新人提督が弥生とケッコンカッコカリしたりするまでの話 作:水代
そういった たぐい の もの に けんお かん を いだかれ る かた は
ぶらうざ ばっく かもん
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沖ノ島海域挑戦からはや五日が過ぎた。
六日目。朝。
「どうだ?」
たった一言、自身の秘書艦に問う。
期限は七日と、最初に決めた。そしていつ決行するのかは、自身が秘書艦に任せた。
毎日問い続けた言葉は、けれどまだ、と言う返事だけが返ってきて。
けれど、どうやら今日は。
「…………はい」
いつもとは違うその言葉に。
「…………そうか」
それだけを返した。
* * *
艦隊で戦闘を行う際、時間と言うのは非情に重要な要素となる。
単純に言って、朝なのか、夜なのか、それだけで戦い方がまるで違うからだ。
今更な話だが、この艦隊の連度で簡単に沖ノ島海域が突破できるとは自身も司令官も思ってはいない。
そんな簡単に突破できるようならば、新人提督の登竜門などとは呼ばれない。
だが司令官曰く、時間が無い、らしい。
それがどういう意味か、良く知らない、けれどとにかく司令官はこの海域攻略の期間を一週間と決めた。
そして何時ソレを敢行するのか、そのタイミングを秘書艦である自身に委ねた。
ならば自身は可能不可能の可能性を考慮しながら決断する、それが
話を戻すが、現状の艦隊で沖ノ島海域を突破するのは、かなり厳しい、それが現実である。
何せ、最奥に居るだろう敵
だからまあ、これは紛れも無い裏技である。
最初に言っておくと、艦隊と言うのはいくらでも戦い続けることの出来る存在ではない。
艦娘は一戦ごとに相応の弾薬と燃料を消費する。そしてその消費がかさみ燃料が尽きれば機動力が、弾薬が尽きれば攻撃力が皆無となる。故に安全圏と言われる四戦、帰投中に襲われた時のために一戦分の燃料と弾薬は残して戦うのが現在の常識とも言える。
次いで言っておくと、海域の道中には深海棲艦に侵略され放棄せざるを得なかった元鎮守府や、元補給基地と言った類のものがある、そこにある燃料や弾薬、鋼材とボーキサイト、時には高速修復材や高速建造材と言った貴重品まで、置いてあるものは回収して自身の鎮守府で使用することが大本営より許可されている。有体に言って、そこで補給してもいっこうに構わないのだ、敵地のど真ん中、と言うことを考えなければ、だが。
一つ、日のある間の戦闘と暗くなってからの戦闘は勝手が違う、と言うこと。
二つ、現状の艦隊ではまともにやっては沖ノ島海域は突破できないだろう、と言うこと。
三つ、艦娘は燃料弾薬が尽きれば戦えなくなるが、逆に言えばそれらがある限り、損害を無視すればいくらでも戦うことは可能だと言うこと。
四つ、海域の道中には放棄された補給基地などがあり、そこにある資源は使うことを許可されている、つまり補給が出来る、と言うこと。
そして五つ、司令官は北から敵中枢を目指すと言った、海域で唯一空母が確認されている北から。ただし北から向えば、恐らく敵中枢にたどり着いても燃料や弾薬が足りないだろう。
さて、以上五つの条件を考えれば、司令官が当初提案してきた作戦、と言うのも理解できるのではないだろうか?
