梅雨……それは、レースを目指すウマ娘達に取って地獄の季節。何せ、外で走れないのだから。
室内トレーニングは、だいたい筋トレとかそんなんばかりなので、成長を実感しづらく中々、厳しい季節だろう。
さて、そんなの何一つ関係ない万事屋では、今日はのんびりしていた。
「雨、かぁ……」
「なんだ、ダスカ。センチメンタルごっこか? そういうのは中二になってからやれや」
「違うわよ! ていうかどんな遊び?」
「ほら、よくあんだろ。アニメで窓の外を眺めながら、あの日のことを思い出す……みたいな。あれを見てかっこいいと思っちゃった奴が、たまにやる遊びだよ」
「知らないわよ」
「実際、雨が降る日なんてロクでもねーのによ。可愛くねー女から傘借りて、戦艦落とす刀とどんぱちやり合った挙句、戻ってきたら薙刀持った女に看病されて……」
「何の話?」
思い出せば出すほど、そろそろどうやって元の世界に帰るのか考えないといけない。
何せ、ここまで手掛かりなし。夢という感じでもないし、いつまでも行方不明になると万事屋のメンバーが心配……しなさそう。というか、やっぱりこのままでも良いんじゃないだろうか?
「なぁ、ダスカ」
「何」
「お前のー……あー、あれだ。ウオッカ」
「別にあたしのじゃないけど。何?」
「あいつが約二ヶ月間、行方不明になったらどう思うよ?」
「何よ急に……まぁ、二ヶ月もいなくなられたら、少しは心配するかもだけど?」
「……ふーん」
……いや、まぁスカーレットと万事屋のガキどもは違うかもしれないが。とはいえ、そういう意見が多いなら、たまには少し動くのも良いかもしれない。
「……じゃ、ダスカ。後は任せた。俺は出かけてくる」
「は? 何処行く気?」
「あ? あー……自分探しの旅」
「大学生かあんたは! どうせサボりでしょ⁉︎ 行かせないわよ!」
「なんなんだおめーは。たまには部活だって顧問が来ねー日くれーあんだろ。一々、めくじら立てんじゃねーよ」
「そういう問題じゃないっての!」
「顧問が来ない日の部活は最高だよなアレ。いつも出来ない事出来るよなあれ。スマブラごっことか。それで怪我して初めて男は大人になるんだよなアレ」
「知らないっつーの!」
「天空で電球割った時はマジでやべーよなあれ」
「……とにかく、サボらせないわよ」
……ダメだ。逃してくれない。まぁ、別に二ヶ月もこっちにいれば、もういつ戻ったって一緒かと思い直すことにして、しばらくのんびりすることにした時だ。
教室の扉が開いた。入って来たのは、エアグルーヴと……もう一人、小さくなったルドルフみたいな見た目の少女だった。
「すまない、遅れた」
「お邪魔しまーす!」
「娘か?」
「ぶっ飛ばすぞ貴様!」
「えー、ボクもエアグルーヴがお母さんなんて嫌だよー」
「お前も黙っていろ!」
教室に入ってくるなり忙しそうにツッコミをするエアグルーヴに同情しつつ、スカーレットはお茶を淹れる。
「はい。テイオー」
「ありがとう、スカーレット」
「これに名前とクラスと内容書いて」
同時に紙も渡す……が、当のテイオーは目をキラキラと輝かせて、銀時を見ていた。
「君が銀時先生?」
「そうだけど?」
「ボクはトウカイテイオー! よろしく、オジさん!」
「オジっ……」
「「ブハッ」」
吹き出したのはエアグルーヴとスカーレット。銀時だけ、何も言えずに固まってしまった。
何も分かっていない様子のテイオーは、キョロキョロと二人を交互に見回す。
「? どうしたの、二人とも?」
「「いや……別に……」」
「あのさ……俺、加齢臭とか出てる?」
「カレイシュー? ……何その美味しくなさそうなシュークリーム」
「いや、カレイのシュークリームじゃなくて。ていうか、その無垢な顔面にカレイのシュークリーム叩きつけたい」
「ちょっと、生徒に手を出す気なの? オジさん」
「そうだぞ。子供の無垢に手をあげるのか、オジさん」
