黄金の暴君×永遠の二番手=星の皇帝(僕) 作:パンダコパンダ
ウマ娘の話が進まなーい。
スペちゃーん 止まらなーい
僕は今相当ブチギレている。
学生寮へ向かおうと校門を歩いていた僕。そんな僕が、人にぶつかってしまい、顔を上げると……。
「ウオッカ、スカーレット、スペ、テイオー、マック。やっておしまい」
「え? やるんですの?」
「もっちろーん! だよね? ゴールドシップ! というわけでー、ちょっとごめんねー」
その六人は、サングラスとマスクをつけた状態で変装していたのにゴルシとトウカイテイオーが名前を呼び合う状況。
「あんたら何やってんすか……」
ズヴィズダツァーリのやる気が下がった。
ズダ袋に入れられた僕は、いつの間にかチームの部屋に座らされており、体を麻縄で椅子に固定されていた。
そして、僕の向かいには六人と、一人。トレーナーの沖野。
「すでに入部を認めている僕を連行。さらには縄で監禁。たづなさんと理事長に話を通して、監督不行届でここを解散させるか……」
「待て待て待て、何しれっと怖ぇこと言ってんだ」
ならこれはどういうことですか? と僕はヒト男を見上げる。かなり怖い顔をしたつもりだから、流石のトレーナーも数歩後退りしていたが、一度咳払いをして、顔合わせだという。
「チーム加入の正式な許可が今日下りた。それで、顔合わせだな」
左から順番に。と、ゴールドシップ、メジロマックイーン、トウカイテイオー、スペシャルウィーク、ダイワスカーレット、ウオッカと紹介される。
「僕の名前はズヴィズダツァーリです。気安くツァーリと呼んでください。それと、別に逃げたりしないので縄外して」
ごめんねーと縄を解くテイオー先輩。そういうなら最初からするな。って怒りたいが、一旦やめよう。
「なあなあツァーリ。ゴルシちゃんトレーナーから聞いたんだけどさ、お前、3000メートル3分以下ってマジなわけ?」
「あー」
いきなりえげつないこと聞くな……。この人。
てか、他の人もうんうん頷いてるから、全員で聞いたのか。
「参考程度にですが、私の菊花賞でのタイムが、3分6秒台。ゴールドシップさんは、3分2秒9? だったはずですわ? 本格化もしていない、入学してすぐのあなたがそれほどのタイムというのは、どういうことなのか……」
嘘をついている。と疑っているのか、尻すぼみに声が小さくなるマックイーン。それに僕は、どう答えるか悩んだ。
「えーっと……。現状は、3分です。3分1秒5が僕の今のベストです」
目に見えて引いた顔をするウオッカとダイワスカーレット。まあ、それでもゴールドシップよりも速いんだから、嘘を言ってると思われても仕方ない。
「ただ、僕が、ちゃんと体を鍛えて、コース取りが完璧だった場合の理論値がそこに、2分58秒9になるっていう話です。少なくとも1年間鍛えていかないと、そこにはならないと思ってます」
だから僕は言った。気になるなら走ります? と。
不敵な笑みを浮かべ、ここにいる全員を挑発する。
「僕は模擬戦含めて、生涯無敗を貫く存在です。3000メートル。僕の踏み台になってくださいよ」
「おいツァーリ! 煽りすぎだ!! それにいきなり走るとか」
「おうおうやってやろうじゃねーか!」
「そうね。私も走るわ。本当にそうなら、走ってみるのが一番わかりやすいもの」
「生意気いってたらぶっ飛ばす!」
「私が勝ちます!!」
「ふふーん? 無敗だって? ならボクに勝たないとね」
「不覚ですわ、足の怪我がなければ私だって……」
