黄金の暴君×永遠の二番手=星の皇帝(僕) 作:パンダコパンダ
負けた。
それをやっと認められるようになったのは、年が明けて、初戦を大阪杯に決めた日だった。
あの日から僕の周りにいる人は、お疲れさん。という労いの言葉や、次だ次。と切り替えるような言葉をかけてくれた。前者が大魔神。後者がおっちゃんだったりする。
ただ、先生は大魔神とおっちゃんにずっと頭を下げていたし、僕にもずっと謝ってくる。別に先生が悪いわけじゃないのに。
けど、にーちゃんが持ってきた新聞には色々とよくないことが書いてあった。
| ① ズヴィズダツァーリ 燃え尽きたか? |
|---|
| 同日引退したアーモンドアイ。一歳下のコントレイル、デアリングタクトが揃ったジャパンカップ。三冠馬四頭対決に勝利し、戦うことに対してモチベーションを失ったことが原因で、有馬記念に敗北した説 |
| ② ジャパンカップから一転 怪我再発症か? |
| 天皇賞・春て発症した足の怪我を競走中に再発症したため、末脚を見せることができず敗北した説 |
| ③ 打田騎手 鞍上交代か? |
| レース後、全ては僕の責任だと発言した打田騎手に対して、ズヴィズダツァーリの馬主である元・メジャーリーガーの佐崎氏が、新たな鞍上を迎えようとしている。濃厚な人物は、同期馬のワールドプレミアに乗る天才・豊丈か |
| ④ サートゥルナーリア勝利の秘密は!? |
| 同期である日本競馬史上最強の馬・ズヴィズダツァーリに4度敗北したサートゥルナーリアは、なぜズヴィズダツァーリに並ぶことができ、ハナ差とはいえ差すことができたのか |
| ⑤ ズヴィズダツァーリ 次走未定は予定通り? 種牡馬入りか? |
| 先日の有馬記念の出走は、生涯無敗を賭けた競走馬生活最後の出走だった!? 陣営は当馬の成績を考え、有馬記念以降のローテーションは組んでいなかった可能性がある |
パッと見ただけでも5つくらい何か書かれてあって、その中には先生についても書いてある。
「おいおいツァーリ、お前新聞まで読めんのか?」
まあ読めるよ。一応元々人だし。
「でもあれだよなツァーリ。負けなかった馬が負けただけで調教師が悪いだの、騎手が悪いだの勝手に言いやがってな。たしかに打田さんは自分が悪いとは言ってたけど、友康さんも佐崎さんも何も言ってないのにな」
ん? どういう事? と思い、もう一度新聞を見れば、大魔神がジョッキーを先生から変更しようとしている。なんて記事がある。にーちゃんが言ってるのはこれか。
「そもそも。ここまで負け無かったのが奇跡だし、負けさせたく無かったら佐崎さんも友康さんも走らせないよ。ツァーリが強いってわかってるから走らせるんだし」
でも、僕負けたんだよ? 一番前じゃ無かった。
「なに。イジイジしてんの? お前らしくねー。いつものお調子者っぷりはどうしたよ。俺が女じゃないからか?」
「ぶるる」
「え? マジ?」
それはない。とは言ったものの、伝わってはなさそうだ。
「けど、今のお前がこんなの見たらもっと痩せそうだ。あんまり飼い葉食べてないんだし……。まだ次どうするか決まってないけど、負けたままなんか嫌だろ?」
けど、次も走って負けたら、先生にも大魔神にも迷惑かけちゃうし。
うじうじというか、イジイジというか。馬になって、今までとは違ってちゃんと一番って誇れるものがあって。みんなが凄い凄いって言ってくれて、お前が一番だって。
ちゃんと面倒見てくれてたのに、油断というか、考えが甘くて。
勝てる。って思った僕と、勝ちたい。って思ってた彼の違い。
「すごく体重が落ちたわけじゃないし、筋肉量もちゃんとしてるけど、元気ないよなぁ……」
「あれ? 隣にはツァーリですか?」
「あれ? アレグリアの……。こっち来てたんですね」
アレグリア? グランアレグリア? と名前を聞いて、バッと身構える。
