夏合宿が終わり、それに伴い万事屋もようやくの夏休みに入った。部員である三人は各々、次の選抜レースに向けてトレーニングを始めた。
勿論、もうオーバーワークなんてしないし、たまにライバルや仲良い奴のトレーニングに混ぜてもらったりもした。
さて、そんな日々の中、エアグルーヴは今日は万事屋にきていた。活動ではなく、掃除のためだ。たまには誰かがやらないと、使わせてもらっている身として申し訳ない。
……それに、掃除はストレス発散には持って来いだ。最近はバカ白髪に会っていないのでストレスはあまり溜まっていないのだが……こう、なんというか……静か過ぎてもちょっとだけ僅かに少しストレスが溜まるようになってしまった。難儀なものである。
とりあえず、掃除をこなしていると、コンコンとノックの音。
「すまないが、夏休み中だ。次に再開するのは夏休み明けだから、その時まで待て」
「私です、たづなです」
「そうでしたか。失礼いたしました。どうぞ、お入り下さい」
目上の人だったと知り、すぐに詫びを入れて扉を開ける。
「こんにちは、エアグルーヴさん」
「こんにちは。申し訳ありません、掃除中でして少々、埃っぽいかもしれません」
「大丈夫ですよ。……それにしても、流石ですね。わざわざ掃除をして差し上げるなんて」
「いえ、このくらい当たり前です。元を辿れば、訳わからないクラブ活動に教室を提供していただいている身ですから」
「ふふ、でも……私も理事長も、そしてウマ娘の皆さんも……みんな、万事屋を受け入れていますよ?」
「……そう、ですね」
変な男である。やることなす事はメチャクチャ。悩みに対する解決策も、的を得ているのか悪口なのか判断に難しいところ。基本的に女子生徒しかおらず体重を気にしている生徒も多いトレセン学園で、堂々と糖尿寸前になる程、甘いものを食べ漁る性根と、死んだ魚のような目……そんな奴が作った部活が、いつの間にか色んな生徒に頼られるようになってしまっていた。
「……それで、何か御用でしょうか?」
「あ、はい。坂田先生、見ていませんか?」
「見ていませんが……奴が何か?」
「机の上のジャンプの束、何とかして頂こうと思って伺ったのですが……」
「あいつは……分かりました。後で私が代わりに伺わせていただきます」
「よろしいんですか?」
「ええ、まぁバカのケツは身内が拭かなければならないものでしょう」
全く、面倒な男である。生徒に机の上の処理をさせるんじゃない、と強く思う。
やれやれ、と腕を組んでため息をついた時だった。たづなが、ニコニコしながらエアグルーヴを見ていることに気がついた。
「? なんです?」
「いえ、口調が坂田先生に似て来たな、と思いまして」
「えっ……そ、そうでしょうか?」
「ケツ、なんて言葉がエアグルーヴさんから出て来るとは思いませんでした」
「あっ……」
カァッと頬が赤く染まる。しまった、そう言えばそうかもしれない……!
「ち、違う! あんな奴の影響では断じてない!」
「ふふ、そうですね」
「や、やめて下さい!」
「では、机の件、よろしくお願いしますね」
「っ……は、はい……」
まずい、口調を気を付けなければ……と、思いながら、とりあえず教室を出ていくたづなを見送った時だ。入れ替わりで、スカーレットとタイシンが入って来た。
「あれ、エアグルーヴ先輩」
「あんたも来てたんだ」
「まぁな……掃除をしていた。貴様らこそどうした?」
「夏休みの宿題です。部屋だとウオッカがうるさいし」
「私も何処にいてもチケットがうるさいから、逃げられるとこ探してた」
つまり、ここしか無いと言うことだ。確かに、銀時さえいなければ落ち着く場所ではある。そういう意味では、ここは悪く無い。
「そうか……なら、すまないがその前に頼まれて欲しいことがある」
「なんですか?」
「あのバカ探してこいって言うなら嫌なんだけど」
「違う。たづなさんからの依頼だ」
「休みの日なのに依頼受けたんですか? 銀さんの許可も無しに?」
「お人好し」
「喧しい。良いから来い、銀時の机の片付けだ」
「「絶対に嫌だ」」
即答である。汚いのがよく分かっているのだろう。だが、もちろんエアグルーヴも逃すつもりはない。
「手伝ってくれるなら、万事屋に扇風機二台の設置を認めよう」
ピクッ、と二人は足を止める。もうすぐ夏も終わりとは言え、まだまだ残暑がある。その上、夏休みの宿題をするのにもってこいの提案だ。
「言いましたね?」
「嘘でした、は無しだから」
「契約成立だな」
そのまま三人で職員室に向かった。
×××
「うーわ……」
「想像以上だこれ」
机の上には、巨大な少年誌のタワーができていた。それも三つ。よくもまぁこんなに買い漁ったものである。大概にしてほしいレベルだ。
