トレセン学園銀八先生。   作:バナハロ

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夏合宿は、終わった後が一番楽しい。

 梅雨を超えて、夏も本格的に正々堂々とした暑さを提供してくる季節。それに伴い、学園内でも何やら生徒達がソワソワした様子を見せていて、銀時はすぐに合点がいった。

 何故なら、もうすぐ夏休み。レースがある生徒は練習に集中出来るし、ない生徒は遊べる。何にしても、授業がない期間というのは、学生にとってワクワクするものなのだろう。

 だが、そんな中、夜中に一人の少女が歯を食いしばって走っていた。

 

「タイシン!」

 

 声を掛けられ、その少女は足を止める。振り返った先にいるのは、ウイニングチケット。

 そして、声をかけられた少女はナリタタイシンだった。

 

「もー! また部屋から抜け出して! 生徒会長にも注意されたばかりでしょ⁉︎」

「……うるさい。あんたに言われる筋合いないでしょ」

「も〜、またそういうこと〜! 次、怒られたら本当に退学になっちゃうかもよ⁉︎」

「うるさいっての! 関係ないでしょ!」

「そ、そうかもだけど〜……」

 

 心配そうな表情で顔をじっと見られ、押し黙ってしまう。分かっているのだ。このまま特訓をしても、おそらく自分のタイムが伸びるわけでもないし、成長できるわけでもないことくらい。

 だが、それでも何かしないと結果は出ない。結果を出さないと、小さい自分はずっとそれをネタにイジられ、ヘラヘラするしかない。そんなの、死んでも嫌だ。

 一体、どうしたら良いのか……と、悔しげに俯いている時だった。

 

「あ、じゃあさ、最近できたって言う、相談室とか行ってみたら?」

「……は? 何それ」

「なんか、すっっっごく頼りになるらしいよっ!」

「ノーヒントじゃん、それ」

「で、でも……このままってわけにも……」

「っ……」

 

 それは、その通りだった。トレーニングをやめては諦めてしまったようで嫌だったが、続けた所で何か改善されるわけでもない。……いや、怪我のリスクは高くなるのかもしれない。

 

「はぁ……」

「と、とにかく、今日はここまでにしよ? 今なら、私も一緒に謝ってあげるから」

「アタシは子供か!」

 

 そうツッコむ自分をグラウンドに映した影は、皮肉にも本当に子供のように見えた。

 

 ×××

 

 まぁ、教師にとっても割と寝られる季節だし、この間に元の世界に帰る方法を考えるか、と決めている時だった。

 

「あ、銀時先生。探しましたよ」

 

 すると、後ろから声が掛けられる。振り返ると、そこにいたのはたづなだった。

 

「理事長がお呼びです」

「え、俺なんかしましたっけ?」

「むしろなんでもしてる気がしますが……」

「……まぁ良いか。わーりましたよ。……あ、その前にアポロチョコ買ってっても良いですか?」

「ダメです♪」

 

 ダメだった。たづなも一緒に理事長室に向かった為、仕方なく寄り道出来ずに歩き、理事長室に入ると、相変わらず背の低い理事長が扇子を持って待機していた。

 

「うーっす。呼びましたか?」

 

 言いながら、銀時は机の上に置いてあるみかんを一つ、手に取ると、部屋の中にある応接用の椅子に腰をかけ、足を組み、剥いて食べ始めた。

 

「無礼! そして見事なほど清々しい盗難!」

「すみませんね。甘っ」

 

 一ミリも頭を下げずに謝りながら、銀時はみかんを食べる。

 すぐに理事長は用件に移った。

 

「無論! 坂田先生、万事屋の様子はどうだろうか?」

「え? あー、まぁぼちぼちですけど。1日に1人は来ますし、レース関連はダスカとエアグルーヴに任せられますし、なんなら俺要らない説ありますし」

「結構! それならば、今回は坂田先生への依頼となる!」

「俺すか? てか、依頼?」

 