「お前らまでオジさん呼びしてンじゃねェよ! ブッ殺すぞ!」
すると、ようやく理解し始めたのか、テイオーが困惑した表情で口を挟んだ。
「もしかして、まだオジさんじゃないの?」
「お前、今すごい失礼な質問してる自覚ある?」
「違うんだー。ごめんごめん、もう頭真っ白だから、歳いってるんだと思ってたよー」
てへへ、と後頭部を掻くテイオー。この世界のトレーナーという人種ならキュン死している所なのだろうが、悲しいかな。銀魂男子にそういう概念は通用しない。するのは新八だけだ。
「一部だけ白髪の方がよっぽど歳いってるように見えるけどな、若白髪」
「なっ……ち、違うもん! これ生まれつき……というか遺伝だもん!」
「おい、銀時。貴様、会長をも愚弄したか?」
「そういやあいつも若白髪か。お前らちゃんとひじきなり海蘊なり食ってたのか? そうやってガキの頃から好き嫌いしてるから、そんな厨二臭い髪色になっちまうんだろうが」
「全部、雪が積もったみたいに真っ白な人に言われたくないよ!」
「貴様こそ今までどんな食生活していたらそんな頭になる⁉︎ どうせ生まれた時から糖分ばかり摂取していたんだろう!」
「馬鹿野郎、カルシウムだって摂ってたわ! イチゴ牛乳とコーヒー牛乳で!」
「それ結局糖分じゃん!」
「貴様の親の顔が見てみたいわ!」
「なら、自分らの親の顔を見てみろ。……それが、俺の母ちゃんだ」
「私のお母様を愚弄する気か貴様アアアアアアアッッ‼︎」
「何処の母ちゃんも大体、同じだっつんだボケがアアアアアア‼︎」
もう相談どころではなく喧嘩に発展しつつあった。それらを完全にシカトしたスカーレットは、テイオーに声を掛けた。
「良いから、まずそれを書いて」
「え? あ、うん。分かった」
との事で、テイオーはペンを動かす。すぐに相談内容を書き終えると、スカーレットに返した。
「はい」
「ありがと……『会長と遊びたい』?」
「大体、貴様はなんでそうなんだ! 本当に教員か⁉︎ 生徒に対して言いたいことを平気でズケズケと言いおって、たわけが!」
「言いたいこと言って何が悪ィんだコラァッ‼︎ 大体、教師に向かって偉そうな態度取る奴に言われたくねんだよ!」
「言っとくけど、あたし達遊びでやってるわけじゃないんだけど?」
「違うよ! ボクだって色々考えてるもん! カイチョーってば、いつも仕事ばかりで大変そうじゃん?」
「貴様の場合はデリカシーに欠けると言っている! 良い歳して、少しは気遣いというものを覚えんか⁉︎」
「はい出ましたー! 何かにつけてデリカシーを盾にする系女子ー。お前みたいな奴がストレス溜め込んでTwitterとかに悪口めっちゃ書き込んで、それがリア友に見つかって炎上騒ぎになったりすんだよ!」
「ああ……つまり、リフレッシュさせてあげたいってこと?」
「うん。一応、エアグルーヴには『良いよ』って言われてるんだよ」
「誰が言うかァッ‼︎」
「え、言ったよねエアグルーヴ?」
「いーやお前はいつか言うタイプだね。なんでも自分で解決しないと済まないタイプってのは、いつか溜め込んでたもんが爆発して、気がつけば勝手に指が……」
「二人ともうるさい! 邪魔するなら出て行って‼︎」
スカーレットが二人の間に入る。全く、さっきから耳障りで仕方ない。
「……まぁ、バカグ……エアグルーヴ先輩に許可を貰ったのなら良いわ」
「おい、お前今なんつった?」
「バカグルーヴ」
「貴様が復唱するなァッ‼︎」
「万事屋銀ちゃんとして、お引き受けしま……」
「そう、カッカすんなよ、バカグルーヴ。語呂は割と悪くないと思うぜ、後輩に名付けられたバカグルーヴ」
「よーし分かった、ブッ飛ばす。そこに直れ。実はグラスワンダーに習ってる薙刀術、見せてやる」
「やってみろやコラ」
「万事屋銀ちゃんとして、お引……」
「喰らえ!」
ガンッ、ギィンッ!
