黄金の暴君×永遠の二番手=星の皇帝(僕) 作:パンダコパンダ
そこには勝利と敗北があった。
勝つ意味を皆はくれた。
負けたくないと思わせてくれた。
全てをつぶす。
それ以外に手段はない。
僕が僕であるために。
残り、2500メートル。
有馬記念。それは、僕が初めて負けたレース。
得意じゃない距離のサートゥルナーリアを甘く見て、彼に負けてしまったレース。
多くの競馬ファンは、その年に走った多くの馬に夢を見せられ、この馬に出てほしいと投票する。自分の力では出走できない、一年の総決算。
『何かが起こる中山に、多くの夢が集まりました。
世紀末、テイエムオペラオーはこの地で覇王へと至りました。オグリが、テイオーがこの地で復活のラストランを見せました。
そして、星の皇帝・ズヴィズダツァーリが、ここで初めての負けを喫しました。果たして今日は何が起きるか。19年クラシック組四頭が、世代の強さを見せるのか。それとも、時代は変わるのだと若きホープが走るのか』
中山競馬場で、大きな拍手が起きる。
誰のためでもなく、1年間戦った、各馬への労いの意味を込めて。そして今日引退する、優駿達に向けて。
『あえて、あの馬と同じ言い方をしましょう。
その馬は、いろいろな事を教えてくれました。
名は、ズヴィズダツァーリ。
無敗の三冠達成。その偉業は、我々に夢の意味を教えてくれました。
国内G1・11勝。その強さは、我々に競馬の楽しさを教えてくれました。
凱旋門賞、1着。その挑戦は、日本の誇りと意地を教えてくれました。
その偉大な馬が、今日、このターフを去ります。
ズヴィズダツァーリよ。最後に教えてくれ。このゴールの先に何があるのか。お前は一体何を求めて走るのか』
「ツァーリ。お前の忘れ物、取り返しに行くぞ」
もちろんだよ先生。今日はみんな居る。全員倒して、僕が勝つ。
「気合十分だな。菊花賞の時並みじゃないか?」
そりゃそうだよ。あれは偽物の最後だけど、今日は、本当の最後だから。
「ああ、そうそう。お前の父親のオルフェーヴルは、ラストランの有馬で8馬身差だぞ」
はぁ? 何言っちゃってくれてんすか先生!!
『さあ、本馬場入場となります。本日は15頭立てとなっております。』
本馬場入場。なんでかは知らないけど、今日は先生がすごく話しかけてくる。それに僕は静かに聴きながら、ターフへと向かう。
『2枠2番、馬主佐崎氏の背番号で勝利を誓う星帝ズヴィズダツァーリ。
去年の有馬記念。今年のジャパンカップ。星帝を負かした二頭のいる舞台で、最後は自身の忘れ物を取りに行きます』
今日の僕は2枠2番。つまりは22。大魔神の背番号。
そんな番号を引いてくれた抽選の人には感謝だし、その番号で僕は負けるわけにはいかない。
『4枠7番、最後のグランプリを狙う最強牝馬クロノジェネシス。
星帝の横を走る唯一無二の女傑が、今年最後の勝者になるか。
5枠8番、幾度の敗北を乗り越えた祝祭馬サートゥルナーリアです。
去年の衝撃は誰も忘れられないでしょう。絶対を絶対でなくした馬が、有馬2連覇を掴みに行きます。
5枠9番、星帝を下したもう一頭ロジャーバローズはここにいます。
不屈の海賊王はジャパンカップでの勝利と共に、星帝に対して唯一の2連勝を目指します』
「あれ? 珍しい。みんな来たの?」
「ああ。みんな今日が最後らしいし、みんなでちゃんと話すのは最初で最後かも」
ゲート入りの前。僕の周りには、普段集まらないような馬も含めてみんなが集まっていた。
サートゥルナーリア。
ロジャーバローズ。
クロノジェネシス。
カレンブーケドール。
ワールドプレミア。
メロディーレーン。
「そうだ、レーン! 君、僕のお姉ちゃんなんだってね。ごめんなさい。ずっと前にいるちっこいやつって思ってた」
「知ってる。イワタが言ってた。でも、私がお姉ちゃんだがら言うこと聞くように」
「うん。引退後にね」
カレンブーケドールからは、私のことなんて眼中にないと思ってたと言われ、ワールドプレミアは悪魔を見るような目で見られた。でも、なんかそんな空間が楽しかった。
「今日も勝つよ」
「いや、僕が勝つからね? わかってる?」
ナーリアの宣言を秒で返す。
「わかってない。ジャパンカップで勝ったの、たまたまって言う奴いるから、僕が今日も勝つ。絶対に」
「かかって来なよ祝祭馬と海賊王。お前らに絶対影は踏ませない」
そういえば僕って、大外枠になったことあった?
