もしも歳が離れていたら   作:夕暮れの家

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第31話

オリエンテーリングとやらもつつがなく終わり、全員割り当てられた部屋に荷物を置きに解散となる。ボランティアで来ている高校生には3人一組で部屋が用意されていた。

 

大抵学校行事でこのようなところに来る場合にはもろもろきっちり決めてから来るのが普通なので大体のことが適当なこのような感じはかなり新鮮だ。部屋割り迄適当だったのはどうかと思うが、結果的には雰囲気で決めることとなった。

 

「上杉君、この後は何があったか覚えているかい?」

 

「今日はもう特別なイベントはなかっただろ?あったのは夕飯くらいだったはずだぞ。」

 

「なんで予定みてもないのに分かるんだよ…。」

 

「全部覚えたからな。」

 

「記憶力の無駄遣いも甚だしいなコラ⁉」

 

「さすが上杉君さ!」

 

「おいやめろ、気持ち悪い。」

 

先に食堂に行って席をとってくる、と言って部屋を出ていく二人に手を振った後、何とはなしに整えられたベッドに横になった。

 

(――落ち着かないな)

 

普段とは違う投げ出した体を包み込むような感覚に違和感を感じて顔をしかめる。不快な感触ではない、むしろ心地いいと感じるべき感触だろう。だがしかし、慣れない感触というのはどうにも落ち着かない。

 

少し、心配だったのだ。自分はあくまで家庭教師、同じ学校に通っているとはいっても授業を受けている場所は遠く離れておりそこでの様子をうかがい知ることはできない。

 

自分が見てきたのは家での様子のみ、五人で支えあっているところのみだ。学校で一人一人が自分の居場所を持てているのか、いい意味でも悪い意味でも目立つ奴らだ。それがどうにも、心配だった。

 

だからこそ、こんならしくもないことをしているのだろう。あの担任に押し切られたというのも少なからずあるが、以前の自分ならばきっと仮病でも何でも使ってでもここに来ることはなかったはずだ。

 

本当に、らしくない。あの五つ子に出会ってから何度そう思ったのだろうか。

ただ、その言葉はもうあまりそぐわないような気がしている。どうにも今の自分はあの五つ子のことが絡むと少し前の自分では考えられないような行動をとってしまうようだった。

 

きっとそれは今まで自分が“無駄”と切り捨ててきたものだ。そして本当は捨ててはいけないものだったのだろう。

 

今日の日の“らしくない”はきっとそう遠くない日に違和感をなくし、寸分のずれもない自分として定着するだろう。そんなことをいつの間にか完全な心地よさに変わっていたベッドの感触に導かれるように薄れていく意識の片隅で、ふと思った。

 

「……タロー、フータロー、起きて。」

 

ゆさりゆさりと体が揺すられているのを感じる。意識が浮上しかけてはまた沈む、寝起き特有の感覚が襲ってくる。頭がうまく働かない。全身を包むこの柔らかい感覚を逃したくない、そんな思いで揺れの元凶に手を伸ばした。

 

「らいは…、まだ、もう少し寝かせてくれ……。」

 

「む、寝ぼけてる。」

 

そんな言葉と共に体を包んでいた布団がはぎ取られた。途端に極寒の空気が肌を刺し、意識が強制的にクリアに切り替わる。

 

「おはよう、フータロー。」

 

両手で先ほどまで暖かさという恵みを与えてくれていた布団を抱えながら、三玖がにこりと笑う。その光景と、どうにもならない程の寒さによってここが家ではないという事実がやっとこさ脳に染み渡る。

 

「お、おはよう。」

 

 

周りを見渡すと、同じ部屋で寝ていたはずの武田と前田はもうすでにいなかった。床に敷かれていた布団は綺麗にたたまれて部屋の隅に積まれている。

 

起こしてくれてもよかっただろうと内心で恨み言を吐きながらそれに倣って自分の布団も

たたむ。三玖もパタパタと動き回りながら手伝ってくれる。

 

「なあ、なんで三玖が起こしに来てるんだ?」

 

「先生に、フータローの知り合いだって言ったら行って来いって言われた。」

 

「セキュリティどうなってんだよ。」

 

