黄金の暴君×永遠の二番手=星の皇帝(僕) 作:パンダコパンダ
後日談ーウマ娘ー1:デイ・アフター・トゥモロー 緑と青
有マ記念に勝った翌々日。
「会見? なんで?」
「いや、日本で初めての生涯無敗ウマ娘の引退なんだから当然だろ。それに、昨日にも会見やら取材やらなんやらでいろいろ頼まれてたんだよ。知り合いの人とかからもな」
沖野トレーナーの言葉に、まじかぁ。なんて言葉を呟く。
「けど、会見って今からですか?」
「いや、いまが11時だから、昼飯食って、のんびりして、13時くらいとかたづなさんが言ってたはず。まあ、理事長もいるし、俺も横にいるし、司会もたづなさんだから大丈夫だろ」
「テレビ中継、される?」
「されるな」
「あくびしてたら怒られる?」
「怒られるだろうな……」
「あー。お疲れ様でした」
チームルームのドアノブを取り、扉を開けた僕は、一礼して逃げるように部屋を出る。
「どこに行こうとしてるんですか? ツァーリさん」
「あ、あはは……。なんのことですか? おねーさん」
「ああ、よかったたづなさん。こいつ逃げたら俺たちじゃ無理なんで、ちょっとの間一緒に行動してもらってもいいですか? 無理にとは言わないので」
トレーナーの言葉に対して、たづなさんは了承の言葉を言うと、そのまま僕の腕を取る。
「ツァーリさんはお昼は食べられましたか?」
「い、いや、まだですね」
「良かったです。今日記者の方へ手配した弁当が一つ多くて、よければ控室で食べていただいててもいいですか? 私は会見の最終確認等で動けないので」
そのままかなりの力で僕は引っ張られ、気がつけば会見場としてよく使われる多目的室の裏側にある控室に通された。
「それじゃあまた後でお会いしましょうね」
笑顔ではあるが目が笑ってないおねーさんは消え、僕は控室に一人残される。いや、一人でどうしろと。
とりあえず部屋の中を見渡し、ペットボトルのお茶とニ種類の弁当を発見。てか、二つある時点で確信犯だよね。絶対好きな方食べろ。だよね。お茶も緑茶とほうじ茶置いてるし。
「お、牛タンじゃん。あ、唐揚げもいいなぁ……。二つ食べたら怒られるかなぁ」
うーんとテーブルの上にある二つの弁当を眺めていれば、ピコン。と僕のスマホがなる。
メッセージの送り元は沖野トレーナーから。文面は、たづなさんが二つ食べて良いってよ。とのこと。
「うん。アルミホイル探して頭に巻くか。思考盗まれてるよ。これ」
もちろんアルミホイルなんてこんな場所にはないので、僕は二つの弁当を食べる。
一つは、さわやかネギ塩ダレの唐揚げ弁当。
もう一つは、ガッツリ濃い味! 俺らの牛タン重。
「なーんか掌の上で転がされてる気するんだよねー。おねーさんに」
ほうじ茶を飲み、一息つく。
有マ記念が26日で良かった。大晦日近くまで記者に追っかけられるとか許せんしね。
僕はソファーに体を預け、時間になるまで睡眠を取ることとする。異論は認めん。後1時間ちょっと暇だからね。
「それではこれより、ズヴィズダツァーリさんの引退会見を執り行います」
「出陣! それでは行こう」
たづなさんの言葉に合わせて理事長が声を出す。そして、理事長を先頭に、僕、トレーナーが続いて、会見会場へと入っていく。ちなみに、理事長が頭を下げてから座席の方へ向かったので、僕たちもそれに倣って頭を下げる。
「それでは、理事長、お願いします」
「承知! これより、本学園の生徒であるズヴィズダツァーリによる引退に関する合同記者会見を始めさせていただく」
ここからはテーブルに置かれた式次第に沿ってやっていけば良いらしいので、僕は早速だが始める。
「えー。記者の皆さん。それにテレビ中継までしてくださってるテレビ局の方。集まっていただきありがとうございます。
えー。僕、ズヴィズダツァーリはですね、先日行われました有マ記念の出走でもって、競走生活を終了し、引退させていただきます」
パシャパシャとカメラのシャッター音が響く中、僕はそのまま言葉を続けた。
