もしも歳が離れていたら   作:夕暮れの家

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第15話

二乃が出て行ってしまった後、その衝撃から一番に立ち直ったのは風太郎だった。

「くそっ!」

そう溢し、先程二乃が出て行ってしまったドアの方に走り出そうとする。いくら一般的な男子高校生に比べ大きく下回る運動能力を誇る自分でも、相手が小学生女子ならばまだ追いつける可能性があると、そう踏んだのだ。

確かに、その絶望的に低い運動能力に定評がある風太郎であろうと、その時点で全力疾走で追いかけることが出来たのなら、ギリギリ、そうギリギリ二乃に追いつくことが出来ただろう。

ただ、そうはならなかった。走り出そうとした風太郎を止めた者がいたのだ。

「いいよ、フータロー。二乃なんてほっとこうよ。」

風太郎の服の裾をしっかりと掴んだ三玖はいかにも不機嫌だと主張しているかのように少しその頬を膨らませ、心なしか目つきも何時もよりも険しかった。。その機嫌の悪さに比例するように、服を掴む手にも力が入っている。走り出そうとした風太郎を止めるために掴んだので、自然力がこもってしまったのだろう。もっとも、もしそんなに力をこめていなかったとしても風太郎は服を掴まれた時点で止まっていただろうが。

「三玖、放してくれないか?」

「…いや。」

「はぁ…、何に怒ってるんだ。」

意地でも放さない、というようにもう一方の手も加えてぎゅうっと服を捕まえたままいやいやと首を振る三玖に少し毒気を抜かれた風太郎は、そのまま振り返って尋ねる。

「だって…、フータローにひどいこと言ったもん。」

「そうですよ、あんなこと言う二乃なんて知りません!」

その一言にそれまで黙っていた五月も乗っかり、四葉もその後ろでその通りだと言わんばかりの顔をしている。唯一、二乃と四葉の間に入り止めようとしていた一花だけは、そんな妹たちの様子を見てオロオロしている。

家族というものは不思議なものだ、親しいが故、近すぎるが故にどんなに大切な存在だったとしても時にその距離を見誤る。どうでもいいと切り捨てても、きっと次の日には元に戻ると知っているから、そう思っているから。

…ただ、それでは間に合わないこともあるから。もう手が届かなくなってしまうこともあると風太郎は知っている。当たり前だと思っていても、何時だってそこにあるものだと信じ込んでいても時に細かな砂のように形を成さずに両の手から零れ落ちてしまうことがあることを知っている。

だから、この状況を肯定するという選択肢は彼にはなかった。

「三玖、四葉、…五月もだ。それはダメだ。俺のために怒ってくれたのは嬉しいがな。」

そんなことは滅多に起こらない、そうだったとしても可能性が少しでもあるなら潰さなければならない。

もうすでにこの子たちは一度亡くしているのだから。

「二乃は一人で外に行ったんだ、あんな状態だから注意力散漫になってるだろう。

もし車にひかれたら?誘拐でもされたら?……二度と会えなくなるかもしれないんだぞ。」

風太郎の話を聞いているうちに四人の顔色がどんどん悪くなっていく。一人だけどうしたらいいか分からずにオロオロしていた一花もそこまでは思い至っていなかったようだ。

「に、二乃が…。」

先程まで行かせまいと風太郎の服を掴んでいた三玖もすっかり顔を青くして二乃の事を探しに行こうとしている。他の三人も似たようなものだ。

それこそ、止めなければ全員が冷静さを欠いたまま外に飛び出していってしまいそうな様子だ。

…ただ、それでは無闇に危険を増やすだけだ。

「ま、待て待て落ち着け。二乃は俺が探してくる。

そうだな…、四葉、ついてきてくれるか。」

「なんでよフータロー君!皆で手分けして探したほうが──」

「落ち着け一花、そんな慌ててるのに皆バラバラになったら危ない。俺が行ってくるから留守番しててくれないか、な?」

「う…、で、でもじゃあなんで四葉は…。」

「お前ら皆顔一緒なんだから一人はいたほうが人に聞くときいいだろ、それに四葉なら髪型も近いしな。」

「……分かった。」

「よし、良い子だ。三玖と五月もいいな?」

「……うん。」 「…分かりました。」

「じゃあ行くか、四葉も──

…四葉?」

全員が納得してくれたところで今度こそ行こう、と四葉に声をかけたが俯いたまま動く様子がない。不思議に思い近寄ってその顔をのぞきこむと四葉は──

顔を青くし、異常なほどに震えていた。

私が二乃に強くいったから、私がおおきな声をだしちゃったから、わたしがせめるようないいかたをしたから

──でも、二乃は風太郎君に酷いことを

それでも、あんな言い方はなかったんじゃない?もっと言い方があったんじゃない?あんな言い方をしなかったら、二乃は──

私が、私が、私が、私が、私が、私が、私が、私が、わたしが、わたしが、わたしが───

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ!」

息が苦しい、うまく呼吸をすることが出来ない、視界がゆがむ。

 

わたしがわるいんだ。ほんとはだいすきなのに、わたしのせいで

めまいがする、足元がおぼつかない、力が、ぬける──

ポスリ、と倒れる寸前暖かい何かに受けとめられた。

「…風太郎君、みんな?」

様子がおかしい、というのは顔を見た瞬間に分かった。ひどく震えていたし、何より顔が真っ青だったから。慌ててどうしたのかと声をかけようとすると、それを拒むように四葉の呼吸が荒くなり、そしてふっとその体から力が抜けた。

