黄金の暴君×永遠の二番手=星の皇帝(僕) 作:パンダコパンダ
難しいね。書くのってね。
「トレーナー……。キタ、どうする?」
「どうするって言ってもなぁ……。スプリングステークス勝っちまったんだし、皐月賞出させるしかないだろ」
「まあ……。だよねぇ」
キタサンブラックの本格化はもう少し先だと考えていたけど、年初一発目に間に合ってしまい、メイクデビューと一勝クラスと3戦目のスプリングSに勝ったため、三連勝で皐月賞の優先出走権を手に入れた。
「勝てると思うか?」
「無理。3着に入ればいいところ」
僕も沖野トレーナーも考えは同じらしく、揃って頭を抱える。
果たして一体どうするか。
スローペースならともかく、ハイペースの2000を走り切れるスタミナはあるか? 答えは五分五分。
ハイペースでも足を溜められる器用さはあるか? いいや、ない。
最後の直線で大外回って走り抜けられるようなパワーは? あるわけがない。
「作戦授けるってもなぁ。あいつ割と不器用だしなぁ」
「スローペースなら先頭。無理なら2〜3番手で抜け出す。になるよね」
「だな」
「お疲れ様です!!」
二人だけのチームルームにやって来た元気な声。
キタサンブラックは、僕とトレーナーが向かい合わせに座ってるのを見て急に静かになり、そそくさと隅の椅子に座る。
「あ、あの、何を話してたんですか?」
「何って……。そりゃあ」
「キタの皐月賞について」
「おいツァーリ!」
隠してても無駄なことだと僕は思うから、直接言おう。
体の向きを沖野トレーナーからキタの方へ移すと、話しかける。
「悪いけど。包み隠さず言うよ。変な期待を持つ方が、僕は良くないと思うから」
そう前置きを置いて言う。皐月賞は上手く行って三着だと。
もちろん勝つために練習している以上、キタはその目を見開いて驚く。
「もちろん、僕はキタが一着を取れるように指導している。ただ、今年本格化予定のドゥラメンテが、シンプルに言ってやばい。鬼脚だ」
ターフで練習している姿をみて色々とシミュレーションをしてみたが、勝つ確率は低い。他にもリアルスティールと言うウマ娘も状態が良い。
「キタ。今のお前は一番早いウマ娘じゃない。運を味方につけるか、足を壊すつもりで走るか。勝つなら二択だ。だから、提案だ」
僕の提案。それは、菊花賞に狙いを定めて、皐月賞、ダービーは流す方法。トウカイテイオーに憧れてる彼女なら、絶対に受け入れない提案だろう。だけど、僕は言う。
「キタがクラシック三冠で勝てるとすれば、それはきっと菊花賞だ。10月に入れば体もしっかり完成してる。それまで耐えることを、僕は提案する」
そして、僕の提案に対して、キタからの返答はもちろん、いいえ。
「わたしは、トウカイテイオー先輩みたいに、強くてかっこいいウマ娘になるんです。勝てない? 運がいる? 壊せば勝てる? 違いますよツァーリ先輩。絶対である先輩の言葉が本当だったとしても、私は走ります」
強い目。良いね。それくらいじゃないとね。
「キタが勝つためには、何個か条件が揃わないといけない」
一つ、芝の状態が良であること。
二つ、ゲートが内側であること。
三つ、ペースがスローであること。
四つ、体力のロスを極力減らすこと。
「四つ目は自分の力だから良いとして、残りの三つは完全に運になる。しかも、運要素の三つが揃っても、厳しい戦いになる」
「覚悟の上です」
「キタの良いところは速いペースをある程度保てること。ただ、逃げほどのハイペースには持っていけないし、しっかりとしたラップを刻めるほどの器用さもない。だから、残り1週間で付け焼き刃にしかならないだろうけど、ベース刻んで、下りで溜める練習するよ」
キタサンブラックには、憧れのウマ娘が二人いる。
一人は、無敗の二冠ウマ娘であるトウカイテイオー。強く、カッコいいウマ娘。幾度となく怪我から這い上がり、引退レースとなった一年ぶりの有マ記念。伝説的なレースは有マ記念の中でも5本の指に入る名レースだろう。
そして、もう一人のウマ娘であるズヴィズダツァーリ。全てのウマ娘の目標。絶対の体現者。世界星帝。ウマ娘の終着点。呼ばれ方は色々あるが、どのウマ娘にとっても憧れである全戦全勝のレジェンド。
