新人提督が弥生とケッコンカッコカリしたりするまでの話 作:水代
「建造するぞ」
鎮守府に着任して、早三日。朝一番から目の前の弥生にそう告げた。
告げられた弥生は、と言えばいつも通りの無表情で、了解です、とだけ呟いた。
「それで…………配合、どうしますか?」
尋ねる弥生の言葉に、自身は、さてどうするか、と心中で呟いた。
建造、とは。以前も言ったが艦娘を新しく作ることだ。
鎮守府内でも特に大きな工廠の中の一番奥にある製造ラインで妖精たちの手によって艦娘は作られる。それが建造だ。提督ですらその詳細は知らない、まさに妖精たちと艦娘たちだけが知る秘密の場所である。
基本的に提督の命令で妖精たちは建造をする、つまり提督が鎮守府の最上位ではあるのだが、その提督をして、建造の様子を知ることは上から禁じられている。理由としては、建造は艦娘を作る不世出にして門外不出の技術であり、その技術を知るものは極々一部のものだけに限定されるべきだからだ。
秘密を共有する人数が多いほど、秘密は外部へ漏れやすくなる。どれだけ厳重に守ろうとしてもどれだけ漏洩に注意を払っていようとも、だ。
だったら最初から知る人間を限っておけば良い。もし漏れ出したなら、犯人の特定は非常に容易になる。
つまり、この禁は提督の身の保障と等価だ。決して知ってはならない。だがもし漏洩したとしてもその身は疑わない、と言う交換条件だ。
さて、その話はさて置くとして建造には必要なものが5つある。
一つは燃料、一つは弾薬、一つは鋼材、一つはボーキサイト、そして最後の一つが開発資材。
基本的に開発資材は一度の建造に一つが基本故に、残りの四種類、燃料弾薬鋼材ボーキサイトの組み合わせを通称レシピと呼ぶ。レシピとはつまり、先ほど弥生が言った配合の割合だ。
艦娘を作る必要最低限の資源は燃料弾薬鋼材ボーキサイト各30ずつと言われている。
オール30は最も基本となるレシピであり、上官の提督が最初にこれで回し、建造されたのが弥生だ。
このレシピは駆逐艦が最も良く出るレシピであり、時折軽巡洋艦なども出る。
極々稀にそれ以外も出るのだが…………まあ、本当に稀過ぎてほとんど報告も無いので、気にしなくても良いだろう。
他にも戦艦や重巡洋艦が良く出る戦艦レシピや正規空母軽空母が良く出る空母レシピなどもある。
戦艦や重巡洋艦、空母は強力な戦力であり、いるのといないのとでは、天と地ほどの差があると言っても過言ではない。
では、ここは戦艦レシピを回すべきか? と言われると否と言わざるを得ない。
何故ならあるものが足りないからだ。
それは自身が上官の元で学んだことの一つであり、自身が上官を尊敬している理由の一つがここにある。
上官である提督の鎮守府はすでに何年もの間前線で戦い続けてきた猛者ぞろいであり、その中には戦艦も正規空母もいる。そうなると必然的に増えるものがある。それこそは自身が戦艦レシピを回さない理由であり、多くの戦艦、正規空母を艦隊に抱える提督たちが悩むもの…………それは消費だ。
艦娘は戦えば燃料と弾薬を消費する。傷を負えば燃料と鋼材を消費して修復を行う。
同じ駆逐艦ごとに一概に同じには出来ないが、例として駆逐艦が一度の戦闘で消費する燃料と弾薬を凡そ10とする。すると、戦艦が一度の戦闘で消費する燃料と弾薬はその5倍以上にもなる。
つまり、戦艦が一度戦うための資源で、駆逐艦なら凡そ5戦はできるのだ。
さらに修復に必要な鋼材も問題だ。例え駆逐艦が大破したとしてもその修復に必要な鋼材は20から30、多くても40行くか行かないかといったところだろう。だが、戦艦が大破すれば一度に200以上、酷いときは500近くの燃料と鋼材を必要とする。
最強の戦艦との呼び声高い大和型戦艦など、一度の修復で四桁の資源を必要とすることすらあると言う。
正規空母も同じように大量の燃料と弾薬、鋼材を消費する。その上さらに、空母の名の通り、艦載機を使用し戦う彼女たちは戦闘中に撃ち落された分の艦載機をボーキサイトを使って補充する。
正規空母が一度に積める艦載機の数は七十から八十程度であり、一戦ごとにに撃ち落される艦載機は五から十。そしてその艦載機一つにつき、凡そボーキサイトを5ほど消費する。つまり、一戦ごとにボーキサイト25から最大でも50ほど消費して戦うことになる。
因みに言えば、今現在の我が鎮守府に与えられた資源は燃料、弾薬、鋼材、ボーキサイト全て400ずつだ。
これでも他の提督より僅かに多い、上官の計らいである。他の鎮守府はだいたい300前後らしい。
上官の行った建造により、全て30ずつ消費されてはいるが、残りは370。一応毎日多少の資源は届けられてはいるが一日100前後と言ったところ。
