黄金の暴君×永遠の二番手=星の皇帝(僕)   作:パンダコパンダ

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いつも誤字報告ありがとうございます。

もう書きだめがない。よくここまで毎日かけたよ。もう次はない笑


ウマ娘ー11:全世界覇者へ KGVI & QESと凱旋門賞

「おいスぺ! なんかお前の携帯鳴ってるぞ?」

 

「え?」

 

 ゴールドシップさんにそう言われた私は、ガサゴソとカバンを探り、奥底で眠っていた携帯を取り出した。

 

「あれ? エルちゃん」

 

 携帯の画面に映っていたのは友達であるエルコンドルパサー。確か彼女は今、グラスちゃんと一緒にツァーリちゃんの海外遠征に付き合ってくれていたはず。

 

「もしもしエルちゃん? どうしたの?」

 

『ど、どうしたもこうしたもないデース!! ま、魔王が怖すぎるデース!!』

 

「ま、魔王!? 何があったの?」

 

『ごめんなさいスぺちゃん』

 

「あ、グラスちゃん?」

 

 どうやら慌てふためいていたエルちゃんだと説明ができないと思われたのか、グラスちゃんがエルちゃんの携帯を取ったみたい。

 

『ツァーリさんは飛行機が苦手なんですか?』

 

「え?」

 

 え? ツァーリちゃんって飛行機苦手なの? あれだけ海外遠征しまくるとか言っておいて……、苦手?

 

「どうしたんだスペ」

 

「あ! トレーナーさん! あの……。ツァーリちゃんって、飛行機苦手なんですか?」

 

「はあ!? あいつあんだけ海外遠征だのどうだの言っておいて飛行機苦手なのか?」

 

 どうなっているんだ? と口に咥えていた飴を取り出したトレーナーをよそに、電話の相手であるグラスちゃんは言葉を続ける。

 

『一応今イギリスに着いて、こっちの環境に慣れようとされてるんですが……、飛行機に乗ったあたりからおかしくなったんです』

 

 グラスちゃんによると、一応飛行機に乗り込んで出発するまでは大人しい感じだったらしい。だが一番最初に始まったのは、離陸直前エンジンが始動したことによる「うるさい」という一言だったという。

 学園が用意した遠征費用の中から座席などを指定した今回の遠征。未だ無敗のツァーリはレースの賞金で懐がかなり潤っているから、自腹でツァーリちゃんとエルちゃんとグラスちゃんの座席をファーストクラスに変えたらしい。

 

『確かにウマ娘にとって飛行機のエンジン音は大きいですが、我慢ができないほどではないはずなんですが……。ただ、次は狭いと言い始めたんです……』

 

 静かにしていたものの、閉鎖空間というのもありイライラし始めたように見えたとグラスちゃんは言う。さらには離陸後、乱気流の中に入ってしまい機体がジェットコースターの様に揺れ、ツァーリちゃんは気分が悪くなり15分ほどお手洗いに籠ることになったらしい。飛行機に酔っていた。

 戻って来るや否や、鞄からウマ娘用のイヤホンを取り出して音楽を聴き、全力で寝る。とそう言っていたのだが寝れなかったようで、目に隈ができた状態でイギリスの地に降り立ったらしい。

 

『それは、災難というか。仕方のないことだったのですが……。そこにエルが悪ふざけをしてしまって……』

 

 何をどう聞いてもエルちゃんがどんなことをしたかは教えてくれなかったが、何かよくないことをして怒らせたらしい。最終的にエルちゃんは、ツァーリちゃんにいろいろなプロレス技をかけられてしまったせいで全身が痛んで動けなくなったとのこと。

 

「そ、それで……」

 

『はい。つい先ほどまで技を掛けられていたのでエルは今ベッドで潰れてます』

 

「と、とりあえずエルちゃんが生きてるなら。それで、ツァーリちゃんは……」

 

『ベッドで眠ってます。とりあえず今週いっぱいとにかく体を慣らすとスピカのトレーナーさんに言われてますので。すでに東条トレーナーとスピカのトレーナーさんからいろいろメニューは聞いてますので、当分は問題ないと思いますが、何か注意点のようなものはありますか?』

