新人提督が弥生とケッコンカッコカリしたりするまでの話 作:水代
問題です、何の空母が来るでしょう?
ヒント:2:30以上です
正解者は弥生の撫で撫でを空想の中で楽しむ権利を獲得
朝。朝食を取るため食堂へと向かうと、まだ六時過ぎにも関わらず、弥生がいた。
「おはよう、弥生…………随分と早いな」
椅子に座ったその後ろ姿に声をかける、けれど反応は返ってこない。もう一度名を呼ぶ、だがやはり無言。
何か怒らせるようなことをしたか? とも思ったが、こんなに露骨に無視されるような態度の原因に心当たりは無い。
現在時刻六時過ぎ、いつも弥生が起きてくるのはだいたい七時半前後。いつもより一時間以上早い。
「………………ああ、やっぱり」
回りこみ、その表情を見ると、目を瞑ったままこくりこくりと船を漕いでいた。
起きろ、と口に出そうとして、その肩を揺すろうとして、僅かに逡巡した。
いつもの硬い表情とは違う、気の抜けた年頃の少女らしい柔らかい表情。どんな夢を見ているのか、口元には微笑すら浮かんでいる。
その口元が僅かに動き、短く言葉を発する。
し、れ、い、か、ん
「……………………………………」
肩に置きかけた手を戻す。ふっと息を吐き、僅かに笑う。
一体どんな夢を見ているのかは分からないが、どうやらそれは良い夢らしく…………その登場人物として自身が出ているらしい。
全く光栄なことだ、とも思うし、この少女とのそれなりの信頼を築けたのだと思わされ、嬉しくもこそばゆい。
もうしばらく寝かせておこうか、そう内心で呟き、自身の食事を取るために、その場を離れた。
「…………む、つ、き…………きさ、らぎ…………」
だから、その後に呟いたその言葉と、その悲しげな表情を、けれど自身は知らなかった。
* * *
午前十時。ついに建造が開始される。
「これで残りの燃料が100、弾薬が470、鋼材が100、ボーキサイトが150か…………」
いよいよ持って崖っぷちだ。この建造で任務を一つ達成、と言うことにはなっているが、それでも全資源50ほどの追加配給。ありがたくはあるが、正規空母など出ては正しく誤差だ。
昨日は気づかなかったが、もしもこれで駆逐艦が出てしまっては、崖っぷちだった鎮守府が確実に崖から転落する。
だが、そのリスクを負っても尚、ここで建造する意味はある。空母の有無は、戦艦の有無と同等に艦隊にとって重要なのだ。
そして、そのリスクを負って尚、ここで建造しなければいけない理由があった。
実を言えば…………開発資材が残り僅かだった。
艦娘を作る建造、そして装備を作る開発は、それを行うのに絶対に必要なものが二つある。
一つは資源だ。燃料、弾薬、鋼材、ボーキサイトと言った四種類の資源、基本的にレシピと言うのはここの配合のみを指す。
そしてもう一つが、開発資材だ。レシピの有無に関係なく、一度の建造に必ず一つ消費する。
戦艦も空母も重巡も軽巡も駆逐艦も潜水艦も…………どの艦を作ろうと、一つで済む代わりに必ず一つ消費する。
しかもこれは、基本の配給によって増えない、任務を達成するか遠征隊を組むか、自発的に行動して初めて得られるものだ。
そして基本的に開発資材のもらえる任務と言うのは、出撃関係に偏りがちだ。つまり、自身の鎮守府では獲得しにくいのだ。
今日使った一つ…………そして残りは一つ。本当にこれを外せばチャンスはあと一度だ。
空母建造の最低時間が2時間。つまり、ちょうど正午まで建造終了の知らせがなければ空母確定と見ていいだろう。
自身も、弥生も、そして落ち着かなかったのかイムヤも執務室にやってきて、自身は書類仕事をしながら、弥生はそれを手伝いながら、イムヤは手持ち無沙汰にけれどどこか落ち着かない様子で、各々が各々の時間を過ごしながら、三十分、一時間と時間が過ぎていく。
少なくとも駆逐艦の心配は無くなった。だが、まだ軽巡洋艦の心配もあるし、もしかすると重巡洋艦が出てくるかもしれない。それはそれで戦力強化としてはアリなのだが、ボーキサイトをこれほどつぎ込んだからには、正規空母、ないし軽空母が出て欲しい、と言うのが本音だ。
そして、一時間半が過ぎたことで、重巡洋艦の可能性も消え、ようやく胸をほっと撫で下ろす。
「とりあえず…………空母は、確定……ですね……司令官」
「ああ…………まずは一安心と言ったところか。後はどの空母がやってくるか、と言うことだが」
空母と一口に言っても、その種類は多い。まずは正規空母と軽空母で分かれるし、同じ正規空母でも一航戦と五航戦で分かれる。軽空母はさらに複雑で、元は何らかの別の船として使っていたものを空母に改修したものが多いので、その種類は多岐に渡る。
