トレセン学園銀八先生。   作:バナハロ

14 / 22
どんな作品も見ないと分からない。

 さて、それから一週間。様々な協力を得て、銀時は肝試しを完成させた。一応、お祭りの出し物ではあるため、昼間も営業しないといけない。

 勿論、昼間のうちは明るいので肝試しは出来ない……わけでもない方向性のものを用意した。

 

「……トレセン学園の方々からのお願いだから許可したけど……」

 

 ここ一週間で準備している様子をちょいちょい見ていたお祭りの主催者のおじさんは、少しだけ不安だったりする。

 そもそも、お昼でもできる肝試しと聞いているが、なんだそれって感じだ。暗くないと肝なんて試せないだろうに……。

 まぁ、何にしても様子だけ見に行きたい。そう思って、神社に上がる。確か、コースは神社の後ろまで回った後、後ろの裏門から出て、お墓を往復し、神社に戻って片道から戻ってゴール……というもの。

 シンプル且つ割と強引に肝試しのコースとして利用することになっている為、どう利用するのか楽しみでもあった。

 お祭り会場の一本道を抜けて階段を上がり切り、おじさんは声を掛ける。

 

「坂田さーん、準備の方はどうなって……」

 

 言いながら顔を向けると、そこにいたのはヤクザだった。リーゼントの白髪頭と、サングラスをつけて特攻服の下に晒しを巻いた胸の大きいウマ娘と、唯一、学生服姿でなんのコスプレもしていないツインテールのウマ娘がいて、三人の後ろには改造された原付が置いてあった。

 

「肝試しっつーか人間性試しかァァアアアア‼︎」

 

 おじさんのツッコミが響き渡った。

 それに気づき、銀時が片眉を上げる。

 

「あ、寺田さん。……お前ら、挨拶しろ。お祭りの主催者の方だぞ」

「初めまして。エアグルーヴです」

「ダイワスカーレットです。今日からよろしくお願いします」

「その格好で礼儀正しくするな! なんでヤンキーのコスプレ⁉︎ 一体、何を試させるつもりだ!」

「決まってんだろ。肝っ玉だよ。校舎裏にヤンキーに呼び出された女の子を、パンピーが助ける度胸があんのか……」

「やっぱり試されるのは人間性じゃねえか! 芸能人のコッソリ隠し撮りGPでやれ!」

 

 ダメだ、思った以上にバカだ。と言うか、他二人も乗ってる時点でバカなのかもしれない。

 

「どうすんだよ、もうお祭り始まってんだぞ⁉︎ 他にこう、準備とか……!」

「なんだ、試す前から文句ばっか言いやがって。そういうのはせめて一人でも客が来てから言えや」

「こんな人間性暴露大会に来たがる奴が何処に……!」

 

 と、言いかけた時だ。階段の方から声が聞こえる。

 

「トレーナー、良いのかい? お昼なのに、お祭りに来てしまって……」

「ちょうどお昼だから、だよ。さっきご飯も食べ終えた所だし、食休みも兼ねて少し楽しんで行こうよ」

「まぁ、君がそう言うなら私は構わないが……」

 

 嘘、来た? と、おじさんは少し狼狽える。

 

「やべっ、予定より早いわ。うし、行動開始!」

「「了解!」」

「あ、おい待っ……!」

「おじさんはこっち」

「あんた人間だよな⁉︎ 力強っ……!」

 

 寺田さんは銀時が連行した。

 

 ×××

 

「お昼から肝試し、というのも乙なものだねー」

「だろう?」

 

 そう自身のトレーナーに言うのは、フジキセキ。トレセン学園内でもトップクラスのイケメンである。

 階段を上がり切った二人を待っていたのは、前髪で片目が隠れるようなカツラを被った、どこかで見たことあるツンデレっぽいウマ娘だった。両手に抱えているのは小さなお賽銭箱だった。

 

「いらっしゃいませ……ようこそ、肝試し『日陰者たちに差し掛かる光』へ……」

「え、肝試しの名前それ?」

 

 声を漏らしたのはトレーナー。だが、シカトしてその幽霊のコスプレをしたウマ娘は続ける。

 

「コースは、左端から入り、神社の周りを歩いて回っていただきます……その後、裏門から一度、お墓の方へ出ていただき……こちらのお線香を一本、奥にある墓石に置いて来て、いただき……引き返していただきます……」

 

 言いながら、お線香を渡された。

 