そんな二人のウマ娘に憧れてるキタサンブラックは、何の運命か、二人が所属するチームスピカに入団し、トレーナーを目指すツァーリの指導でもってデビューからの三連勝を達成した。
そして大舞台。4月中旬の中山レース場に集まった、未来あるウマ娘によるクラシック一冠目。皐月賞。
芝の状態は良。枠は7番で微妙。ペースは始まらないとわからないが、足が溜めれるかも微妙。つまり、勝負はわからない。
「キタちゃん! 頑張って!」
「うん! ダイヤちゃん!」
幼馴染の言葉の他にも、先輩たちから激励の言葉をもらう。ツァーリ先輩は、一言だけしか言ってくれなかったけど、やりきってこいって。
「よし、張り切っていこう!」
そう言って気合いを入れたキタサンブラックがゲートに向かった。
「キタちゃんは勝てるの?」
「いや、五分五分って感じ。内枠なら70%くらいは勝率あったんだけどね」
ホームストレッチの最前列。僕の横に来たテイオー先輩に答える。なら勝てるじゃん。なんて笑顔で言うテイオー先輩に、僕は頬が引き攣った。
「だってさー? 一着になる可能性が50%で、二着以下になる可能性が50%なら、どの着順よりも一着になる確率の方が高いじゃん」
うわー。暴論ぶちかまして来たぞこいつ。やべー。
「トレーナーさん? 作戦とか授けたんですか?」
「いや、ただ、ツァーリがな?」
「うん。スタートだけしっかりねって。前で戦えさえすれば、多少太刀打ちはできるって」
4コーナー出口に設置されたゲート。
珍しく、15人しか揃わなかったこのレースの出走者が全員準備を整えた。
「出たっ!」
一斉に飛び出したウマ娘。キタは問題なく出れたらしく、正面を登る。
「内に寄ってかないけどいいの?」
「うん。何より中山は起伏が多いし、1コーナーまではなんだかんだ言って400くらいある。だから、登り切って、カーブに合わせて内に入ればいい」
スタートで飛び出すことができたキタは、単独2番手で内側に入っていく。
そのままバ群は落ち着いている。
「教え子のレースって、ハラハラするだろ」
「だね。不安だよ」
しっかりと前を見つめながら走るキタは向正面。僕たちはスクリーンを通して彼女の走りを見る。状態は良い。位置取りも良い。前にいる逃げから半分外に出て足元の確保はしっかりできてる。
「3角。行け……」
先頭のウマ娘からは2バ身ないくらいしか離されていない。ただ、後ろはピッタリ張り付いていて、完全にマークされている状態。僕ならもう少し外側に寄って、多少距離をロスしたとしても最終直線で自分の道を確保しに行く。
キタは? 内か。
多少の隙間を設けていた内側を閉めたキタが、4コーナーを回って直線に入る。一人すごく外へ離れたように見えたが、キタは前にいたウマ娘を抜いて現在一番手。
「行けっ!」
「頑張れ! キタちゃん!」
「あと少しだ! 行けキタ!!」
スピカの面々を通り過ぎて彼女は笑顔のままゴール板へ向かう。
「ダメだ。差される……」
「え?」
外側へ出たドゥラメンテが、異常な速度で捲ってくる。
ダイヤが目を見開き、トレーナーが口から飴を落とす。
「おいおい、マジかよ……」
先頭抜け出したキタをドゥラメンテが急襲。先頭でゴールしたのは、法被のような勝負服をしたキタでは無かった。
「中山2000であの末脚とか、ヤバすぎんだろ」
あの脚、僕でも逃げ切れるか怪しいところ。2400になれば問題ないけど。キタはあれから逃げ切らないといけない。と考えると、足りないところは沢山ある。
「スタミナだよね」
「だな。最後にあと一伸びできれば逃げ切れてただろうから、脚の溜め方とスタミナ。重点的にいこう」
「この際瞬発力は切って良い? 伸びるところより伸ばさないといけないところ。パワーよりもスピードとスタミナ重点的に行きたい。ダービー勝たせたい」
「分かった。プランだけ考えて纏めとけよ。今のところお前のやり方に変なところはないけど、念のためな」
僕が指導する一人目の皐月賞は、2バ身差の二着でスタートした。