ある日の放課後。土曜日なので高等部の授業は午前半休。中等部は休み。
エアグルーヴはナリタブライアンとそのトレーナーと、トレーニング+生徒会の職務。そしてダイワスカーレットはサクラバクシンオーとトレーニング。つまり、万事屋には銀時しかいなかった。
なら、正直今日は休業で良い気がする。何せ、元はと言えばスカーレットやエアグルーヴが自身に足りないものを見つける為の部活だかクラブだか同好会だか分からない何かである。教員だけいてもなんの意味もない……そう思って、さっさと万事屋から出て帰ろうと思ったのだが。
コンコンとノックの音が来てしまった。
「うーい」
仕方ないので返事をする。すると、中に入って来たのは、シンボリルドルフだった。
「やぁ、坂田先生」
「テメェか。この前はよくも人を利用してくれやがったな」
「ふふ、何のことかな?」
「惚けんなよ。なーにが俺の仕事ぶりが見てェだよ。テメェがなんとかしたかったのはエアグルーヴだろうが」
その話は、要するに2〜3週間前の事だ。つまり、ルドルフの依頼は生徒会にある大量の悩み相談をなんとかすることではなく、エアグルーヴの助けになる事だった。
「仕方ないだろう? 彼女はああ見えて頑固者だ。……それに、私には私の目標があるように、エアグルーヴにはエアグルーヴの目標がある。にも関わらず、直球で『彼女の事をなんとかしてあげて欲しい』とは相談出来まい?」
「けっ……どーしてこの世界のガキはどいつもこいつも可愛げがねーのかね。うちのガキとは違う意味で」
これなら、単純にバカな万事屋の二人の方がまだ可愛げがある。
「で、何のようだ? 今日は副会長様も一着様もいねーぞ」
「ああ、だから君に会いに来たんだ」
「あ?」
「君個人に、聞いて欲しい話がある」
言いながら、ルドルフは席についた。そうなれば仕方ない。銀時もその向かいに座る。
「てかお前、こんなとこ来る暇があんのか?」
「ああ……それなんだが、エアグルーヴに追い出されてしまってね。会長は働き過ぎているので、たまには休めと」
「トレーニングは?」
「そっちも、元々休みの予定だったんだ。トレーナーくんに用事があるみたいでね。……それで、こうなってしまうと私も何をしたら良いのか分からないんだ」
「あっそ。……で?」
「それが相談だよ。何をしたら良い?」
「知らねーよ。勝手にしろよ」
なんだその相談、と銀時は一気にバカバカしくなる。この前とは違い、本当に何したら良いのか分からなさげなのが困る。
ため息をつきながら、銀時は立ち上がって後頭部をガシガシと掻いた。
「それが分からないからここに来たんだが……」
「漫画ならロッカーに入ってるから、好きなの読んどけ」
「どこかに行ってしまうのかい?」
「パチンコ。今日はなんか、出そうな気がする」
「……そうか。残念だな」
「おー、残念残念」
言いながら、銀時は教室の扉を開ける。悪い奴ではないのは分かっているが、正直あんまり良い印象はない。どうにも賢い相手、というのは苦手だった。
「……」
「……」
しかし、ルドルフは動かない。椅子に座ったままぼんやりしていた。このまま自分が帰っても、おそらくしばらくはこのままぼんやりしているのだろう。
「……」
「……」
漫画も読まずに、一人しかいない教室で。
「……」
「……」
暇を潰すように、寂しそうに。
「ああああもおおおお‼︎」
「っ、ど、どうした?」
「来い!」
×××
「ホンッッットダメだわお前は! ホントに仕事できる奴ってのァ、ガス抜きも上手くやるモンなんだよ! そういうとこ、ホントダメダメだわ! ダメダメ村のダメダメ村長だわお前は!」
「ふふ、そうかもしれないな?」
「なんでちょっと上からなんだよ!」
気がつけば、原チャリの後ろに乗せてヘルメットを被せて街を走っていた。
