黄金の暴君×永遠の二番手=星の皇帝(僕) 作:パンダコパンダ
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the HERO 募集の活動報告
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まだの人はぜひぜひー。
わたくしの学年には、化け物がいる。
その名前はズヴィズダツァーリ。
一見どこにでもいそうなほど平凡な見た目で、綺麗な黒髪と大きなお胸以外は、割と普通だった。坂路訓練を見るまでは。
わたくしはオールマイティだと思ってる。平均的になんでもでき、それが高い位置でまとまってる。だからこそ、坂路訓練だって問題なく行っていた。
わたくしが1番のタイム。まあクロノさんも同タイムだったけど。
それで彼女は3番手。だが、坂路の最後1ハロンは、彼女が一番だった。まさか? という疑問は、選抜レースで確信に変わる。
まだデビュー前とは言え、2500を一着。瞬発力勝負のコースを一番後ろから進めて、大外から一気。最後は流していた。思えば、あの時から格が違った。
そこから、ツァーリさんは追い込みではなく先行で走っていた。
メイクデビューからずっと、日本ダービーまで。不思議に思ってはいたが、スタートが上手でコース取りがうまい彼女をわざわざ後ろに下げる必要がないのも事実。
チームスピカのトレーナーさんが考えた上で作戦を与えていたのだろう。
みんな、ツァーリさんが先行集団を引っ張ると思っていた菊花賞。彼女は、最後方から飛んできた。
無敗のまま二冠を達成した彼女は、本来の力を出していなかった。裏切られた。という気持ちと、どうすれば良いのか分からない焦燥が、わたくしたち同期の中にはあったと思う。遥か先でゴールする白い服と黒い髪を未だに夢に見る。
全力で、三冠を阻止するために戦った面々が、完膚なきまでに叩き潰されたから。
多くの同期はこの時点で競走生活をやめた。わたくしのルームメイトも、彼女のルームメイトも辞めた。
でも、わたくしたちは諦めず、彼女に必死に追いつこうとした。ツァーリさんはそれは嬉しそうな表情をして、あくびしたり、ご飯をよく食べたりと割と自由人な彼女が、とても嬉しそうにわたくしたちを見ていた。
「海外2連勝……」
新聞で見た彼女は、凱旋門賞の勝利トロフィーを片手に持ち、さも当然だという表情をしていた。だが、その衝撃は凄くて、凱旋門賞二着のエルコンドルパサー先輩とはよく走らせてもらっていたから、彼女が取れなかった高みというのを理解しているつもりだった。
明確に、わたくしの目標が、世界で一番すごいのだと理解したのはその日だった。
ツァーリさんは二人きりの時によく仰っている。僕に勝つことができるのは、君ともう一人だけだよ。と。少し悲しそうな笑顔で。
もう一人が誰なのかは分からないが、それはきっと先生との約束に関係してるのだろう。そこに、わたくしもいる。
今日は、わたくしが成長したのを見せる日。
わたくしの適正距離で、下地をきっちり整えて挑む2000メートル。東京の地下バ道の出口で、あの人を待つ。
「来た……」
真っ白なスーツに青色のカッターシャツ。黒色のベストとネクタイ。
胸元には、これまで彼女が積み重ねてきた10個のバッチ。コツコツと鳴らす音が反響していた。
「今日こそわたくしはあな
お前を殺す」
すれ違い様。彼女が一言呟いた。
ちらり見えた彼女の青い眼は、凍てつくような恐ろしさがあり、わたくしは思わず狼狽えた。だが、彼女はそれだけを呟き、そのままターフへと向かう。
仕上がった体つき。オーラ。その全てが、わたくし一人に対して、絶対に勝つと言う覚悟の現れ。メルボルンカップから間短い中で作ってきた、彼女の本気。
「あなたと会えたこと、本気のあなたが挑んできてくれること。その全てに感謝を致しますわ。それでもわたくしは負けません」
わたくしは、光の中にいる彼女の背中に言葉を返す。
化け物? 独裁者か魔王ですわよ。あれは。
『優駿が集まりました。ここ、秋の東京レース場。今日の注目は、世界最強と国内最強のぶつかり合い。去年の秋の天皇賞勝者のサートゥルナーリアが、王者として星帝の前に立ちはだかります』
あまりにも強い気迫に、すでに折れてるウマ娘が何人か居た。やる気があるウマ娘はかなり少ないし、やる気のあるウマ娘も、勝ってやると言うよりかは、良い線行ってやる。と言うような雰囲気。
ツァーリさんの言葉じゃないが、彼女を殺そうとしているのは、わたくしとグランさんの二人だけ。
「やってやりますわ。今日、ここで」
東京レース場は嫌いじゃない。地下バ道を歩くことで足音が反響し気持ちが上がる。外に出た時の明るい空と、スタンドを埋め尽くす大勢のファンに嬉しくなる。そして、絶対に超えたい相手が、最高の仕上がりで戦ってくれる。
『さあ枠入りとなります! 一番人気はやはりこの子。星の皇帝・ズヴィズダツァーリ! 距離の短さをよく話題にされますが、皐月賞、大阪杯、ドバイターフと2000メートル以下でも結果を残しています!
