さて、万事屋の志村新八、神楽、そして定春とジャンプを探すことになった。この広い街から一冊のジャンプを探し出す……無謀にも思える事かもしれないが、それでも可能性はゼロではない。そもそも異世界へ転移するのがあり得ないレベルの話なので、そのゼロではない可能性にもすがるしかない。
そんなわけで、三人は神楽・定春チームとメガネチームの二手に分かれることにした。
依頼した側でありながらリーダーシップを発揮しているエアグルーヴがまとめるように言った。
「ジャンプの表紙は鬼滅の刃。まずはそれを手がかりに探してもらう」
「? 呪術廻戦じゃなかったアルか?」
「違う、鬼滅の刃だ」
「いや、さっきチェンソーマンって言ってた気もするネ」
「いや、鬼滅の刃だった」
「むしろ、僕のヒーローアカデミアだったヨ」
「最近のジャンプ論議はいいよ神楽ちゃん! しかもほとんど連載終わってるし!」
新八のツッコミで一度、二人とも黙る。なんであれ、大事なのは鬼滅のジャンプである。
そんな中、新八が改まって声をかけた。
「あ、それと気を付けてください。みなさんはこの世界では『ウマ娘』というゲームの世界のキャラクターです。まぁ、天人とかいるので大丈夫だとは思いますが、バレたら大騒ぎになります。くれぐれも、気付かれないようにしてください」
との事だ。確かにその通りかもしれない。
さて、それだけ話して会議はお開きになった。万事屋から出ると、神楽は定春の背中に跨り、エアグルーヴに手を伸ばした。
「乗るネ、エアー。定春の背中、特別に乗せてあげるネ」
「わ、私のことか? いや、結構だ。自分で歩ける」
「? なんでアルか? フカフカで気持ち良いし早いヨ」
「そ、それはそうかもしれないが……」
……動物は好きだが、ここまで巨大な犬だとちょっと怖い。これがせめて猫ならまだしも……なんて思っていると、後ろからスカーレットとタイシンが余計な口を挟んだ。
「ビビってるんですかエアー先輩」
「怖がってんでしょ、エアー副会長」
「び、ビビってなどいない! ……じ、上等だ。乗ってやる……!」
手を差し出してくれている神楽の手を握った直後だ。その小さな身体から出たとは思えないパワーで、グイッと一気に背中に引き上げてくれた。
「っ……」
た、確かにふかふか……毛並みがふさふさで、乗り心地は思ったより良い……というか、よくよく考えたらこんな経験、もう二度とできない。
仄かに感動しているからだろうか?
「乗ったアルか?」
「あ、ああ……」
つい、生返事をしてしまった。
「じゃあ定春、出発進行ネー!」
「わん!」
「え? ちょおっ……!」
直後、ドタドタと土煙を舞い上げて走り始めた。目の前に人がいようが車が止まっていようが信号があろうがお構いなし。
「待て神楽アアアアアア‼︎ 人撥ねてる! 被害件数が一歩ごとに増えてってる!」
「ブハハハハハ! 女王様のお通りネエエエエエエ!」
「待てええええええ! チャイナ娘ェェエエエエ‼︎」
……という絶叫を聞きながら、新八の横でタイシンとスカーレットはボンヤリと眺めながら呟いた。
「アタシ、こっちで良かったわホント」
「私もです……」
「じゃあ、僕らも行きましょうか」
新八の掛け声で、反対方向に歩き始めた。
「それで、ジャンプ……ですよね? 鬼滅の刃の」
「は、はい。よろしくお願いします」
「安心して下さい。この街の事は結構知っていますから」
「何か策があるわけ?」
タイシンの確認に新八は頷く。
「はい。この街のゴミ捨て場に一番、詳しい人がいるので、まずはそこから当たってみようかと」
「へぇ……」
確かに、落ちているジャンプを拾うような人だ。ゴミ捨て場に丁寧に捨てに行ったのかもしれない。