なくね? 一番最後に枠入りするとかかっこいいじゃん。
「ツァーリ。最後行きましょう」
おねーさんに引かれた僕が、2枠2番に入る。
それだけで大きな拍手が中山競馬場に響き渡る。
ごめんなさい。年末なのに一人で競馬場来て虚しい奴ら。なんて考えて。僕たちを見に来てくれたのにね。
『さあ、このレースで何を見せてくれるのか。星帝の底力か、19年組の意地か。はたまた。結末は約2分半後。2021年。最後な戦いが今、スタートです!!
さあ飛び出したのは最内からのキセキ! 続きますタイトルホルダー逃げを打つ。続くはズヴィズダツァーリを倒したジャパンカップの勝ち馬ロジャーバローズ。キセキたちとは大体3馬身離れてついていきます。そこから2馬身中団固まり先頭はクロノジェネシスです。
それにしてもキセキとタイトルホルダーが逃げる逃げる! 既に殿のズヴィズダツァーリとは10馬身。いや、15馬身程でしょうか?』
スタート同時に緩い右に曲がるコーナー。正直内枠だったのもあって、後方集団の先頭に行こうと思ったのだが、先生がそれを止めた。
久しぶりに序盤前に行こうとして怒られた気がする。よそ見して怒られることは良くあるけど。
ああ、こうやって怒られることも無くなっちゃうのか。
有馬記念の場合、外回りから始まる加減でスタンド前までは角度が緩い。なら無駄に外側に行く必要はないと最内をロスなく走る。僕と先生。
左側からの拍手を浴びながら、目の前にいるメロディーレーンお姉様のことを伺う。
そして、中山名物の大きな坂。ロンシャンに比べればそれほどでもないが、登り切ったら後半戦に走る位置にある。そして逃げ馬の速いペースでも必ずペースが落ちる地点。
待ってたよ。先生のそれ。
バシン! と良い音の鞭が僕の肩に入った。それが合図。下り坂に入る頃には1コーナーが終わっていて、2コーナーの入り口。
加速力を得るために回転数の高い小さめのスライドで走っていたのをやめ、一気に前へと向かうため大きなスライドに変える。2種類の走り方をできる、頭が人だからできる走り方。
内側のまま行くのかな? なんて思えば、先生がくいッと手綱を動かしたので外側へと位置をずらしていく。
『さあ2コーナー回ってズヴィズダツァーリが上がってくる上がってくる。内側から少し外に出ましたがそのままメロディーレーンを抜いて進出開始となります! さあ今日の上りはどうなのか、先頭キセキは少しペースが落ちてきたか? タイトルホルダーとの差は1馬身ほどでしょうか? そこから3番手のロジャーバローズまでは変わらず5馬身ほど。さあ後ろからあの青鹿毛が飛んでくる。
皆様の記憶には何があるでしょうか。20馬身を巻き返したダービーか。それとも世界を打ち破ったフォルスストレートの爆走か。いや、今ズヴィズダツァーリが行うこの走り方でしょう。向こう正面中間!! ズヴィズダツァーリがサートゥルナーリアを抜かす。そのまま中団先頭のクロノジェネシスも交わして3角!』
あとは3頭。僕の半馬身前にいる鹿毛の馬体。
左足に力を込め、どんどんと芝を駆ける。
『さあズヴィズダツァーリがロジャーバローズを交わす。外側からしっかり抜ける。逃げ馬2頭はスタミナがきついか? 馬群がかなりまとまってきている!! さあ、ツァーリがタイトルホルダーを抜かして2番手! ロジャーとサートゥルナーリア、クロノジェネシスも上がって4コーナーを回る。
母と同じ黒い体に、父の夕日が重なった!!
