黄金の暴君×永遠の二番手=星の皇帝(僕) 作:パンダコパンダ
オルフェみたいな、お前ら如き本気出せば千切れるんじゃって感じのが。
「なぁなぁマックイーン。メジロ家の力で中山レース場一日貸切にできたりしないのか?」
「突然何を言ってますのゴールドシップさん! できるわけありませんわ!!」
大概、チームスピカの中で突飛なことを言い始めるのはゴールドシップだと相場が決まっている。
その例に漏れず、放課後のチームルームでキタのトレーニングをまとめたファイルと睨めっこをしていた僕と、上半身を鍛えるトレーニングを試してもらっていたマックイーンの間にすごいことを言ってきた。
「どうして中山? 東京の模擬コースあるでしょ? Cターフとかてか中山とは逆回りだけどBターフもあるし」
「そうですわ。わざわざ中山レース場を丸々貸切する必要がないじゃありませんの」
ゴルシの突飛なことに対して、完全な正論で返す僕とマックイーンに、珍しくゴルシは真面目な顔を見せた。
「有マ記念。勝ちたいんだ」
「えっ?」
マックイーンの驚いた声。だが、ゴルシは続ける。
「やり残したことがあんだよ。せっかくウチパクが屋根だったのに、びっくりするぐらい足残ってなくてさ。ついでに、スピカで一番古参なのはアタシだろ? アタシたちの期待の新人であるキタも出るわけだし、最初で最後にいいもん見せてやりテェじゃん?」
「ゴルシさん……」
「てかぶっちゃけ言うとそろそろ走ってやんねぇと退学にしますってたづなさんに言われた」
うん。なんとなくわかってたよ。うん。お前はそう言うやつだ。ちょっと浸った感傷を返しやがれこんちくしょう。
「けど、有馬は人気投票制だよ? 出られる?」
最近レースに走っていないゴルシに対して、僕は真っ当な質問をする。
だが返ってきたのは、怪しく笑う彼女の声。
「おいおいツァーリさんよぉ。アタシが誰だか忘れたのか?」
二冠の千両役者だぜ?
キメ顔してるけどお前宝塚でやらかしてんだよ。大魔神がお前にブチギレてたからな?
「んで? 僕たちにどうして欲しいの? って言ってやることは一つだけどさ」
「おうよ! このゴルシちゃんと一緒に世界の果てまで行ってツタンカーメン像に、落書きしてやろうぜ!」
「絶対に致しませんわ!!」
立ち上がって叫ぶマックイーン。愉快そうに笑うゴールドシップ。そしてその二人に呆れる僕。
「お疲れ様でーす! って、あれ? どうしたんですか?」
こんなカオスな状況にやって来たキタが、不思議そうにしているが、時間は有限。やれる時にやれることしておかなければ勝つことはできない。
「悪いけどキタ。当分の間、トレーナーに練習見ててもらっていい?」
「え? あ、はい。大丈夫ですけど……。何かありました?」
「とあるいちご大福にね、黄金の旅程を歩ませないといけないからね」
通じるわけのない言葉を伝えた僕は、一つ伸びをする。
「行くよゴルシ。あの人見つけてくれたお礼もあるし、ストレッチして併走。いい?」
「うぉー!! 出走じゃい!!」
僕の呼びかけにニヤリと笑ったゴルシは、チームルームから飛び出そうと動き始める。というか、飛び出そうとした。
ふーん。そうか。そうなんだゴールドシップ。
比較的ドアの近くにいた僕は、横を通り抜けようとしたゴルシの襟を掴み、動きを止めると、ぐぶぇ!? と情けない声を出したゴルシに言う。
「ストレッチもせずに強めの走りしたら、殺す」
「つ、ツァーリさん!?」
「あ、私よく言われてるんで通常運転です!!」
「ツァーリさん!?」
◆◇◆◇◆
「実際のレースってどうだったの」
「ん? 1着じゃなかったことは確かだぞ?」
「ラストランくらい覚えておきなよ」