あれれ? おかしいぞぉー? ここまで火がつくとは……。
「よーし! 行くか! し……。ツァーリ!!」
「おいゴルシ、今シーナって言いかけただろ」
「何のことでゴルシか? ゴルシちゃんわかんなぁーい! あと、アタシ、先輩だから……。っかー!! 決まった!!」
うん。言ったら終わりだよゴルシ。
「ところで、誰がどういう走りをするか、事前情報は要りまして?」
ぽんぽん、と肩を叩かれたボクが振り向くと、そこにいたのはとても綺麗なウマ娘。脚を故障してしまい現在は療養中のメジロマックイーン先輩。
「あなたのお話が事実でしたら、問題はないと思いますが、相手となるのはG1を何度も勝ってきている猛者」
「あー。ありがとうございますメジロマックイーン先輩。ただ、大丈夫です。何となくはわかるので」
ウオッカ、ダイワスカーレット、スペシャルウィーク、トウカイテイオー。そしてゴールドシップ。5人がバラバラに準備運動をする中、僕はそれを見てつぶやく。
「先生の言う通りだ」
「え?」
「いや、レース前って、結構神経が尖っていく感覚とかがあるじゃないですか。それを解す必要があるからこそ準備運動がありますけど、僕ってあんまり緊張しないタチで、今みたいに、ああ言うのに混ざらないんですよ」
「は、はぁ……」
「僕にレースを教えてくれた先生は、そう言う時に他のやつの馬た……。ウマ娘たちの状態を確認しろって。使える情報は自分で拾えるからって。ウオッカ先輩とダイワスカーレット先輩の二人はおそらくマイル以下。走れてもE区分の距離は走れない。だって、マイル戦線だったお母さんと似た脚をしてるし」
雰囲気的にはウオッカ先輩が後ろ目。ダイワスカーレット先輩が前目かな? 分かんないけど。
「トウカイテイオー先輩は未知数だけど、多分前。先行タイプ。ジャージの上からだからよくわからないけど筋肉の感じがダイワスカーレット先輩に似てる。逆にスペシャルウィーク先輩は、ウオッカ先輩と似た感じだから差しかな?」
「では、ゴールドシップさんは……」
「僕と同じ追い込み。スタミナとパワーに特化していて、ロングスパートが得意なタイプ。彼女のことは僕が一番知ってる」
だって彼女のことは、先生から色々教わった。
似たタイプで、僕よりもどうしようもないって言われて、気分屋だからって笑って。先生があの馬に乗っていたからこそ、僕は先生についていけた。僕のことを分かってくれた。
たまたま調教の時に乗った父の主戦騎手も合わなかったことを考えると、僕とあの馬は近い。だから、彼女も僕と近い。
「筋肉が柔らか過ぎてギアを瞬時に上げるのは苦手だけど、柔らかく強靭な分普通のウマ娘よりも長く使える。柔らかい上に強く、さらに丈夫。無事是名馬を地で行くタイプ」
ついでに言うなら、スタートが下手。
「よーし。それじゃあ芝3000するぞー。準備はいいかー?」
「それでは失礼します。僕は行きますんで」
メジロマックイーン先輩に一度頭を下げてから、僕はみんながいるターフのど真ん中へと向かう。
「ねえねえツァーリ! マックイーンと何話してたの?」
「皆さんのことですよ、トウカイテイオー先輩。事前情報は必要ですか? と」
「へぇ? それで? あんたはなんて言ったんだ? 聞いたんだろ?」
「いいえ。負けることがないのに、皆さんの情報を聞いてどうするんです? 大外ぶん回して全員差し切る。それだけですよ」
だって僕は、皇帝だから。
「ツァーリは皇帝になりたいの?」
おや? トウカイテイオー先輩の目がちょっと怖い。何だ? 地雷か?