キセキが馬群に飲まれる! ツァーリだ! ツァーリが一頭一人旅!! 完全に抜け出した!!』
後ろの足音は遠い。先生が後ろを一度振り向き、そして二度鞭を入れる。
『な、なんなんだこの馬は! 強い! 強すぎる!! これが星帝だと二番手争いのナーリア・ロジャーに差を広げていく!! 3、いや5馬身!! 違う! それ以上の差を作っている。鞍上打田はセーフティリードだと鞭を入れるのをやめたが、ズヴィズダツァーリは走り続ける!!』
どんどんと足を動かす。これが感謝だ。もらった愛情への恩返し。僕の覚悟。
2回も負けちゃったけど、負けはそれだけで十分。
『さあ! さあ! 目に焼き付けろ!! これが日本競馬史の結晶!!
この馬が! この世代が! この時代そのものが!!
星の皇帝! ズヴィズダツァーリだぁ ッ!!』
走り抜けたゴール板。スタンドは声にならない声で叫ぶし、拍手も送られる。
『ズヴィズダツァーリ! 二着のロジャーバローズに10馬身の大差!! さらには、ゼンノロブロイが残した2分29秒5を大きく更新!! 2分29秒2という置き土産を残しての引退!! 天を駆けた星帝には、歴史の名馬すら眼前にない他でしかなかった!!』
そして、先生が僕の首元をポンポンと優しく叩く。
「お疲れ。ツァーリ。ありがとう」
何を言ってんの先生。こっちこそありがとうだよ。先生のおかげでいろんなことができた。先生が走り方を教えてくれたんだよ?
「お前が一番だよ。ヴィルシーナより、ゴールドシップより、エイシンフラッシュより、ディープやオルフェ、ルドルフなんかよりも、お前が最強で、最高だよ。って!?」
うれしすぎて立ち上がっちゃった。大丈夫? 大丈夫だよね。うん。
けど、うれしい。母さんよりも凄くて、2冠馬のゴールドシップよりすごくて、先生に初めてダービーの勝利をプレゼントしたエイシンフラッシュよりも凄くて、名だたる三冠馬よりも凄いと思ってくれてる。
「さあ、口取り式と引退式があるからな。佐崎さんたちに最後の孝行だぞ」
だね。
後日談というか。
引退式は恙なく終わった。残念ながらみんなは引退ということがどういうことなのかわかっていなかったが、僕が簡単に、一緒にレースすることがなくなる。っていうと、クロノがキレていた。どうやら、同じ距離を走る馬で勝てなかったのが僕だけらしく、それが心残りなんだそうな。
有馬記念の前にグランは1足早くマイルCSで引退していたらしく、大魔神が、お前に種牡馬として依頼が来てる。って言ってた。まじかー。もう逃げれんじゃん。
というわけで、僕はいったんだが母のいるノーザンファームに来てのんびりしている。
そのうち種牡馬としての仕事が始まる。
え? お前牝馬相手にちゃんとできんの? って?
あの日、ほんとはグランに興奮してたから大丈夫だよ。たぶんね。
| 【有終の美】ズヴィズダツァーリ有馬記念でレコードの置き土産 |
| 史上初の凱旋門賞馬であり、日本競馬史の結晶、ズヴィズダツァーリが、12月26日に行われた有馬記念を勝利し、有終の美を飾った。
日本競馬を語る上で外すことができない2頭。無敗の三冠馬ディープインパクトと凱旋門賞まであと一歩まで迫ったオルフェーヴルの二頭の血を受け継いだ存在が、その存在を証明して見せた。
2016年3月30日、ズヴィズダツァーリはジェンティルドンナが三冠を達成した陰で2着に泣いてきた名牝ヴィルシーナの初産駒として生まれた。伝説的事件と言って良い2分58秒9を記録した菊花賞を始めとして、その強さを全世界に知らしめた存在は、19・20年に続き、3年連続で年度代表馬に選ばれた。今年は8戦7勝という異次元の強さを見せ、満票で選ばれている。3年連続で年度代表馬に選ばれるのは史上初のことである。
有馬記念での勝利について、主戦騎手を務めた打田ジョッキーは「菊花賞のような戦いができた。スタート直後からお互い意思の疎通ができていたので本当に良かったです。有馬記念が3000メートルならまた30馬身つけられたかも」とコメントしている。
同馬は一度北海道のノーザンファームで放牧された後、種牡馬としてデビューするとのこと。
ズヴィズダツァーリに関する主要な記録。
デビューからG1を含む生涯20連対。 次点は神馬シンザンの19連対。連対率10割ならダイワスカーレット。 芝3000メートルでワールドレコード「2:58:9」を達成。 前記録はトーホウジャッカルの「3:01:0」 史上初春古馬三冠達成。(大阪杯、天皇賞・春、宝塚記念) リーチ馬はキタサンブラック2017で大阪杯と天皇賞・春制覇。 日本馬初の凱旋門賞馬。 前最高記録はオルフェーヴルの二年連続2着など |
出走成績 20戦18勝 国内G1・12勝