「えー。今後は、トレセン学園に通う一生徒として、学業を。そして、ブライアン先輩から託された生徒会の長として、学園に通うウマ娘たちのためのことを斯く行っていきます」
そうして、学園長からの話や、沖野トレーナーからの話を経て、たづなさんの司会によって質問コーナーへと移る。
「有マ記念でもって引退ということですが、これまで全てのレースを勝利してきたことをどう思いますか?」
「そうですね。やっぱり、やり切った気持ちですね。全てに勝つ。僕が持っていた、あー。願い? かな。うん、願いを叶えることができて、何より安堵が一番でした。というか、1レースごとに、良かった。今日も勝てた。って気持ちと一緒に」
「これまでのレースで、一番難しかった勝利はどのレースでしょうか?」
質問してきた記者に、一つじゃなくても良いですか? と聞いてみれば、記者の人が頷いたので、秋の天皇賞とジャパンカップだと答える。
「海外のレースとかで色々経験とかもしたけど、やっぱり2000メートルでナーリアを、2400でロジャーを倒すって言うのはすごく難しくて。僕は長距離向きなので」
「先ほど、競走生活を引退。と仰っておりましたが、ドリームトロフィーリーグに移籍する。と言うことでしょうか」
「いいえ。移籍しません」
そう言い切ると、会場はざわざわとし始める。だが、これはトレーナーになる夢を持った時点で決めていたこと。沖野トレーナーと相談した上で中央の上の人たちに伝えている決定事項。
「それは、ドリームトロフィーリーグに行けば無敗が止まるからですか?」
「いいえ。たとえ相手がミスターシービーだろうがシンボリルドルフだろうがナリタブライアンだろうが、全員潰しますよ。ただ、僕は移籍することよりもやることがあるんです」
やることとは? と、多くの目が僕に訴えていた。だから、笑みを浮かべながら答える。トレーナーになると。
「僕は、僕と言うただの存在をここまでしてくれたみんなに恩を返したい。その方法を考えていた時、僕は、僕のような存在を育てることだと思った。全ての愛情を注ぎ、その愛情に応えたいと思わせたい。僕の愛情に応える覚悟を生み出させ、その覚悟に応える成績を残せるように育てるのが目標です」
「それは、世代が弱かったからですか?」
「はぁ?」
おっと、おもわず声が出ちゃった。けど良いや。ちょっと遊ぼうか。
「良いよ? 答えてあげるから全部言いなよ。世代が弱いって言うのはどう言う意図? 意味? 何をもってそう言ってるのかな。世代っていうのは、誰のこと? 僕が思いつく名前を挙げてくから、頷くだけで良いよ?」
隣で沖野トレーナーが頭を抱えていたし、理事長の扇子の文字が『恐怖』の二文字に変わっていたが気にせず行こう。
サートゥルナーリア。頷く。
ロジャーバローズ。頷く。
クロノジェネシス。頷く。
ダノンキングリー。頷く。
他には? と聞いてみれば記者は何も言わないし反応も見せない。
「みんなG1ウマ娘だよ? ダノンはまだ来年も走るらしいけど。ナーリアは秋天と大阪杯。ロジャーはジャパンカップと春天。クロノはグランプリ2連覇。それのどこが弱いのかな。みんな同世代だけじゃなく経験のある先輩たち、若さという力強さを持つ後輩たちと戦って冠を被ってるわけだけど?」
「そ、それでも、貴女には勝てていません」
「だから? 少なくとも彼女たちは僕に勝つことを諦めなかったウマ娘だよ? 1着しか名前を残せないことを知ってて、2着には何にも残らないことを許せないから僕に挑んできた数少ない盟友だよ? 勝ててないから何? 僕は君とは違って、努力を続ける存在の行動を無かったことにはしない」
「そ、そんな事は」
「確かにレースは必ず勝者を生み出す。だから結果が全てだ。でもあんたは、泣いて悔しんで、自分との距離に絶望しながらも、握り込んだ手から血を流して、怪我する直前まで体を追い込み、僕を殺そうとしてきたあいつらのことを知らない。全部を知れとは言わないが、表面しか拾わないあんたに僕達を語る資格はない」
僕は一度息を整えると、用意された飲み物を一口飲み、睨みつける。
「世代が弱い?