この評価は少し不満か? 二番人気、大衆の祝祭バ・サートゥルナーリア! 去年行われた秋の天皇賞を勝利しており、今年の大阪杯でも、グランアレグリア、クロノジェネシスの二人を叩き潰した傑物が、今日こそ一矢報いれるか。
評価は劣りますが、素質は十分! 三番人気、喝采受ける短距離女王・グランアレグリア。主戦の1800以下ではありませんが、持ち前の切れ味を見せることができれば、距離も関係なく良い戦いができると思います』
13人のウマ娘。その12人の準備が整った。あとは、ゲート入り前もずっと静かに立っていたツァーリさんが、大外枠の8枠13番に入るだけ。
ゆっくりと、芝を踏みしめる音がやけに大きく聞こえた。歓声よりも、ツァーリさんの足音の方が大きかったような気さえもする。そして、全員の準備が整う。
『秋の天皇賞に輝くのは一体どのウマ娘か。期待しましょう。秋の天皇賞今、スタートです』
ゲートが一斉に開く。
「 ッ!?」
スタート同時に、わたくしは目の前の光景に衝撃を受けた。なぜかすでに掛かってしまっている先行のウマ娘が、逃げ策のように飛び出したから。いや、実際逃げたんだ。ツァーリさんの気迫から。
『おおっと飛び出したウマ娘が何人かいるぞ! 明らかにおかしい破滅的な逃げ! 一体何が起きた!?』
逃げも先行も飛び出したことで、バ群が縦に伸びる。ハナ争いではなくただ逃げるための走り。おそらく、彼女たちのトレーナーは悔しそうな顔をしているだろう。
東条トレーナーからよく言われている。ツァーリさんと戦う上で一番重要なのは、自分のペースを守り切ること。春の天皇賞のような長距離は話が別だが、宝塚記念のような2200メートルあたりまでは、自分のペースを守ることで戦える。
あくまでも、あまりにも早いタイミングでの進出によってペースが崩される。崩すのがツァーリさんの強みだと。
そして、煽られた者たちがかなりのハイペースを作る。向正面中盤まで下り坂だから、余計にペースが早まる。対ツァーリさん的に言うとハイペースは歓迎だが、破滅的なのは歓迎できない。
一番後ろにいるはずなのに、まるで真後ろにピッタリと貼りついているかのようなプレッシャー。
なんでしたっけ。こう言う時にツァーリさんがよく言う言葉……。
「あがりますわね」
向正面途中の短い坂を登り、そして再び降る。3コーナー途中にある1番低い位置から、残りは登り。
最終直線で一気に上がるから、ツァーリさんが得意な形。でも、大丈夫。
「わたくしは、わたくしの力で祝祭を受けるッ!!」
それは、初めての感覚だった。
踏み込んだ足の反発によって一気に加速する。いつもと違うような加速に驚きはするが、足に違和感はない。なら、全力で駆け抜けるだけ。
ターフの上に見えるはずのない矢印が見える
先にあるのはただ一つ。
「見えましたわ! わたくしが受ける、祝祭への道が!!」
周囲に人が集まる。集まる歓声。いや、バ鹿騒ぎだ。酒の匂いを感じる。楽しそうな声が聞こえる。これはきっと、祝祭を祝う声。
「行けますわ!!」
前にいる他のウマ娘たち。その間を、どう進めば良いか道が見えた。あとは、それを辿るだけ!
一人。また一人と前を行くウマ娘を交わす度に、わたくしは確信していく。これが、ツァーリさんが菊花賞の時に見せた力だと。
これが、わたくしのための力であると。
『第4コーナー手前でサートゥルナーリアがするするっと間を縫うようにして上がってくる! だがその後ろ、ズヴィズダツァーリが上がってくる! 上がってくるぞ! 先頭集団は飲み込まれる』
前にいた人たちは全員抜いた。あとは、全力であの人の相手をするだけ。
『来たぞ来たぞ世界最強ズヴィズダツァーリ!! 4角を回って残り500メートル!! 祝祭バと星帝の一騎打ち!! まだ差は1バ身半だが、ジリジリとツァーリが詰め寄っている!
