新人提督が弥生とケッコンカッコカリしたりするまでの話   作:水代

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弥生可愛いよ、弥生。


一話 新人提督が鎮守府に着任したりする話

 

 

 ざあ、ざあと波の音が耳に届く。

 蒼い空に白い雲。そこに浮かぶ真夏の太陽が強い日差しで自身の肌をジリジリと焼く。

 潮の匂いのする浜風が自身の髪をさあっ、とたなびかせる。

 なんとも詩的だ。言葉にするなら。

 実際には、真夏日と生暖かい風が自身の不快指数をひたすらに押し上げているだけだ。

 

「……………………暑い」

 

 帽子を脱ぎ、ポケットに常備したハンカチで汗を拭う。汗だくの髪に風が吹きつけ、僅かにひんやりとした心地よさを感じ、目を細める。

 何故こんなクソ暑い日に、外で何十分と待たなければならないのか。だが仕方あるまい、自身の提督としての任は、今日やってくる上官に任じられて初めて正式なものになる。

 それだけなら何も問題は無い…………そう、問題はだ。

 その上官が今から向かうと告げたまま一向に来ないことだ。

 上官は隣の鎮守府の提督であり、いざとなったらいつでも手助けができるようにと、わざわざ自分の隣にあるこの鎮守府に自身を配置した出来た上司であり、自身も尊敬する人である。

 正式に任官を言い渡すため現在こちらに向かってやってきているはず、なのだが。

 

「…………また迷子になったな、あの人」

 

 堅実な指揮により、着任から数年、一切の轟沈を出すことなく成果を出し続ける全体から見ても指折りの有能な提督なのだが、少し欠点を上げるとしたら、極度の方向音痴であり、何故か迷っている時に限って自身の選択に絶対の自信を持つことだろう。

 船舶免許も持っているので自分で船を使ってやってくる、などと言っていたが、以前気分転換と言ってクルージングに赴きそのまま行方不明になって鎮守府総出で探したら何故か鎮守府の裏にある山に船ごと遭難していた、などと言うわけの分からない事態を引き起こしたのを忘れたのだろうか。どうやって船を山まで運んだのか、未だに鎮守府の七不思議として語り継がれる謎である。

 予定の到着時刻はすでに三十分以上過ぎている。だがここから離れるわけにも行かない。いくら親しくても上官がやってくるのだ、その出迎えに誰もいない、などと言うのはあり得てはならない。

 普通の提督ならば代理を立て、鎮守府まで案内させるのだが、生憎着任したての自分には代理としてこの場を任せられる人材がいない、故に自身がこの場で待つしかないのである。例え遭難していることが確実であり、いつ来るか分からなくても、次の瞬間には来るかもしれない、それだけの理由で自分がこの場に立ち尽くしている理由には十分なのである、軍隊とはそう言うものだ。

 

「とは言ったものの…………さすがに遅過ぎる」

 

 時間はすでに到着予定時刻から一時間を過ぎようとしている。

 また本格的に遭難している可能性もある、前言を撤回するような形になるが、さすがにこれ以上は待てない。

 携帯を取り出す。鎮守府には備え付けの固定電話があり、防犯上の理由から機密事項を話す際は、そちらを使うことが推奨されているが、この場合は特に問題も無いだろう。

 個々の鎮守府の番号は一応とは言え機密に入るのでアドレス帳には無く、けれど何度とかけた番号だ、暗記しているので問題は無い。よどみの無い手つきで番号をプッシュしていく。

 

 Trrrrrr

 

 呼び出し音が数秒鳴り、直後ガチャッ、と誰かが受話器を取った音がする。

『はい、こちら横須賀第六鎮守府』

 電話越しに聞こえた聞きなれたその声にどこか安堵を覚えながら口を開く。

「提督が迷子です。予定時刻より一時間になりますが、未だに着ません」

 前置きも無しに告げた言葉に、電話の向こう側の誰かが口を閉ざす。

 数秒置いて、そうですか、と言う言葉と共に。

『早急に対処します、一時間で片付けるので鎮守府の中で待っておいてください』

 電話の向こうで『提督がまた迷子よ、鎮守府内の全艦出撃、一時間以内に見つけて今度こそ仕留めなさい』などと言う言葉が聞こえた気がするが、多分気のせいだろう。

 ぶつり、と電話が切られ、思わずため息を吐く。全く、初日からこれか…………これから先が全く持って思いやられる。

 とは言うものの、さすがにそろそろ暑さで体調が悪くなってくる。確かに一度鎮守府に戻ったほうが良さそうだった。

 振り返り、鎮守府へと歩き出す。と言っても目と鼻の先の距離だ、すぐに入り口へとたどり着き…………立ち止まる。

 

