ps.お待たせしてすみませんでした。
銀時がトレセン学園に来て、はや半年が経過した。
そして、それは年に2回ある選抜レースが近づいてきたことを意味する。銀時と一緒に万事屋を始めて以来、何かを掴んだのかダイワスカーレットもエアグルーヴもナリタタイシンも、トレーナーが付いていたわけでもないのにスコアが伸びるようになってきていた。
勿論、既にトレーナーがついているウマ娘ほどではないにしても、三人とも各々の行動に迷いがなくなり、何かしら明確な目標を抱いて走るようになっていた。
……しかし、当然何もかも両立が出来るわけでもなく。万事屋に銀時一人になってしまう時間も増えてしまう訳で。
「……カーコー」
ジャンプで顔を覆って、椅子にもたれかかりながら銀時は爆睡していた。鬼の居ぬ間に何とやらである。こういう時でないとサボれない。
その一人しかいない教室の扉が開かれる。入って来たのは、緑色の駿川たづなの姿だった。
「失礼しまー……って、寝てる……」
ここ数日、ここに銀時一人しかいない時間が増えつつあるのは喜ばしい事だ。トレセン学園のウマ娘達は本来、走るためにここに来ている。
各々、迷いを抱えていたとはいえ、彼女達にとってこの万事屋にいる時間は言い方を悪くすると寄り道の時間だ。
必要な時間であったかもしれないが、やはりトレーナーがついて走る事だけをしているウマ娘達との差は広がってしまう。
「……」
きゅっ……と、たづなは目を細める。そして、無防備に眠りこけている銀時の方へ歩く。
本当に不思議な男だ。誰にでも失礼な自然体で態度を変えることもないが、何処かウマ娘や人を惹きつける。ガサツで身勝手で甘党で……それでも、この男が関わると最後にはうまく行く。
「なんか用かー?」
「! 起きてたんですか?」
「起きたんだよ。今日はあいつらいねーし、依頼は受け付けてねーぞ」
「じゃあなんでここに来られてるんです?」
「ここ以外、行くとこねーからな。この前パチンコ負けたし、金ねーし」
そう告げながら、銀時は顔の上からジャンプをどかす。相変わらず死んだ魚のような目をたづなに向け、静かに聞いてくる。
「で、何か用か?」
「いえ、今日は万事屋は何をされているのかと、様子を見に来ただけです」
「そいつは悪かったな、今日は店あいてねーんだ」
「はい。では、失礼します」
それだけ話してたづなは教室から立ち去ろうとする。特に何もしていないなら、ここにいる意味もない。
歩いてそのまま教室の扉に手を掛けた。そのたづなに、背後から声がかけられる。
「オイ」
「はい?」
「……オマエ、名前なんだっけ?」
「駿川たづなです」
「……」
「ごめーん銀さん! 遅くなっちゃった!」
そんな中、慌ただしい様子で教室の扉が開かれた。入って来たのは、ダイワスカーレット、エアグルーヴ、ナリタタイシンといういつもの三人だ。
「あれ? たづなさん!」
「何かご依頼ですか?」
「それとも銀さんにセクハラでもされた?」
「殺すぞチビ。その成長期が二度来ないフィジカルにピム粒子をぶっ掛けてやろうか」
「あんたこそその取り返しのつかないクルクルパーマをもっと派手にしてやろうか」
いつものノリで口喧嘩を始める。その様子を眺めながら、たづなは笑みを浮かべた。
「いえ、もう用事は済みましたので。では失礼します」
そのまま立ち去っていく緑の女性をぼんやり眺めながら、銀時は改めて遅れて来た生徒たちに声を掛ける。
「てか、お前ら別に帰っても良かったんだぞ別に。練習後で疲れてんだろ?」
「え、何その銀さんらしからぬその気遣い……ウオッカがする料理くらい似合わないんだけど」
「いやいや、銀さん基本的にこんなもんよ? 三年Z組銀八先生だとお悩み相談までしてたからな」
「いや知らないしどうでも良いけど」
