新人提督が弥生とケッコンカッコカリしたりするまでの話   作:水代

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久々の更新。響二次が完結したので、これからはこっちも更新します。


十四話 新人提督が演習を見届けたりする話

「突然ですが次の一戦、不知火が貴方たちの指揮を執ります」

 

 そんな彼女の突然の一言に、全員の思考が一瞬止まった。

 疲労で鈍る思考、けれどそんな一言を逃せるはずも無い。

「…………どう、して?」

 そんな自身の問いに、彼女…………不知火は不思議そうに首を傾げ、問い返してくる。

 

「今のあなたたちがあと何度繰り返せば、勝負になるのですか?」

 

「……………………っ!」

 言い返せもしないその一言に、思わず怯む。

 と、そんな自身の後ろで、卯月が声を荒げる。

「だからって、不知火は他の鎮守府の艦娘だぴょん」

 至極全うな言い分、だからこそ説得力もある。

 けれど。

 

「そちらの司令官に頼まれたのよ、何も問題はありません」

 

 そんな一言に、思わず目を見開き、咄嗟に自身の司令官のほうを見る。

 腕を組み、こちらのほうを見つめたままの司令官の表情は遠く、分からない。

「嘘だぴょん…………司令官が…………どうして」

 卯月が信じられない、と言った様子で思わず零した言葉に、不知火が目を細める。

 

「どうして? どうしてと言いましたか? どうしてかだなんて、あなただって分かっているはずでしょう? 卯月」

 そんな不知火の鋭い眼光に、気圧された卯月が言葉を詰まらせる。

「何度も言ったでしょ? あなたは甘い、優しさと甘さは違うわ、あなたの甘さはいつか仲間を巻き込んで、取り返しの付かない不幸を招く危険性がある」

「そんなこと…………」

「このままでは駄目なことが分かって相手を気遣って何も言わないのはただの甘さよ、本当に優しいのなら、告げて正してあげるべきだわ」

 卯月へと厳しい言葉を投げかける、と共にその視線がこちらを向き、自身の視線をぶつかり合う。

 

「弥生、かつての先達たるあなたにこういうことを言うのは少しばかり恐縮ではあるけれど」

 

 くい、と手袋をきつくはめ、不知火が口元を吊り上げる。

 

「教えてあげましょう、旗艦の役割と言うものを」

 

 そう告げた。

 

 

 * * *

 

 

「陣形は複縦陣に、対空砲は全て前だけ向けなさい」

 いよいよ開戦の砲が鳴る。と、同時に飛ぶ命令にすぐさま動く。

 どうやら不知火は直接的には手は出さないらしい、あくまで指示に徹する様子だった。

 色々と言いたいことはある、聞きたいこともある、それでも少なくとも弥生は、司令官が頼んだのなら、何か意味があるのだろうと思っている…………他所の艦娘を頼っていることに多少、寂しさも感じるが。

 

「瑞鳳は艦戦を無視、艦爆を一機でも多く減らしなさい」

「…………了解」

 

 まだ少しばかり訝しげではあるが、瑞鳳が艦載機を打ち上げていく。

 ついでイムヤに潜行するように言うと、イムヤが海中へと潜っていく。

「卯月、分かってるわね?」

「…………………………分かってるぴょん」

 ちらり、と視線を卯月にやり、そう尋ねると、卯月がそれを構える。

「電探による索敵開始、位置把握…………一斉掃射だぴょん」

 25mm三連装機銃、25mm連装機銃、13号対空電探。どれも卯月が改造した時に持っているもので、いつもは外して主砲を持っているが、先ほど不知火に言われて入れ替えたらしい。

 と、卯月が放った機銃の掃射に撃たれ、真正面からこちらを狙って低空飛行をしていた敵の艦攻が次々と落ちていく。

 

「艦攻は常に低空飛行をしてくるわ、機銃で狙えば簡単に打ち落とせる、覚えておきなさい」

 

 不知火がそう呟きつつ、次の指示を出す。

「鈴谷、主砲の砲撃準備」

「この制空権じゃ偵察機は飛ばせないよ?」

「問題無いわ」

 何の問題も無いと、実に堂々とした態度で指示する不知火に、鈴谷がそう、と納得したように頷き、砲を構える。

 と、その時、上空から急降下してくる敵の艦爆隊。瑞鳳の艦戦によって大幅に数が減っているが、それでもまだ少数ながら残っている。

 

「駆逐艦の役割とは、何だと思うかしら?」

 

 上空を見つめ、砲を構えた自身の背後で、不知火がそんなことを言った。

 