「中々、スリリングだね」

「その後、裏門から戻ってきていただいた後は、反対側から神社を回り、こちらへ戻ってきてゴールとなります……」

「なるほど。分かりました」

「では……参加料、1人50円ずつ、お願い致します……」

「はいはい」

 

 良心的価格……と言うより、カップルが来ることを見越した価格設定なのかもしれない。

 トレーナーが百円玉を入れると、スカーレット……あ、スカーレットって言っちゃったよ。まぁ良いや、スカーレットは一歩下がり、メチャクチャダッシュして神社の裏に引っ込んだ。

 

「おい、お化けが走ったぞ」

「ていうか、彼女も脅かし役なんだね……ふふ、襲いかかってこられても、逆に虜にしてあげようじゃないか」

「そういうゲームじゃないから」

 

 なんて話しながら、二人は言われた通り、左端に向かった。一応、順路として矢印が書かれた看板があったのは幸いだ。

 のんびりと歩きながら境内の周りを回りながら、フジキセキが微笑みながら言う。

 

「ふふ、やはり昼間だとあまり怖くないね」

「明るいからな。……さっきのお化け、汗かいてたし」

「可愛らしいじゃないか。もしかしたら、子供向けに作られたものかもしれないし、本当に気晴らしにはちょうど良いかもしれないね」

「だな」

 

 なんて話しながら、二人でのんびりと歩く。そして、曲がり角まで来た時だった。

 

「オラァッ、テメオラッ、いい加減にオラァッ‼︎」

 

 頭の悪さが滲み出ている上に何処かで聞いたことあるような怒号が、進行方向から聞こえてきた。二人とも、慌ててそこから奥を覗くと……銀髪のリーゼントと黒髪サングラスに、さっきの案内役のお化けの子がカツアゲされていた。

 

「残念だったな姉ちゃん、ここを通るには入場料がいるんだぜ!」

「分かったら、財布を全部置いていきな!」

「い、嫌です……! お金、持ってません!」

 

 なんでお化けがカツアゲされてんだああああっっ‼︎ と、トレーナーは思っても必死で堪えた。というか、なんで肝試しでカツアゲ? どんな角度から肝を試す気? 

 一発で演技だと分かったトレーナーだが、演技は続く。

 

「ああーん? 聞こえねーなぁ……!」

「じゃあ一回、飛んでみろよ。チャリンチャリン言ったら……えーっと、だ、ダメっ」

「いやセリフ覚えとけよ。なんだダメって」

「セリフとか言うな、銀時」

「銀時とか言うな、エアグルーヴ」

「二人とも、その辺で……(小声)」

 

 しかもなんかグダグダしている。今から自分達はあそこを通らないといけないらしい。

 

「トレーナー、大変だよ……幽霊役の子が襲われている……!」

 

 困ったことに、あれを本気でカツアゲと思っている子が、自分の担当だった。正直、可愛い。

 なら、乗ってやるしかない。

 

「……どうする、フジキセキ?」

「行くしかないだろう。あのまま、迷えるポニーちゃんを、私が放っておくとでも?」

「いやいや、危ないでしょ。それなら、俺が……」

 

 なんて話している時だった。銀髪のリーゼントが担いでいる木刀を壁に振り下ろした。恐らく、神社を囲むと同時に、お墓への入り口である門を備え付けている壁に穴が空いた。

 

「……」

「……」

「いいから出さんかい金ェッ‼︎」

「次は今の一撃がお前に向かうぞコラァッ‼︎」

 

 普通に怖い。というか、あの男人間だよな? と、普通にあのバカ力に軽く引いてしまう。

 

「……え、あれマジ? CG?」

「それを言うならホログラムじゃないかな? ……いや、なんにしても現実だと思うが」

「というか……普通に警察呼ぶ?」

「いや、間に合わないよ。お金を取られてからでは遅い。二人で行こう、あのポニーちゃんを助けに」

「……ああ!」

 

 そう言って、二人が飛び出そうとした時だ。その前に、なんかおじさんが割り込んできた。

 

「ちょっ、何やってんすか! 壁壊しちゃって……これどうするんですか⁉︎」

「大丈夫だろ。ギャグパートで壊れた壁は明日には直ってんだよ」

「なに意味わかんない事言ってんだあんた! 直しとけよそれ⁉︎」

「じゃ、エアグルーヴ、ダスカ。後よろしく。俺はそろそろ引率としての仕事に……」

「逃さんぞ」

「あんたが壊したんでしょ」

「俺じゃねえ、俺に取り憑いたヤンキーの霊だ!」

「そんな裏設定知るか!」

「この手の演技は設定凝った方が入り込めんだよ!」

「ちょいちょい素に戻ってた人が何言ってんのよ⁉︎」

 