夜戦にて敵中枢までの強行突破。
道中の消費は補給基地で行い、敵中枢までに燃料弾薬を絶やさないようにする。
簡単に言えばこの二つである。
現状の問題点は三つである。
一つは現状の艦隊では敵中枢部隊に勝利することが難しいこと。
だがこれは夜戦と言う水雷戦隊でも大型艦を倒すことの出来る状況に持ち込むことにより解決する。勿論こちらの被害も相応以上に大きくなるだろうが、それでも日にあるうちに戦艦三隻を相手にするよりはよっぽど勝ち目が高い。
一つは敵中枢にたどり着くまでに燃料弾薬が心もとなくなること。
これは途中の放棄された補給基地で簡易補給することにより解決できる。道中に補給基地があるのは事前に確認されている。どれだけの量が残っているかは疑問だが、それでも艦隊が一度補給する程度はまだ有るだろうと予想されている。
そして最後に一つ。
羅針盤は気まぐれで、本当に敵中枢にたどり着けるのか。
これだけはどうしようもない問題である。
だから試行回数を増やすしかないと司令官は判断し…………そこに弥生が待ったをかけた。
五日間も日のあるうちから戦い続けたのはそのためである。
「ん…………こっち」
明るいうちに目星をつけていた目印となる島を見つけ、艦隊の現在地を頭の中で地図を広げながら確かめる。
と言っても薄らぼんやりを見えるだけなので、本当にそれが目印としていた島なのかは疑問ではあるが。
「…………海が静かね、深海棲艦もやっぱり夜は動きが鈍いのかしら」
瑞鳳が呟きながら空を見上げるのに釣られ、弥生もまた上空を見上げる。
暗い。満天とは言わないが、夏だけあって星空は輝いて見える。お陰でぼんやりでも島の形が見えるのだが。
時刻はすでに夜と言えるだけの時間帯。冬と違い、夏の夜は遅くやってきて、早々に終わってしまう。
急ぐ必要があった。
もうすぐ最初の補給基地があるはずだが、ここに至るまで一戦もしてしないため、このままならば補給の必要も無い。
深海棲艦は基本的にそれぞれの海域の特定の地点に集まっている。その場所はだいたい傾向的に決まっており、そのためその周囲を点で表示し、地図上にアルファベットを振ってそれぞれマスとして記入することがある。
だが、深海棲艦は生きているのか死んでいるのか不明だが意思を持つ存在だ。いつまでも同じ地点にいるとは限らないし、いつも同じ編成だとも限らない。
もしかすると、午前中にどこかの別の鎮守府の艦隊が海域入り口付近の敵を一層したのかもしれない。この海域の入り口付近の敵は基本的に水雷戦隊ばかりなので、新人提督たちに良く練度向上のための練習相手扱いされていることが多いと聞く。
深海棲艦はどこからとも無く現れ、倒しても倒しても尽きることの無い存在ではあるが、午前中に倒したものが午後になって復活している、などと言う余りにも非常識なことはさすがに無い。ならば明日の朝までは敵はいないだろうから比較的安全に進むことができた。
問題はここから。この先には…………。
「…………そろそろ、敵の哨戒圏、です…………全艦、警戒」
呟きにも似たその掛け声に、四人が応と答え、周辺警戒を開始する。
事前情報によれば、この辺りに出てくる敵の中には戦艦ル級もいるらしい。
すでに何度も倒している相手ではあるが、何度戦ってもその強大な火砲には戦慄を覚えざるを得ない。
さらに夜戦と言うこともあり、随伴の水雷戦隊も決して侮れない相手である。
「…………でも…………そんなのは、最初から…………分かってる、から」
元々無茶のある行軍なのだ。まともにやれば勝てないとわかっているからこそ、運に頼った。
夜戦とは、究極的に言って、先制の取り合いだ。
視界の開けた日の出ている時間帯とは違い、敵の姿すら見えない闇の中から相手よりも先に敵を見つけ出し、そしてその機先を制することが肝要になる。
だがこの薄い星明かりの空の下では、かなり近づかなければその姿を認めることは相当に難しいと言える。
「……………………敵影、確認」
だからこそ、それは相当に運が良かったのだろう。
気付けばうっすらと蠢く影を見つけた。
それがこちらの背を向けた敵の姿だと認めた…………瞬間。
「全艦…………攻撃開始、です」
味方の艦隊が火を噴いた。
* * *
南方海域、サーモン諸島付近での敵深海棲艦の大規模な集結を確認。
その一報が入って来た時、男は深くため息を吐いた。
「お前の嫌な予感が当たったな、電」
「…………っち、面倒くさいことになってのですよ」
「そうですね、約半年ぶり、と言ったところでしょうか」
予想はしていたことではある、近頃の敵深海棲艦の大規模な移動。
またなのか、と言う思いは確かにあったが、やはりこうなったか、とも思う。
「大本営からは?」
そんな不知火の問いに、男が首を振る。
「まだ情報が足り無すぎる、逆撃をすべきか、防衛をすべきか、まだそこすら分かっていないのだから、現状での判断は軽率だろうな」
男の言葉に不知火がなるほど、と頷き、けれど電は苦々しい表情を崩さない。
