私は幸せに暮らしていた。そこそこ裕福な家庭に生まれて優しい親の下で育ち、結婚を誓った幼馴染もいた。
だけどあの日、全てが変わってしまった。
「お母さん!お母さん!」
「うるさいぞ。女。お前は美しいから後で殺すつもりだったが、もう面倒くさい。今この場で喰い殺してやる」
私は身長が六尺ほどあってよくデカ女とか言われていたが、相手は裕に七尺は超えてそうな大男だった。
「いや!やめて!」
叫ぶと同時に左手で首を握り絞められ体が持ち上がる。
もう駄目だ。そう思ったその瞬間、
「うわぁぁぁ!彼女を離せ!」
幼馴染のみちおが包丁を握って大男に突っ込む。だが大男は虫を振り払うかのように手を上げ、彼の腹を貫通させる。
「いやぁぁぁ!みちおくん!」
「さっきから耳障りだ。もう死ね」
今度こそおしまい。絶望の中意識を失いかける。すると急に自分の体が落ちる感覚に襲われた。尻餅をついたがそんなこと気にせず呼吸を繰り返す。
「いてぇ!」
大男は私を握り潰そうとしていた腕を抱えて悶えていた。よく見ると肘から先が無くなっていた。そして私の目の前に黒い制服を着ている人が背を向けて立っていた。涙でよく見えなかったが、頼もしい背中だった。
「なんだぁ?お前は」
「おっ俺は!鬼殺隊!階級丁!橋本義輝!お前を倒す男だ!」
その声は少し頼りなくて、けれど頼りになる大きな声だった。私はその声を聴いて謎の安心感を感じた。
「邪魔だ!死ね!」
大男が大きく腕を振りかぶる。
「大丈夫だ!俺ならいける!」
炎の呼吸 一の型ーーー
「不知火!!」
一瞬で大男の首が跳ぶ。炎が見えた気もしたが、何をしたのか見えなかった。首を切った声の主の事を見ると、驚いた。義輝と名乗った声の主は自分と同じくらいの年であろう少年だった。義輝は持っていた赤い刀を手慣れた様子で納刀し、
「ふぅ。あ!大丈夫ですか!?」
額の汗を拭いてこちらに駆け込む。
「は、はい私は大丈夫なのですが・・・」
母の亡骸を一瞥する。
「申し訳ありません・・・俺がもう少し来るのが早ければ・・・」
「い、いえ、貴方が来なければ私も母と同じ帰らぬ人となっていました」
暫く沈黙が二人の間に流れる。気まずい状況で義輝が沈黙を破り、
「あの・・早々こ、ここんな話をするのもあれなのですが、かかか、帰るあてはあ、あるのですか?」
「あ、それは・・・もうこの家にしかないのですが・・・あの!」
「な、なんでしょうか?」
私は義輝といった少年に顔を近づけて問う
「先程の男はなんなのですか!?」
「あ、あれは鬼っていう人を喰う怪物です」
もっと顔を近づけて問い出す。
「鬼は何匹もいるのですか?」
「は、はい。日本の至る所に・・・」
もっともっと顔を近づけて問う。
「鬼殺隊とやらには女でも入れるのですか!?」
「は、はひ、入れますけども・・えぇ!?も、もしかして」
私は拳を握り、立ち上がる。
「はい。私も入り、少しでも鬼の被害を減らし、私のような思いをする人を減らしたいのです!」
「な、何人か同じような人を助けたことあるけどこんな人初めてだ・・・」
ぼそりと義輝がつぶやく。
「?なにか言いました?」
「い、いえ・・・う〜〜〜〜ん。わかりました!で、では聞きますがまずお名前は・・・?」
その気になってくれたのか義輝は私に名前を聞いてくる。
決意を胸に抱き、目を閉じる。母と幼馴染のみちおに一言だけ告げる。
(お母さん。みちおくん。私は行きます。)
目を開き、名を告げる。
「私の名前は、立風 雫です」
ちなみに義輝くんが挙動不審なのは思春期だからです