それを今言っても、仕方ないので割愛するが、とにかく空母と言っても多くの種類があるのだ。
火力、と言う意味では正規空母が一番なのだが、燃費を考えると軽空母のほうが今はありがたい。
それに、軽空母と言うと正規空母より一段劣っていると思われがちだが、きちんと練度を上げて改造と改修を繰り返せば正規空母にも決して引けを取らないことは、上官のところの艦娘で知っている。
「ふむ…………まあ、どんな艦が来ても頼もしいことは確かなのだが。弥生とイムヤはどんな空母に着て欲しいとか言うのはあるのか?」
自身の言葉に、弥生とイムヤが苦々しい表情をした。
と、ふと思い出す。弥生の最後は確か…………。
「弥生、空母には、あまり良い思い出……無い……です」
いや、弥生だけではない、睦月型駆逐艦全十二隻中、実に十隻は空襲によって轟沈している。
特に弥生は同じ艦隊を組んでいた姉妹艦である睦月、如月両名を同じ戦場にいる時に沈められている。
睦月のほうは乗員の救助を行ったらしいが、弥生自身もその一月後、空爆によって轟沈している。
まあ確かに、控えめに言って空母嫌いになってもおかしくは無いだろう。
そしてイムヤはイムヤで、戦場に遅れて参戦すれば、すでに一航戦4隻中三隻が轟沈していると言う状況。生き残った空母、飛龍が必死の反撃によって大破させた空母の帰還途中に出くわしその護衛艦ごと轟沈させたは良いが、護衛艦である駆逐艦の猛反撃により自身も大破してしまったと言う涙目なエピソードがある。
よくよく考えたら、この二人にどんな空母に来て欲しい? なんて無茶なネタ振りであった、と反省する。
多少空気が陰鬱になったので、それを払拭するように声を張り上げる。
「よし!!! もしどの艦が来るか当てれたら、食堂で間宮アイスを奢ってやろう」
告げた瞬間、両者の方がぴくり、と動く。
給糧艦間宮。各鎮守府に必ず一隻はいて、鎮守府の食堂を一手に引き受けている艦娘だ。
基本的に何を頼んでも美味しいのだが、特に間宮アイスと呼ばれる特別性アイスクリームは、艦娘の士気に影響するほど美味らしい。
らしい、と言うのは食べたことないのだが、上官のところでは、たった皿一杯のアイスを巡って戦争が起きるほど凄まじいことになっていた。
「二時間はすでに過ぎているわね、と言うことは鳳翔型がないわね」
「確率的に言えば…………飛鷹型が、良く出やすいらしい、です」
顔を付き合わせ、ひそひそと相談しだす弥生とイムヤ。先ほどまでの調子もどこへやら、これで間宮アイスの力なのか、と戦慄した。
因みに、この間宮アイス、とんでも無く高い。勿論、値段が…………。
艦娘に給料は無い。何故なら
と言っても、艦娘にも感情はある。人間と同等かそれ以上のものが。兵器だと言っても機械では無いのだ、言わば兵器であり、兵士である。故に士気が高ければ性能以上の力を発揮するし、逆に士気が低ければ性能以下の力しか引き出すことが出来ない。
そういう事情もあって、公式的には艦娘への給与は無くとも、提督個人で何らかの措置をすることも多い。小遣い、と言う形で鎮守府運営のための資金から多少の給与を与えたり、月ごとに要望を聞いて現物支給をしたり、とまあ色々だ。因みに上官のところでは、艦娘のための金と言うのが鎮守府の運営資金から一部プールされていた。要望を受けたら許可か不許可か審査し、許可されたらそこから金を使う、と言った先ほど言った例の両方を取り合わせたような感じらしい、最近知った。ただ要望を受け取り成否を出すのが秘書艦である不知火らしく、その審査はかなり厳しいとか。
と、まあ長くなったが、とにかく基本的に艦娘は金銭と言うものを持っていない。つまり欲しいものがあっても容易に手に入らないことが多い。
自身の鎮守府ではこちらから給与を与える方式を採用することにしているが、そも人間と同じ月毎の給与なので給料日はまだ先の話だ。
まあつまり、これまでお預けくらっていた分、目先に釣られた餌に、より過敏に反応してしまった、と言うのがこの状況なのだろう。
「龍驤とかどうかしら?」
「けど……千歳型、も……ありえる、かも?」
実に真剣に、もしかすると今まで見た中で一番真剣かもしれないその様子に苦笑する。
鳳翔、飛鷹、龍驤は全て軽空母の名前だ。
そして千歳型は、少し特殊な艦であり、水上機母艦と言う種類に分類される。
記録によると、非常に改造の回数の多い艦であり、総計で五回にも及ぶ改造が行われる艦であり、三回目の改造で水上機母艦から軽空母へと艦種ごと変わってしまう艦でもある。
改造、と言うのが何なのかは後に置いておくとして、さてそろそろ二時間半も過ぎようとしている。
鳳翔と千歳型の場合すでに建造が終っているはずなので、可能性としては除外しても良いだろう。