つまり、今の自身の鎮守府に戦艦や正規空母を運営できるような能力は全く無いと言っていい。
一度や二度戦闘させることはできるだろうが、それをすれば鎮守府中の資源が空っぽになる。
そして、だからこそ、その戦艦空母を多数使って戦闘を何度となく繰り返す上官は強いのだ。
それができる理由は、簡単だ…………遠征隊による強固な補給路の確保。
全ての提督は、最初は6隻編成の艦隊を一つだけしか持つことを許されない。それは無能な提督のもとで多くの艦娘が命を散らすことの無いように、と言う配慮であり、功績を挙げることで第二艦隊、第三艦隊、第四艦隊を作ることを許可される。
そして、第二艦隊以降を使って行う遠征と言うものがある。
第一艦隊の主目的は深海棲艦の討伐を海域の保持、開拓であるとするならば。第二艦隊以降の目的は、それ以外の雑事の一切だ。
例えば海上運輸で油田地帯から燃料を運ぶタンカーの護衛、鎮守府などに物資を搬送する輸送船団の護衛、海域の警備や時には強行偵察などの危険な任務に従事することもあれば、観艦式などに参加する平穏な任務もある。
時折、第一艦隊の代わりに深海棲艦討伐や海域開拓へと赴くこともある、まさに何でも屋的なポジションにあるのが第二艦隊以降の艦隊だ。
そして遠征をこなすと報酬が与えられる。タンカー護衛をすれば燃料を譲渡してもらえ、輸送船団の海上護衛をこなせば燃料に弾薬、鋼材やボーキサイトなども報酬として支払われる。
そうした遠征をこなし、資材を溜めることで第一艦隊の戦力を縁の下で支えている。
上官はそれが上手かった。普段からこの遠征を重視し、開拓海域の警備任務により安全性を確保し、海上の安全を確保されれば行きかう輸送船団も増えその護衛の仕事も増える。足りない資源があれば、とにかく遠征を使って集めてくる。そう言う供給ラインがしっかりと出来ていた。上官自身の鎮守府に大量の資源を溜め込み、いざ、と言う時に普段から備えているお陰か、あの鎮守府ではここ数年は資源不足と言うものに陥ったことがない。
補給と修理のしっかりと行われた戦艦と空母は自身の最高のパフォーマンスを発揮し、そのコストに見合うだけの戦果を出し続け、そのお陰で上官の名が上がり、遠征の仕事が増えていく。
残念ながら今の自身の鎮守府には第二艦隊は無い。つまり毎日送られてくる資源と、後は大本営から与えられる任務の報酬。この二つでしばらくはやりくししていくしかない。
つまり結局、今の鎮守府の状況を考えるなら。
「オール30…………基本レシピでいこう。まだ始まったばかりのこの鎮守府に必要なのは、数だ」
例えば、弥生単艦で出撃したとしても、所詮は駆逐艦、たかが知れている。酷い言い方だが、それでも戦力を過剰に評価することも過小評価することも、あってはならない。提督なら自身の戦力くらいは正確に把握しておくべきだ。
例え駆逐艦でも、三隻、四隻と集まればそれはバカにできない戦力となる。夜戦で駆逐艦が戦艦を沈める、などと言う事例は過去にいくらでもあるのだから。
「あの司令官」
と、その時、弥生が自身に向かって告げる。
「建造の……ラインが、まだ一つ使えないから、作れるのは…………一隻だけになりそう、です」
「何?」
建造ラインは、提督には秘されている、艦娘を建造するための製造工場のようなものだ。一つのラインから一隻の艦娘が製造され、基本的にどの鎮守府も二つ、多いところでは三つ、四つとある…………はずなのだが。
「建造ラインが一つ? どうしてまた」
「まだ建造ラインを使うための、準備ができてないそう、です」
「今日明日でどうにかなるのか?」
「昨日聞いた時、は。数日中にどうにかなる、とは」
何故提督の自身が知らないのに、弥生は知っているのか、と思ったが、昨日と言う言葉で思いだす。昨日工廠へと弥生を向かわせていた。恐らくその時に話たのだろう。
「なら仕方ない…………一隻だけでも構わない、とにかく建造を頼んだ」
「了解、です」
自身の言葉に弥生が頷き、そうして工廠へと向かうために、部屋を出て行く。
さて、一体何が出てくるか。
オール30で作れる艦種はおおよそ四種類。
と言っても、主には二つだ。
一つは駆逐艦、そしてもう一つが軽巡洋艦。
駆逐艦の特徴と言えばとかく低コストであることだ。一戦ごとに消費する資源も少なければ、ダメージを回復するのに必要な資源も時間も少ない。自身のような駆け出し提督には重宝し、新人提督なら誰もが最初の頃は駆逐艦で艦隊を作っているだろう。とかく速度が速い。全艦種中最速の航海速度を持ち、駆逐艦島風はその中でもさらに速い最速で40ノットと言う脅威の速度を誇る。