「本来駆逐艦とは、敵の水雷艇を駆逐するための艦。けれどその小回りの良さと数、燃費を買われて戦艦の護衛に付くこともある、つまり本来の駆逐艦が果たすべき役割と、求められた役割は少し違っている」

 

 どん、と背中に感じる強い衝撃。

 

「時代は変わったわ、それでも私たちのやることは変わりは無い、つまり」

 

 つんのめり、数歩、たたらを踏み、足を止める、と同時。

 

「主力を守り抜くこと、例えその身を挺してでも主力を無傷で守り通すこと、それだけよ」

 

 自身の眼前で、艦爆から投下された爆撃が炸裂した。

 

 

 * * *

 

 

「あらまあ…………不知火も容赦ないわね」

 呟く飛龍だが、先ほどと違ってその表情に余裕は無い。

 すでに艦攻は全て卯月によって打ち落とされた、艦爆も半数以上が瑞鳳の艦戦に打ち落とされ、その艦戦もこちらの艦戦で打ち落とし制空権は確保したが、艦戦では艦を攻撃することはできない。

 実質、こちらの攻撃手段は残り少ない艦爆のみとなっている。

 

 本当に容赦ない。敵にも、味方にも。

 

 先ほど旗艦の弥生の背を蹴り飛ばして爆撃の被害を集中させていた。

 正直、睦月型駆逐艦は他の駆逐艦より性能と言う面ではやや劣るので、飛龍もそこまでの脅威として認識していない。

 どちらかと言えば、重巡洋艦の鈴谷のほうが明確な脅威だろう、何せ彼女は自身の装甲を抜いてくる可能性があるのだ。

 そのために最高のタイミングを見計らっての爆撃だった…………のだが。

「ホント…………予知でもしてるみたいにあっさり防ぐわね」

 爆撃にさらされた弥生が大破するが…………それだけだ。

 他に誰一人巻き込むことなく、本命であった鈴谷に僅かのダメージを与えることも出来ずに終わった。

 そして直後、鈴谷からお返しとばかりに放たれた砲撃。

 当たりはしなかったが、強烈な一撃が危険なものであると認識させらるには十分だった。

 

「頭が付くだけでこれ……か……。私もまだまだってことね」

 

 単純に、指揮を取っている不知火が規格外なだけかとも思うが、けれど実際には一切の手出しはしていない以上、練度の差が絶対的なほどにあるはずの自身が不甲斐ないだけだろう。

 実力不足を相手のせいに転嫁するようなことは、戦場では出来ないのだから。

 

「…………………………そうね、本当は出すつもりは無かったのだけれど」

 

 追い詰められたなら試してみろ、と提督が言っていたが、まさか本当に使うことになるとは…………。

 第四スロットに格納された、たった三機だけの機体ではある。

 だがこれは、提督が不知火にすら秘密で載せた新兵器。

 

「試し撃ち…………ね。ここまで予想していたのなら、本当に大したものね」

 

 弓を引き絞る。

 番えられた矢がギリギリと弦を張り詰めさせ。

 

「友永隊、頼んだわよ」

 

 撃ちだされた。

 

 

 * * *

 

 

「…………………………おや?」

 不意に不知火が目を細める。

 その視線の先で、新しく艦載機が発艦されていくのが確認できた。

 その数は…………三機。正面から来ている、と言うことは艦攻隊だろうか。

 

「…………………………ふむ」

 再度不知火が言葉を漏らし。

「弥生、下がりなさい。卯月前に」

 大破した弥生を下がらせる。先ほどその背を蹴ったことについては、全員色々言いたそうではあったが、演習の最中であるが故に、言葉を噤んでいた。

 

「対空迎撃用意。相手は三機です…………落としなさい」

「…………了解だぴょん」

 

 卯月がいつに無くマジメな表情で不知火を見ているが、けれどだからこそすぐに不知火の表情の変化に気づいた。

「不知火…………?」

 呟く名前に、不知火が一瞥し首を振る。

「前だけ見てなさい、敵機が来るわよ」

 その言葉に、鎌首をまたげた疑問を振り払い、正面からやってくる三機の艦載機へと対空機銃を向ける。

「正射だぴょん!」

 対空電探による照準良し、機銃二種による掃射。この弾幕ならば、たった三機の敵機などすぐさま落とせる。

 そう、思っていた。

 

「っ!? 回避されたぴょん!」

 