 聞きながら、みかんを食べ終えた。そして、そのみかんの皮を手に持つと、理事長の机の横にあるゴミ箱に向けて構える。

 

「俺は、人事を尽くしている。故に俺のシュートは、落ちんッ」

 

 落ちた。真横に。

 それでも拾う様子を見せずに、むしろ何事もなかったかのように「で?」と理事長に顔を向けた直後だった。

 後ろから、肩を掴まれる。そこにいたのは、ニコニコと微笑んでいるたづなだった。

 

「先生?」

 

 ミシミシと肩が軋む音が響いた為、仕方なくそのゴミを拾いに行き、ゴミ箱に捨てた。

 

「で?」

「うむ。もうすぐ、我がトレセン学園恒例の夏合宿が始まる!」

「合宿っつーと……砂浜でバスケやったり、キセキの世代とたまたま被って、自分の武器を見つけられた、みたいな?」

「少し限定的すぎるが、その合宿である!」

 

 そういうのやってるんだ、と、まぁ考えてみりゃ当たり前のことに少しだけ感心する。

 

「で、それが?」

「万事屋の者達には、是非ともその合宿の引率をしていただきたい!」

「はぁ?」

「無論、エアグルーヴとダイワスカーレットの二名は、トレーナーがついているウマ娘とのトレーニングに参加も許可する! 故に、よろしくお願いしたい」

「……ちなみに、場所は何処すか?」

「海である!」

「……」

 

 それはつまり……「海辺での合宿→男は脱がないけど女は脱ぐ不思議な力→美人の女性トレーナーも水着になんじゃね?」ということだろう。

 そうと決まれば話は早かった。

 

「良いすよ」

「では、詳しい日程はこちらにまとめてある! 是非、よろしく頼む!」

「はいはい」

 

 書類を受け取り、とりあえず万事屋の教室に戻った。

 ……が、そこで足を止める。よくよく考えたら、自分が女性トレーナーを竜宮編の時のように追いかけていても、隣で双眼鏡を構えるのは駄眼鏡ではなくエアグルーヴかスカーレットのどちらかだ。

 だとしたら、亀梨のようにシバかれるのも自分になってしまう。

 

「……しゃあねぇ」

 

 とりあえず、作戦を練る事にした。

 

 ×××

 

「と、いうわけで、お前らも合宿いけるぞ」

 

 それを聞くと、スカーレットもエアグルーヴも珍しく嬉しそうに目を見開いた。

 

「ほ、本当⁉︎」

「良いのか……⁉︎」

「理事長からの依頼なんだし、仕方ねーだろ。……せっかくなら、テメーらも走れた方が良いだろ」

「銀さん……!」

「銀時……!」

 

 二人揃って感動したように瞳を輝かせる。なんだかんだ、この手のイベントを逃すのは惜しい気がしたのだろう。

 

「とりあえず、お前らの分の資料もコピーしてきたから。一応、目だけは通しとけよ。俺らは仕事で行くんだからな」

「ええ、分かったわ」

「そのくらい心得ている」

 

 とのことで、手早く厄介払いを済ませておいた。

 改めて、銀時は資料を開いて目を通す。ざっと見た感じ、やることはそこまで多くない。バスの中でついていって、基本的にトレーニング中は各トレーナーが見ているので、教員はどちらかというと迷惑な記者や盗撮犯対策。

 夜は比較的、自由になる為、遅くまで遊ばせないよう目を光らせる……などなど、当たり前のことしか書かれていない中、ふと目に入ったのは、備考欄。なんでも、近くでお祭りをやるらしい。やはり、お祭りに行く生徒も少なくないのだろう。

 

「……なるほど」

 

 ニヤリとほくそ笑む銀時。これは、アリかもしれない。海沿いの祭り。現地にはトレーニングで疲れたウマ娘達……客が来ると分かった上での祭り……全然、アリだ。

 