「ぐっ、このッ……!」
「よーし、もらったァッ!」
「んなっ……!」
「ちょうど良い機会だ。テメェにも若白髪の辛さを思い知らせてやるよ」
「お、おい待て! チョークはやめろ! そんなもの頭に付けたら……ああああ‼︎」
「だからうるさいっつってんでしょ‼︎」
薙刀を木刀で弾き飛ばし、あっさりとエアグルーヴの後ろを取った銀時が、後ろから片手でホールドしつつチョークを髪に近づけようとしているのを、スカーレットが後ろから蹴り飛ばした。
二人揃って教室の外に叩き出され、ぶっ倒れたのに見向きもせず、コホンと咳払いしたスカーレットは、何事もなかったかのようにテイオーに微笑みかけた。
「万事屋銀ちゃんとして、お引き受けします」
「スカーレット……なんか、変わったね」
「そうかしら?」
「うん。エアグルーヴも……もしかして、頭悪くなった?」
「出て行く?」
怒られた。
×××
さて、そんなわけで、四人は生徒会室の前へ。扉の隙間から、上から銀時、エアグルーヴ、スカーレット、テイオーの順番で、仕事中のルドルフの様子を眺める。
「……ホントに引くほど仕事してるよ。あいつ、前に息抜き連れてってやったの覚えてねーのか」
「そんな事してたの?」
「人の顔にボウルを投げつけた時のことか」
「何お前。まだあの時のこと根に持ってんの? 過去のこといつまでも引きずる女はモテねーぞ」
「黙れ。モテなくて結構だ」
「へー、エアグルーヴってモテないんだ〜。ボクは、この前、ファンの人に『好きです』って言われちゃったよ?」
「プフッ、中学生以下ですか、エアグルーヴさん」
「ちょっと、大きな声出させるようなこと言わないでよ。バレるでしょ」
スカーレットの注意が入り、ひとまず黙る銀時。その下のエアグルーヴがすぐに言った。
「とにかく、即効性が大事だな。あの速さで仕事をしていたら、すぐに終わってしまう」
「なら、重要なのは『仕事より大事な事がある』と言う使命感だな」
「それと、仕事を任せられる誰かしら、ね」
「よし、それは私がやろう。銀時とスカーレットはなんとかして会長を連れ出してくれ」
「うーす」
「はい!」
そう役割を決めると、銀時とスカーレットとテイオーは準備に戻り、エアグルーヴは生徒会室に入った。
「失礼します」
「エアグルーヴ。例の活動は良いのかい?」
気付いたルドルフは、一度手を止めた。
「はい。今日はちょっと……あのバカと喧嘩しまして……」
「ふふ、つまりいつものか」
「はい。……それで伝わってしまうのは誠に遺憾ではあるのですが」
「良いじゃないか、仲良くやってるみたいで」
「それ、会長が言われたらどう思います?」
「……すまない」
割と銀時はルドルフのトラウマになっていた。いや、まぁあの経験も終わってみれば中々、面白いものではあったのだが。
「彼は本当に愉快な男だよ。割と腹立つこともあるが、それが終わった後は、何故か此方も奴を憎む気持ちは失せている」
「会長……お願いですから、あの男を気にいるような事はしないでください。バカが移ります」
「……バカ、移るの?」
「スカーレットは、もう手遅れです。落ち着きとツッコミ力を手にした反面、知能と礼儀が落ちました」
本人がいたら「あんたが言うな」と言いそうなセリフであったが、一切の自覚なく、エアグルーヴは時計を見る。
そろそろ来ないと、ルドルフがまた仕事を再開してしまう。
そんな時だった。生徒会室の扉が吹っ飛んだ。
「ー」
「ー」
二人とも唖然としてしまう。ルドルフだけでなく、エアグルーヴも唖然として固まってしまう。
そして、扉の奥から出て来たのは、何故かオールバックにしてサングラスをかけ、真っ白なスーツを着て、ウマ耳をつけた銀時と、かなりスリットの効いたチャイナ服を着て、無駄に色っぽい口紅をつけたスカーレットが、テイオーを抱えて現れた。
「失礼しまああああす! こちら、トレセン学園の生徒会さんですかああああああ⁉︎」
「宣戦布告に来ましたああああ⁉︎」
何やってんの? と素で聞きたくなるノリたったが、エアグルーヴは一先ず無視する。