 

「注意点……。なにかありますか? トレーナーさん」

 

 状況を掻い摘んで説明した私は、ひょいっとトレーナーさんに携帯を取られた。

 

「すまん。スピカの沖野だ。一応スペから聞いてるけど、ツァーリに対する注意点だよな」

 

 電話の向こうで、グラスちゃんが返事したのが聞こえた。

 

「一つ目。睡眠の邪魔をしないこと。ちゃんとアラームで起きるから起こさなくて良い。

 二つ目。起きるけど低血圧で寝起き悪いからあまり構わないこと。しばらくすればちゃんと動けるらしい。

 三つ目。食事が好きだから食事に関してとやかく言わないこと。マナーも良いらしいから大丈夫だと思う。

 四つ目。辛い料理が苦手で、唐辛子の匂いもダメだから近づけないこと」

 

『ああ。それで。エルがイギリスに着いてすぐの時にデスソースをかけたから……』

 

「よく死ななかったなエルコンドルパサー。ゴルシが辛子のたい焼き食べさせてロメロクラッチ食らってたからな。まあ注意点はそんな程度だ。俺も本人から聞いただけだからどんなもんかはわからないが気に留めといてくれ」

 

『わかりました。わざわざありがとうございます。トレーナーさん』

 

 そしてその電話から12日後、キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスがテレビで中継された。

 

 たった6人で執り行われるイギリスの歴史ある競争。アスコットレース場はかなり特殊な形をしていて、3角形の内、2つの頂点が伸びた形。

 

「そういえばトレーナー。なんであいつはキングジョージ? のレースを選んだんだ?」

 

「そういえばそうよね。イギリスのG1といえばインターナショナルステークスとかもあるものね」

 

 出走するウマ娘が紹介される画面の前で、私たちはトレーナーに説明を求める。

 

「ああ、あいつがKGVI&QESを選んだのはレース場の問題なんだよ」

 

 コース? 三角形が何か理由? と思っていたが、ゴールドシップさんが短く「坂」と答え、トレーナーもそれを肯定した。

 

「アスコットで行われる2400のレースは、下り坂でスタートする。そのままコースで一番低い位置を曲がり、残りはゴールまで20メートルを登っていく。ツァーリはスピードを上げるのが苦手だから、スタートから下り坂でスピードを上げやすく、また後半はずっと上がっていくからほかのウマ娘にとっては足が鈍る」

 

「ツァーリ向きってこと?」

 

「……。それをわかっていてあの遠征計画を考えたんですの?」

 

 アスコットでのこのレースの後は凱旋門賞。パリロンシャンレース場は約10メートルの坂と長い下り坂。それはそれでツァーリにとっては走りやすいものとなる。

 

「そろそろ始まるよー。枠入り!!」

 

 画面に映る彼女の勝負服は海外仕様というわけではなく、いつも通りの勝負服だった。

 真っ白なパンツとジャケット。インナーは青色のカッターシャツで、黒色のベストとネクタイを締めている。マックイーンによると「横浜カラー」らしい。野球はよくわからないけど。

 

 胸元には、皇帝・シンボリルドルフのように、これまでのG1勝利を示す8つのバッジがつけられている。見た目はマンハッタンカフェ先輩に似ているのに、勝負服は黒・黄色と白・青色で真逆なのは面白いよね。

 

『待ちに待った一戦が始まります。日本最強のウマ娘は世界に通用するのか。このアスコットレース場で星の皇帝は輝けるのか! 今! ゲートが開きました!!』

 

 皆ハラハラドキドキしているだろう。このチームから海外G1ウマ娘が出るかもしれない。いや、出るレースなのだ。だれも彼女が負けるとは考えていない。考えられないが正しいかもしれない。

 

 下りながら6番目。つまりは最後尾を走る彼女は、いつかは負ける。と私に言うけど、そんな姿を想像できない。

 

「勝利に絶対の原因はないが、敗北に絶対の原因はある」

 

「トレーナー? なんですかそれ」

 

「ツァーリが言っていた。油断と覚悟がレースを決める。って。あいつは前の世界でやり残したことをこの世界でやってる。それが無敗。油断なく、とっくの昔に覚悟を決めてるあいつは……。負けねえよ」