でもまあ、僕は僕の言いたいことを言おう。
「違いますよトウカイテイオー先輩。僕は
大きく目を見開いた先輩。その目は何かがフラッシュバックしているように見える。でも、すぐ笑顔になって、僕を見つめた。
「なら、帝王くらい倒せる?」
「ええ。それはもうコテンパンに」
我ながら生意気だなぁー。なんてことを思うが、まあいいだろう。僕は僕だ。
「よーし。んじゃ始めるぞ。マックイーンはゴール側に行ってもらってるから、一周して、マックイーンの所に一番最初についたやつが勝ち。ただ、模擬戦だからな? 怪我するような走りはしないこと」
沖野トレーナーの言葉に、僕たちは揃って返事する。
「それじゃあ位置について。よーい、ドン!」
沖野トレーナーが挙げた手を振り下ろしたのを合図に、僕たち6人は走り出した。
ハナを進むのはトウカイテイオー先輩。その後ろにダイワスカーレット先輩が続き、2馬身ほど差を開けてウオッカ先輩。さらに1馬身差でスペシャルウィーク先輩が入り、最後方で僕とゴールドシップ先輩が横並び。
全体としてはスローペース。例え一線級の存在である先輩たちでも、3000メートルは長いのだろう。ただ、ゴールドシップ先輩以外は、僕の走りを時々振り返りながら確認している。まあ、どんな走りするかわからないだろうし、当然か。
位置取りが決まってこう着状態のまま、一つ目のカーブを曲がる。みんな一列になってるから、どんな曲がり方をしているか、どんな癖があるかがわかりやすい。
みんな、当たり前だがクラスの面々とは比べものにならないほど綺麗なコーナリングをしてる。
ゴール板役のメジロマックイーン先輩の前を通り過ぎて、三つ目のコーナーに入る。先頭と2番手の距離が少し短くなった気もするけど、トウカイテイオー先輩は息を入れてる感じかな?
それほど大きく差が出来てる訳でもない。よし、そろそろかな?
僕は、コーナーを抜けながら、ギアを一つ引き上げた。
「うお!? なんだー!?」
「併走に付き合ってもらってありがとうございますゴールドシップ先輩。とりあえず、先行きますね?」
踏み込んだ一歩目。僕は力を込めて一度頭を下げる。そして、次に顔を上げれば、少し前にいたスペシャルウィーク先輩の真横。
突然後ろから来たやつが横に並んで驚いたのか、ギョッとした顔をする先輩。だが、その先輩を追い抜き、今度はウオッカ先輩も抜く。
僕の走り方はいつだって変わらない。強い僕の強い競馬。
「おいおいまじかよ!?」
後ろの方で、「面白くなってきたぜぇっ!!」と謎な言葉を発してるゴールドシップ先輩だが、それを無視してダイワスカーレット先輩の横も通り過ぎる。彼女からは、「なんて脚してんのよっ!」との言葉を頂戴した。
すでに僕たちは第3コーナーに入っている。あとは、このカーブでトウカイテイオー先輩を抜くだけ。それだけすれば、勝てる。
「っよ! ツァーリ、お前すげぇんだな!?」
「っ!? ええ、まあ」
後方から現れた芦毛の怪物。あまりにも突然訪れたそれに、出そうになった声を押し留めて対応する。
「すごいんですね。先輩。この上がりをしてる時の僕に追いついたの、数えるくらいですよ」
「おう! そうだろ!! 何てったってゴルシちゃんは、火星探索までするウマ娘の宣伝担当だからな!!」
うん。宣伝担当って何? あと、火星探索しても宣伝はできないのでは?
「すげー上がり方してるけど、体力持つのか?」
「ええ、下手に育てられてないですから」
「育てられた? 誰に?」
そう言われて僕は、直線に入る前にトウカイテイオー先輩を抜き去り、そのまま二人でラストスパートをかける。
「僕の先生です。打田幸博って言います」
「……。へぇ、その人がレース教室してたのか?」
「まあ、そんな感じです」
今、耳動かさなかった? なんか怪しいんだよね。ゴルシ。
まあいいや。それより、やることをやろうか。よそ見してると、先生に怒られちゃうしね。んま、先生いないんだけどさ。
「 ッ!!」
自分が持つギアの、一番上まで上げた状態でターフを走り抜ける。
そのままゴール板を横切った時、ゴールドシップ先輩は届かなかったのか、流したのか、少し後ろ側にいた。
「う、嘘……。ゴールドシップさんが、負けた?」
1着は僕。次にゴールドシップ先輩。トウカイテイオー先輩を最後の直線で差し切ったスペシャルウィーク先輩が3番手で、ウオッカ先輩とダイワスカーレット先輩は仲良く並んで最後尾だった。あの二人に関しては、多分距離適性の問題だろうな。