軽巡洋艦は最強の対潜攻撃能力を持つ艦種だ。駆逐艦に次いで低コストで運用しやすい。ただ砲火力も駆逐艦の次くらいには弱いので、重巡洋艦、戦艦など強固な装甲を持つ敵相手には弱い。と言っても、近年改修と改造により、重巡洋艦に匹敵するほどの火力や装甲を持つもの出てきたようだ、今は割愛する。
出てくるとすればこの二種類の艦種のどちらかになるだろう。
一応三種目を言っておくと重巡洋艦だ。先ほどはああ言ったが、それでも重巡洋艦の力は侮れない。
この鎮守府近郊では相当な戦力になることは想像に難くなく、
厳しい資源のやりくりが求められるが、それでも大幅な戦力増強に見合うものではあると思っている。
と言っても、このオール30レシピで重巡洋艦が出ることは非常に稀であり、あまり無い。今回は考える必要は無いだろう。
そして、四種目だが…………。
こればっかりはあまりにもあり得ないので言及を避けようと思う。
何せ大本営からの任務にある建造をこなすため、ほぼ毎日オール30レシピが数百と回されているが、報告されたのはたった一度だけと言う数千分の一以下の確率と言うあまりにも希少すぎるもの故、考える必要は無いだろう。正直重巡洋艦が出るほうがまだ現実的と言っていい。
書類仕事を片付けながらふと時計を見る。時間にしてそろそろ二十分少々。もし駆逐艦ならばそろそろ建造されていてもおかしくはないが…………。
と、その時。
とんとん、と執務室の扉がノックされる。
「入れ」
そう告げると、扉が開かれ、立っていたのは予想通り弥生。
扉を閉め、自身の座る提督のデスクの目の前まで来ると、口を開く。
「司令官、新しい艦が竣工です」
時間を見る、ちょうど二十分少々と言ったところ、どうやら駆逐艦のようだった。
建造に必要な時間は艦種ごとに異なるが、駆逐艦は全て十八分から三十分の間に収まる。軽巡洋艦と重巡洋艦は最低一時間以上建造に時間がかかる。
つまり、今回は駆逐艦と言うことだろう。
そう、思っていたのだ。
「こっちに、呼びますか?」
弥生の言に、首を振って否定し、椅子から立ち上がる。
「いや、こちらから向かおう。書類仕事もようやくひと段落ついたところだからな」
軽く肩や首を回し、凝った筋肉をほぐしてやると、弥生のほうを向いて告げる。
「弥生と共に戦う仲間だ、一緒について来て挨拶すると良い」
了解です、と短く頷き、弥生と共に工廠へと向かう。
工廠は執務室からそれほど遠くなく、執務室を出て少し歩けばすぐそこだった。
数日前も開けた重々しい鉄扉を、今度は弥生と共に並んで潜り、工廠へと入る。
そうして、そこにいたのは…………
「伊号第一六八潜水艦よ、呼びにくいならイムヤで良いわ、よろしくね、司令官」
水着の上にセーラー服の上だけを着た赤い髪の少女だった。
伊号第一六八
そう、潜水艦である。
先ほどは言及を濁した、オール30レシピで出る四種類目の艦種、それが潜水艦だ。
報告件数たったの一件。
正直、虚偽申請…………デマだったのではないか、とさえ言われている超々低確率で建造される艦、それが潜水艦だ。
つまり目の前の少女は、その潜水艦であり。
どうやら駆逐艦一隻の鎮守府に次にやってきたのは、いきなり潜水艦などと言う難物らしく。
幸運を喜ぶべきなのか、それとも不幸を嘆けばいいのか。
どうにも表情に困った。
【戦果】
旗艦 弥生 Lv1 二隻目で…………潜水……艦……?
二番艦 伊168Lv1←New 伊号168潜水艦、イムヤよ。よろしくね、司令官。
三番艦 None
四番艦 None
五番艦 None
六番艦 None
うーぴょん来ると思った? 残念、イムヤです。
このキャラの登場を誰が予想できただろうか。
と言うわけで多少読者の意表をつけたかな?(ついてどうする
まえがきにも書きましたが、つい10時間ほど前に弥生ちゃんとケッコンカッコカリしました。
あと、某チャットルームで教えられたんだけど、まだ二話しか投稿していないこの作品がレビューされていたらしく、軽くびびった。
ごめんなさい、正直、この小説、弥生レベリングの戦闘中の暇を潰すためだけに手慰みに書いてただけなの。
難しいことは特に考えてない、ただ弥生ちゃんを愛でるだけの小説です。
ところで弥生の口調とかこんなのでいいのだろうか。ちょっと難しい、大人しい子だし。
多分うーぴょんならもっと書きやすい。
全然関係ないですけど、オール30で潜水艦って本当に出るんですかね?
自分は出したことないですけど、そういう話がスレではちらほら見かけるんですよね。確率1000分の1とかそんなこと書いてあったらしいですけど、本当なんですかねえ。
正直、自分はつい数時間前までドラム缶のカットインが本当に存在すると思ってたバカです。
さて、次はいよいよ出撃の回です。
基本的に、もし自分がもう一度初めから始めるとしたら、どうする? みたいな感じで行動させてます、提督さんは。