新人提督が弥生とケッコンカッコカリしたりするまでの話 作:水代
潜水艦。
文字通り潜航できる軍艦である。民間船などが潜水機能を持っても、潜水艇と呼ばれるので、潜水艦とは本当に、潜航できる軍艦のみを指す。
日本における第二次世界大戦中の潜水艦は大きく二種類に分けられる。
それは即ち、海大型潜水艦と巡洋型潜水艦の二つだ。
伊168。
もっと詳細に言えば、海大Ⅳ型a1番艦伊号第一六八潜水艦。
昨日自身の艦隊に加わった艦娘である。
弥生に続く二隻目の艦…………なのは良いのだが。
「潜水艦…………潜水艦か」
そう、その艦種が問題なのだ。
オール30レシピでの建造艦の建造報告はたったの1件、デマ情報だなんだと言われていたが、それ以外の俗に言うレア駆逐艦レシピ、上位駆逐艦レシピと呼ばれる配合にてはそれなりの数の建造が確認されている。
つまり、運用する上で、それなりのデータはある、と言うことだ。そしてデータがあるからこそ、頭を悩ませる。
この潜水艦と言う艦種。
一言で言うならば…………キワモノだ。
まず潜水艦には砲が無い、主砲は勿論だが、副砲すらない。故に砲撃戦には参加できない。
使うことのできる兵装は魚雷のみ。その魚雷も有る程度熟練してこないと多くは持てず決定打を撃てるほどの火力が出ない。
耐久値も低く、装甲はほぼ紙だ。その上、回避もお世辞にも高いとは言えない。
これだけ聞くと欠点だらけのように聞こえるが、潜水艦がキワモノたる最たる理由は別にある。
潜水艦は、戦艦、空母からの攻撃を一切受けない。
そもそも通常の弾薬や爆薬などでは海中に潜む潜水艦にまで攻撃が届かない故に、戦艦、空母には滅法強い反面、対潜装備を施された駆逐艦や軽巡洋艦などを相手にするとその紙装甲と回避性能の低さを遺憾なく発揮し、あっさりと沈められる。
そしてここが最も重要なのだが、潜水艦を他の艦種と共に出撃した時、潜水艦を攻撃できる駆逐艦、軽巡洋艦、重雷装巡洋艦などは他の艦隊に見向きもせずに、真っ先に潜水艦だけを狙ってくる。こういう言い方はなんだが、囮としては非常に有用で、練度を高めた潜水艦を運用すれば、一切の被害も無く一方的に敵を攻撃することすら可能になる、らしい。当たらなくてもそれでも潜水艦だけを狙うあたり、深海棲艦側にとっても潜水艦はそれだけ脅威となるようだった。
そう、脅威なのだ、潜水艦と言うものは。
海中と言うその存在を知覚すらできない場所から突然魚雷がやってくるのだ、全く持って恐怖である。
水中探信儀、通称ソナーと呼ばれる装備があればその存在をはっきりと知覚することができるのだが、生憎ながらこれが簡単に手に入るような装備ではない。
つまり、上手く運用できればかなり強力な艦であり、逆に使いこなせなければ、あっさりとやられてしまう艦でもある。
そしてこの場合の効率的な運用と言うのは、戦艦等強力な艦を組ませることにより潜水艦がやられる前に敵を全て片付けてしまう、もしくは、潜水艦の艦隊を作ってしまう、などと言うものであり、少なくとも、駆逐艦一隻と組ませるような艦種ではないことだけは絶対に確かである。
だが出てしまったものは仕方ない、とため息をつく。
現状、イムヤを使わない、と言う選択肢が無いのも事実だ。
それほど潤沢な資源があるわけでもなければ、艦数が揃っているわけでもない。
今はとにかくあるものだけでも使うしかない、と言ったところだ。
そう、使うしかないのだ。
出撃命令、そう書かれた一枚の書状に、思わず顔を顰めた。
* * *
「出撃するぞ」
その言葉に、秘書として執務室にいた弥生が少しだけ眉をひそめる。
「司令官…………まだ艦隊に、二人しか、いないけど」
そう、昨日の衝撃の建造から一日経過して、未だに次の建造は行われていない。
理由は色々あるのだが、主な理由は回数だ。
大本営から言い渡されている任務の中に、一日一定回数の建造と言うものがある。
ノルマ数を達成することにより、大本営から資源や資材を報酬として渡されるのだが、このノルマ数が1隻、その次が4隻なのだ。そしてこのノルマ数は翌日に持ち越したりはできないので、その日のうちに終らせる必要がある。
オール30レシピとは言え、三度も回せば全資源90、鎮守府の資源の四分の一にもなる。それをさすがに躊躇したのが最大の理由だった。
そうして、明けて翌日の今朝、上官の鎮守府経由で大本営から通告が来ていた。
出撃命令、そう書かれた一枚の書状。
机の上に広げられたその書状に、弥生が無表情に目を通していく。
「なんです……か……これ?」
無表情に、けれどどこかきつい目つきで弥生が自身を見つめてくるので、お手上げと言わんばかりに両手でひらひらとさせながら答える。