「これ、捨てていいの?」
「構わんだろう。とりあえず、紐で括るぞ」
と、話しながら括り始めた。長めに切った紐の上にジャンプを重ね、はみ出ている部分をキュッと上に引き上げ、積み上げてジャンプを崩さないようにクロス。そのまま紐が弛まないように力を入れてひっくり返し、反対側で結ぶ。
それを繰り返していると、タイシンが声をかけてきた。
「そういえばさ、私ずっと思ってたんだけど」
「なんですか?」
「銀さんって何なの?」
その質問に、スカーレットもエアグルーヴも小首を傾げる。
「何なのって……何がだ?」
「いや、私が一番付き合い短いから、あんまり馴染めてないだけかもしれないんだけど……なんか、変じゃん。あいつ。たまに話してて、変な例え話とかするし……それ、作り話としか思えないのに、妙な説得力あるじゃん」
「それは、私も感じた事があるが?」
「や、だから何なのかなって」
「……」
つまり、そういうことか……と、エアグルーヴは顎に手を当てる。確かに気になる。少なくとも、あの身体能力と度胸を見ると……とても、堅気な人間には思えないのだ。
「気になるなら、探ってみませんか?」
そう提案したのはスカーレットだ。
「探るとは?」
「尾行です。タイシン先輩が」
「なんで私……」
「それはほら、一番尾行に向いてそうですし」
「喧嘩売ってんの?」
しかし、尾行……そういえば以前、ライスシャワーが尾行していたが、あれは速攻でバレていたらしい。というか、銀時の尾行って割とハードな気もする……なんて思っていた時だ。
「む?」
一通り括り終えたエアグルーヴの視界に入ったのは、一冊のジャンプ。机の上に置かれていた。なんか……やたらと存在感を感じるジャンプだった。
「どうしたの?」
「いや、もう一冊ジャンプがあってな……」
「あれ、全部3人で均等に分けましたよね?」
「なんだろこれ」
そのジャンプを三人で覗き込んだ直後、ジャンプが光り輝き始めた。
×××
「…………い、エアグルーヴ先輩!」
「んっ……」
呼び声と同時に身体を揺さぶられ、目を覚ました。身体を起こすと、見たことのない街並みが広がっていた。
道路は舗装道路でさえないし、立っている建物は和風且つ古風な木造建築……なのに、近代を超えている船が空を飛び、奥にはスカイツリーや東京タワーをゆうに超えていると分かる技術が敷き詰められていそうなタワーが聳え立っている。
そして街を歩く人は、着物を着ていたり、丁髷だったり。
映画の撮影? と、勘繰ったが、そもそもトレセン学園の職員室に元からいたはずだ。
周りにいるのは、ナリタタイシンとダイワスカーレット。三人の足元にはジャンプが落ちていた。
「ここは……何処だ?」
「こっちが聞きたいくらい。ここ何?」
「誰も分からないですよねやっぱり……」
というか……目立っている気がする。周りの目がコチラに向けられていた。
「ど、どうしましょう……」
スカーレットが不安げな声を漏らした。夢だと信じたいが、夢ではなさそうだ。
「と、とにかく動くぞ。警察を探し、保護してもらおう」
「警察?」
「似たような機関くらいあるだろう。でなければ、ここまで秩序は保たれていまい」
秩序がない世界……つまり、北斗の拳のような世界。銀時が勝手に教室に置いておいた、ジャンプコミックコレクションをほんの少し覗き見した経験が生きていた。
歩き始めようとした時だ。
「よぉ、お嬢ちゃん達。警察をお探しかい?」
ハードボイルドな声が聞こえた。不審者とは不思議と思えず振り返ると、そこにいたのは……やたらと太い眉毛、黒く光るサングラス、葉巻を咥えている口の周りに蓄えられたダンディーな髭、首に下げられた金色のチェーン……そして、それら洋風な外見をしておきながら、何故か羽織られているけど似合っている和服の男だ。
三人とも思った。本当に警察を呼びたい。
「だ、誰だ貴様は……」
「不審者?」
「変態……」
思わず声を漏らしてしまうと、その男は口に咥えていた葉巻を人差し指と中指で挟んで取ると、ぷはぁーっと息を吐いた。
そして、口は一切、開いていないのに独白を始めた。
『「誰だ貴様は」……その問いは人類全てに投げかけられる、人生をかけた難問だ。人は皆、何かに迷い、悩み、戸惑う開拓者であり、その答えの全ての終着点は「自分が何者か」に起因する。……つまり、思春期を迎えたばかりであろう少女に詰問されたその答えを、未だ俺はまだ持ち合わせていなかった……』
な、なんか……深いことを言われている……のか? いや、それ以前に、この頭に響いてくるような声音はなんなのか。
何にしても……早く答えて欲しい。というか、答えられないということは、やはり不審者?
