黄金の暴君×永遠の二番手=星の皇帝(僕)   作:パンダコパンダ

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競走馬ー17:敗北の味 次の目標

 負けた。

 

 それをやっと認められるようになったのは、年が明けて、初戦を大阪杯に決めた日だった。

 

 あの日から僕の周りにいる人は、お疲れさん。という労いの言葉や、次だ次。と切り替えるような言葉をかけてくれた。前者が大魔神。後者がおっちゃんだったりする。

 

 ただ、先生は大魔神とおっちゃんにずっと頭を下げていたし、僕にもずっと謝ってくる。別に先生が悪いわけじゃないのに。

 けど、にーちゃんが持ってきた新聞には色々とよくないことが書いてあった。

 

① ズヴィズダツァーリ 燃え尽きたか?
 同日引退したアーモンドアイ。一歳下のコントレイル、デアリングタクトが揃ったジャパンカップ。三冠馬四頭対決に勝利し、戦うことに対してモチベーションを失ったことが原因で、有馬記念に敗北した説

② ジャパンカップから一転 怪我再発症か?
 天皇賞・春て発症した足の怪我を競走中に再発症したため、末脚を見せることができず敗北した説

③ 打田騎手 鞍上交代か?
 レース後、全ては僕の責任だと発言した打田騎手に対して、ズヴィズダツァーリの馬主である元・メジャーリーガーの佐崎氏が、新たな鞍上を迎えようとしている。濃厚な人物は、同期馬のワールドプレミアに乗る天才・豊丈か

④ サートゥルナーリア勝利の秘密は!?
 同期である日本競馬史上最強の馬・ズヴィズダツァーリに4度敗北したサートゥルナーリアは、なぜズヴィズダツァーリに並ぶことができ、ハナ差とはいえ差すことができたのか

⑤ ズヴィズダツァーリ 次走未定は予定通り? 種牡馬入りか?
 先日の有馬記念の出走は、生涯無敗を賭けた競走馬生活最後の出走だった!? 陣営は当馬の成績を考え、有馬記念以降のローテーションは組んでいなかった可能性がある

 

 

 パッと見ただけでも5つくらい何か書かれてあって、その中には先生についても書いてある。

 

「おいおいツァーリ、お前新聞まで読めんのか?」

 

 まあ読めるよ。一応元々人だし。

 

「でもあれだよなツァーリ。負けなかった馬が負けただけで調教師が悪いだの、騎手が悪いだの勝手に言いやがってな。たしかに打田さんは自分が悪いとは言ってたけど、友康さんも佐崎さんも何も言ってないのにな」

 

 ん? どういう事? と思い、もう一度新聞を見れば、大魔神がジョッキーを先生から変更しようとしている。なんて記事がある。にーちゃんが言ってるのはこれか。

 

「そもそも。ここまで負け無かったのが奇跡だし、負けさせたく無かったら佐崎さんも友康さんも走らせないよ。ツァーリが強いってわかってるから走らせるんだし」

 

 でも、僕負けたんだよ? 一番前じゃ無かった。

 

「なに。イジイジしてんの? お前らしくねー。いつものお調子者っぷりはどうしたよ。俺が女じゃないからか?」

 

「ぶるる」

 

「え? マジ?」

 

 それはない。とは言ったものの、伝わってはなさそうだ。

 

「けど、今のお前がこんなの見たらもっと痩せそうだ。あんまり飼い葉食べてないんだし……。まだ次どうするか決まってないけど、負けたままなんか嫌だろ?」

 

 けど、次も走って負けたら、先生にも大魔神にも迷惑かけちゃうし。

 うじうじというか、イジイジというか。馬になって、今までとは違ってちゃんと一番って誇れるものがあって。みんなが凄い凄いって言ってくれて、お前が一番だって。

 ちゃんと面倒見てくれてたのに、油断というか、考えが甘くて。

 

 勝てる。って思った僕と、勝ちたい。って思ってた彼の違い。

 

「すごく体重が落ちたわけじゃないし、筋肉量もちゃんとしてるけど、元気ないよなぁ……」

 

「あれ? 隣にはツァーリですか?」

 

「あれ? アレグリアの……。こっち来てたんですね」

 

 アレグリア? グランアレグリア? と名前を聞いて、バッと身構える。

 なんであの馬が? みんな引き離すようにしてたはずじゃ……。

 

「横なんですか?」

 

「ああ、ほかに使える馬房が無くて。まあ、しばらくしたらまた美浦の方に戻りますし、多分大人しいはず?」

 

