パーマンvsUSDマン 作:肩首バキバキマン
「星野スミレ…あの、女優の…?」
『そうそう。おたくの事務所に他に誰がいるっていうんだい?全く…。せっかくこの大英雄がわざわざ誕生日を祝ってあげようっていうのに…それとも何?出来ないの?』
「めッ、滅相もございません!す、直ぐに、直ちに用意させます…!」
『そりゃあ良かった。じゃあ、今日の晩8時には連れてきてね♪』
ガチャン…
「止まりなさい…って貴女は星野スミレさん⁉ファンです‼サインをぜひ…!」
「おい、やめろって、仕事中だろ…。それにここを通るってことはつまりあの方が…」
「構わないわ。約束の時間までまだあるもの。マネージャー、別にいいでしょう?」
「貴女がそうおっしゃるなら構いませんが…」
ハイウェイを下って、警察の管理する関所を通過すればそこは廃墟街。
かつては高層ビルが立ち並ぶ大都市であったが、今では見る影もない。道路もろくに整備されておらず、住人はとうに居なくなった。一人の例外を除いて…
半年ほど前に突如姿を現した彼は、マフィア、悪徳政治家といった今まで誰も手を出せなかった巨悪をその腕力で次々と討ち滅ぼしていった。
世間は彼を英雄と称えた。しかし彼の排他的ともいえる危うい正義感は同時にその栄光にも翳りを見せ始めた。彼は時に軽犯罪者に対しても過剰な殺戮を行い、次第に世間からの非難を浴びる事となった。
ところが、彼は自身を顧みることなく、糾弾・攻撃する警察やマスコミ、自衛隊にさえ次々と「制裁」を加えていった。
彼には核爆弾さえ通用せず、周囲の住人はとうに逃げ出し、激しい争いの末周辺は廃墟と化した。
そして遂に、彼はその超人的なパワーを背景に周囲に対して理不尽な要求を繰り返すようになり、欲望のままに生きる暴君と化したのである。
「…そして私も、彼へのスケープゴートの一匹になるわけか…」
「………」
星野スミレ、本日26歳を迎える芸歴20年のスター女優。
幼少のころからアイドルとしてお茶の間を賑わしてきた彼女を載せて、黒塗りの車が無人市街を走行する。
車が止まる。廃墟からすれば明らかに場違いな豪邸の前で。
「どうか失礼のないように…
……なんとしてでも生きて帰ってきてください」
「……」
事務所も、マネージャーも彼の要求を断ることは出来なかった。
十年以上肌身離さず着けていたペンダントをぎゅっと握りしめる。
…人生で最悪な誕生日パーティーが今、始まらんとしていた。
――――――――――――――
並べられた豪勢な料理の数々。句楽が高級料理店に出前で持ってこさせたものだ。
しかし、味が分からない。喉が唯々乾く。
「…いやぁ、わくわくするねぇ。なんて言ったって、あの星野スミレちゃんとニャンニャンできるなんて」
「……」
服を脱ぐ。ただ黙々と命じられるままに。
反抗の意思一つ見せるだけでも、彼女自身はおろか、その関係者、事務所系列の仕事仲間は悉く滅殺されるに違いない。
彼にはそれが許されるだけの
句楽はスミレの体を嘗め回すように視姦した。否、もともと彼には透視能力がある。最初から彼にはスミレと直接会った時点で、彼女の裸、
「うひょ~♡やっぱいいスタイルしてるねぇ、やっぱり色々気を使ってんの?」
「…食事制限と運動しているだけ…です。」
「お利口さんだねぇ。うんうん、やっぱり女優業ってこうじゃなくちゃ。それに引き換え最近の若い女タレントってのは全然なってない。ドラッグ、不倫、枕営業。まったく女優業ってものも落ちたもんだねぇ…」ブツブツ
…この男は何も理解っていない。女優を続ける大変さも、下積み時代の努力も…。
「まあ世間話はこれくらいにして、ぼちぼち夜の営みとしゃれこみましょうかね。ゲヘへ…」
「あ…」
ベットに押し倒される。万力のような力で抑え込まれて指一本動かせない。あの人が返ってくると信じて二十余年貫いてきた純潔ももうここでおしまい。
「さよなら、みつおくん…」
せめて、涙は流さない。コイツをただ愉しませるだけだから。
「スミレちゃんのヴァージン。いっただきまー…」
バキャッ!!!