「銀時が気にする事ではない。私達も仕事で来ているに過ぎないからな」
ダイワスカーレットに続いてエアグルーヴもそう言うと、3人は教室内に入り、各々椅子に座る。
軽くストレッチをしたり、宿題をしたりと過ごし始める。その様子をぼんやりと銀時は眺める。一応、最終下校時刻までここにいるつもりなのだろうか? 予定が来るとも限らないのに。
まぁ、別にどうでも良い。それより、銀時はジャンプをその場で読み始めた。
そんな中、コンコンとノックの音がした。
「はーい」
「……失礼します……」
入って来たのは、髪が長く幽霊のような雰囲気の女子生徒だった。
「マンハッタンカフェか」
「申し訳ありません……時間ギリギリに。この時間でなくては、ならなかったもので」
「気になさらないでください」
エアグルーヴとダイワスカーレットと会話したあと、マンハッタンカフェは銀時の方を見る。そして、小さくお辞儀をする。
「……初めまして、坂田先生。お噂は予々……マンハッタンカフェです……」
「おー」
俺のこと知ってんのかよ、と思いつつ、銀時は適当に手を上げる。なんというか、流石は女子校だ。噂が広がるのが早い。
「とりあえずそこ座って。あとクラスと名前と相談内容を書いて」
話しながらタイシンがノートとペンを用意する。サラサラと文字を書き始めるマンハッタンカフェを眺めながら、銀時は近くにいるダイワスカーレットに声を掛ける。
「……あの子何? 20話目にして初めて見るんだけど」
「カフェ先輩。怒らせないほうが良いわよ。ある意味、この学校で一番怖い人だから」
「はぁ? お前、江戸に一回戻ったなら知ってんだろ? 銀さんが何回宇宙海賊だのえいりあんだの戦闘民族だのと戦ってきたと思ってんだ」
「いや何も聞いてないし知らないけど」
そんな呑気な話をする中、書き終えたのかマンハッタンカフェはノートをタイシンに手渡した。
「書き終えました……」
「ありがとう……えーっと、え……マジ?」
「……はい」
「なんて書いてあんの?」
言われたタイシンはノートを三人に渡した。
書かれていた文字は「除霊」だった。
「……え、カフェ先輩と除霊って……」
「何言ってんのあの子? もしかして霊が見えるとかそういう事言い出しちゃう感じ? 痛い痛い痛い痛い! 痛いよー、お母さーん! ここに頭怪我してる子がいるよー!」
あからさまに茶化す銀時だが、他三人は深刻な表情を浮かべる。知っているからだ、その除霊がなにを表すのか。
カフェは銀時を無視して、改めて説明をする。
「夏が終わった後なのですが……最近、トレセン学園にも『七不思議』なるものが出来たと聞き……もしあるのならば、私がなんとかしなければなりません。しかし……学生が深夜に校舎に無許可で行くわけにもいかないので……皆様にお力とお時間をお貸しいただければと……」
「はぁ? ふざけんなバカヤロー。そんなガキが作った都市伝説なんぞに付き合ってる暇なんざねんだよコノヤロー」
「いえ……しかし、選抜レースも近いですし、生徒の皆さんに何か影響が……」
「知るかっつーの。都市伝説なんぞ信じ込んでレースに影響出すならレースに出ねー方が良いわ」
その直後だった。ガタン! という音が教室内で突然響き渡る。何かと思って顔を向けた先には、掃除用具入れ。中をカフェが覗くと、ナミの魔法の天候棒が一人でに倒れていた。
「「「…………」」」
ヒュッ、と息を吸う万事屋四人。何もしていないのに……地震さえ起きていないのに倒れた。
最初に口を開いたのはダイワスカーレットだ。少し震えた声音を漏らしやがら、顔を青ざめさせてしまう。
「…………え、なんで?」
「バッカおめー……ちょっと風で揺れただけだって」
「いや……風もなにも掃除用具入れの中だぞ……」