「本当にスカーレットまでバカになってしまったんだな」
「ええ」
そんなやり取りを無視して、銀時とスカーレットは続ける。
「俺ら、羽魔夢須学園の生徒会、ギンとォ!」
「ダスカです、夜露死苦!」
「……そうか。そのウマムスガクエン? の生徒会さんが、なんの用かな?」
一応、ルドルフは乗ってあげた。もう学んだのだ。ツッコミを入れても疲れるだけなので、乗った方が楽である事を。
すると、銀時……じゃない、ギンとダスカは、急に口元を手で隠しながら顔を近付けてコショコショと話し始めた。
「プププププー、ちょっと今の聞いたァ? ダスカァ。あの人ォ、一度言ったことをもう一度聞いてきましたよォ?」
「全く記憶容量の少なさには呆れるばかりですねぇ、夜露死苦ぅ」
イラっとしつつも、とりあえずスルーする。すると、ダスカに抱えられているテイオーが叫んだ。
「た、助けてー! 会長ー! ボク、人質になっちゃったー!」
引くほど棒読みだからか、それともそれ以前の問題か、緊張感は流れない。それでもギンとダスカは続けた。
「そんなわけでェ、コイツを返して欲しければァ、今から30分後に近くの公園集合でェ。逃げたらマジ、こいつの白髪が真っ黒に染まるからァ」
「ギンゥ〜、外雨降ってる夜露死苦ゥ」
「じゃあやっぱ体育館でェ」
「体育館で夜露死苦ゥ」
「スカーレット、君は夜露死苦って言えばヤンキーっぽくなると思っているのかい?」
「スカーレット? 誰それェ?」
「アタシの名前はダスカって言ってんでしょ、記憶力無し右衛門。夜露死苦ぅ」
ビキッ、とルドルフは眉間にシワを寄せる。
「とにかく、そういう事なんで、夜露死苦ぅ」
「夜露死苦夜露死苦ぅ」
「さーらーわーれーるー!」
そのまま三人は生徒会室を出て行った。
「……無視して良いのかな?」
「会長、テイオーの為にも、会長が向かわれた方がよろしいのでは」
「君もグルか」
「仕事は私が片付けておきますので」
「……いや、君も来てくれたまえ」
「いえ、しかし仕事は……」
「何、人の仕事を邪魔した以上は、きっちり手伝わせるさ」
「……」
まぁ、ルドルフの負担が少しでも減るから良いか、と捉えて、エアグルーヴも一緒に生徒会室を出て行った。
×××
「で、テイオー。何して遊びたいわけ?」
体育館でスカーレットが聞くと、テイオーはキョトンと小首を傾げた。
「何でも良いけど?」
「いや、あんたが会長さんと遊びたいって言うから、あんな恥ずかしい真似したんでしょ。何かしたいことあるんじゃないの?」
「え? いや、ないよ? ただ、会長がボクに構ってくれればなんだって良いし」
言われて、銀時とスカーレットは顔を見合わせる。
「……おい、どうすんだ。宣戦布告しといて遊びの内容考えてません、じゃ済まねーぞ」
「とりあえず……あたし達で考えるしかないでしょ」
「ウマムス学園なんてそのまんまの名前で乗り込んだ以上、足使う遊びじゃねーと納得しねーぞ、向こうは」
「缶蹴り?」
「それやった」
「じゃあ……鬼ごっこ?」
「俺が鬼のまま何も変わらなくなるわ」
「あんたはなんかないわけ?」
「パフェ大食い競争」
「走る気ゼロじゃない! てか誰がお金出すのそれ⁉︎」
「生徒会なら経費の横領くらいできんだろ」
「教師が言うな、教師が!」
なんて話していると、テイオーが口を挟んだ。
「うーん……別に、無理に走らなくても良い気がするけど」
「何、お前なんか案あるの? てか、お前が案出せや。依頼人だろうが」
「じゃあ……トランプ!」
「……体育館にまで来てかよ」
「もうそれで良いんじゃない? あたし買ってくるわ」
「へいへい。あ、ついでに甘いもの買ってきて。金出すから」
「あんた……ホント糖尿になるわよ……」
そう言いながらも、千円札を受け取ってスカーレットは買い出しに出掛けた。
×××
「と、言うわけで、トランプ大会に決定〜」
「「なんで体育館にしたんだ!」」
やっぱり言われるよね、というツッコミが会長と副会長から炸裂する。当然と言えば当然である。