「…ごめん遅くなった。」
青いマスクの輪郭。
涙が頬を伝う、つい先程泣かないと誓ったのに。
けど、あふれ出した涙は止めようがなくて…
「ひぐっ…遅いのよッ…何年待たせてんのよ!!」
「ゴメン。本当にゴメン。でも」
「君が無事でよかった。」
溢れ出る思いを抑えきれずに彼に只々抱き着いた。胸元にはPのバッジ。裸の私に、彼は一枚のシーツをかけてくれた。
「ぼくは君を泣かせたアイツを許せない。」
パーマン一号:須羽みつお、元パーマン3号:星野スミレの誕生日に地球へ帰還。
(誰のせいで泣いたと思って…)
「かかってこい、USDマン。このパーマンが相手になってやる!」
ーーーーーー熾烈な戦いが幕を開ける
否、結果的には戦いにすらならなかった。あるのはUSDマンによる一方的な蹂躙。
「手前ェ如きが俺サマに勝てるわけねぇだろうがァ!!!ボケがァ!!」
「がッ!?」
廃墟ビル地下にて、鉄筋コンクリートの柱に顔面を強かに打ち付けられる。柱は凹み、パーマン顔のスタンプが刻まれた。
「グぼッ…⁉」
さらにUSDマンは1号を天井目掛けて蹴り上げた。彼の脚力の前には1号の体がワンフロアの天井で収まりきるわけもなく、一蹴りで何十階層の床天井を突き破って屋上まで飛ばされた。
もちろんそれでUSDマンの猛攻が終わるはずもなく、一足跳びで追いついた彼はもんどり打つ1号に半裸で馬乗りになった。そこから…
「うひゃあァ!ひょヒひょヒょひょヒョっ!!ヒィえぁァァ!!!」
猛烈な、スコールの如き
しかしそこでラッシュが止まる道理はなく、既に抵抗するための気力もない1号の肉体を殴打にて徹底的に破壊してゆく。
「パぁーマん?”ウルトラ”も”スー”も”デラックス”も無え分際で、粋がってんじゃねぇェ!!!」
ボロ雑巾と化した1号の体はぴくぴくと痙攣しておりすでに意識はない。しかし、そんなことお構いなしにラッシュは続く。いよいよ生命の残滓さえ消え去ろうとするように思われた。…が、
「やめぇや‼」
「たりゃぁあ‼」
上空・背後二方向からの強烈な奇襲攻撃。些か面食らったUSDマンを尻目に、黒い影が瀕死の一号をかっさらっていった。
「誰かと思えば…前に
「こないだのようにはいかへんで!」
「ギキィイイ‼」
パーマン4号:大山法善。通称、ぱーやん。紫色のマスクをかぶった関西弁の巨漢。
パーマン5号:山田浩一。黒色のマスクをかぶった高校生で2歳の頃からパーマンとして活動している。
パーマン2号:黄色のマスクをかぶった雄チンパンジーブービー。
彼らが、1号の窮地をひとまず救った。…が、
(3号から連絡があって駆けつけてきたんやが、1号、やっと地球に帰ったんか…!せやけど、随分手酷くやられとる。何とかしてここを切り抜けんと…)
素人目に見ても1号は重症。
顔面はグチャグチャに崩壊し、四肢はあらぬ方向に折れ曲がっている。肺に折れた肋骨が突き刺さっているのか、呼吸は不規則で浅く、吐血を繰り返している。
応急的に酸素ボンベの役割を持つPバッジを咥えさせているが、容態は一刻を争う。
パーやんは決意を固めた。
「行きや‼」
数瞬のアイコンタクトの後、パーやんがUSDマンに殴りかかる。
と同時に5号が1号の体を抱えて飛翔。…が
「自分の心配したらどうなの?」
メキメキメキ…!