「それにしても……初めて『バイク』というものに乗ったが、まさか君の後ろに乗ることになるとはね」
「乗ることになるってなんだ! テメェがグチャグチャうるせーから乗せてやってんだろ⁉︎」
「いや、黙っていたと思うんだが……貴重な機会だ。楽しませてもらうよ」
心の中で舌打ちをしながら、銀時はため息をつく。何で自分は休みにすると決めた日にこんな事しているのか。
「ていうか、お前友達とかいねーのかよ」
「ふむ……いないことはないんだが、多くはないかな。皆、会長というだけで距離を置かれてしまってね」
「あ? ……ああ、将軍やそよ姫みてーなもんか」
「マルゼンスキーや生徒会のメンバー、あとテイオーなんかは気兼ねなく話してくれるのだが……」
「そりゃオメー、いつも神妙なツラァしてんのが悪ぃーんだよ。酢昆布を常に咥えててみたり、キャバクラでブリーフ一丁になったり、マゲの代わりにゴールデンレトリバーのウ○コ乗せられたり、親近感が足りてねーんだよ、親近感が」
「いや、そんな事になるのは私もごめんなのだが……」
苦笑いを浮かべつつ、ルドルフは続ける。
「私も一応、色々と努力はしているのだけどね」
「ああ? じゃあ言ってみろよ」
言われてルドルフは銀時の腰に回している片手を外し、コホンと咳払いする。
「実はこの前……チョーカーをエアグルーヴにつけてもらっていたんだが」
「あ? お、おう?」
「その時にテイオーが遊びに来て、言われたんだ。『チョーカッコイイ!』ってね!」
「いや下らねーし小せェよ! 何で誰も止めなかったんだよ⁉︎」
「ちっ……小さい、のか?」
「大体の奴は『き、聞き違いかな? そうだよね、会長がそんなこと言うわけないし』で済ませるに決まってんだろ‼︎」
「そ、そうか……割と、気に入っているのだが……」
ショボンと肩を落とされてしまう。運転中なこともあって顔は見えないが、この女にそんな真似をされるとどうにも調子が狂う。
「仕方ねーな……いっちょ、本物のキャラ付けって奴を教えてやるよ。ジャンプ歴20年の俺が、な」
「本当か? よろしく頼む」
そんなわけで、銀時は適当に走らせていた原チャリの進路を変えた。
×××
「うん……中々、良いんじゃねーか?」
そう満足げに顎に手を当てる銀時の前にいるルドルフの姿は……腕枕してノースリーブにしてタスキをかけたハッピ姿に、おでこが広めのヅラを被り、ハチマキを巻いた「8時だヨスタイル」に身を包まされていた。
「いやいつの時代の親近感だああああ⁉︎」
当然、アッパーカットを浴びせられてしまう。
「こんな頭からタライを落とされそうな親近感があるかああああ‼︎」
「安心しろ。今のご時世、あんな派手なコント、子供が真似して出来るわけねーだろ。教育委員会とか絶対アレなんでも禁止すれば解決するとか思ってるからね。知らなきゃ何でも良いとか思ってるからね」
「そういう問題ではないわ! 私はトレセン学園の代表とならなければならない存在だぞ⁉︎」
「ああ、もう完全に別人だよこれ。以前までの神々しさなんてかけらもないからね。『いってみよー!』って言いながら番組スタートしそうな感じあるよこれ」
「この格好のまま番組に出ろと⁉︎」
本当にダメだ。なんていうか、本物のバカだこの男。ホント、エアグルーヴがこのバカの何処に惹かれたのか不思議なほどだ。
「とりあえず、その姿のお前は……会長からとって長さんだな」
「いやこれ別の長さん!」
「これならリーダーとしての威厳も、ユーモア溢れる親近感も出て来るし完璧だろうが」
「だからってコスプレしてどうする⁉︎ 結局、頭からタライ落とされるだろうこれではああああ‼︎」
「リーダーたるもの、時にはタライくらい落とされないとダメだ」
「貴様にも落として少しはマシな思考回路にしてやろうか⁉︎」
なんてやっているときだった。そんな二人のよく聞いた声が耳に届く。
「あ、銀時先生!」
