新人提督が弥生とケッコンカッコカリしたりするまでの話   作:水代

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基本的にこの小説のみならず、水代の書く小説にはオリジナル設定が山のように入ってます。
そう言うのは嫌な人は素直に読むのを止めましょう。


十七話 新人提督が電話を受けたりする話

「撤退なのです」

 口を開き、告げた言葉に他五人がどよめく。

 確かに危険な予兆もある、だがそれにしても早すぎる、恐らくそんなところだろう、この五人の考えは。

 だが、それでは遅いのだ。

「撤退なのです」

 反論のありそうな五人に対して、再度告げる。

「…………電、そないなこと言うても、早すぎるんやないか?」

 五人の代表として、黒潮がそう尋ねてくる。相変わらず食えない性格である。

 恐らく黒潮自身はこの撤退に納得している、理解しているはずなのだ。けれどある意味、他四人の中心である黒潮が賛成に回れば他四人が何も言えなくなる。だからこうして他四人に賛同して、自身から説明を引き出しているのだ。

 つまり、今尋ねてきているのは、他四人を納得させれる材料を引き出すためであり、この撤退を滞りなく行うためのものである。四人と、そして電の両方を手助けするために、敢えて自身の意見を封殺する。本当に食えない性格である。そんなもの自分で説明すればいいのに、そこで敢えて電に説明させようとするところが特に。

 だが乗らないわけにも行かない、先ほども言ったが、これは黒潮なりの手助けなのだから。

 

 撤退時と言うのは、一番危険な状況である。

 古来より戦争において、最も被害で大きい瞬間であり、これを上手く行えるかどうかが生死、そして命運を分けるほどに重要なファクターである。

 

 撤退戦に置いて、意思の統一と言うのは最も重要だ。

 規律正しい、統率の取れた軍団には追撃も仕掛けにくい。逆に足並みの乱れた烏合の衆など格好の標的だ。

 だからこそ、ここで意思を揃える必要がある。撤退、と言う二文字を四人の頭に刻みつける必要があるのだ。

 

「あっちを見るのです」

 南東に向かって指を差す。その先には二つの島に挟まれた海域に数隻の敵水雷戦隊が移動している姿が見える。距離はかなり遠い、正直まだ明るい昼間で無くてはすぐに見失ってしまう程度の距離。

「それから、今度はあっちなのです」

 さらに指差す方向には、別の艦隊。潮流の激しい場所らしく、駆逐級が波間に揺れているが、そこに混じる戦艦級は微塵も気にした様子は無く佇んでいる。同じく距離はまだ遠い。こちらから近づかない限り、恐らく戦闘になることは無いだろう。

「あの二点。あそこに敵が居座っている以上、これ以上は戦闘無しには進めないのですよ」

 戦闘が起これば、周辺の敵が次々と集まってくるだろうことは予想に難くない。何せここは正真正銘の敵地なのだから。そして同時にどうにかあれらを避けて進んだとしても、今度は戻ることができなくなる。

 これから日が沈んでいくにつれ、暗くなることはあっても明るくなることは無い。だからこそ、事前にこの周辺の海域を敵を避けながら見て周り、島の分布や敵の配置などを把握したのだ。

 そしてそれら全てを総合してみた結果、あの二点に敵が陣取っている以上、これ以上の進軍は不可能だと判断せざるを得ない。

 

「と、言うわけで、撤退なのですよ。それでも残りたいなら、敵に囲まれて一人で死ぬ覚悟をしてから残るのテ"ス"」

 

 にんまりと嗤いながら告げた言葉に、全員がふるふると首を振った。

 ようやく理解は得られたようなので、すぐ様撤退行動に移る。

「最寄の泊地まで一旦撤退なのです。その後のことは到着してから説明するので、北北東へ転進です」

 その指示に全員が了解と頷く、と同時に。

 バシャァ、と水面が弾け、ソレが現れる。

 

「電!」

 

 黒潮が注意を喚起する、と同時に足を振り上げる。

 振り上げた足を振り下ろし、ソレ…………駆逐イ級へと踏み込み、一息に間を詰める、と同時に足を振り下ろした勢いのまま、後ろ手を…………そしてそこに持った碇を振り上げ、振り降ろす。