 と、僕やにーちゃんがアレグリアに目線を向けると、たしかに彼女は大人しい。どうしたんだろ? と見つめていれば、僕の方を見つめ返して、フンっ! とそっぽを向く。

 どうしたの? と尋ねてみても、アレグリアは大した反応をせず、そっぽを向くだけ。今まで何回か会ってきた彼女とは大きく違う。

 

「今日は大人しいですね」

 

「ええ。一安心です」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「それで? 聞きましたよ?」

 

 隣の馬房から声が聞こえたのは、外がある程度暗くなり、人があまり馬房にいない状態になってからだった。

 僕は思わず、え? と口にしたが、アレグリアは一番前じゃなかったんでしょ? とだけ聞いてくる。

 

「……うん」

 

「それで? 一番前じゃ無くて? 走れない?」

 

「そんなこと! そんなこと……」

 

「見っともないですね……。私が初めてみたあなたは、すごく自信に満ち溢れて、オスの強さを見せつけるような存在でした。だからこそ、あなたの意識に入れるように突撃しに行ったのに」

 

 今のあなたにあの時のようなオス味はない。強くないオスに興味はない。

 突然の代わりよう。だが、アレグリアの言葉を聞いて、そりゃそうだ。なんて思う。

 

 負けることなんてあの時は考えていなかった。全力は出してなかったけど、やっとレースがわかって来て、走ることの楽しさを覚えたあたりだったから油断もなかった頃。

 

「残念ながら私は長い距離を走ることができません。あなたと共に走る機会なんて一度もないかもしれない。けれど、今のあなたなら、弱ったあなたなら私でも勝てます」

 

 まあ、走るか走らないかは好きにすればいい。

 そう言った彼女は、馬房の奥に引っ込んでしまったので、僕からは見えなくなる。

 

 走るか走らないかは好きにすればいい。

 

「負けるのは……怖いじゃん……」

 

 あー。どうすりゃいいんだよー。こうなったら自棄だ。食うぞ!

 と、あまり何も考えないようにするため、夜食用の飼い葉に頭を突っ込み、ハムハムと咀嚼し続ける。

 

 多分、明日も引き運動して、乗ってもらって、走る。

 いつもの調教メニューをこなして、次のレースに向けて準備を整える。

 

 昨日も一昨日も、ちゃんと調教メニューがあったから、大魔神は僕を走らせようとしてる。負けた僕を。次また負けるかもしれない僕を。

 

「ダメダメ。考えちゃダメ」

 

 考えないようにするために食べ始めたのに、考えてたら意味がない。

 とりあえず、言われた通り生活しよう。その方が気が楽だ。

 

「はは。やっぱ飯食べてたか」

 

 ん!? 先生!? こんな時間になんで!?

 

「どう頑張ってもお前のことばっかり頭にあってな……。まあ、愚痴とでも思って聞き流しといてくれ」

 

 先生は、負けたな。って一言言った。

 

「盛大に負けたな。ハナ差とはいえ、今まで一回も負けたことがなかったサートゥルナーリアに。速いペースなら先行だとかなんとか言ってたのに、ジャパンカップで勝てたから、大外から回れば問題ないって考えてた」

 

 僕もそうだ。外側から走って、全員抜かせばどうにかなるって考えてた。

 

「あの日の僕は、ジョッキーじゃなくてただのリュックだった。お前が走るために乗せなきゃいけない重り」

 

 そんなことない。先生はコース取りを教えてくれる。ジャパンカップだって、コントレイルのジョッキーに僕たちがいることを教えてくれたし、よそ見してたら勝てないって教えてくれるし。

 

「お前はさ。強いんだよ。それも、シンザンとかルドルフとかディープとか目じゃないくらい。むしろさ、サートゥルナーリアが、お前のレベルについて来られた。って考えないか?」

 

 着いてこられた? でも、あの時僕は流したから負けたんだよ?

 

「お前も最後は抜いてたが、流しても勝ててた相手が、流しちゃ勝てない相手になった。それだけサートゥルナーリアが、レベルアップしたんだよ。少なくとも、2500までならお前と肩を並べられる。って。

 

 今のホースマン達の目標は、もちろんダービーを取ることでもあるんだが、何より、お前に勝つことだ。生涯無敗を阻止して、ズヴィズダツァーリに土をつけようとしてくる。特に、三冠戦敗れてる陣営は特にだ。

 

 そんな中、アーモンドアイや同じ無敗三冠馬のコントレイルを差し置いて、サートゥルナーリアがお前に勝った。わかってない奴は、お前が負けた原因を探して、わかってる奴は、サートゥルナーリアの勝利を喜んでる。

 本人としては、お前が負けたことが悔しいし、辛いけど、あれだけお前を追いかけたサートゥルナーリアだ。一個人としてはすごく嬉しいものがある」

 