 こちらの弾幕をけれど急激な方向転換により回避、そして猛スピードでこちらの艦隊へと接近し、魚雷が発射される。

「瑞鳳、避けなさい」

 不知火の声が届く、だが一瞬遅い。

「きゃあああああああ」

 魚雷が瑞鳳を的確に爆発に巻き込み、中破させる。

「…………天山一二型、しかも友永隊仕様ですか。提督、いつの間にあんなものを…………」

 たった一度の交差で、不知火が即座に自身の知識と今しがた過ぎ去っていった敵機の照合を行う。

 攻撃、そして再び戻ってくる敵機。二度目の攻撃、もうこちらの艦隊の無事な艦は瑞鳳と卯月と…………。

 

「まあ、問題ありません、これで終わりですから」

 

 瞬間、轟音を立て、派手に水飛沫を上げながら飛龍の足元が突如爆発した。

 

「やった! 海のスナイパー、イムヤにお任せ! 正規空母だって仕留めちゃうから」

 

 

 * * *

 

 

「三戦全勝…………なるほど、中々の成果と言えるな」

 不知火に指揮を取ってもらい、さらに三戦演習を行ったが、その全てで判定勝利、最後の一戦では飛龍を撃沈判定に追い込むと言う結果までもぎとっていた。

 夜、鎮守府内の自室で昼間の演習を撮影しておいたので、再度目を通しておく。

「……………………こうして見ると、卯月の対空能力は目を見張るものがあるな」

 機銃掃射による、敵艦載機の大量撃墜。一度の攻撃で敵艦爆隊の半数以上を落としたその対空能力は侮れない。

 艦攻隊と違い、上空高くを飛ぶ艦爆隊は比較的撃墜しにくい。そんな艦爆隊を相手にこの成果は見事の一言に尽きる。

 

「瑞鳳は…………やはり数がネックか」

 

 瑞鳳に積める艦載機の数はそう多くない。

 スロットごとの艦載機の割り振り、これが今後重要になっていくだろう。

 制空権を捨てて、攻撃に走るのか、それとも攻撃を捨てて制空権確保に走るのか。

 弾着観測射撃と言うものがある。

 戦艦、重巡洋艦、一部の軽巡洋艦などが行う、偵察機を使った正確無比な砲撃だ。

 自身の艦隊で言うならば、鈴谷だけが使用できる。

 命中率の高さ、そして砲撃を直撃させることによる威力高さを考えると、これが出来ればより一層火力の強化が期待できるのだが、そのためには偵察機を飛ばしておける状況…………最低でも制空権争いで優勢以上に立っていなければ不可能だ。

 

 と、同時に、軽空母と言うのは砲撃戦で強力な火力となりうる。

 スロットに積んだ艦載機の数と質がそのまま攻撃力に直結し、下手をすれば並の戦艦すら一撃で撃沈させるほどの火力を出すことができる。

 弾着観測射撃は強力だ、だがそれが無くても戦艦、重巡と言うのは強力な火力であることには変わりないし、練度を上げていけばその命中率も高まっていく。

 

 どちらが正解、なんてものは無い。どちらも正しく、どちらも絶対ではない。

 その選択をしてくのが、提督と言う人間の役割なのだから。

 

 

 コンコン

 

 

 映像の再生を止め、一息ついたとき、ふと、扉がノックされる音を耳にする。

「入れ」

 音の主が誰か告げるより先にそう言う。いや、それが誰かなんて分かりきったことだ、何せ自分が呼んだのだから。

「あの…………失礼、します」

 扉を開き、弥生が入ってくる。表情はいつも通りの無表情、けれど今日はいつもより硬い印象を受ける。

 手招きすると、靴を脱ぎ、部屋に敷き詰められた畳の上を歩いて、すぐ傍までやってきて正座する。

「弥生、着ました」

「ああ……………………まあそれは後にして、最初に言っておこう。今日はご苦労だった」

 朝から簡易とは言え、六戦も演習をしたのだ、さすがに疲れただろう。

 そう言った意味で労うと、弥生がこくりと頷き。

「えっと…………ありがとう……ござい……ます」

 ぺこりと一礼する。

 

「今日の演習は中々満足の行くものだったと思う。だから私個人としては弥生たちの褒めたい」

 

 けれど。

 

「恐らく弥生たちからすれば、言いたいことがあるだろうからな、だから呼んだんだ」

 

 思ったままを言ってくれ、そう告げる自身に対して、弥生が数秒沈黙し…………口を開く。

 

「司令官は…………司令官は、弥生のこと…………信じてくれていますか?」

 

 

 * * *

 

 

「…………勿論、信じてるさ」

 そんな司令官の言葉に、さらに言葉を重ねる。

「弥生は、司令官から信じてもらえていると、そう思っていました。だから、旗艦にしてもらえてるって、思ってました」

 拙い言葉、自分自身、どう表現したら良いのか分からないもどかしさ。

 そして、悲しみ。

 