脅しはこのくらいで良い? 良いよね? うん。
「っというわけで、僕は高校卒業と同時にトレーナーになるために勉学に勤しんでる。高二からは補助トレーナーとしてチームスピカの練習をみることになります。高卒と同時に中央トレーナーに配属されるようとにかく勉学の日々なので、ドリームトロフィーリーグに行くことはできない。これでこの質問に関する答えは終わり。他には?」
シーンとした会見場。よし。と、僕は立ち上がる。
「質問が終わったから帰るね。なんか聞きたいことあったらトレーナーに。んじゃ!」
「おいコラツァーリ!!」
「ダスヴィダーニャ!」
逃げるように入り口に向かうと、手が掴まれた。視線を向けると、緑の悪魔。
「ツァーリさん? 緑の悪魔ではありませんし、主役が帰るのは良くありませんよ?」
コホン。緑の悪魔ではなくおねーさん。
「戻ってください?」
「はい」
おねーさんのいうことなら聞こう。何度も言うが、目が笑ってない。
「他に何か質問がある方はいらっしゃいますか?」
恐る恐るといった感じで手を挙げた記者が、戦ってみたい相手は? と尋ねてきたので答える。
「幻の三冠ウマ娘と、三冠目をかけて走ってみたいですねー。いれば、ですが。ね? おねーさん」
「幻の三冠ウマ娘。トウカイテイオーさんでしょうか? それならみんな見てみたいでしょうね」
ありゃ、うまいこと逃げられた。まあ良いや。
「それで? やっと話せましたね。幻の三冠ウマ娘さん」
「なんの話ですか? ツァーリさん」
会見が終わり、しばらく。控室のソファーでゆっくりとコーヒーを飲みながら、僕は彼女に尋ねてみた。
「貴女でしょ? 僕をこの世界に呼んだの。ねぇ、僕の厩務員だった、駿川たづなおねーさん?」
「うふふ。本来であればこの世界に来た時に、ほとんど記憶がなくなるはずなんですけどね」
「あの日、僕は貴女に言ったんだ。はっきり覚えてる」
ターフに寝転んだ僕の上に、泣いている耳のついた女の子が乗っかった夢を見るって。
「貴女は言った。なら、その世界に行きますか? ってね。前世の記憶があるのは、僕とゴルシ。そしておねーさんだけだよね?」
「はい。その通りです」
まさか否定しないとは。でも、話が進むからまあ良いや。
「ただ、明確にどうこうとは言えません。気が付けば私は、競走馬の時代に無念のままの引退した貴方のところにいました。ゴールドシップさんは遊びの続きのようですが、私自身、ダービーの後死んでしまったわけで、そのリベンジをしようとこの世界に来ました」
「自由に行き来できるの?」
「いいえ。できません。もう貴方が、あの世界で佐崎さんや打田騎手に会うことはできません」
っち……。無理か。
「三女神様が私をあの世界へ送っているのだとは思いますが、細かいことは分かりません。さっきも言った通り、私も気がつけば友康厩舎で働いていましたから。でも、貴方が栗東トレセンから離れたあの日に、私と同じなんだと気付きました。そこから私はウマ娘側に戻ってきましたが」
「それじゃあ、僕がこの世界に来たのは無念を晴らすため?」
「いいえ、あの世界と並行世界であるこの世界で、あなたが生まれることは予定調和でした。ただ、競走馬時代の貴方と言うウマソウルが強く残ってしまったのだと思います。そしてそれは私やゴールドシップさんも同じかと」
あくまでも、推測の域が超えない。と彼女の言葉は俯き気味だった。
「僕って馬鹿だからさ。摩訶不思議現象の今の状況がなんなのかはわからない。けど、せっかくまた走れてるんだしねー。それに、僕が見て欲しかった人が、僕を見てくれてるのは分かったから。僕的にはもう何も気にしてないんだよねー」
だからさ、その脚また使おうよ。
「え?」
「トレーニング続けてるんでしょ? 伊達にずっと他のウマ娘観察してきたわけじゃないからねぇ。多分一回3000走っても大丈夫だと思う。だからさ、幻の三冠ウマ娘・トキノミノル。貴女が菊の冠に見合うかどうか、歴代最強の三冠ウマ娘である僕が確かめてあげるよ」
「それは……。それは良い提案ですね。二人だけのマッチレース。しますか?」
その日の夜。月明かりだけがターフを照らす深い夜に、緑と青だけが煌めいた。
結果は何も言わないでおく。ただ、彼女はすごかった。彼女が実際に走っていれば、菊の冠をその頭に載せていただろう。そう思えるくらい円熟した走りと、強さだった。なお、Bターフ3000メートルの僕の参考記録は、2分57秒6になったとだけ伝えておく。
そして、もう一つ。
「見事! 最高の戦いだった!!」
栗毛の小さな女性の言葉は、ターフを眺めることのできる学園長室の中だけで留まったことは、言うまでもない。