 なんて口喧嘩を始めたので、とりあえずフジキセキとトレーナーは帰ることにした。

 

 ×××

 

「ヤンキーはダメだ! 別のコンセプトでやれ!」

 

 怒られたので、銀時は明日、使う予定だったコンセプトを用意する事にした。

 

「あーあ……別に壁の穴一つくらいでガタガタ騒ぐなっつんだ……」

「騒ぐだろう。よりにもよって、神社と墓地の間の壁だぞ」

「うちなんか宇宙船が屋根10割穴開けたことだってあんだぞ」

「それ普通に屋根なくなってるじゃない!」

「スカーレット、まず宇宙船にツッコミを入れろ」

「あと、家政婦型のカラクリが玄関ぶっ壊して家賃回収しに来るのが日常だったわ」

「もう分かったから」

 

 とりあえず、3人で塀の修復を進める。もちろん、手作業で。上手いこと、レンガを積み上げていく銀時を見て、エアグルーヴが感心したような声を漏らす。

 

「しかし……器用なものだな、銀時。随分と手慣れていないか?」

「だから、前はマジで万事屋やってたって言ってんだろ? 壁やら屋根の修理くらい何度もしてたわ」

「意外と色んなことできるのね……他に何してたの?」

「爆弾処理、団子屋で拾った簪の持ち主探し、全長2メートルくらいある犬の引き取り、宇宙海賊討伐、看護婦の恋愛相談……」

「本当にマルチタスクか!」

「嘘とホントがガッツリ分かれ過ぎよ!」

「よくもまぁ自然にポンポンと口から出るものだなたわけ!」

 

 全部本当なのだが、まぁ信用されない事は分かっている。別に自慢するつもりもないので、銀時は「んなことより」と続けた。

 

「さっさと手を動かせや。次に客来て脅かし役が壁直してたら終わりだぞ」

「チッ、分かっている」

「次はどれで行くの?」

「あー……じゃ、次はB-2パターンで」

「何よそれ!」

「打ち合わせしていない呼び名を使うな!」

 

 なんて話しながら、次の準備も並行して行った。

 

 ×××

 

「なるほど……肝試しで?」

「ああ。メンタルを鍛えようと思うんだ」

 

 そんな話をしながら階段を上がるのは、スーパークリークとそのトレーナー。

 

「でも……合宿に来たのに、良いんですか? みんなが練習しているのに……」

「だ、大丈夫大丈夫。クリークのことを考えての事だから」

「……ふふ、ありがとうございます」

 

 そう言いつつも、少し前に小さな綻びを芽生えさせてしまったクリークのためにも、今は強引にトレーニングするより、ゆっくりと余裕を持ったペースでいた方が良いと言う判断だった。勿論、やる時はやるつもりでいる。

 そんなトレーナーに、クリークはにこりと微笑みながら聞いた。

 

「ふふ……それとも、一人で肝試しが怖かったから、私と一緒に、ということでしたか?」

「え? あ、あー……うん。実は」

「ふふ、素直で可愛いトレーナーさんですね〜。良い子良い子」

「あ、あはは……」

 

 まぁ、クリークが良いならそれで良いかな、と思いつつも、未成年に頭を撫でられる25歳(独身)の婦女は少し恥ずかしい……なんて思いながら、二人で階段を上がり切る。

 目の前には、コースの説明が書かれているプレートと、小さな賽銭箱が置かれていた。どうやら、セルフで始めなければならないようだ。

 それらを理解し終えた後、二人で改めてお線香を持って出発。

 

「ふふ、怖かったら、手を繋いでも良いですからね〜?」

「うん。ありがとう」

 

 笑みを浮かべて返しながら、二人で左端からルート通りに歩く。神社の横を通りながら、曲がり角まで行った。今の所、何か出てくる様子はない。

 もうすぐ墓地の方への入り口……なのだが、そこで「すんすん……」という泣き声が聞こえてくる。それに伴い、クリークとトレーナーは身構えた。いよいよ来たか、と言うように……。

 

「ぐすっ……ママぁ、どうして死んじゃったの……」

 