それにしても、ゴミ捨て場に詳しい人……ゴミ収集車の運転手とかだろうか? 何にしても、流石は銀時の仲間だ。顔の広さを見ても、頼り甲斐がある。
これは意外と何とかなるかも……そんな事を思いながら、スカーレットとタイシンは頷き合った。
×××
「ゴミ捨て場の場所? ジャンプ探すために?」
「はい。長谷川さんのお力をお借り出来たらなって」
そう言う新八の前にいる男は、顎髭を蓄えてサングラスを掛けた、確かにゴミ収集車を運転していそうなオーラがあるオッさんだった。……ダンボールを布団にして眠っている一点を除けば。
確かにゴミ捨て場に詳しそうなもう一つの職業だったアアアアアアアアア‼︎ と、二人揃って唖然とするしかなかった。
「良いけど……何でジャンプ? 欲しけりゃ買えば良いじゃん」
「いや、そういうんじゃないんです。話すと長いんですけど……鬼滅の刃が表紙の、ちょっと古いジャンプなんです」
「確かにもう鬼滅は連載終わったけど……もしかして、銀さんの失踪と関係あるとか?」
「まぁ……そんなとこです」
普通に話してる! このメガネのお兄さんは普通の人だと思ってたのに! その後に続いて、長谷川と呼ばれた男は自分達を見た。
「で、この可愛いお嬢ちゃん達は誰なの?」
「この人達は、銀さんの手がかりです」
「へぇ〜……そうなんだ」
「は、初めまして。ダイワスカーレットです」
「……ナリタタイシンです」
「ああ、ご丁寧にありがとう。俺は、長谷川泰三。こう見えて、元幕府の入国管理局局長だったんだぜ」
「あ……そ、そうだったんですか」
異世界の人なのでそれがどんな職業なのかは分からないが、何となくすごい人というのはわかる。……まぁ、あんま触れないようにするが。
「それで、ゴミ捨て場の場所だが……ちと四人で回り切るにゃ、数が多いな。それに、俺はともかく他のホームレス達は獲物がなくなると嫌な顔するし、中には気性が荒い奴もいる。今日一日、歩き回んないといけないぞ?」
「そうですかー」
その上、ゴミ捨て場にも必ずあると決まったわけではない。あまり良くない博打だ。
「仕方ない……まぁ、頭数は僕が増やしますから、そこは気にしないで下さい」
「分かった」
頭数? と、二人して眉間に皺を寄せる。
「ちょっと……どうする気?」
「大丈夫です。僕も一応、万事屋の一員なので」
そう言うと、新八は携帯電話を取り出し、耳にあてがう。そして……今までの優しい親切な声音とは真逆の様子で告げた。
「軍曹、俺だ。隊長だ」
「「ブフォ!」」
「親衛隊全員連れて、今すぐ公園に来い。お通ちゃんに関する事ではないが、重要な任務がある」
な、何その声音と軍曹って……⁉︎ と、二人が思わず眉間に皺を寄せる。
そんな中、新八に長谷川が声を掛けた。
「おいおい、新八くん。まさか親衛隊をここに呼ぶ気か?」
「はい。彼女達は異世界から来てますし、銀さんは異世界にいます。取り戻す為に、手段は選んでいられませんから」
「……そうかい」
気持ちは嬉しいが、ちょっと気になり過ぎる。親衛隊って何だ? というか、お通ちゃんって誰? と。
しばらく待っていると、数分後に公園にドタドタと集まってきたのは……青いはっぴにグレーの袴、そしてお腹にサラシを巻いた集団だった。
「「えっ」」
「隊長! 寺門通親衛隊、集まりました!」
「新ちゃん、なんかあったのか⁉︎」
「ああ、重要な案件だ。タカちん」
またなんか変わった声音を新八が漏らした直後だった。なんか天然パーマっぽい眼鏡の音が「ん?」と声音を漏らしてスカーレットとタイシンを見る。
「おい……あれ、ダイワスカーレットとナリタタイシンのコスプレじゃね?」