「そりゃお前……アレだろ、自動クリーナー機能。掃除用具ってのぁ、掃除し終えたら当然汚れんだろ? だからそれをしまう箱が自動的に埃とか取ってくれるようになってんだよ。うちなんかもう厠にも自動クリーナー機能ついてるからね。今度、下駄箱にもつけようかなーって思ってるくらいだからね」
「いや……意味分かんない。そもそもあれ、掃除用具入ってないし……」
銀時が何を言ってもエアグルーヴとナリタタイシンが反論する。お陰で、余計に今の超常現象の信憑性が増していく。
「……じゃあ何?」
「「「知るか!」」」
「……だめですよ。こんな所にいては……さぁ、あなたのいるべきところにお戻りなさい」
「えっ、あの子何と話してんの……?」
「「「だから知るかー!」」」
というか、知りたくないと言わんばかりの返事だ。三人ともマンハッタンカフェから思いっきり目を逸らしている。銀時に至っては机の下に隠れている。
で、マンハッタンカフェは改めてこちらへ顔を向けた。
「ふぅ……では、お願いし……? 何をされているんですか皆様……? 避難訓練?」
「うるせええええ!! ふざけんな、誰がそんな不思議体験会みてーな依頼を引き受けるか! SOS団じゃねんだよ!」
「しかし……ここ最近、彼らの活動は活発化しており、このままではレースに影響が出てくるウマ娘も……」
「じゃあお前一人で行ってこいよ! なんで俺らを巻き込むんだよ!」
「いえ、深夜に校内を歩き回るのは校則違反ですので……」
「この世の中にいちゃいけねー奴らと会話する奴がなんで校則違反は気になってんだよ!」
なんてギャーギャーと騒がしくなる中、横から肩に手を置かれる。置いたのはエアグルーヴだ。
「おい、銀時……レースの為ならば付き合う他ないだろう……。嫌ではあるが、引き受けるべきではないのか?」
「ああ!? なんだお前、レースのためなら不思議体験するってのか? それが霊しかいない温泉でバイトでも、幽霊みてーな蚊の天人とプロレスでも、電話越しに迫ってくる大江戸著作権管理団体でもすんのか!?」
「いや半分以上、心霊じゃないだろそれは!」
と、喧嘩がヒートアップする中、エアグルーヴの肩にナリタタイシンが手を置き、口を挟む。
「落ち着きな、エアグルーヴ」
「な、なんだ?」
「こういう時、説得とかしたって無駄だから。むしろ意地を張られるだけって事くらいもう分かるでしょ」
「い、いやそれはそうだが……」
「あたしに任せて」
そう言うと、ナリタタイシンは銀時をあからさまに小馬鹿した表情を作って、ほくそ笑みながら声をかける。
「何、銀さん。あんた怖いの?」
「……は? 怖くねーし。ただお前らが怖い思いしなけりゃ良いと思って、気ぃ使ってやってんだろうが」
「いやいや、あそこまで頑なに拒否するって事は怖いってことなんじゃないの? てか夏休みもなんかやたらとビビってたよね。天下の万事屋銀ちゃんかお化けを怖がるとか超意外なんだけど」
「怖くねーって言ってんだろ。そもそもお化けとかいねーから、嘘だから。寝ぼけた人が見間違えただけだから」
「だけどちょっとだけどちょっと?」
「だから怖くねーって言ってんだろ一寸タイシン!」
「じゃああたし達も怖くないから依頼受けたって良いよね? 死ね」
「じっ、上等だよ。オメーら後悔したってもうおせーからなお前が死ね」
「はい、じゃあ引き受けるってことで。バカ」
「お前がバカ」
そんな訳で、引き受けることになった。
×××
そんなわけで、夜9時。女子寮を抜け出してきたダイワスカーレット、エアグルーヴ、ナリタタイシン、マンハッタンカフェは校舎の前で銀時の到着を待っていた。
腕を組みながら貧乏ゆすりをしつつ、ダイワスカーレットが腕時計に視線を落として声を漏らす。
「……遅いわね、あいつ」