「かといって、ここまで数が揃っているなら余り猶予も無いのですよ」
そんな電の苦言に、男もそうだろうな、と思う。
確認された敵の数、種類だけでも相当なものなのに。
「…………未確認艦、か」
これまでに一度も確認されていない種類の敵。
その
「…………【姫】か」
沈黙が執務室を覆った。
* * *
都度三度の夜戦、そして道中での補給。
夜明けは近い、だがすでにここは海域最奥。
どこかに居るだろう敵中枢艦隊を見つけ出し、これを叩けば全て終わる。
「…………各艦、状況を…………報告」
進むか、退くか。まだ選択の余地は残されている、少なくとも、接敵しない限りは。
もう一度状況の確認、それで決めようと弥生は考えた。
「イムヤは問題無いわ、夜に
伊168は無傷。元々夜においては無敵を誇る潜水艦である。爆雷もソナーも持たない敵水雷戦隊にどうこうできるはずも無かったようだ。
「こっちも問題ないわ…………と、言っても私はここまでろくに戦闘できてないから、申し訳ないんだけどね」
瑞鳳も問題無し。夜間戦闘なので空母は戦うことが出来ないが、司令官の指示で今回も付いてきている、どうやらここまで無事に切り抜けてこれたようだった。
「うーちゃんはちょっと不味いかも~、
卯月が中破。だが機動力に問題はないなら、一応進軍は可能、戦力として数えれるかどうかは分からないが。
「悪いね卯月、あたしのこと庇っちゃってさ…………お陰でこっちの被害は軽微だよ」
鈴谷は小破、と言ったところか。だがまだ問題は無いだろう。
「弥生も…………問題ない、です」
そして自身は問題無し、多少装甲が傷ついた部分もあるが、小破までは至っていない。
艦の被害度は、主に三種類に分けられる。
最初は小破。これは多少の
次が中破。これは機関か武装、もしくは両方に重大な支障が発生した状態。機関に支障が発生すれば機動力が落ち、攻撃の回避もままならず、武装に支障が発生すれば攻撃力を大きく減衰する。どちらにしても戦力としてはかなり問題のある状態であり、できるだけこの状態の艦娘が居る場合は危険を冒さないほうが良い。
最後が大破。装甲が完全に剥がれきった状態であり、非情に危険。最悪駆逐艦の砲撃ですら轟沈する危険性がある上にそこまで行く過程で大体の場合、機関も武装も重大な損害を負い支障をきたしているはずなので、基本的には戦力としては数えることが出来ない状態。
現状で一人も大破まで至って居ないのはほぼ奇跡と言っていいだろう。
運が良かった、そう言っても過言ではない。
初戦はいきなり敵の背後から奇襲が出来たため、ろくな反撃すら受けずに殲滅。
続き戦いは、けれど空母四隻と軽巡一隻、駆逐艦一隻。空母は夜戦では攻撃できないし、軽巡と駆逐艦は当たるはずの無い潜水艦への攻撃に夢中でこちらも問題なし。
最後の重巡リ級flagshipを旗艦とした精鋭水雷戦隊は強敵だったが、旗艦リ級flagshipの攻撃を鈴谷を庇って卯月が中破、残る水雷戦隊の攻撃はまたイムヤが上手くいなし、真っ先に敵旗艦のリ級を叩き潰すことで極めて軽微な被害で突破することができた。
「…………イムヤさん、大活躍、ですね」
主に囮と言った意味ではあるが、けれど敵の気持ちも分からなくは無い。どんなに強大な艦隊だろうと、夜に潜水艦を相手にするなんて恐ろしい真似誰だってやりたくは無いだろう。
究極のステルス兵器、などと言う呼称は伊達ではない。日の明るい昼間でさえソナー無しでその姿を見つけることは難しいと言うのに、ましてや夜である。
建造二隻目で潜水艦を引き当てた司令官の運には正直脱帽する。
二隻目でいきなり潜水艦とかピーキーな、なんて思ったりしたが、今となっては頼もしい限りである。
と、話はそれたが、まとめると。
卯月以外は戦闘に問題無し、全艦進軍可能。
と言ったところか。
一番練度の高い卯月がやられているのはやや不安にもなるが、最大火力である鈴谷が無傷であるというのは朗報だ。
それに…………。
「夜明けも…………もうすぐ」
現状、全てが司令官の計画通りに進んでいる。
ならばここで引き返す理由も無いだろう。
「全艦索敵…………一秒でも早く、敵を見つけて」
それから。
「殲滅します」
それだけだ。
【戦果】
『第一艦隊』
旗艦 弥生改 Lv24
被害……軽微…………いける?
二番艦 伊168 Lv23 MVP
夜戦なら任せて!
三番艦 瑞鳳 Lv22
夜は何も出来ないのぉ~
四番艦 卯月改 Lv50
あとはまかせたぴょ~ん
五番艦 鈴谷 Lv20
卯月に助けられちゃったからね、頑張らないと
六番艦 None
ゲームじゃ出来ないことでも小説ならできるその①夜間強行突破。
ちょっと戦果の書き方変更。
以前のはちょっと余白の作り方とか上下の揃えとかが面倒すぎた。
というわけで超久々に書きました弥生二次。
年末ボイスに萌え殺されたり、年始ボイスに萌え殺されたりしたけど、今日も弥生が可愛くて俺は元気です。
正月シーズン終わってお仕事も一段落したので、またぼちぼち更新していきます。