新人提督が弥生とケッコンカッコカリしたりするまでの話   作:水代

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弥生が可愛すぎて、生きるのが辛い。


七話 新人提督が再び出撃させたりした話

 

 

「さあ、やるわよ! 攻撃隊、発艦!」

 瑞鳳が放った艦載機が高速で飛行する。青と赤、二色の艦載機たちが上と下、二手に分かれて飛ぶ。

「数は少なくても、精鋭なんだから!」

 青の艦載機…………九七式艦攻が水面ギリギリを飛びながら、その機体から魚雷を射出する。

 赤の艦載機…………九九式艦爆が遥か上空から急降下しながら、その機体から爆弾を射出する。

 魚雷が、爆撃が、敵の軽巡ホ級、そして駆逐イ級二隻を襲い、爆発を起こす。

 だが、生きている…………駆逐イ級が一隻沈み、もう一方の駆逐イ級も中破しているが、軽巡ホ級は無傷だ。

 空母による先制攻撃が終わり、いよいよ互いが砲撃戦の距離まで近づく。

 真っ先に動き出したのは、旗艦である弥生だった。

「もう、いい加減…………終わって!」

 12cm単装砲で、狙い済ましたかのような精密射撃で、敵駆逐イ級を貫き、中破していた駆逐イ級はそれに耐え切ることなく撃沈する。

 反撃とばかりに敵軽巡ホ級も砲撃を開始する。だがその攻撃は、海底に潜んだ潜水艦であるイムヤを狙ったもので、こちらには無防備を晒したままだ。そしてそのイムヤへの攻撃も、分厚い水の壁が阻み、上手く届かない。

「こっちも行くわよ!」

 その隙を突いて、瑞鳳が艦載機を発艦させる。九七式艦攻と九九式艦爆の混成爆撃が再び軽巡ホ級を襲う。

 駆逐艦を越える軽空母の圧倒的な火力。戦艦には届かずとも、けれど比較にならないその力。

 けれども…………。

「嘘っ、まだ生きて…………」

 敵の魚雷発射管が潰れ、体はボロボロ、大破といったところか。だがまだ生きている。まだ動く。

「イムヤさん」

 弥生がちらり、と海の底を見る。そこに潜んだイムヤがこくり、と頷き。

「これで……終わり……です!」

 トドメと言わんばかりに弥生とイムヤ、両者から発射された魚雷が、ダメージで動きが鈍った軽巡ホ級を正確に着弾し、大きく水飛沫上げた。

 

 

 * * *

 

 

「以上が、今回の出撃の、報告……です……」

 報告書に目を通しながら、弥生に今日の出撃であったことを報告させる。

 内容に差異などあるはずも無いが、やはりこうしたほうがしっかりと状況を把握できると思うからだ。

 それにしても、被害は小破無し、イムヤが僅かに被弾したがほぼ損傷無しの極めて軽微。

「たったこれだけ…………か」

「え…………あ、すみません、司令官。弥生が帰還命令を、出しました」

 自身のたったこれだけ、と言う言葉を、倒した敵の数と勘違いしたのか、弥生が申し訳無さそうな雰囲気でそう言ったが、さすがにその誤解は不味いので慌てて訂正する。

「ああ、違う。被害の話だ…………軽空母一隻入れるだけで、随分と安定した戦いが出来たようだな、と思ってな」

 その言葉に、自身の勘違いに気づいた弥生が、どこかほっとした雰囲気で頷く。

「砲撃戦の間合いよりさらに遠くから攻撃できる瑞鳳のお陰で戦う敵の数がかなり減っているな」

 戦艦は、強い敵を倒すことができ、空母は戦う前から敵を減らすことができる。今回は空母が非常にはまった形になった、と言うことだろう。

「先制攻撃と、砲撃戦に…………瑞鳳さん。雷撃戦は弥生が…………被害軽減にイムヤさん、で。バランス良く、まとまってます、から」

 確かに。あとは戦艦か重巡洋艦でも加われば一つの立派な艦隊だ。

「ふむ…………補給も思ったよりは少ない、軽空母だったのが幸いしたな」

 これならあと二戦ないし、三戦はいける。配給や任務の分を考えれば五戦ほどはいけるだろう。

 ボーキサイトの消費もかなり少ない。敵が駆逐艦や軽巡洋艦で、対空装備を持っていなかったからだろうが、予想外の収穫だった。

 それに、つい先ほど嬉しい話もあった。

「弥生、実は先ほど上官から電話があった」

「上官、ですか? 隣の鎮守府の?」

 弥生は上官とは面識は無かったはずだが、一度話に出したことがあったので覚えていたらしい。

 まあ、それはともかく、弥生たちが帰投する一時間ほど前に上官から電話があった。

 