 艦隊の指揮を他所の艦娘に取らせる。

 そんな有りえないようなことをした、旗艦である彼女に一言も告げずに。

 弥生は司令官に信頼されていないのだろうか。

 ふとそんな疑問を抱き、悲しくなった。

 

「弥生じゃ…………頼りになりませんか? 司令官の力に、なれませんか?」

 

 司令官の力になれないこと、それが一番悲しかった。

 無性に泣きたくなって、辛かった。

 

「……………………………………」

 そんな自身の言葉に、司令官が目を見開く。

 数度、パチパチと目を(しばたた)かせて。

「……………………いや、予想外だったな」

 そう呟き、立ち上がってこちらへとやってくる。

 そうしてその手が伸ばされて…………。

 

 ぽん、と頭の上に乗せられる。

 

「悪いな、怒られるくらいは覚悟してたんだが…………そんな風に思ってくれてるなんてな」

 そうして、数度、撫でられる感覚が心地よい。

「力になれないなんてそんなこと無いさ、信じてないなんてそんなこと無いさ。弥生はいつも俺の力になってくれてるし、俺は弥生を一番信用してる。だからさ、そう言うことじゃないんだよ、今回の演習は」

 そう言いながら、司令官が言葉を続ける。

「今回の演習はな、艦隊全体の対空訓練であると同時に、弥生の特訓でもあったんだよ」

「……………………え?」

 初めて聞いたその真意に、思わず声が漏れる。

 

「弥生も分かってるだろうが旗艦ってのは特別だ。俺が鎮守府で指示出すってのも出来なくも無いが、実際にその場にいるわけでも無い以上、どうやったって瞬時の判断ってのは旗艦に委ねられる。イムヤが、卯月が、瑞鳳が、鈴谷が無事に戻ってこれるかどうか、それは弥生の判断にかかってると言っても過言じゃない」

 

 けどな、そう呟き、その次の言葉を紡ぐ。

 

「そんなものそう簡単に分かるものじゃない、場に慣れていなければそう簡単に判断できることじゃない。でも慣れるまでに何度お前たちは危険な目に会う? その間に誰一人欠けること無く切り抜けられる保証は?」

 そんなもの、あるはずが無い。と司令官が言う。

 確かにその通りであるとは、自身も思う。

「だから先達である不知火がやってきた時、絶好のタイミングだと思った。初めての対空戦、不慣れな状況、弥生が旗艦としての成長を促せる絶好の機会だと。正直、不知火が言い出してくれて助かったよ」

 

 そうして、司令官が自身の頭を撫でる手を止め、なあ、と尋ねてくる。

 

「弥生…………お前は、今回の演習を経験して、旗艦の役割って何だと思った?」

 

 司令官のその言葉に、しばしの間、考え込む。

 司令官は何も言わず、弥生の答えをずっと待っている。

 

 旗艦の役割とは何だろうか。

 普通に考えれば、随伴艦を統率すること。そして無事に帰すこと。

 けれどそんなことを問うているわけではないだろう。

 

 答えは…………未だでない。

 

「出ないなら、それでも良い…………けどな」

 

 そう言って、司令官が自身に笑んで…………。

 

「いつか、お前の答えを聞かせてくれ、なあ弥生――――」

 

 お前は、どんな旗艦になりたい?

 

 

 答えは、()()()()()()()()

 




【戦果】

『第一艦隊』

旗艦  弥生   Lv10   旗艦の…………役割…………。
二番艦 伊168 Lv8    海のスナイパー、イムヤにお任せ!
三番艦 瑞鳳   Lv8   提督ぅ~、艦載機の開発しようよ~。
四番艦 卯月改  Lv46 MVP 司令官、どういうつもりだぴょん…………。
五番艦 鈴谷   Lv6    うーん、今回鈴谷いいとこなかった気がする。
六番艦 None


『第一艦隊』

旗艦  不知火改 Lv99(?)  果てさて、とりあえずやることはやりましたが…………。
二番艦 ???? Lv??
三番艦 ???? Lv??
四番艦 ???? Lv??
五番艦 飛龍改二 LV92   あっちゃあ負けちゃったわね。もっと精進しないと。
六番艦 ???? Lv??



弥生イベントフラグ1。


ところで、弥生のバレンタインボイスで100回以上萌え死んだ。
もう、何回でも聞いてたくなる。

ああ、ところで、うちの嫁が今回のイベントで、大活躍してくれたので、この小説の弥生に色々覚えさせる予定。思いついちゃったから仕方ないね。まあだからって別に無双したりはしませんけどね。この小説は割りと原作ゲームを基準に作ってますし。

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