「ふぃ〜……あーあ、やっちまったなーおい……やっちまったよーおい……」
そんな言葉を呟きながら歩くのは、坂田銀時。自分の生徒と自分の元の世界の仲間達が大変な目にあっている中、この天然パーマが出て来たのはパチンコ屋だった。
「あそこでやめときゃなー、今頃パフェ食べ放題だったってのに……やっぱ人間、欲張っちゃいけねってことだなー……」
そんな事を呟きながら歩いていると、駅前でドンッと身体がぶつかり、小さな少女を押し倒してしまう。
「おっと、すまねぇ。大丈夫か?」
「いえ、あたしこそ周りも見ないで……すみませ」
と、そこで少女は顔を上げ、銀時の顔を見るなり静止する。
「あ、あなたは……銀時先生⁉︎」
「あん? ……お前、うちの生徒か」
「はい! アグネスデジタルといいます!」
「アグネス○ャン?」
「先生、言葉に気をつけてください。あたしなんかとカレンチャンさんが結婚してるみたいな言い方はやめてください」
「してねーよ。カレンチャンさんってなんだよ。なんで敬称二つ付いてんだよ」
「? ついてませんよ? カレンチャンが名前です」
そんな名前のウマ娘もいるのか、と思いつつも、とりあえずスルーして銀時は帰ることにした。なんかこいつ面倒臭そう。
「じゃ、気ィつけて帰れよー」
「あ、待ってください」
「?」
「銀時先生……確か、万事屋の顧問の方、でしたよね?」
「一応な」
最近は全く慕われていないどころか、軽蔑の視線さえ感じるが。特にスカーレットからは。
「なら、少しご相談したいことがあるのですが……」
「今日、万事屋のメンバーは誰もいねーよ。今度にしろ」
「あ、いえ! 他のメンバーがいると出来ない相談なのです!」
「なんだよ。男とコソコソ内緒話って、エロ本の買い方でも教わりたいクチか?」
「近いです!」
「近いのかよ」
何だこいつ、と思いながらも……まぁ、でもここ最近は男と絡む機会がなくてそう言った話をすることがないので、たまには良いかと思ってしまった。ちょうどパチンコで負けてストレスが溜まっていたところだ。
「わーったわーった。……つっても、ここじゃマズイな。万事屋の部室来いや」
「はい!」
との事で、二人で部活に向かった。
×××
さて、到着してからまず話を聞いた結果……何故か、漫画を読まされていた。ウマ娘同士の恋愛モノの。
「……なんだこれ」
「あたしが描きました! ……想像だけで描いたものですが、やはりスカーレットさんとエアグルーヴさんを一番近くで見ている方に意見をいただきたくて……!」
そう言うとおり、本の中身はエアグルーヴ×スカーレットの漫画。昔から万事屋で勤めている二人は、お互いのツンデレ属性と他人のフリ見て我がフリ直さない棚上げ属性で「ちょっと銀さんにだけキツく当たり過ぎじゃない?」とお互いを牽制し合う。
二人の間には、銀時だけ特別扱いしているように見えたのだ。しかし、本当はお互いのジェラシーはお互いに向いている。「銀時ばっかり特別扱いして。私にも特別を頂戴よ」と。
そして、最後にはお互いの嫉妬の方向をお互いに理解し、結ばれていく……というストーリーだった。つまり、銀時も出て来る。
「何でこの二人?」
「万事屋にいるのをよく見かけるので」
「タイシンも混ぜてやれよ」
「いえ、三角関係はデジたん的にちょっとアレなので……やはり、悲しい思いをするウマ娘ちゃんは描きたくありませんから」
「てか、何お前。ウマ娘が好きなの?」
「はい!」
自分もウマ娘のくせに……と、思いつつも口にしないで読む。正直、エロ本でも何でもない。男がしそうな妄想話、という点では確かに猥談に近いものはあるが、銀時自体、百合萌とかない。
なので、正直興味ないわけではあるが……まぁ、依頼は依頼だ。