「ぶぎッ…⁉」
パーやんの拳は空を切り、USDマンによる強烈なクロスカウンターが頬に突き刺さる。
「ギャッ⁉」
USDマンは更に拳を振り抜き、バックアップに来た2号を巻き込みながら4号の巨体を殴り飛ばした。
そして飛翔。1号を抱えて隼の如き速度で飛ぶ5号をを戦闘機に匹敵するスピードで追い抜き、回り込む。
「ひっ…⁉」
以前USDマンに甚振られたときのフラッシュバック。見せつけられた圧倒的な力の差。
5号は体が竦んで動けない。
「仲良く死ね。青二才ども」
USDマンの拳は、防御姿勢もままならない五号の顔面に…
「…⁉」
「うぐッ…!」
「…1号ッ⁉…え⁉」
否、
さらに、殴られた撃力を利用して、USDマンといったん距離を取る。
「君はもしかして5号?こんなに大きくなって…びっくりしたよ」
「え…お久しぶりです、
先ほどまで瀕死だった男が、今ではすっかりピンピンしているのだ。当然湧く疑問。
「そりゃ、スーパー星本部の急速回復剤を使ってくれたんじゃないの?助かったよ。本当に死んじゃうかと…」
「????」
「けど、こんなに効いたっけ?前使ったときは体の節々が痛かったんだけど…改良されたのかな?」ブツブツ
「1号、無事やったんか!」
「ウキャッ‼」
「ぱーやん!ブービーまで!」
何とか立ち上がった4号と2号も合流。USDマンを空中で包囲する。
これまでも、パーマンは連携を駆使して、難敵を撃破してきた。
一人より二人、二人より三人、三人より四人。
例え、個々の力で劣っていようとも…
「皆、行くぞ!!」
「おう!!」
「ギッキィィィ!!」
「たあっ‼」
パーマンが四人揃えば誰にも負けない。
「……」
そう、思っていた。
「もっとビシッとした技とか無いのかい?そろそろ飽きてきたし殺しちゃうよ」
連携などでは覆しようもない理不尽な力の差。それが彼と彼らの間にはあった。
戦闘の余波で廃墟どころか地形まで変わった。辛うじて原形を残していた建物・電柱も悉く倒壊し、アスファルトは粉々に砕けて地面がむき出しになっている。
1号はとうに瓦礫の下。6600倍の力をもたらすマスクが破られ、両足を磨り潰されたために這い出る事も適わない。
ひときわ大きなクレーターの中心には瀕死のパーやん。USDマンによる執拗なスタンピングで腹を蹴り破られて内臓がこぼれてしまっている。
(絶対に勝てない、やっぱり皆殺しにされる、こんな化け物と戦うんじゃなかった、そもそもパーマンになったのが間違っていたんだ、どうしてこんな「逃げちゃア、ダメでしょ。殴りかかってきたのはそっちなんだから」ぁああああああ!?!?」
5号が瓦礫伝いに這う這うの体で逃走しようとした矢先、その後ろ髪をUSDマンは文字通り鷲掴みにした。透視能力の前では瓦礫の死角など役に立たない。
USDマンの怪腕が5号の頭をゴムボールのように軋ませる。
「嫌だ、痛いッ、ゆるしてッ!殺さないで!!」
「反省したふりってのは誰でもできるんだ。俺は何度もそういう悪党をみてきたんだ」
「嘘じゃないですッ!せぃい、誠意ヲ見せますっ!」
「俺ガッ間チガっタこト言っているッテ!?」
「ごめんなさいッごめんなさいッあぁあアアあぁあ!?」
あまりの痛みに悶絶し倒れ伏す五号。しかしそんなことでUSDマンは腕の力を緩めない。
「ギャウッ‼」
「あ?」
背後からの2号による奇襲。鎖骨は粉々に砕かれ腕が挙上できない、それゆえの
が、噛みついた腕に牙は全く通らない。マスクのパーマロゲンにより、牙もダイヤモンド並みの硬度が付与されているにもかかわらずだ。
「汚ねえ口で噛みつきやがって、病気が移ったらどうすんだ!!このエテ公‼」
「ギャ…⁉」
USDマンの苛立ちを伴った張り手は、2号の側頭部をとらえ完全に沈黙させた。
「…もう、やめて下さい」
「その声は!」
泣き喚く5号の首に手をかけいよいよ絞め殺そうとしたその時、聞き覚えのある声がUSDマンの耳に聞こえた。
星野スミレその人だ。慌てて着替えたのか服装は乱れ、荒れ地を走りヒールはとっくにボロボロの様相。
「スミレちゅわ~ん♡ここは危ないから来ちゃダメっていったでしょ。
「…どうかお願いします。私を煮るなり焼くなり好きにして構いませんから、その人たちをこれ以上傷つけないで…」
「なぁーんでスミレちゃんがこいつらを庇うの?こいつらは僕とキミのラブラブタイムを邪魔した悪党なんだよ!まっ、ムラムラしてきたしいいんだけどサ!」
「5号、どうかみんなを安全な場所へ…」
「……ッつ」
スミレの声に、かろうじて動ける5号はぐしゃぐしゃの顔で頷くのみ。
彼の埋まる瓦礫を見やる。