 どうやら、母親のお墓の前で泣いている女の子、と言うコンセプトのようだ。

 それを聞いた直後、クリークがポケットからガラガラを取り出したので、慌てて止めるトレーナー。

 

「なんで……!」

「じゃないから。これ、肝試し。これも演技だから。母性はお腹の中で留めておいて」

 

 どうせ、この後は自分たちが声をかけようとした女の子もお化けで驚かしにかかって来る。

 まぁ、その時はクリークの為だし、甘えてあげようかな、なんてことさえ考えつつ、とりあえず女の子の泣き声に耳を傾ける。

 

「まだ、私……中学生になったばかりなのに……どうして……」

「それはね?」

 

 そこで、男の人の声が割り込んでくる。

 

「お前のお母さんは、日に日に綺麗になっていくお前を見て、死を選んだんだよ……」

「え、ど、どういうことなの?」

 

 なんと、そう言うパターンか。お化けは出ないで、サイコな父親が出るパターンかもしれない。

 

「お前は中学生の割に成長が早かった。日に日に綺麗になっていく女性は、親にとっては楽しみの一つなんだ」

「う、うん……」

「しかし、それに引き換え、親は劣化の一途を辿る一方なんだよ」

「うん?」

「「え?」」

 

 声を漏らしたのは、トレーナーとクリークもだった。

 

「女性の若さ……綺麗な肌、サラサラした髪、皮下脂肪は年々、維持するのが難しくなっていくんだよ。そして、何がタチ悪いって、最初のうちは自覚させない程度の小さな変化から入る事さ」

「そ、そうなの……?」

 

 なんか、雲行きが怪しくなっていった。

 

「そして、人間というものは基本的に辛いことが嫌いな癖に、辛い事を言い訳にするのが好きな生き物なんだ。ようやく気付いた時は、まだ取り返しがつく段階にも関わらず『今は仕事が忙しい時期だから』『落ち着けば元に戻るはず』『まだ大した変化じゃない』『まだ慌てるような時間じゃない』と、誰に対してかもわからない言い訳と弁護を繰り返し、劣化する自身の身体を見て見ぬ振りする生き物なんだよ」

 

 どっ、とトレーナーだけでなくクリークにも汗が浮かぶ。発育が良いだけあって、たまに尻尾や髪に傷みが来ることもあるのだが、小さな綻びということもあって見て見ぬ振りをしていた感じはあったからだ。

 

「そして、他人が見て分かる変化が訪れてから、それを冷静に忠告されてようやく自覚するんだよ。『このままじゃマズイ』と。しかし、最初の変化が目に見えて分からないよう、劣化への道の途中に現れる『一方通行』の標識も、目に見えないうちに現れる」

「そ、それで……?」

「そうなったらもう終わり。……後は、気がつけば異性だけでなく同性の友達も寄り付かない山姥へと変化する」

 

 そこから先、女の子のセリフが途絶え、二人の背筋は凍りついた。

 その後に流れてきたのは、男ではなくドスを効かした女の声が、やたらと耳に残るような声音で続けた。

 

「ありがたく思えよ、スカーレット。お前の髪が、肌が、脂肪が、まだ若さを保っていられる今を……! この母の屍を越え、慢心と驕りに溺れずに、カサカサ肌とパサパサ髪とプニプニボディとの戦争を、延々と若さを追い求めるアンチエイジングウォーへの第一歩を踏みしめるが良い‼︎」

「「ぎゃあああああああああ‼︎」」

 

 悲鳴をあげて二人は逃げ出した。

 

 ×××

 

「ふっ、チョロいもんよ」

「じゃねえだろおおおおおおおおおお‼︎」

 

 また姿を現した寺田のライダーキックが、銀時の後頭部に直撃、お墓側の壁にめり込ませた。

 

「だから恐怖のベクトルが違ェンだよ! なんで女性限定の恐怖⁉︎ 試される肝が違うだろ! 今後への注意喚起になってんだろうが‼︎」

「でも、最後にお化け出たじゃん」

「呪いのレベルが特級クラスだろうがァァアアアア‼︎」

 

 ちなみに、お化け役がエアグルーヴで、娘役がスカーレットである。

 けほっ、けほっ、と割と最後に無理した声を出したエアグルーヴが咳き込む。

 