「おい、ダスカ。エアグルーヴ」

「何よ」

「どうした?」

「やるぞ。俺ら万事屋も」

「「何を?」」

 

 その質問に、銀時が答えようとした直後だった。コンコンとノックの音が耳に届く。それにより、会話は中断された。

 

「どうぞー」

 

 スカーレットが声を掛けた直後、中に入って来たのは、今まで銀時が見てきた中でも、一際、背が低いウマ娘だった。

 

「ここ、相談室でしょ? ……って、エアグルーヴとスカーレットもいんの?」

「ナリタタイシンか。……ここに、クラスと名前を書け」

「……ん」

 

 つれない返事をしながら、席に座るナリタタイシンにエアグルーヴが紙を差し出し、スカーレットがお茶の準備を始める。

 教室内を何となく見回したタイシンは、実に不思議そうな表情で小首を傾げた。

 

「……どういう組み合わせなわけ? この部活」

「ツンデレとツンデレ」

「あー、なるほど」

「誰がツンデレだ誰が!」

「タイシン先輩も納得しないでください!」

「いやいや、その喋り方とその怒りっぽさはツンデレしか向いてねーだろ。確実にツンデレ枠狙ってただろ?」

「誰が狙うかあああああああ‼︎」

「あんなの実際、いたらただの面倒くさい奴だろうがああああ‼︎」

「わかってんじゃん。ここに入る前の自分を思い出してみろお前ら」

「「ーっ……!」」

 

 言われて、二人とも顔を真っ赤にして口を閉ざす。揃いも揃って自覚はあったようだ。

 その二人を眺めながら、タイシンは少し引いたように呟く。

 

「え……スカーレットは何となく分かるけど……あれがほんとにエアグルーヴ? なんか教室にいる時とキャラ違くない?」

「どういう意味だタイシン!」

「まったくですよ! どういう意味ですか!」

「ま、ツンデレだからな。少しからかってやりゃ、すぐにバカの皮が剥がれ……ブフッ!」

「だからツンデレ言うなっつーの!」

「あと、バカじゃなくて化けだ!」

 

 二人のキックが見事に銀時の顔面を捉えた。椅子から転げ落ちて、壁に叩きつけられる銀時を呆然と眺めながら、タイシンは本当にドン引きした様子で呟く。

 

「……容赦なさ過ぎでしょ。あの人、普通の人じゃないの?」

「大丈夫よ。どうせピンピンしてるし」

「硬いから平気だ」

「……硬いものを殴りてーならカッチンコウでスパーリングでもしてろよお前ら……」

「うわ、本当に生きてる……」

 

 起き上がりながら普通に歩いてくる銀時を見て、タイシンはまたドン引きしたような声を漏らした。

 いや、平然とはしていない。鼻血は出ていた。

 

「で、どうかしたのか? えーっと……ナルトうずまき」

「ナリタタイシン!」

「そうとも言う」

「クレしんみたいな誤魔化し方すんな!」

「つまり、のはらクレしん?」

「微妙に違うし誰もそんなこと言ってない! ……ちょっと、なんなのコイツ! 頼りになるって聞いたから来たのに、ムカつくだけじゃん!」

「なら、カルシウム摂れカルシウム。ストレスにはカルシウムが一番だぞお前」

「ストレス溜めさせてる奴が言うなっつーの! 大体、カルシウムならアタシだって摂ってるから!」

 

 疲れる、と言わんばかりにタイシンはため息をついた。

 

「ったく……もういい。帰る」

「相談内容は、退学勧告されてる事か?」

 

 それを言ったのはエアグルーヴ。それにより、スカーレットはお茶が入った湯呑みを落としそうになり、銀時も黙り込む。

 

「なんで……」

「仮にも生徒会だ。会長から聞いている。度重なる夜間の無断外出にオーバーワーク。その上、成績も低下し、体調にも不安が残る……主に学園の教官やトレーナー達から上がっているそうだな?」