 曰く、上官の鎮守府から自身の鎮守府への転属を願い出た艦がいるらしい。

 

「………………転属? 所属を変える、と言うこと…………ですか?」

 こくり、と頷く。基本的に、艦娘の転属と言うのは禁止されている。正確には、提督側から艦娘を転属させるのは禁止されている。過去に金銭や資源と引き換えに艦娘を転属させる、と言う正しく人身売買をした提督がいるらしく、そんなことが二度と無い様に、転属自体を完全に禁止していたのだが、それを利用し、あまりにも非道な扱いを艦娘に強いた提督がいたらしく、特例として、艦娘側からのみ転属を希望することが許可されるようになった。

 因みに艦娘に非道な扱いを強いた提督の鎮守府は、轟沈者多数で戦力が抜け落ちていき、結局深海棲艦との戦いで鎮守府ごと滅ぼされている。新人提督たちが仕官学校で学ぶことの一つとして、この辺りはしっかりと教えられている。

「それで、司令官…………結局、誰が来るん、ですか?」

 自身の旗下に入る艦のこと故に気になったのか、弥生が尋ねるが、自身はけれど首を振る。

「いや、それがな…………上官がその時までの秘密だ、とか言って教えてもらえなかった」

 妙なところで茶目っ気を出す上官だった。と言うか、普通の鎮守府なら正確な情報が無いと必要な艦かどうかすらも分からないのだが。

「まあ、誰が来ても、必要、ですから」

 弥生がぽつりと呟いたが、全く持ってその通りだった。

 だからこそ、どの艦が来てもいいか、と転属を受け入れたのだから。

 まあそれでも、一体誰が来るのか気にはなるもので。

 近日中に来るとは言ってたが、果たしてどうなることやら。

 

 

 * * *

 

 

 明けて翌日。

 自身は朝から弥生と執務室で向かい合って座っていた。

「第二艦隊、ですか?」

「ああ、昨日の戦果を報告したら、南西諸島沖への出撃と同時に第二艦隊結成の両方の解禁の通達が来た」

 一口に出撃と言っても、実は海域ごとに敵の強さ、と言うのは異なっている。

 深海棲艦はどの海域にもいるが、場所によってその強さはマチマチであり、鎮守府はその中でも特に弱い敵にいる海域に建てられる。そうして一つの海域の敵を倒して行き、特定の条件を見たした時、次の海域に向かうことができるようになる。それは言うなら、大本営のほうで、こちらの身の丈に見合った敵を見繕って当てているのだ。

 何故そんなことをするのか? と言えば、話は簡単だ。

 

 艦娘には錬度(レベル)と呼ばれるものがある。

 

 即ち、本来の性能を100%とした時に、今現在どれだけの性能を引き出したパフォーマンスができているか、と言うことだ。因みに本当に100には達せず、現状では99が限界らしい。

 建造されたばかりの艦娘と言うのは、全員例外なくレベル1から始まる。それはつまり、全性能の1%ほどしか引き出せていない、と言うことに他ならない。

 言うならば熟練だ。自らの体とは言え、艦娘の持つ力は兵器のそれであり、けれど引き金を引くのは人と同じ…………つまり兵士だ。自らの力を扱いに対する熟練、それがレベルであり、艦種による性能の差が絶対に差にならない大きな要因でもある。

 例えば、レベル1の戦艦があったとする。戦艦はレベル1ですら非常に大きな戦力だ。だがレベル99の駆逐艦に勝てるか、と言われればノーだ。恐らく100回やって1回勝てればいいほうなのではないだろうか。

 レベルが上がると攻撃の命中率と、回避率が大きく上がる。特に、レベル99(フルパフォーマンス)の駆逐艦の回避力は神がかっており、電探(レーダー)を積んだ戦艦ですら当てることが困難を極めると言われる。

