もしも歳が離れていたら   作:夕暮れの家

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番外?ー2

中野家五つ子の長女、中野一花は基本的に自由奔放である。彼女の行動に規則性は無い、その時々の気分によって全く異なる選択肢をとるだろう。

同じように彼女が興味を向ける対象も、短い周期で移り変わっていく。長く続かない、という意味で“三日坊主”なんて言葉があるが、三日持てばいいほうだ、大体の場合次の日になれば違うものに興味は移っている。

その様子を見てまるで気まぐれな猫のようだ、なんて言ったのはどこの誰だっただろうか。

言い得て妙というのはこのことだろう。中野一花という少女の行動はまさに気まぐれな猫そのものだ。

しかし、ここ最近そんな彼女の興味を引き続ける存在がいる。何を隠そう、家庭教師として度々自宅にやってくる高校生である上杉風太郎の事だ。一花が風太郎に興味を抱き始めて早一か月がたとうとしている。基本的に三日も興味が続きやしない一花にとってはこの記録は驚異的である、いや、もはや空前絶後の出来事だといえる。

実は風太郎の何が彼女をこうまで惹きつけるのかは実は一花自身にもよく分かってはいないのだ。最初はかわいい妹である五月を元気にしてくれた人であるから近づいてみただけなのだから。

 

朝、布団を頭から被り起床を全力で拒否しながら覚醒しきらない頭の中で最近の興味の対象である頭の上に双葉を咲かせた変わった年上の家庭教師について思いを馳せる。なぜだか分からないが自分の興味を引き付けてやまない存在だ。

…なんでだろ?

きっとからかうと反応が面白いから、きっとそうだよね。普段はそっけない反応ばっかりだけど不意打ちした時は本当に面白い反応してくれるんだよね!ふふ、あれはわらっちゃったなぁ。

それに、私がどんなこと言ってもちゃんと聞いて…くれるし…。

四葉や五月ちゃんに勉強を教えてあげてるところを見てたらなんかね、お兄ちゃんがいたらこんな感じかなぁ、なんて…。

ううん、ダメだよ。私はお姉ちゃんなんだからもっとしっかりしなきゃ。こんなんじゃだめだよね。

あっでも四葉、朝は弱いからもうちょっと寝かせ──

「もー!起きてよ一花ー!」

あぁっ、おふとんが!あぁーーーっ!

「~~♪~~♪」

鼻歌交じりに学校の敷地内をぶらぶら歩く、手は後ろに組まれており、そしてそこには弁当の包みが持たれていた。当然一つ下の妹である二乃が作ったものである。一花は料理ができないわけではないが、学校に持っていく弁当を自分で作ることはない、否、出来ない。

なぜなら朝は起きられないから、起きることが出来ないから!

とまあそれは置いておいて今の時刻は昼休み、一花は校内で弁当を食べるのによさそうな場所を探して歩いているのだ。実はこの学校、だてに小中高が一つの敷地内に収まっているわけではなく、無駄に広いのである。

風太郎だって入学してから二週間くらいは迷った、そりゃあもう迷った。五月と同じくらい迷っていた可能性まである。実は風太郎と五月が初めて会ったあの時、五月が何事もなく高校の食堂までたどり着き、そして何事もなく自分の教室まで戻ることが出来たのはある種の奇跡だったのだ。

それがなければ彼と彼女達の今の関係もあり得なかった訳で。

そう思うと神様というのも時たま、粋な計らいをするものだと思えてくるものだ。

一花がなぜわざわざそんな広い敷地内で昼食をとる場所を探しているのかと言えば、単に好奇心からである。いつもは姉妹五人で集まって食べているのだが、時折気が向いたときにこのように敷地内を探検して気に入る場所がないか探しているのだ。

ちなみに目指すはこの無駄に広い校内の完全制覇である。

一花が探しているよさそうな場所は基本的に静かな場所や日当たりがいい場所、あったかい場所、リラックスできる場所……

本人は認めないだろうが、完全に猫が好むような場所だ。

以上の事より中野一花は猫である。Q.E.D.証明完了。

異論反論抗議質問口答えは一切認めない、これは世界の真理である。

…はっ!…まぁこれも置いておきたくはないが置いておくとしよう。

そんなわけでよさげな場所を探してあるき回っているのだが一向に見つからない。どうしようかなぁと思いながら更に歩いていると、ふと見慣れた後姿が目に入った。無論、風太郎である。どうやらいつの間にか高校の敷地内まで入り込んでいたようだ。

相変わらず同年代に友達がいないのか一人で、それに加えてまだこちらに気が付いていない風太郎を見て一花の顔に無意識のうちに笑みが浮かぶ。

よぉし!