これ以上待つと軽空母ならいつ来てもおかしくは無いので、そろそろ時間切れだろう。
「さて、そろそろ待つ時間も無くなって来たな、答えは決まったか?」
自身の問いに、うんうんと唸っていた二人が、顔を見合わせこくりと、一つ頷く。
「「隼鷹で」」
じゃあ、それで。と言うと、うんうん、と二人が頷き、仲の良いことで、とまた苦笑する。
隼鷹、飛鷹型二番艦であり、商船改装空母と自称している。
その名の通り、飛鷹もだが元は貨客船であり、戦時中に空母へと改造された艦である。
軽空母などと分類されているが、排水量24140トンととんでも無い規模の船であり、正規空母であるはずの蒼龍が基準15900トン、飛龍が基準17300トンほどと言うことを考えれば、一体何が
建造では空母レシピで良く報告が上がっており、隼鷹が複数隻いる鎮守府も珍しくも無い。
まあ可能性としては十分にあり得る話ではある。
だからと言って合っている、と言う保障も無いのではあるが。
「ふむ…………では違っていた場合、二人のアイスは建造された艦にやることにしようか」
だからそんな意地悪なことを言って見る。
反応は顕著で、弥生もイムヤもびくり、と肩を震わせ。
「だ、大丈夫よ…………けっこう自信もあるわ」
「だ、大丈夫……な……はず?」
さて、今時間はどんなものだ、と思いふと壁にかけた時計を見ると。
「む? 時計が止まっているな」
電池切れなのか、はたまた偶然の悪戯か。時計の秒針は歩みを止めていた。
今どのくらい時間が経ったのか、分からなくなったが、まあこれはこれで面白いかもしれない、と思いなおす。
何事も多少遊びがあったほうが良い、今日の賭け然り、この時計然り。特に弥生は肩に力が入りすぎるきらいがあるので、今のように外見相応な態度を見せてくれると、多少安心する部分もある。
と、その時、不意に電話が鳴る。内線、と言うことは鎮守府内からだ。
「私だ」
電話は工廠からだった。建造が完了した、と。
「すぐに向かう」
そう告げ電話を切る。こちらを見る二人に一つ頷く。
椅子から立ち上がり、二人と共に部屋を出て、工廠へと向かう。
さて、こうして工廠へと向かうのは三度目だろうか。
一度目は、弥生と出合った。
二度目は、イムヤと出合った。
三度目は…………さて、誰だろうか。
そんなことを考え、工廠の入り口の重苦しい金属性の扉に手をかける。
一度後ろの二人を見返し、顔を見合わせ頷きあう。
さて、答え合わせだ。
「祥鳳型軽空母、二番艦の瑞鳳です、どうぞよろしくお願いします、提督」
出てきたのは、誰の予想とも違う、そして自身の予想の遥か斜め上を行く。
白と赤の弓道着と巫女服を足したような服を着た、赤と白の鉢巻をした、弓を持った小柄な少女だった。
祥鳳型軽空母二番艦瑞鳳。
それは空母レシピにおいて、非常に出にくいとされる翔鶴、瑞鶴姉妹をさらに超える。
空母レシピで最も建造報告数の少ない、超希少艦の名前だった。
【戦果】
旗艦 弥生 Lv2 新しい仲間……よろしく……です。
二番艦 伊168 Lv1 伊168よ、よろしくね、瑞鳳。
三番艦 瑞鳳 Lv1 瑞鳳着任しました…………あの、ところで何故弥生さんもイムヤさんも私を睨んで……えっと、あの……?
四番艦 None
五番艦 None
六番艦 None
どうも、春イベE3で瑞鳳拾った水代提督です。
瑞鳳可愛い! でも嫁は弥生だけな。
提督ぅ、仕事しようよ、って言わせたい。でもこの小説の提督ちゃんと仕事してるからなあ。
と言うわけで、今回は瑞鳳登場回でした。一応登場確定の艦娘はあと三人です。
と言うか瑞鳳ともう一人は実は某所で安価しました。問題はまだ登場してない一人を水代提督持ってないってことだけど、2-5掘りで頑張って拾ってきます。
建造でも出るけど…………うん、彗星一二型甲の開発してたら開発資材100個以上溶かしてあと20個ほどしかないので、ドロップに賭ける。
しかし初めてオール30回して弥生が出て、次のオール30回してイムヤがと言うか潜水艦出て、そして初めて空母レシピ回したら瑞鳳…………この提督、殺したくなるくらい運が良いな。まあ書いてるのは自分なんですけど。
実際まえがきにあんなこと書いたけど、づほ、を予想できた提督は一体何人いたのだろうか?
艦これやってる人ほど、隼鷹さん、と言った二人の答えに納得してくれると思う。
実際、水代提督が建造で空母レシピすると3割か4割の確率で隼鷹さん出てきます
…………orz
弥生だけじゃないですけど、基本的に艦娘って地雷が多いですよね。
だいたいの艦が轟沈してる上に、生き残っても目の前で味方が沈んでいる様子をまざまざと見てたり。ヴェールヌイとかその辺、公式でもトラウマになってましたね。