「何この学校。オーバーワークする奴しかいねーの? そんなに自分のこといじめたって性癖曲がるだけだぞオイ」

「っ、うるさい!」

 

 悲痛な声が教室中に響き渡った。

 そんな中、銀時が意外そうな顔でポツリと呟いた。

 

「……あれ、もしかして今日のこれ、シリアスパート?」

「銀さん黙って」

 

 スカーレットが黙らせるが、銀時は重々しく口を開く。

 

「……で、えーっと……ナリタクウコウ」

「タイシンって言ってんでしょ⁉︎」

「お前は結局、どうしたいわけ?」

「っ……それは……!」

「言っとくけど、オーバーワークにしても無断外出にしても成績の低下も、許すわけにゃいかねーぞ」

「……」

 

 一応、教員である手前、許して良いことと良くないことはある。

 だが、言いにくいことなのか、少し口を紡いで俯く。もしかしたら、スカーレットとエアグルーヴがいるとは思わなかったのかもしれない。

 

「……スカーレット。出るぞ」

「あ、はい」

 

 そのまま二人が出て行った教室で、残ったのは銀時とタイシン。座り込んだまま、まるで二者面談のようになる。

 しばらく銀時とタイシンの間に流れる沈黙。なんで黙り込んでんのか分からなかった銀時だが、まぁ少なくとも三年Z組の連中のように舐め腐った悩みではないのだろう。

 ここは一つ、悩みを相談しやすくしてやったほうが良いかもしれない。

 そう思った銀時は、真剣な顔で告げた。

 

「知ってるか、タマキン」

「あんた今なんつった? もしかしてアタシのこと呼んでたわけ?」

「銀魂って、実写映画二回やってんだよ」

「……何の話?」

「なんだお前、銀魂知らねーのか」

 

 意外そうな顔で言ってやると、タイシンは少しむすっとする。

 

「何の話か知らないけど、それが何」

「その実写映画の二作目、サブタイトルは『掟は破る為にこそある』だ」

「なら、別に良いじゃん。別に、寮を抜け出すくらい……」

「ああ、別に良いんじゃね」

「……え?」

「俺だって、お前らくらいの時は遊郭行ったり、エロ本読んだりしてたからな」

「うわ……キモっ」

 

 普通に引かれた。思ったより異性に対して当たりが強かった。その辺、銀魂女子はみんなすけべなので理解があってよかっ……いや、割とボコボコにされてた記憶もある。

 

「んな事ァ、どーでもいいんだよ。内容は……まぁ、早ェー話が、妖刀に取り憑かれたマヨネーズ派か伊東派に分かれて、真選組がどんぱちやったって話だ」

「は? 全然、意味分かんないんだけど。てか、何なのその話? 別に興味ないし……」

「へー、興味ないんだ。な○○○とか出てくんだけど」

「いやホント何の話っていうかどんな話⁉︎」

「おおっと、これ以上のネタバレは出来ねーな。そんなわけで、この映画を見ていない諸君は、銀魂2を要チェケラ!」

「誰に言ってんの⁉︎」

 

 なんて割とギリギリな話をしつつ、元に戻した。

 

「ま、話を戻すとだな、その妖刀に取り憑かれたマヨラーの人格が変わっちまうって時に、真選組内に裏切り者がいることが発覚してな」

「人格? 妖刀が原因でってこと?」

「ああ、鬼の副長がへたれたオタクになった」

「なんでちょっとずつ変な話が混ざるの! おかげで変に興味出てくるの腹立つんだけど!」

「今まで引きこもりのアニメオタクだった息子が『修学旅行にだけは行きたい』とか言い出して、流石の母親もブチギレて斬殺した際の怨念がこもってるんだったっけか。……いや、実写版だとまた別なんだっけ……」