「あ?」
「うおっ、スッゲクオリティ……ちょっ、キミタチ! 写真撮らせてもらって良いかな⁉︎」
「え、ちょっ……!」
「待って……!」
その男が、スカーレットとタイシンの方は、カメラを構えて歩み寄った直後だった。その男の鼻の穴に、新八が人差し指と中指を突き刺し、持ち上げた。
「うごごごご! た、隊長〜!」
「軍曹ォォォォ‼︎ 寺門通親衛隊隊規十四条を言ってみろオオオオ‼︎」
今の人が軍曹⁉︎ ていうか、寺門通親衛隊隊規って何⁉︎ と、二人が狼狽えつつ、新八の腕力に恐れ慄く。指二本で、男性の身体を持ち上げている。
「あがががっ……! じッ……『十四条! 隊員はお通ちゃん以外のアイドルを決して崇拝することなかれ』‼︎」
「その通~りだ軍曹ォ‼︎ 貴様は幹部でありながらこれを破った。よって……鼻フックデストロイヤーファイナルドリームの刑に処す‼︎」
ほあちゃああああ‼︎ と、裏声と同時に軍曹を投げ飛ばす新八。その後に続き、全員に告げた。
「良いか、これは連帯責任だ! これから今日一日で、歌舞伎町中のゴミ捨て場を漁り、鬼滅の刃が表紙のジャンプを全部、万事屋まで持ってこい‼︎」
「「「「了解!」」」」
「では……かかれェッ‼︎」
その新八の合図で、全員が走り去った。一気に静かになる公園。ひゅーっ、と長谷川が口笛を漏らす。
「相変わらずだねぇ、新八くん」
さすが、銀時の仲間……やはり、誰一人としてまともな人間はいないようだ……。というか、この世界の人間、みんな強過ぎない? と、二人とも冷や汗を流す。
そんな中、何食わぬ顔で新八は振り返ると、二人に声をかけた。
「じゃあ、僕らも探しに行きましょうか」
「「はい」」
素直に返事をした。
×××
「神楽ァァアアアア‼︎ 止まってくれエエエエ‼︎」
「うーん……ジャンプなんて全然、見当たらないアル。エアー、見えないアルか?」
「見えるかアアアア‼︎ 走行中の電車からアパートの窓の強盗を見つけられるのはクロスゲームのヒーローとヒロインだけだアアアアアア‼︎」
いまだに爆走を続ける二人と一匹は、そのまま走り回る。一応、神楽の頭の中ではエアグルーヴの匂いを染み付いたものを定春に探させているのだが、それがエアグルーヴにはカケラも伝わっていなかった。
このままでは死ぬ。ていうか、むしろ何人か殺している気さえするが、定春は止まらない……そんな時だった。
ブオオオオオンッと真横から何かが走っているような音が聞こえる。顔を向けると、パトカーが併走していた。江戸にパトカー? なんて一瞬思ったが、そんな場合じゃない。
「神楽、マズい! パトカーだ! 明らかにスピード違反……いやこれ車両ではないが……どうなんだ⁉︎ セーフか⁉︎」
声を掛けた直後だ。ウィーンっとパトカーの窓が降りる。そこから顔を出し、上半身を乗り出した男は、茶髪の若い男だった。爽やかな外見をしたその男は、トレセン学園で「イケメン」と称されるフジキセキよりもイケメンな男だ。変わった制服な辺りが、自分達がいた世界の警察と違うことを認識させる……。
なんて感想を浮かべている場合ではない。その男は、無言でバズーカを取り出して構えた。
「えっ」
放たれた。砲弾が。あ、死んだ、お母様……と、走馬灯が駆け巡った直後だ。
「退がるネ、エアー!」
「へ……?」
横から飛び込んできたのは、神楽が携帯している傘。それが振り下ろされ、砲弾に触れると、まるで大○翔平のようにパトカーへ打ち返した。ドォォォォォォンッッ、と爆発が起こると同時に、パトカーは爆発炎上。パチパチと炎を上げるものを置いて、無視して走り去る定春の上で、エアグルーヴは無言のまま唖然とする。