「で、俺に何をしろっての?」
「率直なご感想を! 特に、キャラブレやキャラ崩壊などがないか、見ていただきたいのです」
「あそう」
まぁ、絵は普通に上手い。ジャンプ歴10年を超えている身としても、絵柄は悪くないと思う。ラブコメよりバトルものが好きとはいえ、ウマ娘が好きという気持ちは伝わってくる。
その上で言わせてもらうなら……。
「銀さんの脚もう少し長くない? ちょっと短過ぎない?」
「まずそこなんですか⁉︎」
「いやいや、この物語の中心には銀さんがいるでしょ。主役じゃないとはいえ、そういう中心にいる脇役こそ丁寧に描くべきなんだよ」
「そ、そうですか……?」
「お前……そうだな。ラブコメで言うなら、ニセコイは読んだことあるか?」
「勿論です!」
ヤクザとマフィアの関係を良好にするため、その息子と娘で偽物のカップルを演じることになる漫画だ。
「この漫画の脇役で中心人物と言えば?」
「集さん!」
「そう、その通り。だからこそ、集が上手い事バランサーを担ってる話は全部面白いだろ。バトル漫画でも、シカマル然り七海や東堂然りピッコロ然り、そう言ったメインにある脇役キャラ程、実は重要な位置に立たされる。そう言ったキャラ程、作画にも気を使わないと、面白さと言うのは半減しちまうんだよ」
「な、なるほど……それは確かに……!」
「と、いうわけで、銀さんの足は3メートルくらいにしろ」
「七武海ですかあなたは! どんだけ長身の想定⁉︎ コマ突き抜けちゃうでしょうが!」
「銀さん割とそれくらいだよ」
「身長143センチのデジたんでさえあなたの首下くらいまでありますが⁉︎」
こいつ神楽より小さいのか、と思いながらも、やれやれとため息をつく。
「なんだよ、じゃあ2メートルでも良いぞ」
「いやだからご自身の身長を思い返してみてはいかがですか⁉︎」
「分かった、1.98メートル」
「何値切りみたいな交渉してるんですか!」
そこをツッコんでから、アグネスデジタルは頭を掻きむしって机の上の漫画をバンバンと叩く。
「ていうか、あなたの事よりエアグルーヴさんとダイワスカーレットさんのことです! 他に何かご意見はないのですか⁉︎」
「ああ? あいつらにそんな差ァねーよ。適当にツッコミ入れさせて巨乳にしてりゃとりあえずあいつらになんだろ」
「あなたは本当に顧問ですか⁉︎」
と言われても、銀時だってそんなにあの二人のことを分かっているわけではない。
「そんなに詳しく知りてーんなら、知ってる奴のとこ行けよ。話くらい通してやるから」
「えっ? い、いや……それは少し恥ずかしいというか……他のウマ娘ちゃんにそれを見られるのは……」
「じゃーちょっと待ってろー」
「聞いてます⁉︎」
無視して、銀時は携帯を取り出して耳にあてがう。発信先は、みんな大好き皇帝さんだ。
「あーもしもし、俺俺」
『珍しいな、坂田先生から電話をくれるなんて』
「ちょっ、待っ……!」
「長さん、今暇?」
「長さん? な、なんだ……ウマ娘ちゃんじゃないんだ……」
おとなしくなったデジタルだが、無視して銀時は話を続ける。
「暇なら部室に来てくんね?」
『構わないが……今日は休みではなかったかい?』
「そのつもりだったんだけどな……まぁ、生徒の頼みとありゃ仕方ねーだろ」
『……らしくなく誠実だな。何か裏があるのかな?』
「おいおい、仮にもトレセン学園の上に立つもんが、話を聞く前に人を疑うのかよ。実際に困ってる生徒がいんのに見過ごすつもりか? そういうリスクを恐れて行動しなくなるザマだから、国も企業も守りに入って発展しなくなんだよ」
『言い過ぎだろう! 分かった、行けば良いんだろ行けば⁉︎』