どうだっけなぁ? なんて両手を頭の後ろで組みながら空を見るゴルシ。ただ、口元はいつもの笑いを浮かべているものの、目は笑っていない。悔しさがあることを見せてる。
「まあこれから1週間真面目にトレーニングするなら、手伝ってあげるよ」
「お? マジィ!? よっしゃー海行こーぜ!!」
うん。一回シバこう。
と言うわけで始まった練習。ターフを一緒に並走したり、坂路の練習をしたり。キタとは違ってフォームどうこうのレベルじゃない以上一緒に走る以外の大きな練習はない。
まあ他にするといえば、ウェイトトレーニングの補助とか。
彼女がちゃんとしたトレーニングをしていることに、スピカの面々だけでなく、リギルの東条トレーナーなんかも驚いていたが、正直僕だってここまで真面目に練習するとは思っていなかった。
ただ、これまでかなり不明瞭だった彼女の能力を知ることもできた。
スピードはそれほど速いわけじゃない。ただ、上げ続ける能力は僕並み。
パワーに関しては僕よりも上なのではないだろうか? 皐月賞での彼女の走りを見させてもらったが、荒れた内側を走り抜ける度胸とパワーは桁が違う。
スタミナも無尽蔵。京都外回りの3コーナーから仕掛けて、ゴール後まで持つ奴は僕の他に彼女とミスターシービー先輩くらいじゃないだろうか。
そして根性は分からんが、ことレースにおいての賢さも抜きん出てる。それ以上に自分が楽しければいいと思ってしまうところが傷だが。
レッグプレスマシンも僕の想定する二つくらい上の重量を上げてるしね。
まじで身体能力お化けだよ。このウマ娘。
と言うか、普段スイカ割ったり将棋したりふざけたことしてるけど、ちゃんと練習すれば負けなしなんじゃないか?
「どうやって勝つつもり? 有馬」
「そりゃいつも通りだろ。このゴルシ様は向正面で上がって、逃げるキタを抜いて……。何がなんでも勝つ。クソ親父もオルフェも最後は勝ったんだ。アタシも勝てる。そう思うだろ?」
「僕に振るな。知らんよ」
レースは何が起きるか分からんからね。
◆◇◆◇◆
『中山に響き渡る大歓声! それを一身に受けるのは、得票数1位! 12万の期待を受けた黄金の不沈艦ゴールドシップ! もちろん一番人気!』
「ゴルシが真面目に走るって、今まであんのか?」
「さあね。本気で走ってるところなんて見たことないもの」
「つ! ツァーリさん!」
「あれ? フェリペ。それにせん……。ヒロ」
「お久しぶりです」
スタンドの最前列にいたスピカの面々。ウオッカとダスカの二人が話す中、僕にかけてきた声の方へ顔を向けると、そこにいたのは有馬記念以来に顔を合わせたグロリアスフェリペとヒロユキの二人。
「ゴルシの応援?」
「はい! といっても、ヒロ君が絶対に行くって言って聞かなくて」
あははー。と頬を掻くヒロユキ。そういえば、最後の鞍上は先生だってゴルシが言ってたからその繋がりかな? まあいいや。おけおけ。
「トレーナー」
「どうしたツァーリ?」
「ゴルシがスタート出遅れるに初任給」
「いやいや、流石にそれは」
『有マ記念、ゲートが開きました!! 15番ゴールドシップやや出遅れたか! ずっと後方に下がります!!』
くくく。と笑う僕と、口をあんぐりと開けてしまったトレーナー。
正直なところ、ゴルシの引退なんて知らない。どんなレースをしたかは知らないし、どんなふうに負けたのかも知らない。引退の美学。なんて言い方もあるし、勝ち切って引退や沈んで引退することにそれぞれ思うこともあるだろう。
「引退の美学って何かわかる?」
「なにって、そりゃ勝つことだろ」
そんなトレーナーの答えを僕は否定した。