えーっと……今のは、何が起こったのだろうか? パトカーから放たれた砲弾を、打ち返して爆発炎上させた……? いや、何にしてもとりあえず……。
「神楽ァァアアアア‼︎ 公務執行妨害イイイイイイ‼︎」
「ギャハハハハ! アバヨ!」
なんかテンション上がってるし! ヤバい、ヤバい方についてきてしまった! 手伝ってもらってる立場で失礼ながらに、新八より頭が悪そうだから、副会長の自分が一人でこっちにきたが、失敗も失敗だ。
そんな時だった。自分の真後ろから声が聞こえる。
「ふぅ〜……危なかったぜィ。死ぬとこだった。山崎の野郎は死んだかな」
恐る恐る振り返ると、さっきの男が尻尾にしがみついていた。
「ギャアアアアアア‼︎ 生きてるううううううう‼︎⁉︎」
「お? 見ねェ顔だな。誰でいあんた?」
「貴様こそ誰だァァアアアア‼︎」
「げっ、しぶとい奴アル! エアー、席替わるネ」
「え、か、代わる?」
こちらがアクションを起こす前に、神楽は走行中の犬の上で平然と移動し、エアグルーヴの背後に回るので、エアグルーヴも前の方へ移動する。
「定春の操縦よろし。指示出さないと、定春は目の前にビルが立ってても突っ込むアル」
「はっ⁉︎ いやいや! そんな急に言われても……!」
「オラ、このクソドS! 定春に汚い手で触るなアル!」
自分の言い分などまるで無視。神楽は定春の尻尾に向かって傘を構え、銃を乱射する。ちゃんと誤射しないように。
「オイィィィィ‼︎ 人の話を聞けェェエエエエ‼︎」
「ちょっ、危ねっ……クソドSはテメェでい」
「チッ、しぶとい奴……!」
もう嫌だアアアアアアア‼︎ と、エアグルーヴがキャラも忘れて絶叫しそうになった時だ。十字路を飛び出した直後、横から走ってきたトラックに定春ごと撥ねられ、二人で転がった。
×××
新八達は、長谷川も一緒になってゴミ捨て場を見て回っていた。
「へぇ〜、じゃあ銀さん、今はそのトレセン学園ってとこにいるんだ」
「はい……え、信じて下さるんですか?」
「まぁ……あいつの周りじゃなんでも起こるからな。一番、ひどいのじゃ主人公を乗っ取られた事もあったし」
なんだそれ……と、思わずスカーレットもタイシンも顔を見合わせる。
「ははっ、道理で最近見ないと思った。万事屋の話も全然、聞かなくなったしな」
「笑い事じゃないですよ、長谷川さん。ジャンプが無いと、銀さん帰って来れないんですから」
「分かってるって」
そんな話をしている時だった。「あ、そうだ」と新八が声を漏らす。
「ちょうど近くに来ちゃいましたし、うちに寄って行きませんか?」
「? なんで?」
タイシンが聞くと、すぐに答える。
「いえ、姉上がもしかしたら何か知ってるかもしれないので。前に銀さんと土方さんの魂が入れ替わった時も、姉上が銀さんの魂の片割れを持ってたことがあったんですよ」
「何魂の片割れって……」
「タイシン先輩、その辺は受け入れましょう。ここはもう、そういうものと思うしかないです」
「……そうだね。ごめん」
事件の一つ一つに一々、疑問を抱いていたらキリがない。
「ま、アテがあるなら少し寄ってみるわ」
「分かりました」
話しながら、一同は新八の家に寄った。門にかけられた札には「恒道館」と書かれていた。
「こうどうかん?」
「僕のうちの剣術道場です。……といっても、廃刀令のお陰で門下生はいなくなってしまったのですが……」
今日はその活気がないように感じるが、二人とも触れないでおいた。中に入って、そのまま玄関を開ける。
「姉上ー! 新八、ただいま帰りましたー!」
「そういえば、お姉さんいたんだ」
「はい」
