新人提督が弥生とケッコンカッコカリしたりするまでの話 作:水代
ゆっくりとした足並みは、やがて先を急ぐように早歩きへと代わり、最終的に全力で工廠へと走る。
早く、早く、一刻も早く自身の初めての艦娘を迎えてやりたかった。
鎮守府内はそれなりに広いが、それでも全力で走れば工廠まで一分とかからない。
すぐにその入り口にたどり着き、重々しい金属扉をゆっくりと扉を開いていき。
扉の向こう側に、一人の少女がいた。
艤装を持っている、と言うことは艦娘だろう。紺のセーラー服、薄紫色の髪色、月を模った髪飾り、艤装に括られたボロボロになったリボン。
扉を開ける音に気づいたらしい少女がこちらを振り返る。
無表情、と言った言葉が出てくる。
こちらの姿を確認し、それでもぴくりとも変化しない表情。
眉根をひそめたようなその表情は、見ようによっては怒っているようにも見える。
自身の艦娘、その様子に僅かに呆然としていると、少女がゆったりとした歩みでこちらへとやって来て。
「初めまして、睦月型駆逐艦三番艦『弥生』……です……」
少女…………弥生は、ぴくりとも表情を変えることなく、そう告げた。
* * *
場所を移して執務室。
今日初めて入ったその部屋は予想以上に何も無かった。
何も置かれていない部屋、新設されたばかりの鎮守府だけあって、部屋の中は埃一つ落ちておらず、綺麗なままにされており、家具類も置かれていない開放感のある空間だけがそこにあった。
だからこそ、部屋の片隅に積まれたダンボールだけが異常に目だっており、僅かに眉目をひそめた。
一緒に部屋に入ってきた少女…………弥生は、けれどその光景を無表情に、無感情に見つめるばかりで、口を閉ざしていた。
「さて…………とりあえず、改めて言わせてもらうけれど。ようこそ、我が鎮守府へ」
部屋の中央に立って、それから弥生へ向かって振り返り、そう告げる。
「改めまして、駆逐艦弥生です。どうぞよろしくお願いします」
ぺこり、と頭を下げる弥生だが、けれどその表情は相変わらず硬い。
何か粗相でもしただろうか? と自身に問い、けれど答えは出なかった。
「貴君がこの鎮守府初の艦となる、これから何かと長い付き合いになるだろう、どうぞよろしく頼む」
「了解です。こちらこそ、司令官の采配に期待させていただきます」
言葉こそ友好的だが、どうにも表情が気になった。一見すると怒っているようにも見えるが…………。
「一つ尋ねたいのだけど、私は貴君に何か失礼をしただろうか?」
「え?」
表情こそ変わらないものの、その声音はどこかきょとん、とした雰囲気を伝えてくる。そうして、やがて、ああ、とどこか納得したような声で呟き。
「え…………? 弥生、怒ってなんかないですよ? …………すみません、表情硬くて」
どこかしゅん、と落ち込んだ様子の声音にようやく理解する。この弥生と言う少女は、単純に感情を顔に出すのが苦手なだけなのだと。
「ああ、すまない、私の勘違いなら良い。とにかく…………だ。弥生、これからよろしく頼んだ」
「はい…………よろしくお願いします。司令官」
それが自身と、弥生との、あまり良好とは言えない、最初の出会いだった。
* * *
提督としてこの鎮守府に着任し、念願の秘書艦も出来た自身の最初の仕事は、鎮守府の内部を見て周り、各施設を覚えることだった。
秘書艦として同行している弥生と共にまず最初にやってきたのは…………。
「船着場……ですか……」
先ほどより強くなった風に髪を抑えながら弥生が呟く。
そう最初に来たのが先ほどまで上官を待っていた船着場である。
その上官はと言えば、秘書艦の不知火が連れて帰ったらしい。
まあそれはさておき、船着場は文字通りの意味で使われることもあるが、それ以上に。
「弥生たちはここから出撃することになる…………そして、帰って来た弥生たちを迎えることになるのも、ここだ」
暗に生きて帰れと言う。また初の出撃すら済ませていないのに、早計だと思われるかもしれないが、それでも自信の提督としての信条は伝えておきたかった。
