルークスは半馬身後ろの状態で二つ目の4コーナーを抜けて行く。メロディーレーンがズヴィズダツァーリの前に出て一回目のスタンド前。

 黄色い帽子。菊花と同じ色の帽子二頭が集団を引っ張っています。ザダル、ニシノデイジーは後方集団の先頭。紅一点メロディーレーンは1馬身離れてその後ろ。ズヴィズダツァーリが続いて1周目のゴール板を通過する。

 

 前半1000メートルのタイムは1分2秒4。平均より1秒半ほど遅い状態でスタンド前を通過します。三つ目1コーナーに先頭カウディーリョが入って行きます』

 

 ところで先生?僕の前ちょろちょろしているこのめんこいヤツ何?

 ちびっ子くて可愛いんやが!? ってよくないね。ちゃんと走ってるから鞭は入ってない! セーフ!

 

 でもごめんね、全力で君も潰さないと。

 

「ツァーリ。いい状態。内側通れてるよ」

 

 横に馬がいないからか、声をかけてくれた先生。レース直前に言ってくれた指示に合わせて、僕はラチに当たらないギリギリを通る。皐月賞の時みたいに桜は咲いてないからよそ見はしないよ?

 

「ブルルッ!!」

 

『二番人気、ズヴィズダツァーリの対抗馬ヴェロックスは5番手で向正面へと向かう1コーナーから2コーナー。徐々にスピードが上がっていますが……。おっと、歓声を受けたズヴィズダツァーリが上がってくる。メロディーレーンを抜いてきた』

 

「ッツ!? 待て」

 

『2コーナー出口ヴェロックスが少し上がったか? ただいま4番手。ズヴィズダツァーリがさらに外から抜いて行く。鞍上打田が抑えようとしているが掛かってしまったのか? 残りは1400メートルとなって向正面』

 

 いいや待たないよ、先生。だって、()()()()()()()()から。

 

『大丈夫なのかズヴィズダツァーリ!! 向正面半分だが一頭! また一頭抜いて行く! 気が付けばもう先頭のカウディーリョの1馬身後ろ! 後ろの方にいた青鹿毛が上がってきている!! ミスターシービーもゴールドシップもこれほどの仕掛けはしていないぞ!! 3コーナー前の坂を登り始める先頭カウディーリョ! だがズヴィズダツァーリが並ぶことなく抜き去って先頭に立つ! スピード差が全く違う!! 行けるのか!? 本当に行けるのかズヴィズダツァーリ! 残りはまだ800だぞ!』

 

 ハミが食い込んで痛い。すごくすごく痛い。先生が、すごく後ろに体重をかけてるから、すごくしんどいし、無理矢理走っている感がすごくある。

 でも、それを気にせずに、僕は良馬場で硬い芝生を、蹄で抉りながら走っていく。

 

「行くんだな?」

 

 もちろん。誰よりも前で、他の奴らは置き去りにする。それが、僕にくれた愛情の恩返しだと思うから。

 

「腹括るか」

 

 右肩に鞭が入り、手綱が緩む。

 なんだっけ。あれだ、折り合いがついた。

 

『ズヴィズダツァーリ抜け出す! カーブなど関係ないと速度を上げながら3コーナーの下り坂でスピードを上げる! カウディーリョとの差はすでに5馬身! いや6! 7馬身は差がついているぞ! 釣られて全体ペースが上がるが、それ以上にツァーリが早い!! 一人旅状態で4コーナー抜けて行く!! 早い!! 早すぎる!!

 

 このまま持てば、いや、バテたとしてもレコードか!?

 

 一頭だけが正面スタンドに戻ってくる! 大歓声を受けても! 皇帝は! なお止まらないッ!!』

 

 二度目のスタンドは、さっきの倍以上うるさくて、耳が変になっているような気がしてならない。

 先生は鞭を撃たないし、手綱も緩いまま。好きなようにしろ。って言ってるみたいで、嬉しくなる。

 

『強い! 強すぎるぞズヴィズダツァーリ!』

 

 

 将来。JRAは、新たなブランドCMとして、『THE LEGEND 』『THE WINNER』に続く、『THE HERO』を発表する。

 その菊花賞編。

 

THE HERO

 

19年 黄金の冠を目指す 菊花賞

 

ターフに輝く 黒き一等星

史上初 三世代の三冠制覇を成し遂げる 奇跡の末脚

その強さに 実況は叫んだ

 

星帝天駆(セイテイアマカケ) 眼前他無(ガンゼンホカ二ナシ)

 

その馬は 3分という壁を壊し 歴史的大差を築く

 

ああ そうだった 皇帝は 負けないから 皇帝だ

 

 

 

『前にも後ろにも敵はいない! 4コーナーを抜けた馬群は決して届かない!

 これが! これが皇帝の名を背負うもの!! 皇帝の名を体現するものの走り!!

 

 星帝天駆けッ! 眼前他に無しッ!!

 

 25馬身以上の差を開き! 世代の皇帝が! 無敗で三冠達成!!』

 

ズヴィズダツァーリ(ヒーロー)を 越えろ

菊花賞

 

 

 勝った? 勝ったよね? ちらっとゴール板見えた気がするし。

 あ、先生が首叩いてくれた。これで終わりか。

 

 これで、終わりか……。

 

「お疲れツァーリ。後ろ見えるか? お前の次着馬がやっとゴールだ」

 

 走りながらスタンドの方を見れば、集団から抜け出した先頭のワールドプレミアがゴールしていた。

 だが、僕よりかなり後ろ。

 

「あんな走りしやがって、このバカ……。ジャパンカップ出るって話だけど、念のために様子見て有馬記念に変更かな? これじゃあ……」

 

 怒んないでよ先生。だって最後だからさ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ん? 今有馬記念とか言った?