ぼやきつつ昨日は楽しかったかと話を振ると、顔を輝かせながら昨日あったことを話してくれる。どうやら疲れはしたものの今までしたことのない経験は非常に楽しかったようだ。

 

全身を使ってどれほど楽しかったかを表現してくれる三玖の頭をなで繰り回してなだめながら荷物をまとめて食堂に朝食を食べに行くことにした。

 

林間学校の一日が始まる。

 

 

 

「よく寝ていたね上杉君。」

 

「なんで起こさなかったんだよ。」

 

そう文句を言うと、心外だというような顔と共に何度も起こしたが全然起きなかったのはそっちじゃないか、というお言葉を頂いた。前田の方を見てみてもその通りだというように頷いている。

 

あまり朝に弱い方であるという自覚はないのだが、慣れない環境に知らず知らずのうちに疲れがたまっていたのかもしれない。気を付けよう。

 

さて、手伝いといってもそこまでやることが多いわけではない。基本的には教師と連携して大人の眼が届きにくい末端までの管理、行事の準備、必要であれば裏方といったようなものだ。

 

その為、あまり忙しく動いているわけではないのが現状だ。やはり成績がピンチな生徒への救済措置という側面が大きいのだろう。そこまでの働きを期待されているわけではないというのを任されている仕事から感じ取れる。それにお嬢様に成績があまり良くないものを近づかせすぎるのも悪影響かもしれないしな。

 

前田なんて見た目が怖いから露骨に避けられている、哀れ。

 

そんな顔でこっちを見られてもヤンキーみたいな見た目の上にオールバック何て髪型にしている方が悪いに決まっている。

 

ただ、今回は成績優秀者、それも学年1位と2位が参加していると来た。これ幸いと教師は全員の前でそのことを口にすることで任せた仕事以上の事を俺と武田に押し付けることにまんまと成功したわけだ。

 

最初の自己紹介の時は運よく武田を生贄に捧げることで事なきを得たが、毎回そんな手段が通じるわけではない。そんなことをしなくても半分以上は自動でヘイトを集めてくれるので便利な奴ではあるのだが、どうしても取りこぼしというものは存在する。

ヘイトを集めるいわばタンク職なのだから、後衛に攻撃を通してどうするというのか。役に立たない奴め。

 

午前中のフィールドワークそっちのけで武田に集うお嬢様集団を横目に木陰に設置されていたベンチに座って一息をついた。

 

一応この林間学校で宿泊する施設に併設された馬鹿でかい公園を散策するという名目の時間のはずなのだが、勉学にいっそ過剰なほど力を入れているこの学校にはそんなことよりも重要なことがある生徒の方が多いようだった。

 

今は盛夏、最近は外で遊ぶことを止められるような季節ではあるが、この場所はどうにも避暑地として位置づけられるらしく、人によっては殺人的とも表現するような暑さではない。せいぜい挿したら先が引っ込むナイフ程度であろう。ちょっと痛い。

だから、少し高台に位置しているこのベンチから周りを見渡すと、思い思いに遊ぶ生徒たちが良く見える。

 

まさかここからなら全体の監督が出来るからあまり動かないでねと言っていたのかあの教師は。そんな可能性に行きついてしまい元凶の大人の姿を探すと、すぐそばに流れている小川に足を浸して足湯―足水?をしながらご満悦の表情でいるのを見つけてしまった。とんだ曲者である。

 

半ば強制的に押し付けられてしまったようである監督役だが、だからと言ってここで自分がその役目を放りだして昼寝を始めるのもそれはそれで問題がある気がしてならない。気を取り直して膝に肘をおいて頬杖を突きながら周りを見渡すと、知っている姿もちらほら見られる。

 

先ほどの教師が職務怠慢している小川では、一花と三玖が二人で川の中で遊んでいる。よくよく見てみれば、他にも川の中で遊んでいる生徒がちらほら見られるため、あの教師はただこの避暑地で涼夏を満喫しているのではなく、どうも川の中で遊ぶ生徒の監視役を仰せつかっているようである。職務怠慢ではなかったようだ、心の中で謝罪をひとつ。しかし、必要以上にこちらに生徒の対応を押し付けてきたことについては許さん。先ほどからこちらを恨めしそうな目で見てくる頼もしきわがパーティーのタンク君の分も、必ずかの邪知暴虐の教師には一発入れてやらねばなるまい。