その呼び声の後、奥から女の人が顔を出した。その人は、女性のスカーレット、タイシンから見ても綺麗な人だ。江戸時代の人間だから当たり前かもしれないが、着物がとても似合っている。
「おかえりなさい、新ちゃん……と、長谷川さんも、いらっしゃい」
「お妙ちゃん、お邪魔するよ」
「と……その子達は?」
「あ……は、初めまして。ダイワスカーレットです」
「な、ナリタタイシンです」
少し緊張気味な挨拶になってしまった。
「すみません、姉上。銀さんがいなくなった件でこの人達が何か知ってるかもしれなくて……」
「あら、そうなの。新ちゃんの姉の、志村妙です。色々、話したいこともあるでしょうし……上がって下さい。今、お茶用意するわね」
「あ、いやすぐに出掛けるから……」
「ふふ、遠慮しないで良いのよ。何を探すにしても、まずは落ち着かないと」
そう言いながら、奥へ引っ込んでしまった。
「あちゃー……少し話を聞ければよかったんだけど……すみません、二人とも」
「い、いえ……」
「せっかくだし……少し上がろっか?」
「じゃあ……どうぞ」
新八がスリッパを用意し、四人で家の中に上がった。
新八が客間に案内してくれるが……こういう、日本家屋は二人がいた世界では珍しい。それも、ちょっとパラレルワールドのようだが、本当に江戸時代にある日本家屋だ。
こうして歩いてみると、少し貴重な経験をさせてもらっているのかも……と、二人とも置かれた状況を忘れて少しテンションが上がってしまった。
「ここで寛いで下さい」
「あ、ありがとうございます」
「わ……た、畳の部屋……!」
「お二人がいた世界は、畳ではなかったんですか?」
「全くないわけじゃないけど……基本板の間なので」
「へぇ〜、同じ日本なのに文化の違いって、なんか変な感じだな」
「そうですね」
長谷川さんという方も、ホームレスなのが不思議なくらい話しやすい人だ。最初こそ面食らったものの、やはり文化が変わっているだけで、人間は自分達がいた世界と同じなのかも、と思いながら、机の周りに腰を下ろした。
すると、奥の襖が開き、そこから妙が入って来る。人数分のお茶を用意してくれた。
「お待たせしました。お茶が入りましたよ」
「あ、ありがとうございます」
「いただきます」
「ふふ、どうぞ」
話しながら、妙も同じように腰を下ろす。
「それで、銀さんの事を知っているんだったかしら?」
「ああ、姉上。実は銀さん、今異世界にいるそうなんです。で、その異世界から来たのがこのお二方でして……その帰り方を探している所なんです」
「あら、そうだったの」
「それで……姉上、鬼滅の刃が表紙のジャンプ、知りませんか?」
「鬼滅の刃……ああ、銀魂の映画で空○が書き下ろした劇場特典の漫画ね?」
「いや、姉上。原作者への愚痴はいいですから」
ちょっとよく分からない話だったが、一先ずスルー。妙は顎に手を当てて、少し考え込んだ。
「でも、ごめんなさい。分からないわ。長谷川さんは?」
「俺も分からないんだよ。それで今……とりあえずゴミ捨て場を見て回ってたとこなんだよ」
「あら……じゃあ、もしかしてうちに寄ったのも、一瞬話を聞きにきただけだったのかしら? ごめんなさいね、余計な時間をとらせてしまって」
「い、いえ……そんな」
「お茶、美味しいので、立ち寄って良かったです」
それにしても……本当にすぐに話を信じてくれる。異世界転移なんて話を。本当に何でも起こる世界なんだな、という事と、街の人達の信頼度が少し羨ましかった。
目の前の妙は相変わらずニコニコしながら答えてくれた。
「ふふ、ありがとうございます。そのジャンプの件、私も仕事の子に声をかけてみるわね?」
「は、はい……!」
「お願いします」