 

 スウィンリーボトムと呼ばれるこのコースの一番低い位置から進出する青鹿毛の髪。どんどんと上がっていく坂を、ツァーリちゃんだけが顔色一つ変えず登っていく。

 

「いけ。ツァーリ」

 

 トレーナーさんが言う言葉に続いて私たちも応援する。

 そして、ツァーリちゃんが先頭で最終直線へとやって来る。

 

『さあ! 最後! 最後! 伸びて来るズヴィズダツァーリ! 一人だけ次元が違う末脚! 既にもうセーフティリード! 後ろとは7バ身ほど、いや、もう8バ身差か!? 強い! 強すぎる!!』

 

 後ろを確認したツァーリちゃんは、明らかに流し始める。それでもゴールは目の前であり、確実に勝てる状況。

 

『もはやこのウマ娘を止めることはできないのか!! ズヴィズダツァーリ無傷の13連勝! 海外でも、星帝は強かった!!』

 

 上り坂が続くこのレース場においておそらくツァーリちゃんは無敵だろう。むしろ、彼女が苦手な平坦部分が多い日本に生まれたことが不幸だと思えるほど。そして、海外に適応できる能力を10月の第一日曜日に私たちは目の当たりにする。

 

 

 

 

『な、なんということだズヴィズダツァーリ!! フォルスストレートを全力疾走! 大丈夫なのかズヴィズダツァーリ! 走る! 走る! 先頭のまま直線に入る!!』

 

 抜け出した白と青の勝負服。重馬場の芝が抉られ、そして高く舞い上がっている。

 

 フランス。パリロンシャンレース場に良かった記憶なんて全く無くて、一番印象に強いのは、泣きながら通話したエルちゃんの声。

 でも、今画面に映る彼女にそんな姿は重ならない。

 

 世界にいる多くの最強格が集まる凱旋門賞。それなのに、日本の最強は全てをねじ伏せている。

 

『ロンシャンよ! フランスよ! 世界よ!』

 

 実況のアナウンサーが叫ぶ。これが星帝だと。これが日本の最強だと。

 

 本当にその通りだと思ってしまう。彼女に対して負けない。とは言えるが、勝つ。と断定できないほど、ズヴィズダツァーリという存在は勝利に愛されていると思う。

 チームルームの中ではソファーで寝転んでいるか何か食べているかばっかりだし、ストレッチは入念にしてるけど、基礎練以外ほとんどしている形跡もない。たぶん一人部屋になってしまった寮の中で違う練習をしているのだろう。そんな彼女が最強であると、実況アナウンサーが叫ぶ。

 

『残り200! 星帝が天を駆ける! 眼前に他はない! 他はない!』

 

 星帝天駆、眼前他無。

 

 菊花賞以降彼女の走りに対してよく言われている言葉。だが、その通りだと私も思う。

 

『エルコンドルパサーも、ナカヤマフェスタも敗れた世界に、ついに日本のウマ娘が、世界に名前を刻んだ!! ズヴィズダツァーリ! 大差での圧勝劇! このウマ娘に、世界の壁などなかった!! 海外G12連勝  ッ!!』

 

 1着で駆け抜けた彼女とその後ろには10バ身くらいの差があった。その差が一体なんなのか、私にはわからない。

 だけど、おかーちゃんと約束した日本一のウマ娘というのを目指す以上、彼女の存在は日本一を目指す上で大きいものだと思う。

 

 単純に強い。単純に速い。そんな指標で日本一のウマ娘を決めるのであれば、私は彼女に勝つことはできないだろう。

 でも、私にはおかーちゃんと約束した夢がある。ジャパンカップで日本総大将と呼ばれた誇りがある。

 

「私も頑張らないと」

 

 今日はツァーリちゃんの凱旋門賞で練習が休みだが、明日から普通に練習がある。その分しっかり熟さないと。

 

「見ててね。おかーちゃん!」




そろそろウマ娘回の方が多くなります。
競走馬回は有馬と引退後1〜2話くらいで終わらすからねー。

黄金一族でどの馬が好き?

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