「何かあったのでしょうか……?」
「心配するだけ無駄だぞ、カフェ。どうせロクでもないことだ」
「ね。甘いものでも買いに行ってんじゃないの」
なんて話している時だった。ようやく現れたようで、銀髪頭が現場に到着する。
「あ、来た。遅いわよ銀さ……」
ダイワスカーレットが双声を漏らしながら顔を見ると……そこに立っていたのは、全身濃紺の服を着たバカ目隠しの格好をしている銀時の姿だった。
「何してんのあんた!?」
「ていうか……それ前見えてんの銀さん?」
「誰が銀さんだ、最強と呼べ」
「いやあんた無下限術式持ってねーし! 六眼も持ってねーし! てかそんな死んだ魚の目の六眼嫌だし!」
と、ツッコミが炸裂する中、エアグルーヴが口を挟む。
「ていうか、なんで五条悟なんだ?」
「良いだろ別に。こいつ最強なんだろ? こいつなら大抵の霊ならビビって逃げんだろ。あとアニメで一回着てるし」
「いや、幽霊と呪いはまた違うんじゃないか? ……ていうか、呪いでも五条悟が生まれてから呪霊は少し強くなったんじゃなかったか?」
「えっ」
「カフェ、どうだ?」
「なんか強くなってる感じしますね。霊的な何かが」
直後、銀時は0.5秒でいつもの白衣姿に戻り、目隠しを放り投げた。
「うし、じゃあさっさと行って終わらせんぞ」
「なんだったのよ今の茶番」
×××
さて、そんなわけでトレセン学園の七不思議を調査することになった。
昇降口から普通に入った五人は、懐中電灯を用意。廊下を照らしながら、銀時がマンハッタンカフェに声をかける。
「で、一つ目は?」
「確か……『更衣室に流れる過呼吸音』でした」
「なんだそれ。なんか全然怖くねーぞ」
「概要は……トレセン学園の更衣室の前を夜中に通り掛かると、誰もいないはずの部屋からまるで全力疾走をした後のような過呼吸音が聞こえて来る……というものでした」
「全力疾走した後ねぇ〜……おい、ダスカ。お前ちょっと全力疾走して来いよ」
「えっ、なんでよ」
「いや、実際どんな音するのか予めわかっといた方が良いだろ? 今なら先生もいないし、走っても全然怒られやしねーぞ」
「あんたがいるじゃない」
「おいおい、俺が廊下を走るな、なんてベタベタなこと言うと思うか? ほれ、懐中電灯貸すから」
そう言われるとその通り……と、思ったのか、ダイワスカーレットは懐中電灯を受け取る。
「良いけど、絶対ここからいなくならないでよね。絶対に置いていかないでよね」
「怖ぇーならタイシンかエアグルーヴと並走しても良いぞ」
「何故、巻き込む……」
「いや普通に廊下走るとか嫌なんだけど」
「とりあえず、ここからあそこの非常口まで。タッチして戻ってこい」
「ったく……仕方ないわね……」
そう呟くと、ダイワスカーレットは軽くアキレス腱を伸ばし始める。走るからには全速力だ。
呼吸を軽く整えた直後……一気にスタートを切った。上履きなので当然、いつもの速さではないが、高速で暗闇の中を照らしていった。
で、戻って来た。
「はぁ、ふぅ……こ、こんな感じ?」
「なんかー……まだまだ余裕そうじゃね?」
「は?」
「そうかもね。もう一往復くらいしてきたら?」
「タイシン先輩まで何を!?」
「Dr.マンハッタン、過呼吸ってこんなもんじゃねーよな?」
「そうですね……もう少しだと思います」
「はぁ!? し、仕方ないわね……!」
「はい、位置について」
銀時に言われてスタート位置に立つダイワスカーレット。その後、銀時は腕時計を見ながらやる気のない声で告げた。
「よーいスタート」
「っ!」
また一気に走り出す。廊下に響き渡る足音が遠くなり、そしてまた近づいて来た。
戻ってきて、思わず両膝に両手を当てて中腰になってしまう。
「はっ、はぁっ……はっ、ど、どうよ?」