 また全ての艦は例外無く、一定以上のレベルに達することで改造と呼ばれるものを施すことができる。

 レベルが性能を引き出している割合なら、改造は性能にかけられたリミッターの解除と言っても良い。全ての艦は、初期状態ではその性能にリミッターがかけられているのだ。その本当の理由は建造をする妖精たちにしか分からないことではあるが、艦娘が自身の性能に振り回されないようにするため、だと一説では言われている。

 だからこそ、自身の性能をある程度使いこなした、つまりレベルが一定以上に達すると改造と言う、性能リミッター解除を行うことができるのではないか、と言うのが通説だ。

 まあ、それは置いておいて。つまり、レベル1の艦を強敵と次々ぶつけても、轟沈者が続出するだけで、そこに指揮がどうのこうのと介在する余地が無いのだ。だからこそ、大本営もその鎮守府の能力に見合った海域へ出撃させることで無理の無い錬度上昇を促し、結果的に鎮守府全体の戦力を増強させているのだ。

 

 鎮守府近海、と言うよりだいたいの海域に対する大本営の言う次海域解禁条件は分かりやすい。

 即ち、その海域の中核となる敵を倒し、敵の勢力を減衰させることだ。

 ほぼ全ての海域で、深海棲艦の中に、その海域のボスのような艦隊が存在しており、その艦隊を倒すことにより、一定期間その海域の深海棲艦の勢いを弱めることができる。と言っても、一ヶ月もしない内に新しい中核艦隊が出来上がる上に、討ち漏らしの雑魚艦隊がいるのだが、それらはまだその海域で中核艦隊の撃破を達成できていない他の鎮守府が討伐することになる。

 

 と、まあ長くなったが、出撃海域についてはそうなっている。

 鎮守府近海の敵中核(ボス)艦隊を撃破したことにより、現在この鎮守府周辺の深海棲艦の勢力が弱まっている。

 と言っても一ヶ月ほどのことなので、一月ほどしたらまた出撃することになるが、一月もすればこの鎮守府もそれなりのものになっているだろう。

 とりあえず、鎮守府近海の海域は突破した現状、ようやく新設鎮守府から駆け出し鎮守府になった、と言う程度だろう。

 一応の戦果として、第二艦隊の結成許可は出たので、これからは遠征任務をこなすことができる。

 警備任務で鎮守府近海を遠征させれば、資源を入手すると同時に中核艦隊が結成されるのを阻止したりできる。

 特にこの鎮守府は、上官の鎮守府の隣の海域にあるので、海上護衛任務が多くある。これをこなすと報酬で燃料と弾薬が多くもらえるので積極的にこなしていきたい。

 

 遠征の成功には実はある秘訣がある、と上官が教えてくれたことがある。

 一つは旗艦となる艦のレベル。ある程度場慣れした艦でないと、上手く指示できず、結果的に失敗してしまうことが多々あるらしい。

 そうしてもう一つは、艦隊の艦種である。

 遠征ごとに必要とされる能力、と言うものがあり、その必要とされる能力とは即ち、艦種らしい。

 海上護衛の場合、水雷戦隊向けらしく、駆逐艦と軽巡洋艦の混成艦隊が必要とされる。

 そう、軽巡洋艦だ。

 今の鎮守府にはいない戦力。

 だが遠征の半分ほどは水雷戦隊が必須らしく、軽巡洋艦は最早、遠征に必須と言って良い。

 

 と、言うわけで。

 

「また建造しようと思うんだが」

「…………資源、どこにあるん、ですか?」

「…………………………しばらく出撃を控えれば」

「それで、また…………出撃命令、来るんですか?」

 

 ずばずばと言ってくる弥生に苦笑しつつ、本当にどうしたものか、と思う。

 実際、弥生の言っていることは全く間違っていない。

 確実に軽巡洋艦を建造できるだけの資源の余裕は無いし、それで出撃が滞ればまた出撃命令が出る。

 だから、もう一度言うが、弥生の言っていることは全く間違っていない。

 けれど、それでも、だ。

 

「遠征隊による、コンスタントな資源供給、これが無ければこの先はやっていけない。そう思っている」

 