「どんな妖刀⁉︎ 意外と妖刀って身近で作れそう!」

「それが原因で真選組をクビになっちまったわけだが、その裏切り者に唯一、気付いてんのがその副長様だったんだよ」

「……それで?」

 

 緊張感があるのかないのかわからない話なのだが、一応は真選組のピンチだということを理解したらしい。

 

「その時、そのマヨラーは自分の中にできたもう一つの人格を強引に押さえつけて、最後の力を振り絞って、一番頼りたくねェ三人と一匹に依頼したんだよ。真選組を守ってくれ、ってな」

「……ふーん」

「人間、追い詰められりゃ必ず頼りたくねェ奴に頼らなきゃならねー時も来るし、相談しづらい内容でも言わなきゃいけねー時もくる。……そして、それは別に恥ずかしいことじゃねェ。テメーの守りてェモン見失って、何もしねーままそれを守れねェ方が、余程恥ずかしいことだ」

「っ……」

「俺を信じろ、とは言わねェ。でも、テメーのことは信じてやれ」

 

 それだけ言うと、少しだけタイシンは肩を落とした。そして、やがてポツリと呟くように続けた。

 

「……アタシはまだ、この学校で何も成せてない。チビでもレースに勝てるって、証明したい。……だから、退学なんてしたくない」

「それが依頼か?」

「そう」

「……わーった」

 

 そう呟くと、銀時は立ち上がる。そして、ロッカーを開けると、そこから宝箱を取り出し、タイシンの前に置いた。

 

「おら、これを食え」

「何これ……?」

 

 開けると、そこに入っていたのは紫色の果実。何処か、不気味さと禍々しさが込められている。

 少し怖気づいたタイシンは、冷や汗をかいたまま尋ねた。それに対し、銀時が邪悪に微笑みながら答える。

 

「ゴムゴムの実だ」

「ゴムゴムの……実?」

 

 ゴクリと喉を鳴らす。まず間違いなく、普通の果実ではない。それこそ、禁断の果実と言った感じのものだ。

 

「こいつを食えば、身体がゴムになる」

「ゴムに? それでなんのメリットが?」

「まぁ聞けや……身体がゴムになるって事ァ、その内臓……血管や心臓も、全てゴムになんだ。足をポンプにし、身体を常に高血圧の状態で維持する事で、身体能力を常に上げ続けられる。つまり……」

「足が、速くなる……⁉︎」

 

 その確認に、銀時は頷いて答えた。

 

「こいつがあれば、あらゆるウマ娘も怖くねえ。お前に一歩リードさせたが最後、気がついた時には試合は終わってるってもんだ」

「なるほど……良いの? もらっちゃって……こんな、希少なもの」

「客の依頼をこなすのが、この俺、万事屋銀ちゃんの仕事だ」

「……ありがとう。それじゃあ、遠慮なく……」

 

 と、タイシンはその禍々しい実を手に取る。少し、緊張気味に、再び唾を飲み込んだ。あまり美味しそうには見えないからだ。こんなもの、中身をわからずに口にする奴の気が知れないというものだ。

 それでも、レースのため。これまでの人生で、自分をチビだなんだと馬鹿にしてきた奴らを見返してやる為の第一歩。

 持ち上げ、あーん……と、口を開けた直後だった。

 

「って、誰が食べるかアアアアアアアアッッ‼︎」

「ぐぼおおおおおおお!」

 

 思いっきり手元にあるゴムゴムの身の形をしたゴムボールを、銀時の顔面に叩き付けた。

 

「それただのギアセカンド! 誰がそんなものに騙されるかっての! そんなのでルッチには勝ててもレースに勝てるかァッ‼︎」

「な、なんだよ……知ってたのか。人が悪いな……」

「人が悪いのはあんただから! そもそもそれ触った感じただのボールだったから! そういう意味でも食えたもんじゃないから!」

「わ、分かった分かった。じゃあこっちにしよう」

 