 うん。たしかに、僕に勝ちたくてギラギラしてるジョッキーさんは多いように思う。返し馬の時に僕のこと見てたり、輪乗りしながらこっちを見てたり。

 

「でもさ、そんな奴らに目標にされて、そんな追いかけてくる奴をさ、ボコボコにしないか? 一回負けて、モチベーションがなくなって、怖くなって走らなくなるより、一回負けたけど、もっと強くなって、お前ら如きじゃ負けねぇよ。って証明する方が、最高じゃないか?」

 

 それができれば、それが最高。うん。たしかにそうだ。

 

「大阪杯、春天、宝塚の春古馬三冠を達成した馬はいない。秋天、ジャパンカップ、有馬の場合は2頭だけ。なら、六戦全部を達成すれば? もちろん初めてだし、オペラオーの時代になかった以上これから現れることもないはずだ。負かしてしまった僕が言うのもなんだけど、お前には僕がいる」

 

   お前は、一人じゃない。

 

「なんていうかさ。すごい馬はこれまでいっぱいいたんだよ。牝馬でダービーに勝ったウオッカとか。それこそアーモンドアイとか。でも、本当に凄い馬は、負けたことを語られるんだ。

 ルドルフも、ディープも負けたことが話題になる。それは、常に勝ち続けているからこそ、負けたというインパクトに持ってかれるから。

 ツァーリは、このまま負け続けて、有象無象の馬になるか? それとも、ここから勝ち続けて、負けを語られる馬になるか?

 なりたい方を選べ。ツァーリ。ただ、走るのはお前だからな。お前の道を、僕たちは支える」

 

 

 あー。明日6時半で良かったー。なんて、あくびをしながら立ち上がった先生は、僕の首をトントンと叩く。

 

「サートゥルナーリアは冬だから仕方ないけど、裂蹄が見つかって復帰は有馬記念。それが2021年最初で最後の試合。そのまま引退らしい。そして、新馬戦とダービーで戦ったロジャーバローズは屈腱炎が治ったらしくて、今年の春から本格的に動き出す。両方とも、戦うとすれば秋以降」

 

 クロノジェネシスが来るとすれば宝塚。ダノンキングリーとグランアレグリアは中距離以下で、大阪杯か秋天。デアリングタクトもそう。

 コントレイルは大阪杯。宝塚記念、秋天とジャパンカップを考えるだろう。有馬も出るかもしれない。

 

「ツァーリ。次は勝とう。僕は、お前が楽しそうに勝つ姿が見たい」

 

 夜中の作業をしている厩務員に挨拶した彼の姿は、そのうち見えなくなる。

 

 大阪杯からの春古馬三冠戦。秋天から始まる秋古馬三冠戦。それに大魔神が春天の後言っていた、凱旋門賞……。

 

「みんなからの愛情に応える覚悟」

 

「なにそれ」

 

 いつのまにか顔を出していたアレグリアが聞いて来たので、僕はあの時のことを思い出しながら教えてあげる。

 

「3歳の春に先生が言ってくれた。みんなが僕を勝たせたいと思って与えてくれる愛情を受け止めて、しっかり返したいって覚悟を一番最初に決めた馬が、皐月賞を勝つって……」

 

「それであなたは勝ったんだ。なら、ずっと前から覚悟は決まってるんじゃない。あとは好き勝手走ってあげれば良いだけよ」

 

「あはは。アレグリアはいい奴だな」

 

「でしょ? 良いメスよ? 番になって?」

 

「うん。今ので全部台無しだよ」

 

 あはは。なんて二頭で笑い合う。けど、ありがとうアレグリア。

 

「よし。大阪杯から7つ。全部勝つ。それも全部、誰よりも早く」

 

「へぇ? あなた長い方が強い。ってみんな言うけど? それに、私も出るのに勝てると?」

 

「うん。だって僕はズヴィズダツァーリだから。大喝采を浴びるのは、僕の仕事だよ」




ウマ娘回挟みます。

下のやつガッツリ春古馬三冠2回書いてた。芝

目標 春古馬三冠+凱旋門賞+秋古馬三冠
   空前絶後のグランドスラム。

次走 21/04/04/日 大阪杯 芝2000メートル
有力馬 グランアレグリア コントレイル

黄金一族でどの馬が好き?

  • 香港ヴァースに泣いたステイゴールド
  • 日本に残ったドリームジャーニー
  • 芦毛の千両役者ゴールドシップ
  • 批判を実力で黙らせたオルフェーヴル
  • 障害の王オジュウチョウサン
  • 春天二連覇の怪物フェノーメノ
  • 濃縮された気性難ナカヤマフェスタ
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