 ドスッ、と鈍い音と共に手の中に残る感触。相応の手ごたえこれなら即死だろう。

「敵に見つかったのです、全艦即座に転進」

 そう叫ぶと共に、海を走り出す。そしてそんな自身に五人もまた付いてくる。

 だが見つかった時点ですでに、他の敵も密集してきていたらしい。

 進路上に敵軽巡級の姿。その攻撃の手を…………真っ直ぐこちらを向いている。

 

 ドンッ、と敵の銃口が火を噴く、と同時に自身は海面を蹴り上げる。

 ザパァ、と捲れ上がった海水が飛んでくる砲弾を飲み込む。だがその程度ではその勢いまでは止まらない。

 

 けれど、その動きは僅かに鈍る。

 

「それで、十分…………な…………の…………テ"ス"!!」

 

 思い切り振りかぶった碇を、サイドスローで投げる。くるくると回転する碇は飛んできた砲撃をいとも容易く打ち返し、そのまま進路上の敵軽巡級へと減り込む。

 思い切りのけぞり、その衝撃に動きを止める軽巡級。時間にして十秒にも満たない。

 だがそれでも、それだけあれば、十分過ぎた。

 近づいて、その砲を付きつけるには…………。

 

 どん、どん、どんどんどんどんどんどんどんどん

 

 引き金を引く、引く、引く、引く、引いて、引いて、引いて引いて引いて引いて引いて。

 

 そうして動かなくなった敵を蹴り上げ、水底へと沈んでいくソレに一瞥すらくれず、また動き出す。

 碇も沈んでいったが、見える範囲に敵は居ないようなので問題は無いだろう。

「さあ、急ぐのです」

 そう告げ、五人を急かしながら、ふと後方へと目をやる。

 水平線へと消えていく敵を数えながら、その方角に意図せず目を細める。

 

「…………嫌な予感がするのですよ」

 

 まさか、と言う内心の予感を、けれど口には出さずに飲み込んだ。

 

 言ってしまえば、それが現実になってしまうような気がして。

 

 けれど、言葉にしようがしまいが、現実は変わらない。

 

 数日後、それを思い知らされた。

 

 

 * * *

 

 

「鈴谷さん!」

「あいよー、まかせといて!」

 どぉん、と言う轟音と共に飛来した砲弾が敵重巡リ級eliteに直撃、その身を大破させる。

 すでに敵艦隊の半数以上は沈み、残った敵も中破か大破した状況。

 今なら危険性を排除して雷撃戦に望める。

「魚雷装填」

 自身のその言葉に、卯月が、そして海中でイムヤが雷撃準備をする。

 距離はもうそれほど開いていもいない。

 この距離ならば…………当てれる。

 

「発射っ!」

 

 振り上げた腕を振り下ろす。海中にいるイムヤにも伝わるように見せた、合図。

 同時に、自身から卯月から、そしてイムヤから、魚雷が発射される。

 距離は近い、だが敵の交戦能力はすでにほぼ壊滅した状態だ。

 この状況、敵の反撃は無い。すでにそんな状態ではないからだ。

 そして真っ直ぐ伸びていった航跡が、敵の中心まで届く、と同時。

 

 ざぱぁぁぁぁ、と激しく波飛沫が巻き起こり…………。

 

 飛沫が収まった後に、敵の影は無かった。

 そのことにほっと一息を吐く。

 そうして周囲を見渡し、全員無事なことを確認する。

「…………とりあえず…………初戦、突破……です……」

 呟き、そうしてぐっと拳を握る。

「次…………行きます」

 その言葉に、勝利に喜ぶ全員がさっと表情を変えて、頷いた。

 

 