なんであの馬が? みんな引き離すようにしてたはずじゃ……。
「横なんですか?」
「ああ、ほかに使える馬房が無くて。まあ、しばらくしたらまた美浦の方に戻りますし、多分大人しいはず?」
と、僕やにーちゃんがアレグリアに目線を向けると、たしかに彼女は大人しい。どうしたんだろ? と見つめていれば、僕の方を見つめ返して、フンっ! とそっぽを向く。
どうしたの? と尋ねてみても、アレグリアは大した反応をせず、そっぽを向くだけ。今まで何回か会ってきた彼女とは大きく違う。
「今日は大人しいですね」
「ええ。一安心です」
「それで? 聞きましたよ?」
隣の馬房から声が聞こえたのは、外がある程度暗くなり、人があまり馬房にいない状態になってからだった。
僕は思わず、え? と口にしたが、アレグリアは一番前じゃなかったんでしょ? とだけ聞いてくる。
「……うん」
「それで? 一番前じゃ無くて? 走れない?」
「そんなこと! そんなこと……」
「見っともないですね……。私が初めてみたあなたは、すごく自信に満ち溢れて、オスの強さを見せつけるような存在でした。だからこそ、あなたの意識に入れるように突撃しに行ったのに」
今のあなたにあの時のようなオス味はない。強くないオスに興味はない。
突然の代わりよう。だが、アレグリアの言葉を聞いて、そりゃそうだ。なんて思う。
負けることなんてあの時は考えていなかった。全力は出してなかったけど、やっとレースがわかって来て、走ることの楽しさを覚えたあたりだったから油断もなかった頃。
「残念ながら私は長い距離を走ることができません。あなたと共に走る機会なんて一度もないかもしれない。けれど、今のあなたなら、弱ったあなたなら私でも勝てます」
まあ、走るか走らないかは好きにすればいい。
そう言った彼女は、馬房の奥に引っ込んでしまったので、僕からは見えなくなる。
走るか走らないかは好きにすればいい。
「負けるのは……怖いじゃん……」
あー。どうすりゃいいんだよー。こうなったら自棄だ。食うぞ!
と、あまり何も考えないようにするため、夜食用の飼い葉に頭を突っ込み、ハムハムと咀嚼し続ける。
多分、明日も引き運動して、乗ってもらって、走る。
いつもの調教メニューをこなして、次のレースに向けて準備を整える。
昨日も一昨日も、ちゃんと調教メニューがあったから、大魔神は僕を走らせようとしてる。負けた僕を。次また負けるかもしれない僕を。
「ダメダメ。考えちゃダメ」
考えないようにするために食べ始めたのに、考えてたら意味がない。
とりあえず、言われた通り生活しよう。その方が気が楽だ。
「はは。やっぱ飯食べてたか」
ん!? 先生!? こんな時間になんで!?
「どう頑張ってもお前のことばっかり頭にあってな……。まあ、愚痴とでも思って聞き流しといてくれ」
先生は、負けたな。って一言言った。
「盛大に負けたな。ハナ差とはいえ、今まで一回も負けたことがなかったサートゥルナーリアに。速いペースなら先行だとかなんとか言ってたのに、ジャパンカップで勝てたから、大外から回れば問題ないって考えてた」
僕もそうだ。外側から走って、全員抜かせばどうにかなるって考えてた。
「あの日の僕は、ジョッキーじゃなくてただのリュックだった。お前が走るために乗せなきゃいけない重り」
そんなことない。先生はコース取りを教えてくれる。ジャパンカップだって、コントレイルのジョッキーに僕たちがいることを教えてくれたし、よそ見してたら勝てないって教えてくれるし。
「お前はさ。強いんだよ。それも、シンザンとかルドルフとかディープとか目じゃないくらい。むしろさ、サートゥルナーリアが、お前のレベルについて来られた。って考えないか?」
着いてこられた? でも、あの時僕は流したから負けたんだよ?