「…………今日から提督。ようやく、ここまで来た」

 

 長かった…………などと言えば他の提督や候補生たちに怒られるだろう。上官である提督に目をかけてもらい、ここまでほぼ最短でやってきたのが自分なのだから。

 ここで自身が一体何を体験するのか、この鎮守府はどうなっていくのか…………自分は一体、どんな提督になるのか。

 不安があった…………だがそれ以上に期待があった。

 

 自ら選らんで進んだ道…………逃げ出せはしない。

 

 ぎゅっと目を瞑る。身の内から勇気が逃げ出さないように。不安が溢れてこないように。

 

 そうしてゆっくりと目を開く。

 

 覚悟は決まった。

 

 さあ、一歩、踏み出そう…………

 

 

「あ、お邪魔してるよ」

 

 

 として、思いっきり足を滑らせた。

 お約束のようなずっこけ方をしてしまったが、当然腰を強打して非常に痛い。

 だがそんなことよりも優先すべきことがあり、痛みを堪えて即座に立ち上がった。

「て、提督?!」

 そこにいたのは自身が一時間も待ち続けていた、自身の上官にあたる提督だった。その提督が何故か受付の人と一緒になって優雅に珈琲を飲んでいる光景に絶句する。

「いやー、この受付の方の珈琲は美味しいね」

「あの…………何時ごろ到着なされたので…………と言うか一体どこから入ってきたのでしょうか?」

 少なくとも唯一の船着き場はずっと自分がいたはずなのだが。問うた自身の言葉に、けれど提督が笑いながら答える。

「いやー不思議だね。ちゃんと港に向けて船を発進させていたはずなのに、いつの間にかこの鎮守府の工廠にいてね、妖精さんたちに怒られてしまったよ、ハハハ」

 ハハハじゃない!!! どうやったら工廠に船ごと入れるんだよ?! ワープ機能でもついてるのかそのクルーザー!!? とツッコミを入れることが出来ればどれほど気が楽だろうか。

 だがこんなのでも上官であり、尊敬する人物なのだ。本当に、これさえなければ誰からも尊敬される素晴らしい提督なのだ。

「と、とにかく…………到着お疲れ様です。お迎えすることできず申し訳ありませんでした」

 一体どこに自分の非があったのだろうか、とも思うが、それでも上官を迎えも寄越さずここまで通してしまったのだ、頭を下げるべきなのは自分である。

 と言っても人の良い提督であり、こちらに非が無いことは分かっているのか、構わない、と一言告げ、頭を上げるように言った。

「さて、そちらが問題ないならば、今ここで略式ながら任官の辞令を読み上げたいと思うのだが?」

 一瞬執務室で、とも思ったが、まだ正式に任官を言い渡されていない以上、ここはまだ自分の鎮守府ではない、だったらここでも構わないだろう。そう考え、問題が無いことを告げると、提督が鷹揚に頷く。

「うむ、ではこの正式な辞令と共に、貴君にこの鎮守府への着任を言い渡す」

 そうして差し出された辞令を恭しく受け取り。

「謹んで拝命いたします」

 そう告げ、一つ頭を下げる。

 

 そうして、現時点を持って、ようやく自身はこの鎮守府へと着任したのだった。

 

 

 * * *

 

 

「ああ、そうそう。そろそろ工廠へ向かってみたまえ」

 カップにたっぷりと注がれた珈琲(三杯目)を飲む手を止め、提督が自身に向かってそう呟いた。

「工廠へ?」

「ああ、一足先にキミの秘書艦を用意させている、今頃建造されているころだろう、キミの配下となるものだ、キミ自ら迎えてあげると良い」

 

 艦娘。それはかつて第二次世界大戦時に戦場へと赴いた艦隊たちの名を冠する少女たちの名称だ。

 深海棲艦と呼ばれる海の怪物たちを相手に対抗することのできる唯一の存在。

 人の感情を宿し、人の形をした兵器。それが艦娘。

 提督とは、その艦娘たちを指揮し、深海棲艦を打ち倒すことを目的とした将のことだ。

 艦娘たちは妖精と呼ばれる謎の存在によって作られ、艦娘たちが作られる施設を工廠と呼ぶ。

 工廠の中でどうやって艦娘たちを()()しているのか、それは提督である自身たちには分からないが、とにかく艦娘たちは工廠で作られる。

 秘書艦とは文字通り、提督の秘書を勤める艦娘であり、第一艦隊旗艦を勤める艦娘が秘書艦を兼任することが通例らしい。

 