「しゃあねーだろ。テイオーの奴が何も決めてなかったんだから」
「ていうか、体育館に来てまでトランプって、ある意味健康的だよねー」
「ふふ、テイオーは前向きだな」
「負けた奴は罰ゲームな。喉ちんこ雑巾絞りとか」
「それは拷問と言うのでは……」
ルドルフは隣に座るテイオーの頭を軽く撫でる。
そのまましばらく、トランプ大会が始まる。五人で大富豪とかダウトとか豚の尻尾とかババ抜きとか色々とする中、テイオーが言った。
「ボクちょっと喉乾いちゃったよー」
「じゃあ、買いに行くか」
「あ、あたしも行きます」
「俺、チョコレートパフェで」
「喉の渇きを何で潤すつもりだ!」
エアグルーヴとテイオーとスカーレットが購買に向かう中、ルドルフと銀時は二人残ってトランプを回収する。
「しかし……贅沢な体育館の使い方だな。これだけ広い空間の中央に、五人集まってトランプとは」
「提案したのテイオーだけどな」
「大方、私と遊びたいから、なんとかしてくれ、と頼まれたと言った所かな? そんな事せずとも、私は……」
「ちげーよ。仕事ばっかしてっから、息抜きさせてあげてーって言われたんだよ」
「! ……そうか」
「お前、まだ息抜きの仕方、分かってねーの? また長さんになる?」
「なるか!」
ツッコミはもっともだが、銀時は鼻をほじりながら続けた。
「でも、結局お前、周りに気を遣わせてんじゃん」
「っ……」
「そういうとこだぞ。他の生徒にも敬遠されるの」
「む、むぅ……」
「他人に頼る奴ってのは、周りと自然にコミュニケーションが取れるだろ。コミュニケーションが取れれば、その人がどんな奴なのか少しずつ分かる。仕事を渡すってのは、何もそれをさせるだけじゃねーんだよ」
「……たまにまともな事を言うのは、本当に狡いな……私も、何も言えないじゃないか」
「知るか。一人で仕事ばっかするのも結構だが、まだ酒も飲めねー歳なんだから、たまにはこうやってテメーから遊びに誘ってやっても良いだろ」
「……今度こそ、肝に銘じるよ」
本当に不思議な男である。何故、こんなに説得力のようなものがあるのか。
「うし、じゃああいつらが戻ってくる前にやるか。コスプレ」
「いや、だからなんでだ!」
「言ってんだろ? やっぱり厳格な空気を崩すには、バカやるのが一番なんだよ」
「なっ……い、嫌だ! 長さんは!」
「じゃあ、ナミさんで」
「波?」
「待ってろ。持ってくる」
×××
体育館の通路を歩く三人のうち、テイオーが心配そうに聞いた。
「ねぇ、良かったの? 銀さんの飲み物、お茶で」
「良いんだよ。あいつ、いつも甘いもの食ってばかりだ」
「たまには糖分、控えさせないとダメよ」
糖尿病というのは中々、キツいらしい。何が怖いって、初期段階では症状が見られない所だ。症状は色んな形に現れ、名前の割に侮れない病気となっている。
すると、そんな二人を見て、クスッとテイオーが微笑んだ。二人揃って「何?」と視線で問うと、相変わらず能天気な笑顔のまま答えた。
「いやー、二人とも銀さんのこと結構、好きなんだなーと思って」
「「それはない」」
「え……少しは照れながら言いなよ。ツンデレらしくない」
「「誰がツンデレ⁉︎」」
ブッ飛ばす、と言わんばかりに目を剥きながら、二人は体育館の扉を開けた。そこで目に入ったのは……。
「雷光槍=テンポ!」
「違う違う。もっと頭下げて、タクトを振ってるっぽく」
「雷光槍=テンポ!」
「もっと技出してるっぽく」
「雷光槍=テンポ!」
「もっと中学生っぽく」
「さ、雷光槍=テンポ? みたいな?」
「もっと外国人っぽく」
「サ、サンダー・ランス=テンポゥ?」
「もっと武士っぽく」
「雷光槍=天歩でござる……って、なんだこれはァッ‼︎」
ビキニとジーンズ姿のルドルフがタクトを叩きつけた直後だった。エアグルーヴ、テイオー、スカーレットとバッチリ目があった。
「あっ」
「……」
「……」
「……」
直後、エアグルーヴとテイオーは鼻血を噴き出して倒れた。