 今更な話ではあるが。

 艦隊の進路と言うのは基本的に当てずっぽうである。

 と言うのも、現在の海域は深海棲艦の登場の影響なのか、磁場のようなものが発生し、現代機器の大半が使用できない状況にある。

 航空機や艦船もまた機器が異常を示し、まともに航行することもできない。

 レーダーなどがろくに機能せず、向かうことはできるかもしれないが戻ってくることは確実にできない。

 一度でも方向を見失えば、最早空を見上げる以外に方角を知ることはできず、一体自分がどこにいるのかすら分からなくなる。

 初期の頃は、この制約のせいで、思うように遠征できず、本州近海で防衛線を張るだけが精一杯だったのだが、その三年後くらいに開発されたのが、羅針盤である。

 妖精と呼ばれる艦娘たちを生み出し、その装備を作り出し、そして自らもまた艦娘たちの艤装と共にそれらを操る謎の存在。その妖精の力を利用して生み出された羅針盤の力は明快単純で。

 

 帰り道が分かる、それだけだ。

 

 だが、それこそが何よりも重要であり、何よりも必要とされていることであった。

 仕組みとしては単純かつ謎であり、妖精の帰巣本能とも呼べるものを使い、所属の鎮守府への進路を導きだすのだ。妖精はどんな場所に居たとしても、自身の住み着いた鎮守府がどこにあるのか、と言うのが分かるらしい。帰路を尋ねれば瞬く間に羅針盤は方位を示してくれる。

 単純と言えば単純であり、どうしてそんなことができるのか、と言う意味では謎ではある。

 だがこれの開発により、海軍はその版図を大きく広げ、数年前、ついに大陸間との行き来に成功した。

 これによりシーレーンの復旧が急ピッチで進められ、日本海の一部の航路が確保された。

 さて、本題がずれたので戻すが、とにかくこの羅針盤を使うことにより、艦隊は帰路の確保に成功した。

 だが磁場が狂っている以上、この羅針盤もまた普段は針が狂っており、碌に機能はしないのが現状である。

 

「方角…………北は…………こっち?」

 

 さらに研究を進めて分かったことではあるが、妖精と言う存在が憑いた機器は、この磁場の影響を廃し、正常に機能することができるらしい。

 つまり、この羅針盤も本来ならば正確に機能するはず…………なのではあるが。

 けれどそう言った機器は、妖精が気まぐれを起して偶におかしな働きをしてしまう、と言うのもまた分かっていることである。

 

「本当にこっちかぴょん?」

 

 卯月が空を見上げながら呟く。太陽の位置を見て方角を知る、と言うのも無くは無いが、現状の正確な時刻も分からない、だいたい朝、だいたい昼くらい、だいたい夕方、程度の時間感覚でいる以上それも正確とは言えない。かと言っても時計を持ち出しても、狂うだけだ。

 

「分からない…………けど…………とりあえず、進むしかない……から……」

 

 立ち止まっている限り、永遠に進まないのは自明の理だ。

 この羅針盤の混迷を予測して司令官は七日間と言う期限を設けたのだ。

 一日や二日、攻略に失敗したからと言ってどうこう言う問題でもない。

 

「じゃあ…………行きます……進軍……です…………」

 

 そう告げた自身の言葉に、全員が頷いた。

 

 

 * * *

 

 

「…………なるほど。そうですか」

『ああ、予想以上ではある』

「けれど、想定以上ではない、と」

 電話口に口にした言葉に、上官殿が電話の向こう側で苦笑する。

 どこまで予定通りなのか、自身も分からないが、万事に備え、人事に尽くす。それがこの上官殿の常勝の秘訣である。

 この異常事態において、未だに一ミリも慌てた様子が感じられない以上、この程度は予想済み、と言うことなのだろう。

『確かにまだ想定の範囲内ではある、予想以上ではあったがもっと最悪も想定してある以上、現状のままなら問題にならないだろう』

 だが、と。上官殿が言葉を続ける。現状のままなら問題無い、けれども。

『敵の移動が未だに止まない。最初の想定よりすでに一段階上がっているが、正直これでもまだ足りないような気がしてならない』

「それほど、ですか?」

 そんな自身の問いに、上官殿がああ、と短く答える。

『具体的な日数は分からん、だが敵が時間をかけているのなら、こちらも同じだけの時間を有意義に使わねばならない。こちらは資源と情報の収集を密に動いている、何か動きがあればまたすぐに大本営に通達し、動き始めるだろう』