 提督が今言ったのは、つまりその秘書艦を建造させている、と言うことだ。

 自身が待っていた一時間の間でそんなことをしていたらしい。ただ珈琲飲んでいただけなんてことは無いとは思っていたが…………。

「これから向かう先にいるのはキミの…………キミの部下となる艦娘だ。ほぼ全ての提督にとって最初期の艦娘とは特別なものだ。何せ最初期のまだろくな艦隊も組めていないころからの…………ある意味最も大変な時期を最も長く共にすることになる存在なのだから。妖精たちは気まぐれだからな、どんな艦娘が来るかは分からんが、それがキミにとって生涯に渡って共に歩めるものであるよう、祈らせてもらおう」

 工廠へと足を向けようとした自身の背に、そんな提督の言葉がかけられる。

 特別、確かに特別だ。何せ初めて自身の采配で動かすことになる最初の部下だ。

 歩を進めていた足を止める。振り返り、珈琲を片手に微笑む提督に問いを投げかける。

「提督にとっても、特別、ですか?」

 自身が最も尊敬する提督。その彼にとっても最初の艦娘とは特別だったのか。

 その答えは。

 

「ああ、勿論だとも…………私の秘書艦は私の着任からずっと彼女だけだよ」

 

 その答えに。その笑みに。その思いに。確かに自身の心まで届くものがあった。

 

 だから。

 

「…………行ってきます」

 

 そう呟き。

 

「ああ、行ってらっしゃい」

 

 そう返した。

 

 

 * * *

 

 

「いやーそれにしても、受付さんの珈琲は美味しいね。ウチの秘書じゃこうは行かないね」

「そんなにも不知火の淹れる珈琲は不味いでしょうか」

「いや、不味いとは言わんが、どうにも薄……い…………不知火さん?」

「はい、不知火ですが、何か?」

「何故こちらに主砲を構えているのでしょうか?」

「出かける前、不知火は再三申したはずですが? また迷ってはいけないので、先導に数人連れて行くように、と」

「あ、いや…………大丈夫だと思ってだな」

「その結果、一時間もあの子を待たせたのですか?」

「………………いや、そのだな…………えっと」

「提督」

「…………なんだ?」

「何か遺言はありますか?」

「問答無用で死ぬの俺?!」

「それが遺言ですか」

「ちょ、ま…………アーーーーーッ」

 

 ……………………。

 

 ………………………………。

 

 …………………………………………。

 

「ふう、不知火の愛は相変わらず痛いな」

「愛…………?」

「そんな冷めた目で見るなよ、照れるだろ」

「………………………………………………ハァ、バカ」

「ん? 何か言ったか?」

「いえ、何でも。それより勝手に他人の鎮守府で建造なんてして、越権行為だと思われますよ?」

「それで俺と同じ間違いを犯したらどうするんだ」

「ああ…………資源全てつぎ込んだんでしたね、補給もままならなくて大変でしたね、あの頃は」

「う…………いや、まあすまん。と、とりあえずだ。最初期は全資源初期値で回すのが最適だったと後になって気づかされたからな、俺と同じ轍を踏ませるないためにも、最初の艦くらいはこちらで用意してやろうと思ったんだよ」

「そう言うところは相変わらず心配性ですね。司令」

「愛弟子の独り立ちなんだ、ちょっとくらい世話焼いてやったって、罰は当たらんだろ?」

「………………全く」

「ハハ…………楽しみだろ? これからあいつがどう成長していくのか」

「まあ…………否定しませんが、そろそろ帰りますよ、もうあの子だって一人の提督なのですから」

「分かっている…………だから、お節介はこれで最後だ」

「……………………」

 

「頑張れ、辛くとも、苦しくとも、悲しくとも、痛くとも………………お前の隣にいる彼女たちと共に、乗り越えろ、踏み越えろ、歯を食いしばって進め、そうして共に成長していけ。それが…………()()だ」

 

「……………………司令、格好つけても誰も聞いてませんが?」

「……………………嫁がセメント過ぎて泣ける」

「誰が嫁ですか…………司令?」

「ケッコンしたなら嫁でいいだろ?」

「カッコカリが抜けています」

「不知火、俺のこと嫌い?」

 

 

「いえ? 愛していますよ? 司令」

 

 

 




【戦果】

旗艦  None
二番艦 None
三番艦 None
四番艦 None
五番艦 None
六番艦 None





実は、三日前に弥生ドロップしました。
あまりの可愛さにノックアウトされて、現在レベル84。
あと15レベでケッコンカッコカリダー!
可愛すぎて愛が溢れて他のことに手がつかないので、とりあえず妄想を吐き出し中。
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