「これから先、どんな相手と戦うのかは分からない。だが生きろ、必ず生きて帰れ。そうすれば、次は勝てるよう、勝たせることができるように最大限の努力をしよう」
だから帰って来い。そう告げた自身の言葉に、やはり表情を変えずに、けれど声音を変えて。
「了解です」
しっかりとそう呟いた。
船着場を離れ、次に向かったのは補給所だ。
艦娘が深海棲艦と戦うには、二つのものが必要となる。
一つは燃料、一つは弾薬だ。空母の場合そこにさらにボーキサイトが加わるが、今は割愛するとして、艦娘たちは戦闘へと出向くたびに、燃料と弾薬を消費し、尽きれば戦闘能力を完全に失うことになる。
一人の艦娘が連続して戦闘できるのは3戦から4戦までと言われており、それ以上は戦闘能力を失ったただの的でしか無くなる。
そこで、海域から帰投した艦娘に燃料と弾薬を補給するのがこの補給所だ。
「ところで、燃料ってどうやって補給してるんだ? 給油口とか無いように見えるが」
「飲みます」
「え………………」
「コップで…………きゅっと」
くいっ、くいっ、と空手でコップを傾けるような動作を見せる弥生に、思わず目を見張る。
「えっと…………何、ですか」
心なしかジトっとした目でこちらを見つめてくる弥生。主にまなじりが数ミリほど上がっているような…………気がする。
「怒ってる?」
「怒ってません」
怒ってはいない、が、声音から判断するに何か呆れられているような気もする。
と言ってもなんとなくそんな気がする、と言う程度ではあるし、何に呆れられているのか分からないので、恐らく気のせいだろうが。
「まあここは私が、と言うより主に弥生たちが世話になる場所だな」
気を取り直しそう言うと、ですね、とだけ弥生が呟く。
「補給は、しっかりしないと…………戦えません」
燃料が無ければ動くことに大幅に制限がかかるし、弾薬が無ければそもそも敵を攻撃できない。
実際、燃料が尽きても水上を歩いて帰るくらいはできるらしいが、例えるなら手漕ぎの船とエンジンのついた船くらいの速度の違いが出るらしいので、移動より寧ろ戦闘中敵の攻撃を避けるのに燃料は必須らしい。
つまり補給はある意味、艦娘たちの生命線なのだ。そう考えればこの補給所の重要性もわかるというものだ。
「そうだな…………補給は重要だ」
そうして補給所にいた妖精たちに適当に挨拶しながら、次へと向かった。
そうして次にやってきたのが…………。
「…………………………風呂?」
「入渠施設です」
何言ってるんですか、みたいな視線を感じたが、これは仕方ないだろう。
だってどう見たって風呂だ。浴槽を満たした液体が抹茶のような色をしていることと浴槽が二つあることを除けば、人間の風呂そのものである。まあ艦娘は人型であるし、こう言った施設があるのも当然…………なのか?
入渠施設は傷ついた艦娘たちを
また入渠の際に、ダメージに応じただけの修復のための資源を必要とし、それには主に燃料と鋼材を用いる。
艦娘たちには様々な艦種があるが、駆逐艦や潜水艦が最も必要とする時間と資源が少なく、戦艦や空母と言った重武装艦が必要とする時間と資源が多い。特に、噂にだけ聞く大和型戦艦などを大破させた時は、まだ開かれたばかりのこの鎮守府に備蓄された資源など一瞬で消し飛ぶほどの量を必要するらしい。
もしかして最初の艦が駆逐艦だったのは、提督なりの気遣いだったのかもしれない。修理に必要な時間も資源も非常に少ない、まさに運営されたばかりの鎮守府には優しい艦だ。
と、それはさて置いてまあ、ふと疑問に浮かんだことを尋ねてみる。
「ところで、弥生たちは普通の風呂には入らないのか?」
確か事前に見た鎮守府の館内図の中の艦娘たちの個室にはそう言ったものは無かった気がするが。
「入りますよ、こっちは修復の時に入るだけですから。修理の必要無い時は普通に入ります」
「なるほど…………その辺りは普通の人間と変わらないな」
そう言えば大浴場が一つありりやたら大きいなと思っていたがもしかして鎮守府に勤務している人だけではなく、艦娘たちも入るためのあのサイズなのだろうか?