「すまん、銀時。今の声、割とキツかった」

「ほら、オタクの生徒もこう言ってるし、クレームが来るような方向性はやめて!」

「今のネタは5回に1回くらいにしてくれないか?」

「自分の喉を大切にしなさい!」

 

 とにかく、と寺田さんは声を張り上げる。

 

「こう言う人を傷つけかねない感じは無しでお願いします! もっとこう……オーソドックス、ニュートラル、ベタくさい感じで!」

「へいへーい。よーし、お前ら。次はヤンデレで行くぞー」

「誰が恋愛の恐怖のニュートラルって言ったよ⁉︎」

 

 なんてやりながら、そのまま肝試しを続けた。

 

 ×××

 

 さて、そんなこんなで夕方。お祭りで羽を伸ばす生徒もいるので、この一週間はみんなでご飯を作る、と言うことは無くなる。

 だからといって教員達はやることが無くなるわけではなく、お祭りでハメを外さないように……或いは、変な大人に絡まれないように、見張る必要があった。

 まぁ、ナリタタイシンにはそんなもの関係ない。一応、教師との約束なので、夜間の練習は避けたが、今日は夜、教員達が祭りで見ていようが練習するつもりだ。スカーレットに勝って、練習する権利を得たうえで。

 これは、そのための一歩だ。力強い一歩を踏み締めながら、タイシンは階段を上り切った。

 前では、銀時とエアグルーヴ、そしてダイワスカーレットが待ち受けていた。

 

「よう、替えのおむつは持って来たか?」

「そっちのガキ巨乳こそ。喉薬は買っておいた?」

「あの、ガキ巨乳はやめてくれませんか?」

 

 挑発のし合いから始まり、とりあえず銀時がルールを説明する。

 さっきまでと同じなので、それらをつらつらと銀時が述べる。それを聞いて、実はゲーム好きでもあるタイシンは冷静にルールを自分なりに理解する。

 

「つまり、戻って来るまでに悲鳴を多くあげた方の負けね?」

「そうだ。……で、審判は俺ら万事屋から出すのも不公平と思ったから、こいつを呼んだ」

 

 誰? と思ったのも束の間だった。何故なら「バクシィィィィンッッッ‼︎」という元気な自己紹介が背後から耳に届くと共に、目の前の銀時を踏み潰して着地したからだ。

 

「サクラバクシンオーです! 学級委員長として、公平な判断を……あれ、銀さん先生は何処でしょうか⁉︎」

「銀さんなら甘いもの食べに行ったわ」

「そうでしたか!」

「違う、下だ、下」

「なんと! そんなところで寝ていると危険ですよ、銀さん先生!」

「よーし分かった。ダスカとバカシン、お前ら二学期の成績1にするから」

「「まだ始まってもないのに⁉︎」」

「ていうか人選。ハルウララ、ゴールドシップに次ぐ審判向かなさそうな人じゃん」

「いや暇そうにしてたから」

「ブッ飛ばすよ」

 

 相変わらず舐めた男だ。どこまでが本気で、何処までがおふざけなのか分からない……今時、こんなふざけた大人がいること自体に驚きだ。

 まぁ良い、そんなことよりも確実に確認しておきたいことはある。

 

「本当にアタシが勝ったら、居残り練習認めてくれんだよね」

「ああ。男に『酒やめる』と『甘いものやめる』以外、二言はねえ」

「二つ目はあんただけでしょ」

「上等」

 

 スカーレットのツッコミを無視して、さっそくゲームを開始することにした。

 

「じゃ、俺らは見てるから」

「ごめん、最後にもう一つ。……スカーレットがあんたらの仕掛けを知ってる、なんて事はないでしょうね?」

「安心して下さい。私も教えられてないので……というか、それのお陰で普通に怖かったりもします。今日、来たお客さんを見てると特に……」

「……なにしたの」

「ご安心を! 審判として一緒に回る以上、この学級委員長にお任せを!」

「逃げ足が言うな」

「真っ先にいなくなりますよね」

「な、なんと⁉︎ 信用がない……」

 

 なんて話をしていると、いつのまにか銀時はいなくなっていた。

 さて、約5分待機。仕掛けをしている時間が必要らしい。ナリタタイシンとスカーレット、バクシンオーはしばらく待機する。

 そして、その時間となった。

 

「では、行きましょう!」

「はい!」

「……さっさと終わらせる」

 

 そう言って、三人ともコースの方へ歩いた。神社そのものと壁の間に二人が差しかかった直後、真後ろに巨大な岩が落ちて来た。

 