「じゃあ10秒以内な。遅れたら、1秒につき1つ一発芸だから」
『どんな無茶振りだ! 上等だ!』
上等らしい。そこで電話は切れて、携帯をしまう。その銀時にデジタルが聞いた。
「あの、どなたが来るんですか?」
「長さん」
「長さんって……母ちゃんとか学校の先生とか泥棒のリーダーとかの?」
「まぁそれに近いところはあるな。……はい、あと3秒」
2、1……と、カウントしている直後だった。部室のドアが蹴破られ、中に長さん……シンボリルドルフが突撃して来た。
「よしセーフ! セーフだな、坂田先生!」
「あー、0.3秒遅れだわー。じゃあ、0.3回一発芸やれ」
「嘘はつかないでいただきたい! ていうか、0.3回ってどんな回数⁉︎」
「ていうかお前、生徒会長でありながらドア蹴り破ってきたよな。そのペナルティで一回で」
「10秒という無茶振りに答えた結果なのだが⁉︎ どうせ君しかいないし生徒も夏休みで廊下にいないし構わないじゃないか!」
「だってよ、デジタル」
「え?」
銀時は隣のアグネスデジタルに目を向ける。直後、ルドルフは固まってしまう。まずいところを見られた、と言わんばかりに。
そして、アグネスデジタルは……。
「ひ、ひょえ〜……お、おてんば生徒会長……ふひっ、ふひひっ……ギャップ萌え……は、鼻血が……!」
「た、頼む! 忘れてくれないかな⁉︎」
「無理でひゅ……」
想像以上のウマ娘好きのようで、過呼吸になっている。そのデジタルに、ルドルフは慌てて身体を揺すって干渉した。
「き、聞いてる? お願いだから今のは言いふらさないように……」
「あ、新しいインスピレーションが……実は、裏ではお転婆な生徒会長×苦労人の副会長……あ、アリ……すひゅっ」
「聞けー! 話を聞けー!」
「銀時先生! あなたにとって、生徒会長と副会長とは⁉︎」
「薄めのボケとツンデレツッコミ」
「なるほど!」
「なるほどじゃないから! ていうか、先生も何しゃあしゃあと答えて……!」
「ちょっと今から描くので、坂田先生読んで感想を聞かせてください!」
なんか変なスイッチが入っていた。元々、銀時が漫画に関するうんちくを知ったかぶりで語ってやる気が湧いた上に、ルドルフの知らない一面……というか、銀時によって目覚めさせられた一面で完全に過去にないテンションになってしまっていた。
「さ、坂田先生……結局、私は何で呼ばれたんだ?」
「エアグルーヴのこと聞きたかったらしいけど、とりあえずいいわ」
「そ、そうか……では、私はこれで」
「いや、せっかくだしお前も読んでいけよ。俺よりお前の方が詳しいだろ、エアグルーヴのこと」
「……まぁ、ここまで来た以上は付き合うが……」
「暇だったら漫画読んでて良いよ。ロッカーに単行本と雑誌突き刺さってるから」
「ここ本当に学校? 漫喫じゃないのか?」
そんなわけで、しばらく待機。その間、本当に漫画を読みながら待っていた。
「出来ました!」
デジタルが勢いよく立ち上がり、それを二人に突きつけて来た。とりあえず、ルドルフと一緒にそれを読んでみる事にした。
【※下記からは、漫画を読んでいると思ってご覧下さい】
「坂田先生、カギカッコを巧みに使ってナレーションごっこするのはやめて下さい」
──ー
──
ー
それは、ある日の放課後のことだった。まだ日が沈む前の空が明るい時間帯の中、生徒達が困った様子で廊下に立っていた。困っている理由は一目瞭然、窓を割ってしまったのだ。
「もー! どうするんデスか! グラスがしつこく追いかけてくるから!」
「エルが逃げるからでしょう。人の寝顔を勝手にトレーナーさんに見せたのは誰ですか?」
「と、とにかく片付けないと……!」
「箒とちりとりを……!」