そんな疑いの視線を向けた直後、目の前の男は再び葉巻を咥えてから外して煙を吐いた後、確信を持った瞳をサングラスの奥に隠して自分達に向け、口を開いた。
「マスター……カミュ、ロックで頼む」
「どこにマスターとカミュがいんだああああああ‼︎」
直後、喧しいほど元気なツッコミが飛び蹴りと一緒に炸裂した。声はひとつだってのに、飛び蹴りは自分達と同い年くらいのメガネの男と、チャイナ服に身を包んだ少女の二つが直撃している。
「警察を呼ぶ声が聞こえたって、珍しくらしい事言ったと思ったら何してんだあんた! 事情聴取くらい普通にしろよ!」
「全くアル。あれじゃあ警察どころかただのセクハラ男ネ」
『でも、あのドン引きした顔で初対面からされた罵倒はちょっと良かった』
「誰が本当にセクハラしろっつったよ! ていうかハードボイルドでセクハラすんな気持ち悪い!」
「お前みたいな奴がいるから、いつまで経っても警察は税金泥棒って言われるアル!」
さらにドカドカと踏みつけられるように蹴りをもらう男。なんか……警察とか聞こえたが、あの格好で警察なのだろうか?
エアグルーヴとスカーレットとタイシンは顔を見合わせる。これは、もう行って良いのだろうか? いや、本当に警察だとしたら、これ以上ない機会だし……声を掛けておきたいものだ。
誰が声をかける? みたいなやり取りを視線でした後、とりあえずエアグルーヴが声を掛けることにした。
「……失礼、少し良いだろうか?」
「あ、ああ、すみません。急に現れて放置してしまって。僕らに何か?」
「そこの男は……警察なのか?」
「違うアル、税金泥棒ネ。仕事中にイメクラ行ったりしてるネ」
「税金泥棒? つまり、税金で給料をもらっているということは、警察か?」
「一応、そうですよ。でも、今は僕らに協力してもらっているところでして……」
『問題ない。この小銭形、如何に駄眼鏡とマウンテンゴリラ娘に人探しの依頼を受けていようと、美女の依頼を断ったことは無い。まぁぶっちゃけて言うと、あの天然パーがどうなろうと知ったこっちゃないから、しれっと女の子と罵倒デートしたいんだけどね(笑)』
「気持ち悪い趣向をハードボイルドでぶっちゃけてんじゃねーよ! ていうか少し黙ってろ!」
さらに蹴りが加えられ、蹴られていた男は完全にダウンした。なんか……それなりに秩序はあると思ったが、警察と分かった上で蹴られてるし、そうでも無いのかもしれない。
「……まぁ良い。私達の用事はすぐに終わる。道を尋ねたい」
「迷子アルか?」
「そんな所です。ここがどこかもよく分かっていなくて……」
少女の問いに、スカーレットが頷く。
「ここは、歌舞伎町ですよ」
「歌舞伎町……? 新宿のか?」
「なんでそんなところに……」
「い、いえ、新宿というのはどのような所か分かりかねますが、江戸にある歌舞伎町です」
「「「は?」」」
江戸、という単語を聞いて、三人とも声を漏らした。歌舞伎町ならあるが、そんな古風な名前の街、東京どころか日本にももうない。つまり、過去にはあったわけだが……それが、嫌な予感を想起させた。
混乱しかける三人だが、かろうじて冷静なうちにエアグルーヴが声を掛けた。
「待っていただきたい……江戸? 一応、確認するが、映画のセットではないのか?」
「映画なら、もう四回やってるアル。紅桜に完結しなかった完結編に、小栗と小栗ネ」
「いや……後半適当過ぎるよ神楽ちゃん……」
この何の話かわからない感じ……身に覚えがある。まさか……と、エアグルーヴもスカーレットもタイシンも冷や汗をかく。
「それで、何処へ行きたいんですか? 分かるところであれば、僕らが案内しますよ」
「……」
メガネの男が唯一、話が通じそうなのだが、言ってわかるものかわからない。
だが、その質問が全てを解決してくれるだろう。
そう思い、エアグルーヴはコホンと咳払いをしてから聞いた。
「……日本ウマ娘トレーニングセンター学園スクール……通称、トレセン学園なのだが」
「「どこそこ?」」
ハッキリした。ここは……トレセン学園などその存在しない世界……そして、令和の時代などでさえない。