「「「えっ」」」

 

 その岩は、自分達に向かって思いっきり転がってきた。

 

「「「あああああああああああ‼︎」」」

 

 もうルールを忘れて三人で悲鳴を上げながら走り出した。

 

「なんで! なんで毎回毎回、こんな感じなの!」

「試す肝違うじゃん!」

「バクシィィィィンッッ‼︎」

 

 三人揃って駆ける。すぐに角に到着し、曲がって息を整え……ようとしたが、岩はこちらに曲がって来た。

 

「「なんでだあああああああああ⁉︎」」

「バクシィィィィィィィィィンッッ⁉︎」

「「うるせええええええええええ‼︎」」

 

 また走り出す。とりあえず、コースを守らないといけない。何故か墓地への門が閉まっていて手を伸ばすが、開かない。

 

「あ、開かない……⁉︎」

「もうお線香いらないじゃん!」

「逃げろ!」

「もおおおお! なんなのよおおおおおお⁉︎」

 

 やはり諦めて走るしかない。そもそもさっき曲がる角を追ってきている以上、意味ないのかもしれない。

 この神社、横に無駄に長いので、途中で足を止めてしまったこともあって追いつかれてしまいそうだ。

 そんな中、ふとタイシンは気付いてしまった。スタートこそほぼ並んでいたが、少しずつスカーレットやバクシンオーが前に出て、タイシンはちょっとずつ置いていかれている。

 このまま一人で死ぬ、なんて事よりも、この土壇場でも置いて行かれていることに嫌気がさした。それこそ、一週間前のトレーニング……ビワハヤヒデと、ウイニングチケットに置いて行かれているような、そんな感覚。

 

「ッ……!」

 

 ギリッと奥歯を噛み締める。小さいから勝てない? それとも自分に才能がない? どっちもクソ喰らえだ。

 このまま何一つ芽吹かせることなく死ぬなんて……絶対に嫌だ。

 

「っぃぃっ……くぃあああああああああ‼︎」

 

 らしくない奇声と共に、加速した。それこそ、前を走っていた二人を追い抜き、一気に前へと躍り出る。

 そのままようやく二つ目の曲がり角に来たので、そこを曲がる。その後に続いて、スカーレットとバクシンオーも曲がる。岩も曲がって来たが、このまっすぐな距離は短い。さっさと逃げ切り、そのままお賽銭箱の前にある階段の真下に三人で隠れた。

 最後に転がってきた岩は、神社の前で止まる。

 

「はぁ、はぁっ……ふぅ……」

「た、助かっ、たぁ……?」

「ば、バクシン……」

「というか、なんだったのあの岩……」

「さぁ……」

 

 なんて話している時だった。その岩が、パカっと開いた。は? と3人が片眉をあげたのも束の間、中からルドルフ、エアグルーヴ、トウカイテイオーが出て来る。

 

「ふぁ……つ、疲れた……」

「三人息合わせて岩を転がすのは堪えましたね……」

「ハチミー飲みたい……」

 

 三人揃って虫の息だ。と言うか、今更ながら勝負はどうなるのだろうか? 

 

「おーう、お疲れーい」

 

 そんな中、三人の元に呑気な声が届く。何事かと思い顔を上げると、銀時がかき氷を食べながら立っていた。

 

「ちょっと、何なのよあんた⁉︎」

「ほんとだから! 何あの岩⁉︎」

「学級委員長的にも許せませんよ!」

「お前らもお疲れー。かき氷食ってこいよ。……おら、金」

「ありがとう、銀時先生」

「……少し私達は休むぞ」

「ボクもー……ちょっと普通に無理……」

 

 話しながら、お金を渡して三人はお祭りに参加しにいく。

 結局、なんだったの……と、タイシンが眉間にシワを寄せた時だった。

 

「お疲れ様です」

「……え?」

 

 直後、挨拶をしてくれたのは意外な人物、樫本理子だった。何故、こんな厳格な人と、この世で一番不真面目な男が交流を? 

 その心の中を見透かしたように、理子は真剣な表情のまま答えた。

 

「坂田先生に『あなたの武器を探して欲しい』ということで頼まれたので、こちらに参りました」

「え……そいつが?」

「ええ」

 

 銀時は鼻をほじりながら、虫の息のスカーレットを茶化し、バックドロップを喰らっている。無視することにした。

 

「先程の走り、お見事でした」

「さきほど……?」

 

 言われて思い出す。もしかして、岩の時の話だろうか? 