「お、おい!?」 「「「四葉!?」」」

その体が崩れ落ちる前に、なんとか受け止める。心配そうにこちらを見ていた他の三人も慌てて駆け寄ってきた。

四葉が、今気づいたとでもいうようにやっと顔を上げる。その顔に浮かんでいる表情は、怯え、だった。

この表情は見たことがある。四葉が変わる前の、あの時に浮かべていた表情と同じだ。母に何もできなかったと、悔い、嘆いていたあの時と全く同じ表情なのだ。

そっと、いまだ震えて荒い呼吸をくり返している四葉の頭を安心させるように何度も撫でる。

「四葉、ごめんな、不安にさせちまった。お前は悪くない、二乃も大丈夫だ。」

「…ほんと?」

「あぁ、ほんとだ。」

そういうと、幾分安心したのか風太郎の服をぎゅっと掴みほんの少し笑った後、全身の力を抜いた。荒かった呼吸は穏やかになりつつあるし、震えももう止まっている。

「…寝ちまったか、これじゃあ四葉は行けないな。

じゃあ一花、頼めるか。」

「う、うん!」

外に出るともうすでに太陽は傾いてしまっていた。これでは一時間としないうちに辺りは暗くなってしまうだろう。

「一花、どこか二乃が行きそうな場所はあるか?」

「う、うん。こっち!」

「よしっ!」

「いない…。」

探し回ること三十分強、あたしはもう大分暗くなっているのにも関わらず、二乃の居場所どころか目撃情報すらつかめていなかった。

まずいな…、完全に暗くなったらそれこそ…。

「あの、すみません。このへんでこいつと一緒の顔の女の子を見ませんでしたか?」

「妹さん?かわいいわねぇ。こんな時間に出歩いてたら危ないわよ?

…あら、あなたさっき蝶の髪飾りつけて歩いてなかったかしら?」

「!それどこですか!?」

「あっちのほうよ、金髪の柄の悪そうな男性がいっしょだったから記憶に残っててねぇ。」

「ッ!ありがとうございますっ!」

それを聞いた瞬間、脇目も降らすに飛び出したい衝動にかられたがまだお礼を言っていないことと、隣で不安そうにこちらを見上げる一花の存在を思い出して何とか踏みとどまる。

「風太郎君、今のって…。」

「のれ、行くぞ!」

一花を背負い、出せるだけの速度で指示された方向に走り出す。浮かんでしまった最悪の想像を打ち消すように走って、走って、はしって──

「お?なにやってんだ風太郎。」

 

 

「親父…。」

声をかけてきたのは親父だった。一花は背中でえ?お父さん?などと言っている。大方俺と見た目が違いすぎて戸惑っているのだろう。

「今日は止まってくるんじゃなかったのか?」

「悪い、今は急いで──、ん?」

見た目?

自分の格好を改めてよく見てみる。いつもの事だったので気にも留めていなかったが、いい大人が()()にサングラス。一言でいうと──、()()()()

「おい親父、まさかとは思うが…。四葉と五月の姉妹を連れて歩いたりしてないよな?」

「ん?あぁ、二乃ちゃんか?それなら買い物の途中にらいはが見つけてなぁ。今家にいるぞ。」

「はぁ…、そうかよ。」

安心して一気に力がぬけた感じだ。一花も背中の上でぐで~っ、と脱力している。

「んで、親父はなんでここにいんだよ、買い物とかはおわってんだろ?」

「らいはに追い出された。」

「………。」

堂々とそんなことをのたまう親父に憐みの視線を送る。小五の娘に家を追い出される父親ってどうなんだよと視線で問いかけるとふいと顔を逸らされた。どうやら自覚はあったらしい。

「まぁ何にせよに二乃が無事ならよかった。それじゃ…。」

「おい待て、お前家に行くつもりか?それならやめとけ。」

「…なんでだよ。」

「そ、そうですよっ!」

「はぁ…、そっちで何かあったんだろ?会ったときあの子泣きそうだったからな。

話してみろ。」

「…なるほどな。やっぱりお前らは来ないほうがいい。」

「だからなんでなんだよ。」

「風太郎も、そっちの嬢ちゃん…、一花ちゃんだったか。二人とも冷静じゃねぇ。一晩寝て、頭冷やして明日来な。」

冷静じゃない、そのことは自分でも薄々わかっていたことだったので何も言えなかった。確かに、こんな状態で二乃とあったとしても先程の二の舞となってしまうだろう。

「…わかったよ。」

 

 

「はいっ、二乃さんここに座ってね!」

「あ、ありがとう…。」

今は五月と四葉の友達だという女の子の家にいる。一緒にいたこの子のお父さんはちょっと怖かったけど…、優しくて、かっこよかった。家に着いたらすぐこの子に追い出されてたけど…。

それにしてもあの人、誰かに似てるような…?

「その…、貴方は五月と四葉の友達だって言ってたけど学校は違うでしょ?その、なんで…。」

失礼な話かもしれないが、この家はその…、小さいし、ぼろい。とても色々なことにお金をとられるうちの学校に通えるとは思えないのだ。この子と五月たちはどこで知り合ったのだろうか。

「あれ?お兄ちゃんから何も聞いてないんですか?」

「お兄ちゃん…?あの、その人の名前は?」

「上杉風太郎だよ!家庭教師やってるでしょ?それで私はらいはっていうの!」

「ぇえええ!?」

 

「ぇえ!?」

 

え?私、もしかしてとんでもないところに来ちゃった?

 

 

 

 

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