と、慌ただしく焦る二人のウマ娘の間に、声を掛ける大人びた少女がいた。
「その必要はないさ」
「「げっ……!」」
現れたのは、シンボリルドルフ。箒とちりとりを持って、二人の前に現れる。
怒られる……と、二人して冷や汗。何せ、生徒にとって生徒会長のイメージは厳しく優しいもの。こういう小学生みたいなミスには厳しく接しられるもの……だと思ったのだが。
「怪我はないかな? 二人とも」
「は、はい……」
「大丈夫デス……」
「なら、ここは私に任せて行きなさい」
「え、でも……」
グラスワンダーが少し食い下がる……が、ルドルフは優しく微笑みかけた。
「大丈夫。ちゃんと先生方には、二人の口から報告すること。……良いね?」
「は、はい……!」
「やっぱり会長サン、カッコイイデス……」
キラキラと瞳を輝かした二人は、小走りで走り去っていく。残ったルドルフはガラスの処理を再開した。ガラスの処理は、細かい破片が一番危険なので一片たりとも逃すわけにはいかない。
それをするには、まず大きな破片を箒で処理。それを大体終わらせた後で、濡らした雑巾を使うのがベストなのだ。
それで、なるべく隙間を作らないように雑巾掛けをし……ようやく終えた。
その後は、先生と相談して窓の修理業者を呼んでもらって、割れたガラスは特定のゴミ置き場に持って行って……。
「……はぁ」
ようやく通常業務に戻れる。気が付けば、外は日が沈みかけていて、夕方。カラスが飛んでいそうなものだ。
これはまた帰るのが遅くなるな……そう思うとストレスが溜まる。ストレスが溜まった時は、身体を動かすのが一番だろう。
多分、ナリタブライアンもエアグルーヴも外で何かやることやっているだろうし……今なら一人だ。
生徒会室の扉の前に来た後、周囲に誰もいないことを確認してから、助走のための距離を置いて、クラウチングスタートの姿勢……そして。
「……ウル頭銃ッ‼︎」
頭突きで扉をこじ開けながら中に突入した。扉は吹き飛び、なんなら中の机や椅子も吹っ飛んだ。室内はグチャグチャにとっ散らかるが、今のだけで気分はだいぶ晴れた。
「ふぅ……ふふっ、やはりたまには童心に帰らないとね」
そう呟きながら浮かべる笑みは、まるで幼い少女のようだった。まぁ、少し大暴れするだけで気が晴れるなら、それに越したことはないのだろう。
さて……まずは片付けだ。教室内は、まるで地震があった後のようの惨状だ。
「エアグルーヴが戻る前に片付けないと。バレたら、また怒られてしまう」
「もう手遅れですが?」
「えぇへ?」
後ろからガッと肩の上に手を置くのは、エアグルーヴ。というか、よくよく見たらエアグルーヴも少し汚れているし、何なら鼻から血が出ている。
「エアグルーヴ? 何故、そんなに傷付いているんだい?」
「何処かの誰かの立派なウル頭銃のお陰です」
どうやら、中にいて巻き込まれたらしい。マズい、怒られる……と、大量の冷や汗。
何とか誤魔化さなければ……と、頭の中をグルグルと回した結果、そういえばこの子は割とウブであることを思い出す。
なので、後ろに振り向いて、親指でエアグルーヴの鼻の下を拭った。
「ふふ、そう怒らないで、エアグルーヴ。君の麗しい顔が台無しだよ。……それとも、こんな時間まで生徒会室にいたとは……私と二人きりの時間を確保してくれていた、ということかな?」
溢れんばかりのイケメンキラキラオーラで、エアグルーヴの頬に手を当てたままそう告げる。
だが、おかしい。エアグルーヴに通用している様子が見られない。それどころか、エアグルーヴは冷たい視線のままルドルフの胸元のリボンを強引に引っ張り、ルドルフを眼前にまで引き寄せる。
そのらしからぬ仕草に、ビクッと肩を震わせてしまった。