 敵はどんどん強くなってくる、弥生たちも傷つくだろう、大破することもあるかもしれない。

 それを修復するのにも資源がいる、補給するのにも資源がいる。

 レベルが上がるほどに修復に必要となる資源は増える。

 それら全てを配給と任務の報酬の資源だけで賄うのはいつか破綻してしまうと思っている。

 

「だからこそ、早い内に遠征隊を作っておきたい」

 

 遠征を繰り返すことにより資源に余裕を作っておきたい。

 その辺りは上官である提督の影響を大きく受けているだろう。

 まだこんな低レベル海域のころから気が早い、と思われるかもしれない。

 だが、こんな低レベルな今だからこそ、やっておきたい。

 

「今ならまだ出撃以外に力を割く余裕がある」

 

 幸い昨日海域を一つ突破したばかりだ、一週間ほど出撃が滞ったところで大本営とて何か言うまい。

 だから、今だ。資源が足りず、配給だけではやっていけず出撃任務で稼ぐような自転車操業になる前に、なんとかして遠征による資源確保をできるようにしたい。

 そんな自身の考えを弥生に伝える、弥生はじっとこちらを無表情に、けれど険しい目つきで見つめ、何かを考えるように黙りこくっていた。

 数秒、十数秒、数十秒と時間が流れ、重苦しい沈黙だけが残る。

 たっぷり一分ほどして、そうして、ようやく弥生が口を開く。

 

「賛同、します」

 

 その言葉にほっと胸を撫で下ろす。正直に言って、これでまだ弥生に反対されたなら、考え直すことも考えていた。

 そんな自身の不安を悟ったのか否か、弥生が口を閉ざし、目を閉じる。

 そうして、もう一度目を開き、無表情にこちらを見つめて、口を開く。

 

「信じて、ます」

 

 そして、第一声はそれだった。

 一瞬、何を言われたのか、唐突過ぎて理解できなかった。

 けれどそんな自身を置き去りに弥生が言葉を紡ぐ。

 

「まだ、そんなに長い時間、過ごしたわけじゃ、ないけど」

 

 けれど。

 

「それでも、司令官が、私たちのことを、大事にしてくれてること、分かってます、から」

 

 だから。

 

「だから、そんな、不安そうな顔、しないで、ください…………自信を持って、ください」

 

 だって。

 

「司令官が、そう思ったなら、そう信じた……なら……、弥生は、賛同、します」

 

 いつもからは想像もできないほどの饒舌な口調で、けれどいつもと同じ無表情で。

 弥生がそう言った、そう告げた、そう呟いた。

 

「司令官を、信じます」

 

 涙が出そうだった。

 

 




【戦果】

旗艦  弥生   Lv3   司令官のこと、信じてます、から。
二番艦 伊168 Lv2   魚雷装備欲しいわね、司令官にお願いしようかしら?
三番艦 瑞鳳   Lv2 MVP 艦載機の開発、司令官にお願いしちゃおうかなぁ?
四番艦 None
五番艦 None
六番艦 None


縦をそろえるために、リザルトのイムヤの文字を全角にしました。
まあそれは置いといて、弥生可愛いよ弥生。

演習で金剛改二Lv104が単艦放置されてたんですよ。
昨日の寝る前に嫁の弥生改Lv104とタイマンさせた結果。
なんと、昼戦で完全勝利しました(
さすが俺の嫁。誰だ、睦月型を最弱の駆逐艦なんて言ったやつ。
同じレベルの戦艦を昼戦で倒したぞ。
というわけで、今日はちょっとテンション上がってた。
さすが弥生、俺の嫁最高。

だからじゃないけど、今回の弥生はちょっとデレた。
でも実際、一週間ほどですけど、この提督さん、けっこう艦娘と一緒になって頭悩ましてるんですよね、方針も基本的に艦娘のこと第一に考えてるし。
この辺は上官殿の影響ですね。本人の気質も多少ありますけど。

登場予定キャラ見てたら、軽巡洋艦いないなと思い立ち、軽巡追加フラグを立てました。
という訳で登場確定キャラ残り4人です。
あと、転属してくる艦娘は案外予想できる人もいるんじゃないだろうか?

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