「ふぅー。いい汗かいちまったぜ。んで? タイムはどうなのよ」
ゴールドシップの言葉にハッとしたマックイーン先輩は、手に持っていたストップウォッチを見て項垂れる。しょんぼりと耳を垂らして。
僕たちが心配しそうに彼女を見つめていると、先輩は右手に持った、動いたままのストップウォッチを、僕たちに向けた。
「あちゃー。タイムわかんねぇか」
「いや、3分1秒だ」
ウオッカ先輩の言葉を遮ったのは、他でもなく沖野トレーナーの声だった。
「3分何秒って? 聞き間違いじゃ無かったら、1秒って言ったか?」
「ああ。3分。3分1秒1。それが、さっきそいつが走ったタイムだよ。どうやら、あいつの言ってることは嘘じゃない。てかゴールドシップ。お前は普段からそれくらい真面目に走れ」
なんのことかわからなーい。と惚けるゴールドシップ。だが、それより僕は今までのタイムが縮んだことに嬉しくなる。この世界なら、もしかしたらあの記録を越えれるかもしれない。
「あー。ツァーリ。悪かった」
「え? なんですか?」
突然、ウオッカ先輩が後頭部を掻きながら、謝罪をする。それに続いてダイワスカーレット先輩も。控えめながらスペシャルウィーク先輩も。
「俺、お前のタイム嘘だと思ってた。まだデビューもしてない奴が3000で三分以下って最初聞いて、ありえねぇって」
「私もよ。ごめんなさい」
揃って頭を下げる二人に、僕は驚いた。少しだけの関わり合いだが、プライドが高そうだな? なんて思っていたから。
僕は二人に顔をあげるよう促し、こちらこそごめんなさい。と謝る。
「走りで証明した方が早いと思ったのは事実ですけど、それ以上に煽ってしまったのは僕なので。悪いのは僕です。トウカイテイオー先輩にも、多分良くない話をしてしまったと思いますし……」
「え? あぁ、皇帝の下り? いいよいいよ。ボクは皇帝じゃなくて、帝王だから」
ん? どゆこと?
「あー。改めて、僕の名前はズヴィズダツァーリ。自分で言うのもなんですが、言いにくい名前なので気軽にツァーリって呼んでください。得意な距離はE区分。目標は、生涯無敗。先輩方、よろしくお願いします!」
ペコリと頭を下げた僕に拍手をくれるみんな。
それぞれがそれぞれの自己紹介を行い、堅苦しい口調はいらないとまで言ってくれた。
「よし! ツァーリもみんなも打ち解けたし、早速だがデビュー戦の話をしていこう」
こう言う状況になることをあらかじめ想像というか、予想していたのか、手に持ったメイクデビューの試合日程が書かれた資料を渡される。
「他の新入生がどうかは知らないが、ツァーリはすでに本格化しているって言ってもいい。ジュニア期にいるが実質シニア級だ。どのレースに出てもほぼ間違いなく負けることはない」
そう言われて資料に目を通すと、目に入ったのはとある場所、とある距離のレース。
「皐月賞って2000ですよね?」
僕が言ってるのは、この世界では当たり前のようなこと。だが、それには理由がある。ちゃんと、一冠目に向けた準備を整えるためだ。
ただ、ここにいるウマ娘は、僕が言った意図を理解してるのか、僕の持つ資料を覗き込み、会場が中山レース場のメイクデビューを探している。
「あるとすれば、ここが2000、この日が1800。ただ、この2日は近すぎるな。お前の正確な能力を把握したいのがこっちの希望だ。全力を出さなくても勝てるとはいえ、万全で挑みたいだろう?」
「なら、ここにしましょう。新潟2000」
ピシッと指を示したのは、9月にある新潟レース場でのメイクデビュー戦。
「ダービーまで、僕の走るレースに2400以上は無い。僕の得意なロングスパートは長所と短所が同居していて、向正面に入った位置から速度を上げるから、最低でも2400は必要。距離が短かったり、ペースが速かったりすると本領が発揮できない」
だから、それまでの間は、先行で戦う。皐月までの間は、前での叩き合いを鍛え抜いて、そこからは長距離戦線。
「なるほどな。ならそこを目標にしていこう。先行の特訓ならスカーレットとテイオーと併走して練習できるし、あとは、ハイペースでの練習か。そこら辺はまた考えるとして、明日から基礎能力の確認。それと基礎練から始めよう」
「よろしくお願いします。トレーナー」
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