「っ、な、何かな……?」
「それで誤魔化しているおつもりですか? ルドルフ」
その呼び方に、全身を震わせるわずかな身震いと……胸の奥底で僅かに昂るぞくっとした興奮を感じてしまった。
それを自覚して、まるで自分が人を怒らせて興奮しているような変態に思えてしまい、目を逸らす。
「そっ……そんな事はない、よ……」
「そうですね。あなたがどういうつもりかは……私が一番存じているつもりです」
そう呟きながら、手に持っているリボンを引っ張って解く……と、同時に、いつの間にかルドルフの腰に回していた手に力を入れ、さらに引き寄せる。自身の胸の間にルドルフの顔を埋めると同時に、解いたリボンをその辺に捨て、耳元で囁く。
「あなたは……ヤンチャをしでかす事で、また私のお仕置きがご所望だったのでしょう……?」
そう呟きながら、耳元から少しずつ下に顔を下ろし、背筋をつーっと人差し指で撫でられる。
だが、そんなつもりはない。そのはずだ。エアグルーヴはいないはずと思っていたし……と、思うのに、何故か胸の奥底で図星を突かれたような鼓動が跳ねる。
「っ、そ、そんなこと……!」
「尻尾、揺れておられますよ?」
「―っ!」
言われて、慌てて自分のお尻に手を回して尻尾を止める。今更止めた所で遅いだろうに。
力強く尻尾を押さえていたつもりだが、お尻に同じように手を回して来たエアグルーヴにその手をいとも簡単に解かれてしまった。
エアグルーヴは、ルドルフの尻尾を優しく……そして焦らすように撫でる。その度、ビクッと体を震わしてしまう。
そんな中、自分の顔の横からエアグルーヴはルドルフの表情を正面から見据えて来た。
「ふふ……否定ばかりする割に、昂っておられる表情ですね」
「っ……ひ、ひがっ……」
「可愛らしいですよ、ルドルフ」
その言葉に、さらに身を震わせてしまう。恥ずかしさのあまり目元から涙が浮かぶが、不思議と抵抗する気にはならなかった。
エアグルーヴは、左手で尻尾……特に、付け根の辺りをいじらしく撫でつつも、右手でルドルフの額の髪を掻き上げた。
「ただ、頭突きをしたことだけはいただけない。……この可愛らしいお顔に、傷でも残ったらどうするのです……?」
「っ……!」
そう言いながら、尻尾を撫でる手が少しずつ乱雑になっていく。その度、ルドルフの身体はビクッと痙攣するように反応してしまう。
「お仕置きですよ……」
「ひ、ひゃい……」
口元から垂れるヨダレさえ拭き取る余裕もなく、夕焼けが照らす生徒会室の真ん中で、二人の影は重なり合った……。
ー
──
──ー
「……うおえ」
思わずそんな呟きを銀時は漏らしてしまう。何だこの爛れた関係。ていうか、さっき読んだものと違ってドロドロ過ぎる。清純派じゃなかったの? と思わずにはいられない程だ。
ていうか、これを本人に見せるって、すげー根性してんな、と普通に引いた。
「どうでしょうか⁉︎」
「よく聞けるなオメーは」
「えっ」
瞳を輝かせながら聞いてくるデジタルに、率直に言ってしまいながら、とりあえずそのご本人を見てみると……顔を赤くしたままチラチラと漫画を何度も見ていた。
「っ……そ、そうか……私とエアグルーヴは……なるほど……」
「……え、興奮してる?」
「し、してない!」
「尻尾超揺れてますけども」
「っ……!」
ホントに昂ると尻尾は揺れるらしい。ウマ娘の身体も割と不便なものだ。
まぁ……何にしても、銀時からアドバイスできる事はあまりない。とりあえず、一任したいところだ。
「で、お前はどうなの?」
「ど、どうもこうもない! デジタル、こんなのただのエロ漫画じゃないか!」
「えっ……いや、漫画はそこで終わっていますし、仮に続きをやるとしても、尻尾のブラッシングで終わりますよ?」