三人とも、はっ、ははっ……と薄い笑みを漏らしたあと、大きく口を開いて叫んだ。
「「「い、異世界転生したああああああああ‼︎」」」
三人のウマ娘の雄叫びが、歌舞伎町中に響き渡った。
×××
侍の国……私達の国がそう呼ばれていたのは、今は昔の話。20年前、突如宇宙から舞い降りた天人の台頭と廃刀令により、侍は衰退の一途を辿っ……。
「いやいや、神楽ちゃん。地の文乗っ取ってあらすじに入っちゃダメだって」
「うるさいネ駄眼鏡。こういうのはちゃんと1から説明してあげないとちゃんと伝わらないアル」
「そうかもしれないけど、でも詳細に教え過ぎると色々まずい事になるから」
よく分からない話が目の前で繰り広げられている。あの小銭形という男にしてもらっていた道案内を、わざわざ中断して自分達の話を聞いてくれるらしい。親切にしてくれてありがたいものだ。
今、ゆっくり話せる場所を案内してくれている。悪い人ではなさそう……少し気になるし。特に、眼鏡の方の腰の木刀が気になる。なんか、銀時も同じようなものを持っていたような気がする。
「着きましたよ」
そう言って、少年が案内してくれた場所は、スナックお登勢と書かれた看板……ではなく、三人の目に入ったのは、その上の看板。
万事屋銀ちゃん……つまり、自分達と同じ……?
「え……銀さん……?」
思わずスカーレットが声を漏らした時だ。前を歩いてきた二人が足を止めた。
「今……銀さんって言いました?」
「えっ? あ、はい」
「それ、坂田銀時のことアルか?」
「そうですけど……」
「知ってんの?」
タイシンが聞いた直後、二人は詰め寄ってきた。
「銀さんはどこですか⁉︎」
「どこで会ったアルか⁉︎ そのチャランポラン!」
「え、トレセン学園だけど……」
「だから何処なんですかそれ⁉︎」
「適当なこと言って誤魔化すつもりアルか⁉︎」
「い、いや実は私達もよく分かってなくて……!」
「もうネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲は無いアル! そんなグラブルコラボ企画みたいなこと、もう二度ないネ!」
「ね、ネオ……何?」
なんでわーぎゃーとはしゃいでいる時だった。ガララッとスナックの扉が開かれる。中から出てきたのは、シワだらけのお婆さんだった。
「何を騒いでるんだい、あんた達。野郎は見つかったのかい?」
「あ、ババァ! やっと銀ちゃん湯煙誘拐殺人事件の犯人を見つけたアル! 今からドラマでしか見たことない下に海がある崖の上で説得するネ!」
「いやここで解決すれば良いでしょう! なんでそんな遠出までする必要があるのよ!」
「ついでに湯煙要素が全くねーし!」
スカーレットと新八のツッコミがコラボする。そんな中、パンパンとお婆さんが手を叩く。
「とにかく、あんたら落ち着きな。そんなに興奮してちゃあ、話せるもんも話せないよ。茶で良ければ出してやるから、うちに来な」
「ご厚意はありがたいのですが……私達は皆、未成年ですのでスナックはちょっと……」
「そんなの気にしてる奴ぁ、この街にはいないよ。うちは酒の提供は夜からだし、とにかく落ち着くことを優先したらどうだい」
言われて、エアグルーヴも押し黙る。とりあえず、全員でスナックにお邪魔する事にした。
さて、改めてお茶を出してもらい、五人で情報交換。眼鏡の方が志村新八、チャイナ服の方が神楽、おばあさんがお登勢と言うらしい。
二人とも、今日警察の小銭形とは、数ヶ月間行方不明の銀時を探す為に一緒に行動していたようだ。
おそらく異世界から来たこと、そして銀時と共にトレセン学園で万事屋をやっている事を伝えると、とりあえず万事屋の二人、そしてお登勢はホッとしていた。
「あの天然パーマ……どこで油売ってるのかと思ったら、異世界とは……ホント、どこに居ても変わらない男だねえ」
「全くですね……でも、元気なら良かったです。もしかしたら、家賃払うの面倒になって逃げたんじゃーとか思ってましたからね」
「狡いアル、銀ちゃん。異世界のご飯、今頃一人だけたらふく食べてるネ」