「いや……まだ余裕そうだよな。全力疾走した後ってのは背中を地面にハイタッチさせるくらいになんねーと」
「そうだな。我々も夏合宿では血反吐吐くくらい走ったものだ。岩の中で」
「私も走った。岩に追われて」
「なんであんたらそんな走らせたがってんの!?」
「はい、そんなわけで三往復めよーい」
「えっ、まじでまた走んの!?」
「「「「よーい」」」」
「なんでカフェ先輩まで走らせようとしてるんですか!」
「ス」
「タ」
「ー」
「ト」
「聞き取りづらっ! てか伸ばし棒どうやって発言した今!?」
ツッコミを受けながらまた走り始めた。戻ってきた。
「ふっ、はぁっ……うえっぷ……は、走る前にツッコミとか入れなきゃ良かった……こ、これで、どうですか……?」
「喋る余裕があるってことはまだ余裕なんじゃね」
「ぶっ飛ばすわよ若白髪!」
流石にキレるが、銀時は素知らぬ顔。耳に小指を突っ込みながら手についたゴミをふっと息で飛ばした。
「ていうか、カフェ先輩! 実際、どれくらいの呼吸音だったとか、そういうのはないんですか?」
「えーっと……私が聞いた話では『っ、かはっ……ひゅーっ、ぜひゅー、こひゅーっ……』という音だそうです……」
「全力疾走どころか適性を超えた距離走ってるわよねそれ!?」
「じゃあダスカ、お前はひっひっふーくらいまで行け」
「あんたがあの世に逝け!」
「ほれ、はいもーいっかい、もーいっかい」
「「「もーいっかい、もーいっかい」」」
「えっ、いじめが始まった!?」
仕方ないのでスカーレットはまた構える。こうなったら……もう最高速で走るしかない。速攻で行って速攻で戻ってきて、そして疲れ切るしかない。
そう決めると、ダイワスカーレットはクラウチングスタートの姿勢を取った。何故か。
「位置について、よーい」
それと同時に腰をくいっと上げる。
「スタート」
直後、一気にスタートを切った。衝撃波が発生し得るダッシュで駆け出し、およそ2〜3秒くらいで向こう側の非常口に到着。すぐに引き返した。
経験のないガンダッシュを見せつけながらすぐに四人の姿を捉え……そして、足を滑らせて転倒した。
そのままゴインッ、ゴインッという間抜けなバウンドを繰り返し、四人の前を通り過ぎ、真反対の壁に激突して制止した。
もう呼吸音とかどうでも良いくらい恥ずかしくなり、その場から動けない。その自分の元に複数の足音が近寄って来る。
見上げると、銀時を中心にエアグルーヴ、ナリタタイシン、そしてマンハッタンカフェが自分を眺めていた。
真ん中の銀時がポケットからアポロチョコを取り出し、口に入れながら告げた。
「ま、廊下は走るなってこったな」
「……もうそれでいいから放っておいて」
身体より心にダメージを負ったダイワスカーレットだった。
×××
さて、問題の更衣室に向かう。すると……確かに、すでに廊下にいる段階で「っ〜……」という何かの呼吸のような音が聞こえてくる。
それにより、銀時は足を止めた。
「……えっ、何今の」
「? どうかしたか? 銀時」
「い、いや、なんでもねーよ。なんでもねーし何も聞こえてねーよ」
「何か聞こえたのか?」
「いやだから何も聞こえてねーって言ってんだろ殺すぞ空気嫁」
「いや、貴様こそ殺すぞ。今なんつった? ほんとに」
「そういえば銀さん、お化けとか苦手だもんね」
タイシンがしれっとそんな余計なことを言ったことで、ピクっとダイワスカーレットもエアグルーヴも尻尾を揺らす。そんな面白いにも程がある情報、聞き流して良い理由がない。
「そうなの?」
「本当か?」
「は、はぁ? そんなわけねーだろ。そもそも、お化けなんざ誰が信じるかよ」
「あっ、幽霊」
その直後、銀時は高速で廊下に設置されている掃除用具入れの扉を破壊して中に突っ込む。