「俺も、真選組を動かしましょう。なぁに、あの天然パーマがどうなろうと知ったこっちゃありませんが、こんな年端も行かない子達が迷子とは放っておけませんから」
ん? と、タイシンとスカーレットが声を漏らす。知らない声が自然と混ざってきた。顔を向けると、畳の下からゴリラっぽい人が顔を出していた。
その直後だ。さっきまでニコニコと優しい笑みを浮かべていた妙の顔が、金剛力士像の如く般若の憤怒に成り代わると同時に、右手の張り手が繰り出された。
「テメェは毎回毎回、何自然と付き纏ってんだアアアアアアア‼︎」
ダパンッ、という一撃は、その男の顔面を見事に捉えると同時に部屋から追い出し、庭を数回バウンドさせ、道場の壁にめり込んだ。スカーレットもタイシンも手に持っていた湯呑みを落とし、机の上に溢してしまうが、反応している余裕はない。
え……ちょっ、今の誰? 豹変し過ぎ……ていうか、あの男の人も何……? と、呆然とするしかない。
ピクピクと身悶えする男を冷たい眼光で睨みながら手を叩く妙は、冷たく言い放つ。
「……壁の修理代、真選組で弁償してもらいますから」
思わずスカーレットもタイシンも震えそうになってしまう。何そのパワー……え、普通の人間だよね? と思いたいが、言えば何をされるか分からない。
一方で、妙はニコニコ微笑んだままこちらに振り向いた。
「あらあら……お茶、溢れてるわよ? 今、用意するわね」
「あ、いえ、あの……お構いなく……」
「そ、そろそろ行こっか……あまり時間もないし……」
「あら、そう? ごめんなさいね、大したおもてなしも出来なくて」
「い、いえいえ。そんな事ないです」
「お茶美味しかったです!」
二人は逃げるように新八と長谷川を連れて家を出て行った。この判断は正しかったと言える。もし、これ以上いれば、お妙特製のダークマターが机に並んでいただろうから。
そんなものを食べれば、前の世界の記憶も何もかも消失……そんな展開はアホ過ぎる。
×××
真選組……江戸の平和を守る武装警察。反乱分子を即座に処分する対テロ用特殊部隊……だが、カブトムシ取りをしたり、将軍をスキーに連れて行ったりする税金泥棒という見方も出来る。
そんな連中の取調室に……エアグルーヴと神楽は手錠に繋がれて待機させられていた。罪状は器物損壊である。
「……人生で手錠をかけられたのは初めてなんだが……」
「ごめんネ、エアー。まさか捕まるとは思わなかったヨ」
「いや……気にすることはない……済んだことだ」
どうせ異世界での出来事……逆に言えば、異世界でしか経験出来ないことだ。それも、パラレルワールドでちょっと違うとはいえ、あの真選組の屯所……こんな経験、中々……いや、やっぱポジティブになりきれない。
そんな中、部屋の扉が開かれた。中に入ってきたのは、くわえタバコの強面の男と、さっきの茶髪の男。
「総悟、手錠は外してやれ」
「いいんすか?」
「抵抗するように見えるか?」
「ヘイヘーイ」
話しながら、エアグルーヴは手錠を外してもらう……直後、部屋にまた新しい男が入ってくる。しかし、入ってきたのは真選組の制服の男ではなく、板前のような格好の男だ。
「お待ちっ」
「俺の奢りだ」
「トシぃ〜!」
「誰がトシだ、チャイナ娘」
ドンッ、ドンッと机の上に置かれたのは、カツ丼。もらえるのは有り難いが……少なくともエアグルーヴがいた世界では、こういう真似は禁止されていた気がする。
「……良いのか?」
「奢りだっつってんだろ」
「そういう意味ではない、物品誘導に繋がるのでは?」
「可愛くねー女だな。気にしなくて良い」
何処かの誰かに言われたような言葉だ。もしかして、この男が銀時が言っていたライバルの男だろうか?