そう気合を入れて走り出した一花は、まったく気づく気配を見せない風太郎の背中に勢いよく──

「フータロー君っ!」

「うぉおっ!?」

体当たりを食らわせた。さすがに倒れはしなかったものの驚いた声を出してよろめいた風太郎をむふーっと満足気に眺めた後、お誘いをかけてみる。

「お昼一緒に食べようよ~?」

「い、いてて…。なんだ一花か。嫌だぞ俺はこれから食堂に行くんだ。」

「え……、ひどいよフータロー君、折角そのためにここまで来たのに…。

うぅ…、ぐすっ。」

「あぁ分かった!分かったから泣くな、な?」

「やったー♪じゃあどこで食べる?フータロー君いい場所知ってる?」

「っておい!引っ張るな!せめて購買でなんか買わせろ!おい一花!」

「さあ行こ!」

結局風太郎が昼ご飯を購入することはできなかった。

「…で?何か言い訳は?」

「ごめんなさい…。」

場所はその後すぐに見つかった日差しが暖かく居心地とても良いところ、そこで一花は風太郎に尋問?説教?を受けていた。

「じゃあなんだ?お前は何の理由もなしに俺の腰に突撃して、ついでに俺が昼飯を買うのを妨害したと?」

「はい…、そのとおりでございます…。」

うつむいて返事をする。風太郎の顔は見えていないが、少し怒っていることくらいはそれでもわかる。

…嫌われちゃったかな、フータロー君、行っちゃうのかな。

恐る恐る風太郎の方を伺うと、風太郎ははぁ、とため息を一つついた後、一花の頭をガシガシと撫でた。

「んな顔すんなよ…、ここまで来たんだからお前が弁当食べ終わるまでは付き合ってやる。

ほら、早く食べろ。」

「えっ?う、うん…。」

予想外の言葉に少し動揺したが同時に安心もした。だってこれで風太郎は自分がお昼ご飯を食べ終わるまではいてくれるのだ。

…でも、隣で手持ち無沙汰になってしまっている風太郎を見て罪悪感がつのった。そして、何も持っていない風太郎と自分の手の中の弁当を見比べて、あることを思いついた。

「フータロー君、はい。」

「…その卵焼きはなんだ。」

「あげる、お昼ご飯ないんでしょ?」

「それを食べろと?」

「うんっ!」

「はぁ…、分かったよ。」

この時一花は全くそんな気はなかったのだが、風太郎の側に立つとこの会話はこういうことである。

「…その(差し出してる)卵焼きはなんだ。」

「あげる、お昼ご飯ないんでしょ?」

「それを(そのまま)食べろと?」

「うんっ!」

「はぁ…(こいつは言い出したら聞かないしな)、分かったよ。」

つまりどういうことかというと…、一花が風太郎にいわゆる“あーん”をしたことになるのである。

ぱくっ

「っっ!?!?」

「おお、美味いな…。どうした一花?」

「な、ななな何でもないよ!?うん!」

当然そんな気はなかった一花は動揺する。

え?何でフータロー君そこから食べたの?これじゃあ私がこのお箸使って食べたら。

…間接キス…、だよね…?

「ふ、フータロー君!残り全部あげるよ!」

「ん?いやお前全然たべてないじゃないか、流石にそれは悪い。」

「い、いいのいいの~、私おなかいっぱいだから!」

「そ、そうなのか。なら遠慮なく…。」

そう言って食べ始めた風太郎を見てさらに気づく。あれ?私あのお箸使って食べてたよね?じゃああれも…間接キス…?

予想外のことが重なりすぎて膝を抱えてうずくまってしまう。漫画やアニメならば確実に頭からプシュー、と煙が出てきていただろう。

そんな一花の様子を見て何かを勘違いしたのか、風太郎が声をかける。

「なんだ一花、眠いのか?なら今のうちに寝ちまえ。」

そう自分の膝を叩きながら言った。それは風太郎にとっては何気ない動作だったのだが、その時の一花を侮るなかれ。全く正常な判断ができていなかった。

「うん…。」

そういうと、胡坐をかいていた風太郎の足の間に乗り込んで体を丸めたのだ。

その様子は、まさに猫のよう。これは小6にしてはまだまだ一花が小柄だったから出来たのだろう。

そしてそんなにその場所は気持ちよかったのか、すぐにねむりこんでしまった。きっとその場所の日差しの良さも手助けしたのだろう。

「おい一花?はぁ…、ダメだもうねてやがる。」

対する風太郎は諦めの境地に達していた。黙々と弁当を食べ進めた。

…だが、ここで誤算があった。小学生女子の弁当とはいえ、それはいつも風太郎が食べている焼肉定食焼肉抜きに比べればおおかった。

そして、二乃が作ったものであり、味も学食の物と比べて上である。

そんなものをこの日差しがよく暖かい場所で食べたらどうなるか…。

解:寝る

その後、放課後まで寝た二人はたっぷり警備員と教師に叱られましたとさ。

 

 

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