その様子を、四人のウマ娘はしらーっとした表情で眺める。何というか……大人が本気でお化けに怖がっている様というのは、思った以上に情けないものだ。
「……何してるんですか? 坂田先生……」
「え? いやあの……銀魂世界への入り口が……」
「「「「…………」」」」
「おい、違うからね!? なんだその目はお前ら!」
「わかったわかった。てか良かったじゃない、元の世界に帰る入り口が見つかって」
「江戸でもかぶき町でもどこにでも行け」
「なんだテメェらその言い草はコラァッ!?」
なんてやっていると、タイシンが改まった様子で会話に入る。
「じゃあ、本当に怖くないのね?」
「ねーよ」
「ならこのなんかさっきから過呼吸音がする更衣室の扉、あんたが開けてよ」
「じっ、上等だよコラ」
掃除用具入れから出た銀時は、改めて首を慣らしつつ、両腕を伸ばしてストレッチをする。
軽く深呼吸をした後、準備完了と言わんばかりに歩き出した。……マンハッタンカフェの背中へ。
「あの……坂田先生。なんで縦並び?」
「いやなんかピカチュウ版ごっこがしたくなって」
「あんたみたいなポケモンがいてたまるか!」
「精々、色違いのモンジャラだろ!」
「誰がもんじゃらだコラァっ!」
なんてやっている間に、いよいよ更衣室の前に立った。銀時が開けろ、との事なので、先頭には銀時が立つ。
「……今更だけど、男性教員が女子更衣室開けて良いのか?」
「副会長が許す」
許された。
致し方ないので、改めて深呼吸。こうなったら、もう覚悟を決めるしかない。大丈夫だ、なんだかんだ銀時もこれまでいくつもの修羅場を潜り抜けて来たのだ。
ならば……今回だって生き残れるはず。そう思い、扉を開けた。
「ふっ、ふひゅっ……ふひひっ、う、ウマ娘ちゃんの着替え……こふっ、こひゅーっ、ふひゅーっ……ふひひっ……」
そこにいたのは……アグネスデジタルだった。カメラを眺めながら、鼻から鼻うがいをしているCMのように鼻血を垂れ流している。
その様子を見て、五人とも思わず動きを止めて半眼になってしまう。何やってんだこいつ、と言わんばかりに。
「……何してんだテメー」
「はにゃっ!?」
代表して銀時が声をかけると、アグネスデジタルは肩をビクッと振るわせるばかりではなく、手元からデジカメを落としつつ腰を抜かしたようにひっくり返り、設置されている椅子から転げ落ち、そのまま転がってロッカーに突っ込んだ。
落ちたカメラをエアグルーヴが拾うと、眉間に皺が寄った。
「……なんだこの下劣なものは」
「何々……え、嘘でしょ」
「うわ……盗撮じゃん」
そのドン引きしたようなセリフがウマ娘達から飛び交い、銀時も中を見ることなくドン引きした様子で呟く。
「デジタル……お前マジかよ。夜中に盗撮した女のせいかを確認って……お前の青春それで良いのかよ」
「ち、ちちちっ、違います! 断じてやらしい気持ちで撮っていたものではありません!」
「やらしい気持ち以外で何をどう思ったらこれを入手しようと思えんだよ。どう考えたってやらしさしかねーだろ。確実にやらしいって言われるために撮ってたろ」
「そんなことありません! ただ以前、描いていた皇帝×女帝の同人誌を長さんに読んでいただいた際『エアグルーヴの胸はもっと大きいよ』と言われてしまった為、モデルが欲しくて……そ、そう! これはいわば取材です!」
「おい、誰だその長さんとやら。何故私がそこで出て来る」
エアグルーヴのツッコミを無視して、アグネスデジタルはカメラを持つエアグルーヴの前に移動して手を伸ばす。
「とにかく返してくださーい!」
「おっと力み過ぎた」
「ああああああああ!?!?!?」
だが、エアグルーヴはそのカメラを握りつぶしてしまった。
こうして、トレセン学園七不思議愛一つがここで解明される事となった。