本当ならレースに影響しかねないので遠慮したいところだったが……まぁ、こういう時くらいはありがたくいただこうと思った時だ。そのカツ丼の上に、マヨネーズによるとぐろが巻かれた。ピタッ、とエアグルーヴの手が止まる。
「えっ……」
「食え、美味ェーぞ」
「いや、あの……これは、何の真似だ?」
「カツ丼、土方スペシャルだ」
こいつ、やっばり銀時と同じ人種だ! と、頭に血が上り、ガタッと席を立った。
「こんな真っ黄色な生暖かいソフトクリームが食えるか‼︎」
「テメェ、マヨネーズ舐めてんのか⁉︎ マヨネーズは何にでも合うように作られてんだよ‼︎」
「限度というものがあるだろう‼︎ ご飯にまで小豆をかける天然パーマか貴様は⁉︎」
そのセリフを聞いた直後だ。その土方の隣の男が声を掛けた。
「おや、こいつは本当に旦那のこと知ってるみたいですぜ」
「っ……チッ、まぁいい」
黒い髪の男が腰を下ろし、改めて続ける。
「……真選組副長、土方十四郎だ」
「真選組一番隊隊長、沖田総悟でさァ」
「……エアグルーヴだ」
「お前、マジで異世界から来たのか?」
「……ああ」
「……チッ」
舌打ちをした土方は、改めて質問してくる。
「どうやって来た?」
「……ジャンプで、だ。鬼滅の刃が表紙の」
「またジャンプか……分かった。ジャンプを拾った場所、状況を詳しく話せ」
「待て、その前に……何か知っているのか? この事態を。何が起こっている?」
「何も知らねェ。だが……何か起こってからじゃ遅ェんだ」
「?」
いまいちピンとこない。帰らないとまずいのはわかるが、警察が騒ぐほどなのだろうか?
「……前に、俺と総悟と、このチャイナは空の世界って奴の世界に入ったことがある。その時にわずかだが、その世界のことを知った。水や炎を自在に操る能力やら、一人とガキがドラゴンやら何やらを召喚してやがった。そんなもんがこっちの世界に来たら、どんな混乱が起こるか分かったモンじゃねェ」
「だが……私達の世界にそんなものはいない」
「ああ、だが……俺達の世界の奴がそっちに行ったらマズいだろ」
確かに……吸い込まれたのが銀時だったからよかったが、あの男も尋常じゃない戦闘力を発揮していた。……もし、銀時ではなく隣の沖田だったら……いや、というか、神楽だったら……。
「確かに、マズイな……」
「あの天然パーマがどうなろうが知ったこっちゃねェが、危険な芽は早めに摘んでおきたい。だから、お前も手を貸せ」
「っ……わ、分かった……」
とりあえず、そんな言い方をされれば自分達も協力するしかない。それにしても……確かに、思ったより危険な状態なのかもしれない。
「なら、知ってることを話せ……と言うより、まずは現地まで案内しろ」
「あ、ああ、分かった」
話しながら、エアグルーヴも立ち上がる。そんな時だった。
「ちょっとちょっと、私は?」
神楽が声を掛ける。だが、土方は真顔のまま答えた。
「お前は器物損壊の取り調べだ。総悟、頼む」
「はぁぁぁぁぁ⁉︎ ふざけんなヨ! なんで私だけアルか⁉︎」
「大体、お前の所為だからに決まってんだろ」
「そういうわけだチャイナ。覚悟しとけ」
「何でよりによってこんなドSバカアルかァァアアアア⁉︎ え、エアー! 助けてヨ!」
言われて、エアグルーヴは少し悩む。思い浮かんだのは、学校の壁に穴を開けるカワカミプリンセスやら、何でもかんでもやりたい放題やるゴールドシップに、実験のためにいろんなところを爆発させるアグネスタキオン……残念ながら、そうもいかない。
「ちゃんと反省しろ」
「エア────⁉︎」
そう言いながら取調室を出る直前、沖田に耳打ちした。
「とはいえ……なんだ。あまり厳しくしないでやってほしい。元はと言えば、私達が蒔いた種だ」
「へいへい、善処させて貰うぜい」
「嘘こけヨー!」
そのままエアグルーヴは一足先に、土方と外に出た。
すみません、3話になってしまいました。