「そういう問題じゃない! 顔とか雰囲気の問題だ! こんなの、生徒会として認めるわけには……!」
「いや、別に学校で配布するわけじゃねーし、生徒会が認めるかは別問題だろ」
銀時が横から口を挟みながら「なぁ?」とデジタルに顔を向ける。
「は、はい……! あくまであたしの趣味ですので……!」
「ていうか、むしろお前も協力すれば、お前好みの内容を誰にも内緒で描いてもらえるんじゃね? ……勿論、エアグルーヴにも内緒で」
「っ……!」
悲しいかな、ルドルフは「確かに」と思っている様子だ。まぁ、そもそもさっきから様子を見る限り満更でもなさそうなのは明らかだし。
ここは、少年の心をいまだに持ち続けている身としてさらに言ってやった方が良い。
「良いか、長さん、思春期で学べる心の成長は、何も綺麗なモンばっかじゃねーんだよ。自分の心の汚さ、性癖の歪み、人に見せたくない部分、そういうのを隠す方法ってのも学べる。こいつはその良い機会だ」
「いやそれ学ぶ必要ないよね」
「バッカお前こういうの学ばない奴が、入学直後に大学の食堂でドヤ顔で下ネタ言って一ヶ月後にはぼっち飯してたりすんだよ」
「あ、それコミケでもいます。友達になら何話しても良いって勘違いした人が、女性の脇毛に興奮するって女性相手に話して、普通にドン引きされていました」
「……」
二人がかりで言われ、少しルドルフは思い悩むように顎に手を当てる。
「お前がこいつを手伝ってやりゃ、こいつは妄想が捗るし、お前は好みの本をもらえる上にそれを隠す術を身につけられるし、みんなが幸せになれんだろうが」
「あーもうわかったわかった。付き合うよ」
「じゃ、俺はこれで。鍵ここに置いとくから閉めて帰れよ」
「君は帰るのか⁉︎」
二人を置いて出て行った。
×××
職員室に戻ると、ジャンプが整理されていた。誰かが片付けでもしておいてくれたのだろうか?
だが、逆に気になるのは、鬼滅が表紙の一冊のジャンプが机の真ん中に置かれている事。なんでこれだけ……なんて思っている時だった。
そのジャンプが少し発光する。……そして、その裏表紙からドバッと人が飛び出て来て。
「うおっ……⁉︎」
「きゃっ……!」
「あうっ……!」
「ったぁ……!」
三人のウマ娘が出て来た。ダイワスカーレット、エアグルーヴ、ナリタタイシンの三名である。
後ろに押し倒されるようにひっくり返り、尻餅をついて背中を強打する。
「ってーな……何だお前ら……つか、どこから出て来てんだよ。ジャンプ○ルティメットスターズか」
「「「……」」」
「てかあのゲーム、説明書の序盤に主人公を紹介するページで、他のキャラは『成長したナルトを見よ!』とかかっこいい事書いてあんのに、銀さんの時だけ『銀さんが……何すんの⁉︎』ってオチ担当にしたの、忘れてねーからな。『銀さんが見せる侍の魂!』とかあったよな色々」
「「「…………」」」
「おい、なんとか言えよツンデレ三姉妹」
三人とも、揃って銀時の方に顔を向ける。やがて、少し涙腺が緩んだように見えた後、全力で一息つき始めた。
「「「も、戻ったぁ〜〜〜…………」」」
「いやいいから俺の上から退け」
ていうか、どこかに行っていたらしい。とりあえず、三人をどかして立ち上がる。
「つーかお前らマジどこから出て来てんの? てかどこ行ってたの?」
「江戸よ!」
「は?」
「そ、そうだ、銀時。なんだあのふざけた江戸は⁉︎ デカい犬にバズーカを撃つ真選組だと? ふざけるのも大概にしろ!」
「あんたの仲間もおかしいから! 何軍曹って。何なの隊長って⁉︎」
と、まぁ言われてしまったわけだが……そこで一つ理解する。こいつら……まさか、江戸に行っていたのだろうか?