3人とも言いたい放題なのが、まさに銀時の知り合いなんだな、ということをスカーレット、エアグルーヴ、ナリタタイシンの三人に実感を持たせた。
「しかし……江戸か。あまり実感がないな」
まぁ、自分達の過去の江戸ではないので当然と言えば当然だが、思ったより近代的過ぎる。このお店も内装は和そうっぽいが、レジスターが置いてあったりするし、割と普通に近代感がある。
そんな呟きをするエアグルーヴに、新八が声をかけてきた。
「それで、どうやってこっちの世界に来たんですか?」
「それが分からないんです」
「分からない?」
「うん。銀さんの職員室の机の上を掃除してたら、なんか光って気がついたらこっちにきてたから」
「なるほど……まぁ、銀さんがそちらにお邪魔したのが先ですし、多分こちらの世界がきっかけなのでしょう」
エアグルーヴ達も自分達の世界の全てを知っているわけでは無いが、異世界転生だとか、そういう話は聞かないし、ぶっちゃけウマ娘のレースがあの世界で一番、躍起になられていることだろう。
「何か、周りに何かありませんでした? 何でも良いので。それが、もしかしたら銀さんがこちらの世界に帰ってくるきっかけになるかもしれませんし」
「何かって言われても……」
「私達は銀時の机の上のジャンプを片付けていた時に、ここに来ただけだからな……」
「先入観でモノを捉えるんじゃないよ。江戸じゃ、もう何度も世界の危機を繰り返してるんだ。何か小さなものがきっかけってことも十分ある」
「そうアル。周りにエイリアンの死骸とか、カラクリの首とか、遊郭で女を買おうとするガキとかいなかったアルか?」
「いやそんな特殊なものありませんでしたけど……」
ホント、何がきっかけで危険を呼ぶか、確かに分かったものではない……と、三人とも冷静に顎に手を置く。今思えば、やはり銀時の例え話は、全て本当にあったことなのだろう。
確か、こっちの世界に来る前にジャンプを掃除してた時だったが……そういえば、全部3人に振り分けたはずなのに、一冊だけ残ってたジャンプがあったような……。
「いやー、ま、まっさかー」
「ナイナイ、流石にそれはナイ」
「ああ、あまりにもそれはちょっと意味が分からんだろう」
はっはっはー、と三人で笑顔を浮かべていると、すぐに神楽が口を開いた。
「そうアル、一番面白かったのはグラブルコラボの時ネ!」
「ああ、あの時は、ジャンプに吸い込まれて空の世界に行ったんだよね」
新八がそう返して、三人の顔は一気に青くなる。そういえば……と、光り始めたのはジャンプだったことを思い出す。
何より……転移した時、自分達の一番近くにあったのはジャンプだ。
「「「ジャンプだ‼︎」」」
「えっ、何が?」
聞かれても反応する余裕はない。
「そ、そうです! 理屈はさっぱりだけど、ジャンプですよ!」
「それしかない! 身の回りにあったのはそれだけだ! ……で、今どこだ?」
「いや……まぁ、誰も拾ってないと思うけど……」
「戻りましょう!」
「お茶、ご馳走様でした!」
「急がないと……!」
慌てて出ていった。異世界でもウマ娘、その肉体が起こす速度は銀魂の江戸でもトップクラスである。
すぐにさっきの場所に駆け走って行った。だが……そこに、ジャンプは既にない。
「……嘘……」
「どうしよう……もう帰れないんじゃ……」
「お、落ち着け二人共。まだ無理と決まったわけでは……」
「でもどうすんの⁉︎ 私、この世界で一生暮らすの嫌なんだけど!」
「ウオッカ〜! タキオンさん〜!」
た、確かにこの状況……もう終わりとしか……と、困っている時だった。
「大丈夫ですよ、三人とも」
その声が後ろから聞こえる。そこにいるのは、志村新八と神楽、そして巨大な白い犬……定春の姿があった。
「僕達が必ず、そのジャンプを探してみせます」
「後輩達は、先輩の歌舞伎町の女王に頼ると良いネ」
「「「……」」」
流石、銀時の仲間なだけある、と三人とも感心する。こういう時、妙な安心感があるのは。
これからどうするのか、大ピンチにも関わらず少しワクワクしてしまっていた。
本当は銀魂の世界に行く話は一話で済ませるつもりでしたが、長くなってしまったので二話にします。