「さよなら」
(ミツオくん、私本当に嬉しかったの。優しい貴方とまた会えて。だから、どうか生きて。貴方の無事に比べれば、私の貞操なんて、命だって惜しくない。きっと今夜私は壊されるけど、どうか私のことなんか忘れて…どうか幸せに…穏やかに暮らしてくれれば…)
一夜のパートナーに選ばれた女性が昂ったUSDマンによって、文字通り「壊される」のは日常茶飯事だ。逆らっても死ぬ、逆らわなくても十中八九死ぬ。でも、それでいいのだ。
卑劣な悪に目をつけられたヒロインを助けようともがくヒーロー。ヒロインに呼ばれた仲間とともに奮闘するも力及ばず、ヒロインはヒーローを守るために、最終的には悪に身を捧げる。実にドラマティックな最期、女優の私にはピッタリじゃないか。願わくば、ヒーローがヒロインの犠牲を生涯引きずってくれれば…
(ホント、私って我儘…さっきま「私のことなんて忘れて幸せに…」なんて思ってたのに…)
上機嫌なUSDマンによって強引に抱えられる。抵抗はしない。でも…
(悔しいな…ミツオ君から結局キス、貰えなかったや)
「…待てよ、まだ君に渡していないものがあるんだ」
「「!?」」
立ち上がる影。
ありえない話だ。彼は瓦礫の下に沈んだはず。ましてや
だが、彼を埋めていた瓦礫は跡形も無くなり、ましてや彼は両足で大地を踏みしめていた。
「あー、ほんとにもう…」
スミレを両腕からおろしたUSDマン。そのまま1号の元へ歩を進める。
「しつこい」
USDマンの
でも、ただではやられてはやらない。顔が吹き飛んでも、僕の、ひ弱な人間の
「ぶぺッ!?」
「…は?」
そして、USDマンは一号のただのパンチによろめき倒れた。
生身の、常人の力のただの拳打が、核爆発にすら耐える男にいったいどうして?
(なんでなんでなんでなんで!?!?さっきまで痛くも痒くなかったのに…⁉あり得ない…こんな雑魚に殴られた程度でこの俺が鼻血を…!)
痛みにもんどりうつUSDマン。そこに近づく二つの足音。
「全く、散々人をボコボコに殴りおってからに…!」
「ギキィィキキィ‼」
復活したのは一号だけではない、死に体だった2号、4号もピンピンしている。
「この、化け物どもがぁ!」
痛みに耐えて、USDマンは不可解な復活を遂げた4号に殴りかかる。が、
「なんや自分。えらい腑抜けたパンチやな」
悉くパーマンたちをなぎ倒したはずの拳が、今現在何の痛痒も与えていない。
「…あ、悪夢だぁ」
「夢ちゃうで。」
その後、USDマンはしめやかにお縄となった。拘留中の身体検査の結果、彼は超人的な力を失ったことが判明した。また、検査の副産物というべきか、初期がんが見つかり治療が施されたようだ。
驕れるものも久しからずということか。
「それで、私に渡すものって?」
「あ、スミレちゃんって昨日が誕生日でしょ。だからケーキを渡そうと思ってて…宇宙船からとってこないと…」
「/////もう、いけず…」
「?銀河でも有名で結構並んだ良いケーキなんだけど…」
末永く爆発したそうな。
そして、彼らはついぞ気づくことはなかった。戦闘中、否それより遥か前からUSDマンに向けられていた銃口に。
20世紀、都内某施設、B14Fバー。
「お待ちシテおりましタ、N2様。ミズモリ氏がお待チでス。」
「あぁ、今行くよ。」
「それトご注文ハ?」
「ヌカ・コーラとイクラ味のポップコーンで」
「承りマシタ」
目に生気のないウェイトレスに案内されて、丸眼鏡の青年はバーの奥の個室と足を踏み入れた。
「
「どうもー、ふぁ~あ」
「…随分お疲れのご様子で」
「いつもこの時間寝てますからね」
アンティーク調の個室で、下座に座る金髪の男から黒いアタッシュケースを、前金と合わせれば1億円を超える額が入ったそれを、眼鏡の年若い男:N2はあくびついでに受け取った。
「いやぁ、こちらとしては感服するばかりです。あの超音速で動き回るUSDマン相手にあれだけの長時間連続で
「買い被りですよ。…まぁ、効果が出るまでの
「いやはや、面目ありません…正直、先生無しにはこの依頼はとてもとても…」
「なんにせよ、これで今後の争いの種が一つ減った。クライアントも随分安堵していましたよ。」
「ウルトラスーパーデラックス細胞のクローンによる戦争…ですか。ぞっとしますね。」
「そういえば、本体のほうは復元光線でがんが初期のステージに戻ったとか、まぁ歴史にたいした影響はありませんが」
「…にしても、なんであの
「あぁ、僕、星野スミレのファンなんですよ。プライベートでも一回お話したことがあって…」
地下50Mのバーでの談笑は明け方まで続いた。