「え、お前ら江戸行ってたの?」
聞くと、今度はハッとした三人は慌てた様子で自分達が飛び出て来たジャンプを手に取る。
「っ、そ、そうだった! 私達、ジャンプで銀さんの街に行ってたの!」
「そうだ。貴様の仲間に会ったぞ」
「あと変なホームレスとかもね」
「ジャンプでなの? 定春のケツの穴とかじゃないの?」
「ちっがうわよ! てかどんな状況よそれ⁉︎」
「誰があんな凶暴な犬の尻に突っ込むか! もう二度とごめんだ!」
「私も絶対に嫌だから!」
どうやら本当に向こうへ行っていたらしい。それなら話は早い。三人が持っているジャンプを手に取り、それをぼんやり眺める。
「なるほどな……じゃ、こいつを使えば俺も帰れんのか」
「「「……」」」
そう言うと、三人はピタッと大人しくなる。そうなれば、銀時ともお別れということになるから。
転校や卒業などと違い、異世界間でのお別れは確実に二度と会えない。いや、ジャンプがある以上、平気なのかもしれないが、理屈がわからないのならそうもいかないのかもしれない。
「銀さん……帰るわけ? 別に良いけど」
「こちらの万事屋でも、まだ何も成していないが? 別に構わないが」
「私達も、まだヒントになりそうなもの得てない。別にどうでも良いけど」
「お前らほど分かりやすいツンデレはいないわ。声優さんみんな神楽と交代したら?」
直後、三つのストレートが銀時の顔面に直撃し、後ろに再びぶっ倒れる。
だが……まぁ、帰るわけにはいかない。情が移った、というのもあるけど、何より半端なままでは終われないから。
「安心しろ、まだ帰んねーから。お前ら、まだデビューも決まってねーのに一人だけのうのうと帰ったりしねーよ」
そのセリフに、三人とも少し嬉しそうに目を見開く……が、まぁそこはツンデレ三人なだけあって。
「ま、まぁ当然よね。あたしの顧問だし」
「ふん、むしろ私の方が面倒見てやっている立場だし、借りは返してもらわなくてはな」
「てか、JKに囲まれてチヤホヤされたいだけなんじゃないの?」
「やっぱツンデレって可愛くねーわ」
また殴られた。
×××
その日の夜中、ルドルフは暗い部屋の中、スタンドライトの電気だけをつけて机に向かっていた。大学受験の勉強ではない。漫画を読んでいるだけである。
なんやかんやで、一緒にデジタルと考えてしまった。なかなか悪くない気がする。
思わず少しにやけてしまう中……忍び寄るくらい影。
「何読んでるのー? ルドルフ」
「っ⁉︎ し、シービー。起きていたのか」
「うん。何読んでるの?」
「デジタルが描いた漫画だよ」
「へー。読ませて」
「いや、すまないがそれは出来ない。誰にも読ませない、と約束した」
「えー」
本当は自慢したい気持ちがないわけでもないのだが、致し方ない。
「でも、大丈夫?」
「何が?」
「今、皇帝がしちゃいけない顔してたけど」
「……ほんとに?」
「うん」
……それはまずい。自分はこの学園の代表なのだ。ならば、締まりのない顔を外でするわけにはいかない。
「す、すまない……気を付けなければ」
「そんなに面白いの? それ」
「あ、ああ。まぁね」
シービーはトレーナー大好きだから、デジタルに頼んだところで描いてもらえるかは分からないから勧められない。なので、ここは誤魔化すしかない。
「さ、寝よう。シービー」
「見せてよ」
「いや見せられないってば」
「一瞬だけ」
「だめ」
「チラッとだけ」
「だめ」
「……」
「……」
「寝よっか」
「君が寝るまで私は寝られないな」
そんな話をしながらも、部屋にはこれ置いておけないと分かったので、ひとまず生徒会室にしまう事にした。