「勝とうが負けようが、引退レースには関係ない。普段なら勝てっていうけど、流石の僕も引退レースだけは違うと思う」
「じゃ、じゃあ、ツァーリさんは引退レースの捉え方はどう思うんですか?」
おっと、フェリペが頑張って聞いてきた。良い子良い子。頭なでなでしてやろう。おっと、ゴルシがホームストレッチ前で観客にめちゃくちゃ笑顔で手ェ振ってやがる。流石にやりすぎ。
「この世界のウマ娘は、比較的息が長い。それでも、故障は起きやすいし、疲労だって溜まる。それでも引退になるまで自分達を見てくれた人たちは大勢いるわけで、どんな子にだってファンが付く。なんてったって1人目のファンはトレーナーらしいし?」
その言葉でダスカとウオッカがトレーナーを見つめるが、件のトレーナーはそっぽを向いた。恥ずかしいんかい。
「だから、そのファンのために、元気で戻ってくるのが仕事。勝てるなら勝つ。負けそうでも全力で走る。あくまでも僕の主観だけど、引退の美学は、しっかり走り切る。それに限る」
それがステゴもオルフェもやってきたことだから。僕はそれしか知らないのもある。
「サクラバクシンオー先輩みたくレコードで勝てだなんて言わない。でも……。エレクトトップ見たく予後不良なんて絶対にしちゃダメだ」
エレクトトップ? と聞きなれない言葉を聞いたせいか、フェリペは首を傾げる。
そんな彼女の頭をまた僕は撫でた。あの子はこの子の全弟だ。あの子もこの世界にいるなら、絶対に最後まで、せめてトゥインクルシリーズは完走させないと。
「てかさー。レースはいいの? ゴルシ上がってきたよ?」
「行っけぇー!!」
「ゴルシー!!」
向正面。最後方にいたゴルシがどんどんと外側を通って上がっていく。2コーナーからの向正面は下り坂だから、僕やゴルシのようなタイプにはすごく走りやすい形状。
「行ける」
『向正面で芦毛の千両役者ゴールドシップが上がってくる! スルスル上がって外側3番手! 先頭は依然変わらずキタサンブラックですが内側からゴールドアクターも良い位置に着けているぞ!』
1周目とは違う目。何を考えているかわからないほど眩しい顔で走っていたさっきとは違い、今はただ、先頭だけを見つめている。
たづなさんが言っていた、無念を晴らす旅。それが僕やゴルシがここにいる理由。僕はあの二敗を。ゴールドシップはこのレースを勝つための旅路。いや、僕は星だし彼女は船だから航路かな?
「ゴルシ! 行けっ!!」
「ゴールドシップさん!」
「シップ、行け!」
先生。いや、ヒロユキが声を出すと同時に、彼女は先頭を、キタサンブラックを捕まえた。
「キタちゃん!」
「キタちゃん頑張って!」
『逃げるキタサンブラックをゴールドシップが捉えるか!! 並んだ、並んだ、まだ僅かにキタサンブラックが出ているが、坂道巧者ゴールドシップ! 内側のゴールドアクター少し届かないか!?』
『内か! 外か! 並んだままゴール!! 僅かにゴールドシップ、ゴールドシップが勝っていたでしょうか!!』
掲示板の1と2だけ光らないまま、残りの三つが埋められた。
3着はゴールドアクター。史実ではこの有馬を制した伏兵。
そんな中、ターフのど真ん中ではゴールドシップとキタが何かを話してる。2人とも朗らかな表情。
あれ? ゴルシがキタに後ろ向かせた。何をするんだ? あいつ……って。
「張り切って! 来いっ!!」
バシンッ! と彼女の背中を叩いたゴルシは、掲示板の一番上に15が映ったのを見ると、改めて観客に向けてピースを見せつけた。そして、しっかりと深いお辞儀。
場内は割れんばかりの拍手、そして、ゴルシコールで埋め尽くされる。
それは、これまでの世代の終わりを告げるような、新たな物語の始まりのような空気で満ち溢れていた。