「出撃命令…………どうやら着任から四日、出撃も演習もしなかったせいで、何やってんだ、とせっつかれてる」
じー、と弥生がこちらを見てくるが、これを送ってきたのは大本営だ。こちらを見つめられても困る。
とにかく、と机の上に置いた紙を机ごと叩き、自身の考えを告げる。
「まだ早計かと思っていたが、これも一つの切欠だと思っている。この鎮守府の戦力を正確に把握するためのな」
自身がこれまで見てきたのは、上官のところにいた、すでにある程度以上育ってしまった戦力だった。
生まれたばかりの練度の低い艦娘と言うのをあまり見たことが無い以上、その力がどれだけ強いのか、どれだけ弱いのか、今一把握しきれていない部分もある。
「いきなり実戦で大変だとは思うが、やってきれくれるか?」
こちらも弥生の目を見つめ返し、そう告げる。
まだ二人とは言え、弥生は艦隊の旗艦だ。
その弥生が、どうしてもまだ早いと言うならば、大本営に掛け合ってでもこの出撃を止め、上官に頼んで演習にでも切り替えてもらおうと思っていた。
そうして沈黙のまま数秒が過ぎ、弥生がゆっくりと口を開く。
「命令……ですか……?」
その言葉に、こちらも言葉を返そうとし…………口をつむぐ。
それは気づいてしまったからだ、上官のところにいた頃は気づけなかった。
生と死がかかった戦場に目の前の少女を送り出す、その決定が自身によって行われるのだと、そんなことに今さら気づいたのだ。
艦娘とは兵器だ。だが同時に感情のある人間と同じ存在でもある。
この数日の間、共に過ごしてきた目の前の少女を、自身はこれから自身の言葉一つで戦いに赴かせる、そう思うと、一瞬言葉が出なかった。
けれど、けれど…………だ。
同時に思う。何故今まで気づかなかったのか。
出撃自体は上官のところで何度も見ていた。上官が出撃を命令しているところも。
どうして上官はあんなに簡単に命令を言えたのだろう? 上官は決して情の薄い人ではない、と言うか艦娘を人間と同等に考えている節すらある。その上官がどうして、自らの艦娘たちをあんなにあっさりと戦場に送り出せるのだろうか?
そう考え、けれどすぐに答えに行き着く。
信じているからだ。
自分の艦隊を、立派に戦ってきてくれる、けれどちゃんと生きて帰ってきてくれる。
そう信じているから、あんなにも簡単に命令することができるのだ。
目の前の少女を見る。その目を見る。共に過ごした数日を思い浮かべる。
自分はこの少女を信じることができるか?
そんなもの、答えは決まっていた。
「命令だ、本日中に弥生はイムヤと共に鎮守府近海に出撃せよ」
その自身の言葉に、弥生が無表情のまま、けれどその目に確かに力を込めて。
「了解……です……。弥生、水雷戦隊、出撃です」
そう告げ、部屋を出て行こうとし…………。
「弥生、一つだけいいか?」
足を止める。振り返る、無表情なので顔には出ていないが、けれどどこか、どうしたのだろうか、と言った訝しげな様子が伺える。
「出撃して最初の敵と戦闘になったら…………その時点で帰って来い」
「最初の敵と戦ったら、その時点で、ですか?」
弥生が僅かに戸惑ったような声で尋ねてくる。その問いに、自身はこくりと頷く。
「弥生にとってもイムヤにとっても、初出撃だ。まだ無理するような状況じゃ無い。だから、夜になる前に戻って来い、いいな?」
たった一度の戦闘だけとは言え、出撃しているのだ。大本営にも文句は言わせない。
戦力調査も小規模な出撃を何度か繰り返せば十分だ。
つまりここで無理して戦う必要性が全く無いのだ。
「無理して戦う必要性は無い、まだ始まったばかりだからな、この鎮守府は」
そんな自身の言葉に、数秒弥生が考えこみ、やがてこくりと頷き。
「了解しました」
そう言って、今度こそ部屋を出て行った。
「…………頼んだぞ。弥生」
弥生の居なくなった部屋で、そっと呟き。
「…………頼まれ、ました、司令官」
執務室を出た弥生が、そう呟いた。
* * *
「イムヤさん、いらっしゃいますか?」
コンコン、と扉を軽く叩く。
鎮守府内にある艦娘に個々に与えられた部屋。正確には鎮守府の敷地内にある寮のような施設。
そこのとある一室の扉の前で、弥生がそう告げる。
そこは先日建造されたばかりの伊168の部屋だ。
艦娘は、基本的に仕事が割り振られていない時は、やることが無い。しかもいつ出撃や遠征の命令があるか、分からないので暇を潰すために鎮守府から出ることはできない。
なので、基本的に待機中の艦娘は自身の部屋にいるか、仲間の艦娘と一緒にいたりすることが多い。
とは言っても、まだこの鎮守府には弥生を含めて二人しかいない、その弥生は秘書艦として提督といることが多いのだから、必然的にここだろう、と扉をノックすると。