こうして思うことは、思った以上に艦娘のことを知らない、と言うことだ。
上官である提督の元で修練していた時は、戦術的なことや、鎮守府の運営方法などばかり習い、こう言った艦娘たちの日常的な部分は習わなかったからこそこうして次々が明かされる事実に驚く。
だがこれはこれで構わないのではないか、とも思う。
初めから相手のことを一方的になんでも知っているのでは対等な付き合いとは言いがたい。
互いに知って知られて、そうやって互いの理解を深めていくのがコミュニケーションであり、相互理解と言うものではないだろうか。
だからこそ、自身は口を開く。そうして、こう告げる。
「弥生…………こちらから聞いてばかりでは何だ、そちらからも何か聞きたいことはあるか?」
その問いに、弥生は一瞬意図を測りかねるような、そんな怪訝な雰囲気を醸し出していたが、さらに数秒考えこみ、ようやく口を開いた。
「では…………一つ、良いですか?」
「言ってみて構わない」
発言を許可し、けれど弥生は数秒躊躇ったように、俯き。けれど決心したように顔を上げて、こう告げた。
「あの…………お腹、空きました」
直後、ぐぅぅぅ、と音がする。
目をぱちくり、とさせる。弥生は相変わらず無表情だったが、その頬が僅かに赤みを帯びている。
「っ、く、あはは」
思わず笑いがこぼれ出す。だって仕方ないではないか、先ほどまでのどこか重かった空気で、まさかあんな発言が、しかもあんな無表情から飛び出すとは思わなかった。
「………………司令官、笑わないで、ください」
ぷい、と顔を背けながら弥生がそう呟く。けれど横を向いていても先ほどよりも赤みを増した頬が良く見える。
「ああ、悪かった…………そうだな、私も朝食は軽く済ませただけだったからな、そろそろ昼になるし、昼食としようか。確か普通の食事も出来たはずだったな?」
以前に上官のところの艦娘が普通の食事をしているのを見かけたことがあった。見た限りでは人間と同じものを食べていたので、恐らく普通の食事もできるのだろうと予想し尋ねれば弥生がこくり、と頷く。
「では次は食堂に行こうか」
「ん…………了解です」
そうして二人で食堂へ向かおうとし、足を止める。
「艤装は置いてこようか」
「あ…………はい」
重い(だろう)艤装を途中の執務室へ置き、食堂へ向かうその道中の弥生の足取りは、今までで一番軽そうだった…………多分、色々な意味で。
ちゅるちゅると、隣で弥生がうどんを食べているのを眺める。
すでに半分近く食べているのに、揚げが丸々残っているところを見ると、どうやら好物は最後まで残しておくタイプらしい。
黙々と箸を動かす弥生の姿を微笑ましく眺めながら、カレースプーンで大皿に盛り付けられたオムライスを掬い、一口。しっかり味のついたチキンライスとふわふわトロトロの卵、たっぷりとかけられたデミグラスソースが口の中で溶け合い、至福を生み出す。デミグラスソースの上から生クリームを垂らしてあるのがポイントだ、口当たりに若干の滑らかさがあり、いくらでも食べられる気がする。
ふと気づくと、弥生がじっとこちらを見ていた。こちら、と言うよりかはその下のほうの…………オムライスを。
「食べたいのか?」
そう尋ねた途端、はっと我に返ったようにぶるぶると頭を振り、うどんへと視線を落とす。
くすり、と笑う。表情のせいか、どうにも感情を読みにくいと思っていたが、外見相応の年齢的な感情はあるようで、少しばかり安心した。
箸置きの中に一緒に入っているスプーンをもう一つ取り出すと、大皿に添えて、そっと弥生のほうへと差し出す。
「一口くらいなら食べていいぞ」
箸を止め、ジッと自身に差し出されたオムライスを見つめ、そうして自身を見る。
そのまま数秒、互いに見つめあい。やがて、弥生がスプーンを手に取る。
「もらっちゃって、いい…………ですか?」
「ああ、構わない」
そう返すと、弥生が礼を告げ、手に持ったスプーンでオムライスを掬い、ぱくりと口に含む。
「ん……………………美味しい……です……」
そう言って、
弥生が、
微笑んだ。
「…………………………………………………………………………………………」
ぱちくり、と目を何度となく瞬かせる。すでに弥生の表情は元の無表情に戻っている。
夢? いや、幻? そんなことを思ってしまうぐらいには、驚かされた。
そんな自身の様子に気づいた弥生が怪訝気な様子でこちらを見てくる。
「どうか……しました……?」
「いや、何でも無い」
取り繕った自身の言葉に、けれどそうですか、とだけ呟き弥生が大皿を返してくる。
「もういいのか?」
「はい…………それは司令官のですから」
足りなければ適当に追加注文するので食べてもらっても構わないのだが。
そんなことを考えていると、弥生が、それに、と言葉を続ける。
「次に来た時、自分で頼むことにします」
だから、次に来た時のお楽しみです。そんな弥生の言葉に、そうか、と言って笑う。
「じゃあ、今食べるのは勿体無いな」
そんな自身言葉に、相も変わらず表情は動かなかったが、どこか楽しげな様子で。
「はい」
そう言った。
【戦果】
旗艦 弥生Lv1 ←New 弥生、着任……です……。司令官、よろしく……です……。
二番艦 None
三番艦 None
四番艦 None
五番艦 None
六番艦 None
弥生ちゃんマジで可愛い。現在レベル95。あと4レベだが、必要経験値がキチガイ。
98→99に必要な経験値14万ってどういうことですか(震え声)
作中に書かれたことの大半は妄想です。
艦これウィキあったのに設定がまるで何も書いてないので、適当に空想しながら書きました。ご容赦願います(