「お前も最後は抜いてたが、流しても勝ててた相手が、流しちゃ勝てない相手になった。それだけサートゥルナーリアが、レベルアップしたんだよ。少なくとも、2500までならお前と肩を並べられる。って。
今のホースマン達の目標は、もちろんダービーを取ることでもあるんだが、何より、お前に勝つことだ。生涯無敗を阻止して、ズヴィズダツァーリに土をつけようとしてくる。特に、三冠戦敗れてる陣営は特にだ。
そんな中、アーモンドアイや同じ無敗三冠馬のコントレイルを差し置いて、サートゥルナーリアがお前に勝った。わかってない奴は、お前が負けた原因を探して、わかってる奴は、サートゥルナーリアの勝利を喜んでる。
本人としては、お前が負けたことが悔しいし、辛いけど、あれだけお前を追いかけたサートゥルナーリアだ。一個人としてはすごく嬉しいものがある」
うん。たしかに、僕に勝ちたくてギラギラしてるジョッキーさんは多いように思う。返し馬の時に僕のこと見てたり、輪乗りしながらこっちを見てたり。
「でもさ、そんな奴らに目標にされて、そんな追いかけてくる奴をさ、ボコボコにしないか? 一回負けて、モチベーションがなくなって、怖くなって走らなくなるより、一回負けたけど、もっと強くなって、お前ら如きじゃ負けねぇよ。って証明する方が、最高じゃないか?」
それができれば、それが最高。うん。たしかにそうだ。
「大阪杯、春天、宝塚の春古馬三冠を達成した馬はいない。秋天、ジャパンカップ、有馬の場合は2頭だけ。なら、六戦全部を達成すれば? もちろん初めてだし、オペラオーの時代になかった以上これから現れることもないはずだ。負かしてしまった僕が言うのもなんだけど、お前には僕がいる」
お前は、一人じゃない。
「なんていうかさ。すごい馬はこれまでいっぱいいたんだよ。牝馬でダービーに勝ったウオッカとか。それこそアーモンドアイとか。でも、本当に凄い馬は、負けたことを語られるんだ。
ルドルフも、ディープも負けたことが話題になる。それは、常に勝ち続けているからこそ、負けたというインパクトに持ってかれるから。
ツァーリは、このまま負け続けて、有象無象の馬になるか? それとも、ここから勝ち続けて、負けを語られる馬になるか?
なりたい方を選べ。ツァーリ。ただ、走るのはお前だからな。お前の道を、僕たちは支える」
あー。明日6時半で良かったー。なんて、あくびをしながら立ち上がった先生は、僕の首をトントンと叩く。
「サートゥルナーリアは冬だから仕方ないけど、裂蹄が見つかって復帰は有馬記念。それが2021年最初で最後の試合。そのまま引退らしい。そして、新馬戦とダービーで戦ったロジャーバローズは屈腱炎が治ったらしくて、今年の春から本格的に動き出す。両方とも、戦うとすれば秋以降」
クロノジェネシスが来るとすれば宝塚。ダノンキングリーとグランアレグリアは中距離以下で、大阪杯か秋天。デアリングタクトもそう。
コントレイルは大阪杯。宝塚記念、秋天とジャパンカップを考えるだろう。有馬も出るかもしれない。
「ツァーリ。次は勝とう。僕は、お前が楽しそうに勝つ姿が見たい」
夜中の作業をしている厩務員に挨拶した彼の姿は、そのうち見えなくなる。
大阪杯からの春古馬三冠戦。秋天から始まる秋古馬三冠戦。それに大魔神が春天の後言っていた、凱旋門賞……。
「みんなからの愛情に応える覚悟」
「なにそれ」
いつのまにか顔を出していたアレグリアが聞いて来たので、僕はあの時のことを思い出しながら教えてあげる。
「3歳の春に先生が言ってくれた。みんなが僕を勝たせたいと思って与えてくれる愛情を受け止めて、しっかり返したいって覚悟を一番最初に決めた馬が、皐月賞を勝つって……」
「それであなたは勝ったんだ。なら、ずっと前から覚悟は決まってるんじゃない。あとは好き勝手走ってあげれば良いだけよ」
「あはは。アレグリアはいい奴だな」
「でしょ? 良いメスよ? 番になって?」
「うん。今ので全部台無しだよ」
あはは。なんて二頭で笑い合う。けど、ありがとうアレグリア。
「よし。大阪杯から7つ。全部勝つ。それも全部、誰よりも早く」
「へぇ? あなた長い方が強い。ってみんな言うけど? それに、私も出るのに勝てると?」
「うん。だって僕はズヴィズダツァーリだから。大喝采を浴びるのは、僕の仕事だよ」
ウマ娘回挟みます。
下のやつガッツリ春古馬三冠2回書いてた。芝
目標 春古馬三冠+凱旋門賞+秋古馬三冠
空前絶後のグランドスラム。
次走 21/04/04/日 大阪杯 芝2000メートル
有力馬 グランアレグリア コントレイル
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