「はい、どちら様ー?」
そんな声がすると共に、扉が開かれる。そうして、こちらの顔を見ると、破顔して口を開く。
「あら、いらっしゃい。どうしたの? イムヤに何か用?」
「あの…………出撃、です」
どこかハイテンションなイムヤの勢いに押されつつ、弥生がそう告げると、ニィ、とイムヤが口元が吊り上げる。
「そう、伊号潜水艦の力、見せてあげる時が来たのね」
なんだか好戦的だな、と思いつつもいつも通りの無表情でそれを顔におくびにも出さず、弥生が続ける。
「今日中に戻ってくるように、とのこと…………なので、早いうちに、出たい、んだけど」
「んふー。私ならいつでも出れるわ!」
そう言って笑うイムヤの姿に。
「そう、ですか」
無表情に、弥生がそう呟いた。
弥生も、イムヤも、すぐに出撃しても問題なかったので、工廠で艤装を装着し、海へと立つ。
「風、強い」
吹きすさぶ風に、長い薄紫色の髪を抑えながら弥生が呟く。
鎮守府近海の海上を低速で移動しながら周囲を見渡す。敵の姿は無い、最も味方の姿も無いが。
イムヤはすでに潜水して自身の後ろをついてきている。
潜水艦の最大のメリットは、敵に見つかりにくいことだ。不意を撃った魚雷の一撃は敵に思わぬ大打撃を与えることがある。潜水艦を指して、究極のステルス兵器とは良く言ったものである。
「敵影…………無し」
見渡す限りの風景に敵の姿は無い。この鎮守府近海に敵の潜水艦はいないはずなので、本当に敵はいないのだろう。
出撃から一時間近く経過しているが、未だに敵との遭遇回数はゼロ。もう数時間で夕方になる、もしもそれまで敵と遭遇することが無ければ鎮守府に帰投したほうが良いかもしれない。
そんなことを、弥生が考えていた、その時。
「っ!」
視界の端にそれを捉える。ふと下のほうを見ると、イムヤの姿が見えた。魚雷をいつでも発射できるように構えてこちらを見ていたので、こくり、と頷く。
顔だけの一つ目の化け物がそこにいた。
「深海……棲艦……」
駆逐イ級と呼ばれる敵。人類の、そして艦娘たちが討ち果たすべき敵。
それが、そこにいた。こちらを見ていた。そのたった一つしかない、目らしき何かと視線が交差した。
「砲雷撃戦、いい?」
ちらり、と視線をイムヤへと向けると、向こうもこくりと頷いた。海中なので声は届かないしが、互いに言いたいことなどこの場面では一つしかない。
イムヤが浮上してくる。その勢いのまま海面に一瞬顔を出し、大きく息を吸い込む。
「急速潜航、行くわ」
呟いた言葉だけを残し、再度イムヤが先ほどよりも深く、潜っていく。
直後、潜水艦の存在を認めた敵のイ級がイムヤの姿を追って砲撃を開始する。
「当たって!」
その無防備な姿を狙い、12cm単装砲を撃つ。
撃ち出された弾丸はイ級へと着弾する、だがその攻撃は、イ級を仰け反らせる程度に留まった。どうやらカスっただけらしい、と言っても元が装甲の低い駆逐イ級だ、それだけでも小破程度のダメージは受けている。
さらに近づく、燃料を燃やし、速度を上げる。
元々射程の短い駆逐艦の主砲よりさらに近いそこは。
「魚雷発射」
魚雷の当たる距離だ。
「魚雷一番から四番まで装填。さぁ、戦果を上げてらっしゃい!」
海中のイムヤがそう呟いた。
海中に白い軌跡を描きながら、魚雷がイ級目掛けて発射される。
これで勝った、そう…………思った。
けれど、それが裏切られるのが直後の話。
イ級から白い軌跡が放たれた。
白い軌跡は真っ直ぐに、弥生へ向けて進んできて。
「……え……?」
そう、呟いた瞬間、激しい飛沫が上がった。
【戦果】
旗艦 弥生 Lv2 MVP …………え…………?
二番艦 伊168 Lv1 弥生っ?!
三番艦 None
四番艦 None
五番艦 None
六番艦 None
弥生のレベリングで燃料と弾薬が7000切ってたんで、戻そうと思ったのに。
なんで2-5なんて実装されるんだよおおおおおおおおおおおおお。
速攻でクリアしました。浜風さん出たのはいいんだけど、キミ二人目なんだよね(
浦風さんは出ませんでした。資源回復させつつ、また適当に回ろうと思います。
まあ、資源がそこまでやばくなったのは、レベリングの後にドラム缶開発400回ほど回したせいだと思うが…………。
羽黒さんかわいかったけど、別に欲しいとは思わなかったかな?
現在遠征隊のキラ付け+レベリング中。東京急行ってけっこうレベルがいりますからね。
昨日、学校の都合で熊本まで行ってきたんですけど、道中のバスで、弥生のシリアスシーン思いついたので、そこまで頑張って書きます。
そして、そこを乗り越えたらなんと…………クーデレ弥生がドロデレになります(