「そしてこちらは、今の内に沖ノ島海域を攻略しておく、と」

『ああ、現在の海軍で少佐が中佐になるための最低条件がキス島の駆逐艦での攻略か、もしくは沖ノ島海域の制覇だ。どちらか満たせれば俺の権限でお前の昇進を掛け合っておく』

「そして中佐になれば、緊急時、大本営とは別に、個別の鎮守府で動くことができる…………ですか」

『正確には、将官位の要請に応え、その指揮下に入る義務が与えられる、だがな』

 

 それは義務である。基本的に佐官位の人間は緊急時、大本営の意向によって動かされる。

 将官位の人間は緊急時、大本営と強調しつつ、独自で動くことが許される。

 そして少佐位の人間は大本営の直轄として行動することが義務付けられており。

 中佐位の人間は、将官位の人間の要請があった場合、一時的に大本営の指揮下から外れ、要請した将官位の人間の指揮下に入ることが義務付けられている。

 そして大佐位となると、将官位の人間から要請があったとしても、相応の理由がある場合に限り、それを断ることができる。さらに自ら将官位の人間の指揮下に入れてもらうように要請することもできる。

 かなりややこしいが、これが将官以上になると別の意味で複雑になる。

 義務などはほとんど免除される、代わりに派閥の問題などが立ちふさがり、自由に身動きすることが難しくなる。

 慣例としては独立して動くのは中将位以上となる。少将位の人間は、実際に指揮を行うことはあっても、その実、中将位以上の人間の意向の元に動くことが多い。

 

「上官殿は確か少将でしたが、その上は?」

『数年前から親交を深めてきた相手だ、心配する必要は無い』

 間接的にとは言え、自身が中佐になれば、その人の指揮下に入ることになるのだ、どんな人物か気になるのは当然であるが、上官殿が心配無いと言う以上、それ以上追求することはできなかった。

『それより、沖ノ島海域の攻略は順調か?』

 あまりこの空気は良くないと思ったのか、即座に話題を変える上官殿。

 とは言え、聞かない以上この空気を引き摺っても仕方ないので自身もまたその話題に乗る。

「まだ初日ですから、どうとも言えないですが…………正直言えば、練度が圧倒的に足りてませんね」

『ああ…………東部オリョール海と違って、敵の強さが跳ね上がるからな。確かに必要とされる練度が跳ね上がるのは確かだ』

 敵中枢艦は戦艦四隻。中にはル級flagshipの姿もまたある。

 おおよそ現在見つかっている敵の中でも、最上級の強さを持つ敵だ。その随伴艦のル級eliteもまた決して油断できない敵であり、道中にも戦艦級や正規空母級の敵が続々と現れるため、たどり着くことすら難しいとされる沖ノ島海域。

 そして最大の問題はやはり方向が分からない、つまり羅針盤なのだろう。

 妖精が気まぐれに回す羅針盤を本当に信じて良いのかどうか。かと言って他に判断材料も無く、強敵との戦闘を潜り抜け、たどり着いた先は行き止まりだった、なんてことも良くある話。

 そうして道中の強敵、羅針盤の二つの要素を運良く潜り抜けたとして待ち受けるのは、これまでとは桁違いの強さの敵艦隊。

 まあ有体に言って、ここで心を折られる提督が続出するのも分かる話ではある。

 

 あるが。

 

「立ち止まってられませんから」

 

 けれど関係無い。

 

 自身の半生を費やしてでも成し遂げたい目的がある。

 

 そのために必要なことならば。

 

「…………成し遂げるだけだ」

 

 そうか気をつけろ、とだけ告げて通話を切った上官殿に、受話器を置いて…………そう呟いた。

 

 

 




【戦果】

『第一艦隊』

旗艦  弥生   Lv19  MVP  ちゃんと……たどり着く……かな……?
二番艦 伊168 Lv17       羅針盤ばっかりは…………運よねえ。
三番艦 瑞鳳   Lv17      索敵で補うにも限界があるわよねー。
四番艦 卯月改  Lv49     目を瞑って進む、それで全部解決だぴょん(白目)
五番艦 鈴谷   Lv16     あはは、気楽にいこーよ、どーにかなるって。
六番艦 None

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