 立ち上がった銀時は、慌てて掃除用具入れを開ける。そして差し出したのは、やたらと細身な黒装束と、卍の形の鍔が付いた刀だった。

 

「こんな矮小なものだが立派な卍解でな。スピード特化で、かの有名な千本桜景厳でも追い切れね」

「それただの天鎖斬月だろうがアアアア‼︎」

 

 さらに一発、顔面に膝が飛んできてひっくり返る。

 

「大体、そんなもん着てたら普通に裾が邪魔で普通に走れないわ!」

「分かった! じゃあ最近流行りのゲームから興奮剤を……」

「HP減って1000メートルも走れなくなるっつーの!」

 

 だーもうっ、と怒鳴ったタイシンは、改めて銀時に怒鳴り散らした。

 

「そういうんじゃなくて、もっと現実的な解決策はないわけ⁉︎」

「そりゃお前、まず普通にオーバーワークと寮の抜け出しはやめて勉強しろって話だが……」

「それは分かってるから! でも……そのままじゃ、結局アタシのしたい事が出来ないって言ってんの!」

「分かった。じゃあ、念を覚えて、スタンガンを使って電気と融合させるイメージで……」

「漫画以外の解決法にしろっつーの!」

 

 そんなこと言われても、銀時はレースに関しては何も詳しくない。気を使って出て行ったスカーレットとエアグルーヴがいないと厳しいかも……と、思っている時だった。

 ちょうど良いタイミングで、教室の扉が開かれる。そこにいたのは、エアグルーヴとスカーレットだった。

 

「戻ったが……終わったのか?」

「って……ゴムゴムの実に、天鎖斬月? あー……(察し)」

「ちょっとあんたら! この男、どうなってんの⁉︎ ロクな案出さないじゃん!」

「すまないが、諦めろ。この男がメチャクチャを言うのは、もはや発作のようなものだ」

「病気扱い?」

「もしダメだったら、私達も力を貸しますよ!」

「退学にならないために寮の抜け出しやオーバーワークはやめるから、試合に勝てるようになりてーんだとよ」

 

 しれっと依頼内容を言いつつも、一番知られたくなさそうな所だけは言わずに伝えた。

 それを聞き、エアグルーヴは顎に手を添えて考え込む。

 

「ふむ……なるほど。なら、ちょうど良いな」

「? 何が?」

「タイシン、一ヶ月で良い。万事屋に入れ」

「はぁ⁉︎」

 

 何それ? と、言わんばかりに声を漏らすタイシンだが、それは銀時も同じだった。

 

「おい、何いきなり言ってんだ。もううるせーバカガキは引き取らねーって言ってんだろ」

「貴様の都合に興味はない。……ただ、我々はトレセン学園の合宿へ同行し、他所のトレーナーとのトレーニングが許されているだろう。ならば、万事屋に入れば、タイシンもその恩恵を受けられると思わないか?」

「それで一ヶ月か?」

「そうだ」

 

 ……まぁ、一ヶ月くらいなら別に良いかもしれない。銀時が答えを出す前に、エアグルーヴは説明をタイシンにする。

 まぁ、それもタイシンが断れば無くなるが……と、思っていると、タイシンは視線を逸らしたまま呟くように答えた。

 

「……まぁ、そういう事なら」

「二つ返事かよ……」

「では、私は一応、理事長へ許可を得てこよう。スカーレットは、この資料をもう一部、コピーしてきてくれ」

「はーい」

 

 さっき配られた紙を指して言われ、スカーレットは素直に従う。

 しかし、と銀時は面子を見た。ダイワスカーレット、エアグルーヴ、そしてナリタタイシン。どいつもこいつも気が強い女ばかりだ。何より、全員が全員、ツッコミ気質である。

 つまり……と、思いながら、呟くように言った。

 

「……なんでツンデレばっか集まってくんだよ……」

「「「誰がツンデレだアアアアアア‼︎」」」

 

 三人の総ツッコミを受けた。

 

 

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