前田?奴はやることがないと気がついたのか先ほどから隣のベンチで寝そべって黄昏ている。

 

他にも五月は昨日見た班で行動を共にしていた友人たちとアスレチックで遊んでいるし、二乃は木陰でこれまた数人の友人とお喋りに興じているようだ。どんくさいところがある五月にアスレチックなど出来るのかとハラハラしながら見守っていたが、なかなかどうして思ったよりも軽快に踏破していく。やはり四葉と同じ遺伝子を持っている為、蘇陽の方はあるらしい。一つ乗り越える度に周りと盛り上がるさまをほほえましく見守りながら、四葉の姿を探す。

 

こういう時はどうせそこら辺を走り回っているだろうと、一番動き回っている集団を重点的に見て見るが、どうにも姿が見えない。どこにいるんだと付いていた頬杖を外し、状態を起こしたところに背後から衝撃が来た。

 

「どーーんっ!」

 

背後から首越しに回された手、元気な声、そして視界を塞ぐデカリボン。間違いなく四葉である。どうやら自分があの教師に恨みの視線を送っている間に背後に回り込まれていたようだ。

 

「えへへ、風太郎君。」

 

四葉か、と振り返らずにーそもそも後ろから引っ付かれている為振り返ることはできないのだがー返事をするとご機嫌そうにぐりぐりと顔をこすりつけてくる。普段よりは涼しいとはいえ、この夏にこうも密着されるとさすがに暑い。

離れないとリボンを引っこ抜くぞ、というとさっ、と離れたかと思うとベンチの背もたれ部分をぴょいっと飛び越えて隣に座ってきた。相変わらず身軽である。先ほどアスレチックを踏破していく五月の事を少し四葉に重ねたが全くレベルが違ったようだ。

 

「風太郎君は遊ばないんですか?」

 

先ほど離れろ、といったばかりなのにも関わらず、身を乗り出してこちらに問うてくる四葉の額を優しく押し返しつつ、監督役を仰せつかっているのでここから離れられないと伝えた。

 

すると、四葉は未だに大人数に集られている武田と、何時の間にか睡魔に敗北を喫して意識をお空の彼方に飛ばしてしまった隣のベンチの前田を不思議そうに交互に不思議そうに眺めた。

 

「他の人は別にやってないみたいですよ?」

 

「いや…、まあそうだが。」

 

痛いところを突かれた、と後頭部に手をやって頭を掻く。確かにそろそろ普段から纏っているキラキラオーラが見る影もなくなってきた武田はともかく、涎まで垂らし始めた前田が許されるのであれば、別に自分がここを離れても何の問題もないのではないかと思えてくる。

 

そもそも奴が遠回りなやり方でこんな役回りを押し付けてきたのが悪い。責任を取らせたくばしっかりと明言してもらわなければ困る。

 

うん、そうだとばかりに頷いて顔を上げると、隣にいた四葉がいない。どこに行ったのかと周りを見渡すと、いよいよベンチからずり落ちそうになっていた前田を揺すっておこしているではないか。

 

「あのー、すみません。」

 

今朝に自分を起こした三玖に比べると、かなりの力で揺さぶられて目を覚ました前田は唐突に目の前に出てきた四葉に混乱しているのか目を瞬かせている。そもそも寝起きなので頭も廻っていないのであろうか。

 

「風太郎君をお借りしたいので、監督役?というのを代わりにお願いしてもいいですか?」

 

「え…、は、はい…?」

 

状況が読み込めていないのか、寝ぼけているのかは不明だが、頭の上に疑問符が乱舞していそうな様子の前田が発した肯定とも否定ともとれるような曖昧な返答を、完全に肯定と受け取った四葉は、ありがとうございます!と元気にお礼を言ってくるりとこちらに振り返った。

 

「行きましょう、風太郎君!」

 

すまない前田。でも寝ていたそちらも悪いと思うので、大人しく人柱となるといい。

 

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