 

『過去最強の無敗三冠馬!! ズヴィズダツァーリのタイムは!?』

 

 スクリーンに浮かんだ数字は、夢かと思って頬を抓ってしまう程の記録。

 

『奇跡のタイムだズヴィズダツァーリ!! 勝ち時計! 2分58秒9!! トーホウジャッカルの世界レコードを、2秒1も塗り替えた!!』

 

 場内実況に反応する観衆を他所に、僕は立ち止まる。

 

「ブルルっ……」

 

「ツァーリ?」

 

 有馬記念って、年末にある有名なヤツでしょ? 流石の僕でも知ってるレベルのレースだよ?

 え? 僕って次もレースあるの!?

 

「ツァーリ、次も勝とうな」

 

 確定ですわこれ。

 跳満越えて役満ですわこれ。国士無双ですわ。

 

 鞍上で先生が三本指を上げた後、僕は項垂れるようにお辞儀した。

 

「ヒヒーンッブルブルルッ!!」

 

 若干の勢いつけて立ち上がってやったぜこんちくしょう!!

 大魔神の言うことは絶対信じないからなっ!!

 

 

 

菊花賞 レース結果 上位5着

馬名タイム人気

14ズヴィズダツァーリ2:58:9

ワールドプレミア3:03:0

14サトノルークス3:03:1

13ヴェロックス3:03:2

メロディーレーン3:03:313

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

【菊花賞】ズヴィズダツァーリ 歴史的大記録で無敗三冠達成!

 10月20日(晴)、第80回菊花賞をズヴィズダツァーリ(鞍上:打田幸博)がオッズ1.0倍という期待に応え勝利した。これにより、デビューから続く無敗記録を7に伸ばし、ディープインパクトに続く史上三頭目の無敗三冠馬となった。

 父オルフェーヴルとの父子二代での三冠制覇。母の父ディープインパクトを含めた三代に渡って三冠制覇。ともに史上初の快挙である。

 

 スタートから普段同様の殿集団に入り、後方から4番手を走っていたズヴィズダツァーリは、一度目の正面スタンド前を通ると、2コーナーからスパートをかけ始め、2度目の3コーナーを先頭で入る。それまで先頭にいたカウディーリョと並ぶことなく抜け出したズヴィズダツァーリは、早まるペースをものともせず、一頭だけで正面スタンドへと戻ってきた。

 ズヴィズダツァーリの勝ち時計は2分58秒9。トーホウジャッカルが記録した3分1秒0の記録を2秒1更新する記録であり、コースレコード、レースレコード、ワールドレコードを塗り替える結果となった。

 

   打田騎手のコメント  

「ツァーリが暴れましたね。皐月賞・ダービーとは違って、ゲート入り直前まで気合いがなくて、走るかな? と不安になっていましたが、無事走ってくれてよかったです。4コーナーだと、前にいたメロディーレーンを気にしてる感じでだったんですけど、スタンドの前を通った時、歓声にびっくりしたのか2コーナーで飛び出してしまって。全力で抑えに行ったんですけど、引っ張り方がいつもとは違うような感じだったので、腹括ってこいつに任せてみようと。結果はご覧の通りで、多分今まで本気で走ってこなかったんだと思います」

 

   友康調教師のコメント  

「一先ずの区切りを迎えることができて安心しています。放牧でパワーをつけることができたのがあのタイムに現れたと思いますね。あの子の本気が見れたことに驚きと衝撃が隠せないのが本音です。あれだけのレースをしてしまったので、体に異常がないかを確認してから次走を決めていきます。少なくとも予定していたジャパンカップの出走はありませんね」

 

 友康調教師のコメントを加味すると、年内で出走するとすれば暮れの有馬記念だろう。出走登録がされれば、1番人気はほとんど確定と言える状態である。しかし、史上2頭目となる無敗の三冠馬ディープインパクトは、この有馬記念で2着となって無敗記録を止め、初の無敗三冠馬であるシンボリルドルフも、三冠後初戦であるジャパンカップにて三着で敗れてしまい記録を止めている。

 無敗三冠馬の最高連勝記録は、シンボリルドルフの8連勝。新たな皇帝がその記録を超えるのか、次代の奇跡になるのか。ズヴィズダツァーリの次走に期待したい。




勘違い全力疾走とか芝生えるwww
あと、メロディーレーンは可愛い。異論は認めぬ。


 出走成績 7戦7勝 獲得賞金総額5億9300万

18/09/22/土 新馬戦 2000メートル 
 1番人気 1着 2:01:8 700万
18/11/17日 東スポ2歳s 1800メート
 1番人気 1着 1:45:2 3,300万
18/12/28/金 ホープフルs 2000メートル
 1番人気 1着 2:01:2 7,000万
   2着 アドマイヤジャスタ 2:01:6 2馬身差

19/04/14/日 皐月賞 2000メートル
 3番人気 1着 1:57:9 11,000万
   2着 サートゥルナーリア 1:58:5 3½馬身差
19/05/26/日 東京優駿(日本ダービー) 2400メートル
 1番人気 1着 2:22:5 20,000万
   2着 ロジャーバローズ 2:22:5 アタマ差
19/09/16/月 神戸新聞杯(G2) 2400メートル
 1番人気 1着 2:24:5 5,300万
   2着 サートゥルナーリア 2:26:3 大差(約11馬身差)
19/10/20/日 菊花賞 3000メートル
 1番人気 1着 2:58:9(WR) 12,000万
   2着 ワールドプレミア 3:03:0 大差(約30馬身差)

次走  19/11/24/日 ジャパンカップ 2400メートル 未定

黄金一族でどの馬が好き?

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