 まさか、わざわざそのために岩を転がし、そして岩を転がすために万事屋以外のウマ娘にお願いしたのだろうか? 

 なんか何が何だかわからないままチンプンカンプンに陥りそうだったが、とりあえず自分に武器があるのか、それが気になった。

 

「あ、あの……それで、アタシは……」

「あなたの武器は、爆発的な瞬発力でしょう。確かに体格に恵まれているとは言えませんが、それでも的確なトレーニングを積めば、強力な武器となるでしょう」

「ほ、ほんとうに……?」

「ええ。ウマ娘の事で、嘘はつきません」

「っ……」

 

 自分にも、他人と渡り合える武器がある……それを思うだけでかなり嬉しかった。

 

「けど、体格に恵まれていないことは事実です。それだけ、普段のトレーニングによって身体にかかる負担も大きくなることもあるかもしれません。あくまでも、あなたに適したトレーニングをする……それを忘れないで下さい。私からは、以上です」

「あ……は、はい。あの、ありがとうございます……」

「お礼なら、坂田先生に」

 

 それだけ話して、理子はその場を後にする。適切なトレーニングを……か、とタイシンは少しだけ思ってしまった。そんな事言われても、自分はトレーナーではないのでわからない。

 理子がこうして自分が担当するウマ娘と戦うことになるかもしれないタイシンを気にかけてくれるのは、銀時が依頼したからだ。トレーニングの内容までは甘えられない。

 

「大体、テメーはなんで毎回毎回、偉そうなんだよ! ちったぁ顧問の先生を敬うとか、そう言うのはねえのか⁉︎」

「ないわよ! 誰が甘党でジャンプバカでいつもいつもバカばっかやるあんたを敬うってのよ⁉︎」

「性格や趣味云々じゃなくて、教員と生徒だろうが!」

「そんなの知るかああああ‼︎ マジで死ぬかと思ったんだからああああ‼︎」

 

 なんて口論しているバカも、トレーニングの内容なんてわからないだろう。

 だとしたら、やはり……と、少し肩を落としているときだ。ずっと静かにしていたバクシンオーが声を張り上げた。

 

「ところで、その……勝敗なのですが」

「!」

 

 そうだった。それを聞いて、スカーレットも顔を上げる。

 

「スカーレットさんの方が一回分、多く悲鳴をあげていました!」

「え、う、嘘⁉︎」

「本当です! ちゃんと悲鳴と雄叫びは別カウントにさせていただきましたから!」

「そんな正確なジャッジを⁉︎」

 

 あんなに悲鳴をあげてたのに? と言わんばかりのスカーレットだが、それを無視して銀時は自分に聞いた。

 

「だってよ。……で、お前はどうすんの?」

「え?」

「やんの? 今から自主練」

「……」

 

 言われて、すぐにタイシンは黙り込む。理子の言葉が頭の中でこだました。

 

『それだけ、普段のトレーニングによって身体にかかる負担も大きくなることもあるかもしれません。あくまでも、あなたに適したトレーニングをする……それを忘れないで下さい』

 

 やはり、闇雲にやっても意味ないどころか、せっかく進行方向が見えたのに、断念することになるのかもしれなくなるのだ。

 ……まだトレーニングの具体的な方法はわかっていない。でも、ここで無理して一生走れなくなったら、ただのバカだ。

 それに、冷静になった今、色々と詫びを入れないといけない相手も多くいる。

 

「……いや、やめる」

「あっそ。なら、あんま遅くまで出歩くんじゃねーぞ。行くぞ、ダスカ」

「ええ……何処に?」

「片付け」

「それはあんたかエアグルーヴ先輩がやりなさいよ!」

「うるせえ。あの岩、三人一緒に転がすの、どれだけ手間だったか分かってんのか。お前は今、走っただけだろうが」

「あ、あんた……!」

 

 そんな話をしながら、銀時はスカーレットと片付けを始める。とりあえず、詫びを入れないといけない人間が目の前に二人、いることに気づき、声を掛けた。

 

「スカーレット、坂田先生」

「はい?」

「あん?」

「ありがとう」

 

 その言葉を聞くと、二人は背中を向けると、片手を上げて返事をしてくれた。さて、あんまり遅くならないうちに、チケットとハヤヒデを探しに行かないといけない。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。