祝祭を! サートゥルナーリアに祝祭を! 必死になって逃げるナーリア! だが最後の坂が立ちはだかる! すでに勝者はどちらかだ! 逃げるナーリア! 追いかけるツァーリ!』
「負けませんわ! 絶対に!!」
「勝つのは、僕だ!!」
声にならない声を叫びながら、わたくしたち二人は坂を登り切る。
『残りは200メートル! ナーリア! ナーリアの体勢が有利! ツァーリが並ぶ! 並ぶ! 横並びでゴール!!』
ゴール番を抜けたわたくしたちは、転げるようにして止まる。
「結果は!?」
ガバッと顔を上げ、掲示板を見つめれば、そこに書いてあったのは「写真」の文字。
確定勝ちではないことに悔しさを感じるが、それでもまずは届いた。捉えた。並んだ。
走り終えた他のウマ娘も、スタンドを埋め尽くす観衆も掲示板を眺める。
出された写真には細かな線が引かれ、手前にツァーリさん。奥にはわたくし。ぜーぜーと肩で息をしながら立ち上がった私は、結果を見て天を仰ぐ。
「何がワールドレコードですか……。負けは負けですわ……」
『大接戦! 横並びの死闘を制したのは、世界皇帝のズヴィズダツァーリ!! 判定結果は僅か6センチ!』
勝ち時計の横で点滅する2文字に、わたくしは嫌味を言う。
1分55秒2。6センチ差のわたくしももちろん同じタイムだが、負けは負け。全力を出しても、自分のテリトリーである2000メートルに置いて負けた。
「ズズッ……、ああ、はぁ」
わたくしから遠くないところから、鼻を啜る音が聞こえた。
まさかと思い彼女を見つめると、彼女が大粒の涙を溢れさせていた。
「ツ、ツァーリさん?」
「勝ったよ。やっとナーリアに勝てたよ、先生……」
溢れる涙を拭おうともせず、ターフのど真ん中で空を見つめる彼女は、叫ぶ。
「見てたでしょ、なんで、なんで褒めてくれないんだよ! 先生ッ!!」
左の首元を押さえた彼女が泣き叫ぶ。
いつか教えてくれた、決して届かない「先生」への恩返し。
「ありがと」
「ツァーリさん?」
「ナーリアが負けないって思ってくれてありがと」
何を言っているのかわからず、彼女を見つめていると、ツァーリさんは言葉を続けた。
「ナーリアが負けないじゃなくて、勝ちたいって思ってたら、多分僕は負けてた。だから、ありがと」
涙の跡がついた彼女を見たわたくしは、言葉を失った。
彼女の言い方を考えるに、2000メートルでの実力はわたくしの方が僅かながら勝っていた。だけど、負けたくないと勝ちたいの気持ちの差でわたくしが負けた。
「もういいですわ。ほら、立ってください。泣いて寝転んだままなんて、わたくしたちが追いかけてるあなたじゃありませんわよ?」
「あははー。言うねー」
「あなたには有マ記念で勝たせていただきますので、わたくしの前を進みなさい。必ず勝ちますわ」
「あー。君と有馬は上がるね。最高に。あの世界で君に負けたのも有馬だった。もう上がってこないって思ってた君が、僕を追い抜いた。油断して負けた。許せない負けだった。ナーリアの今日の負けは、許せない負け?」
「いいえ。悔しいですが、気持ちの良い負けですわ。次は必ず勝つって思えるくらいの」
手を引いて立ち上がった彼女は、わたくしの言葉を聞いて笑顔になる。
そして、両手を上げ、右手は5を、左手は2を表す。
「有マ記念で」
「うん。有馬じゃ、全力の潰し合いを」
彼女と共にお辞儀したわたくしは、二人でターフを去る。
「あ、レース中すごく変な感じがあったのですが、ご存知ですか? 力がみなぎると言うか、進むべき道が見えると言うか」
「あー。僕のとは違うけど、領域って言うらしい。ルドルフ先輩が教えてくれた。時代をつくるウマ娘は、必ず入るらしいよ?」
「なら、あなたと戦うことでわたくしも時代をつくってますのね。それはなんというか、嬉しいですわ」
「そう? まあ、僕も張り合いのあるライバルがいるのは嬉しいよ。あとは、もう一人……」
ツァーリさんの目に火がついた。戦う相手は、きっと。あの鹿毛。
「あなたを倒すのはわたくしですわ。負けないでくださいね」
「あはー。君にも負けないからね」
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