獲得賞金総額28億3500万+298万ユーロ
18/09/22/土 新馬戦 2000メートル
1番人気 1着 2:01:8 700万
18/11/17日 東スポ2歳s 1800メート
1番人気 1着 1:45:2 3,300万
18/12/28/金 ホープフルs 2000メートル
1番人気 1着 2:01:2 7,000万
2着 アドマイヤジャスタ 2:01:6 2馬身差
19/04/14/日 皐月賞 2000メートル
3番人気 1着 1:57:9 11,000万
2着 サートゥルナーリア 1:58:5 3½馬身差
19/05/26/日 東京優駿(日本ダービー) 2400メートル
1番人気 1着 2:22:5 20,000万
2着 ロジャーバローズ 2:22:5 アタマ差
19/09/22/日 神戸新聞杯(G2) 2400メートル
1番人気 1着 2:24:5 5,300万
2着 サートゥルナーリア 2:26:3 大差(約11)
19/10/20/日 菊花賞 3000メートル
1番人気 1着 2:58:9(WR) 12,000万
2着 ワールドプレミア 3:03:0 大差(約30)
クラシック三冠 10000万
19/12/22/日 有馬記念 2500メートル
1番人気 1着 2:30:1 30000万
2着 サートゥルナーリア 2:30:5 2馬身差
20/03/22/日 阪神大賞典(G2) 3000メートル
1番人気 1着 3:00:1 6700万
2着 ユーキャンスマイル 3:02:0 大差(約12)
20/05/03/日 天皇賞(春) 3200メートル
1番人気 1着 3:16:4 15000万
2着 フィエールマン 3:16:5 1/2馬身差
裂蹄
20/11/29/日 ジャパンカップ 2400メートル
1番人気 1着 2:22:9 30000万
2着 コントレイル 2:23:1 1馬身差
20/12/22/日 有馬記念 2500メートル
1番人気 2着 2:29:9 12000万 ハナ差
1着 サートゥルナーリア 2:29:9
21/04/04/日 大阪杯 芝2000メートル
1番人気 1着 2:00:2 13500万
2着 コントレイル 2:00:4 2馬身差
21/05/02/日 天皇賞(春) 3200メートル
1番人気 1着 3:12:5 15000万
2着 ワールドプレミア 3:14:3 大差(約10)
21/06/27/日 宝塚記念 2200メートル
1番人気 1着 2:10:7 15000万
2着 コントレイル 同タイム ハナ差
春古馬三冠 20000万
21/09/21/日 フォワ賞(G2) 芝2400メートル
1番人気 1着 2:31:6 13万ユーロ
2着 ディープポンド 2:31:8 1馬身差
21/10/03/日 凱旋門賞 2400メートル
1番人気 1着 2:36:02 285万ユーロ
2着 トルカータータッソ 2:37:62 大差
21/10/31/日 天皇賞(秋) 2000メートル
1番人気 1着 1:56:0 15000万
2着 コントレイル 1:56:1 1/2馬身差
21/11/28/日 ジャパンカップ 2400メートル
1番人気 2着 2:20:5 12000万
1着 ロジャーバローズ 2:20:5 ハナ差
21/12/26/日 有馬記念 2500メートル
1番人気 1着 2:29:2 30000万
2着 ロジャーバローズ 2:30:8 大差
3着 サートゥルナーリア 2:30:8 ハナ
4着 クロノジェネシス 2:30:9 1/2馬身
5着 タイトルホルダー 2:31:1 1馬身
同日引退
生涯成績 20戦18勝(内国外2勝)
黄金一族でどの馬が好き?
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香港ヴァースに泣いたステイゴールド
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日本に残ったドリームジャーニー
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芦毛の千両役者ゴールドシップ
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批判を実力で黙らせたオルフェーヴル
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障害の王オジュウチョウサン
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