「あ? ……あれ、ハニトー掃除機」
「どんな呼び方してるんですか⁉︎」
スペシャルウィークだった。元気にツッコミを入れてくれる辺り可愛らしいものなのだが、ルドルフは思わず大量の汗を流してしまう。この格好……学園の生徒に見られるわけにはいかない。
「スペちゃん、どこ行くのー?」
「あれ、動画の人デース」
「あら、ホントですね」
「と、もう一人いらっしゃるようですが」
しかも後ろからセイウンスカイ、エルコンドルパサー、グラスワンダー、キングヘイローまでついて来た。
それにより、ルドルフは完全に銀時の背中に隠れてしまった。
「おいいいい! どうするんだ、銀時先生⁉︎ こんな格好、あの子達に見られでもしたら……!」
「後ろの方は誰ですか?」
「ッ⁉︎ ッ⁉︎ っ⁉︎」
文句を言っている途中で見つかってしまう。こうなった以上、もはや堂々と姿を表すのがトレセン学園代表としての威厳なのか、それとも諦めずに足掻くのがベストなのか。
「呼んでるぞー」
「呼んでるぞー、じゃない! 誰の所為でこうなってると思ってる⁉︎」
思わずツッコミをあげて顔を出してしまった。おかげで、ばっちり5人と目が合う。
バレた、と思って思わず顔を隠そうとした時だ。スペとエルが、純粋な視線で小首を傾げた。
「……誰ですか?」
「面白いカッコウしてマース!」
ルドルフとさえ認識されていなかったのは、ラッキーなのかアンラッキーなのか。とりあえず、今のうちにこの場を離れたい……と、ルドルフは思ったのだが、銀時は真顔のまま答えた。
「この人、長さんっつーんだ。俺の知り合い」
「っ!」
なんで言うのなんで言うのなんで言うの? と強く思ってしまったが、この際仕方ない。銀時の腰に拳を打ち付けながら顔を出す。
「は、初めまして。……何のつもりだ、貴様」
「落ち着けよ。この際だ、このまま正体を隠して一緒に遊んだらどうだ?」
「っ、ば、バカ言うな! もしバレたら……」
「顔面剥き出しなのにバレてねー時点でバレねーよ。それより、生徒と実際に遊んで、どんな遊びをしているのかとか把握しといたほうが良いんじゃねーの?」
「……っ、そ、それはそうかもしれないが……!」
……まぁ、確かに正体がバレなければ問題は無いかもしれないが。バレていないからこそ分かることもあるかもしれない。
「お前ら、これから何すんの?」
「缶蹴りです!」
「近くの公園で、本気で缶蹴りをやろうって話になってねー」
「私も、日本のそういう遊びは初めてなので楽しみです」
「でも、ウマ娘の蹴りを浴びたら、缶じゃ粉々になっちゃうから、代わりになるものを買いに来た、というわけよ」
なるほど、と銀時は理解する。まぁウマ娘の蹴りに耐えられるものを買う、という時点で割と値は張りそうな気がするが。
「そうだ、銀時先生も一緒にやりまショウ!」
誘って来たのはエルだった。
「それ楽しそうですね!」
「ちょっと、それ大丈夫なの? 人間がウマ娘の中に混ざって競技になるのかしら?」
「大丈夫ですよ! 銀時先生、最近じゃエアグルーヴ先輩を助けたくらい強いんですから!」
勝手に話は進むが、まぁ自分が混ざった方がルドルフを混ぜるのもすんなり行くと思い、頷いた。
「まぁ良いけどよ、それなら長ちゃんも一緒で良いか?」
「勿論です!」
「拒む理由はありません」
「えー、正気? あの格好、中々目立つと思うけど」
「まぁ良いではありませんか。たまには」
との事で、本当に一緒に遊ぶ事になってしまった。
×××
さて、近くの公園。でっかい滑り台やジャングルジム、木々などが設置されてあるそこの中央に空き缶を置く。
鬼はセイウンスカイとなり、残りのメンバーは隠れ始めた。
「よし、始めるよー」
その中で、滑り台の足元に隠れたのは三人いた。
「まったく……まさか本当にこんなことをする事になるとは」
「馬鹿野郎、えーっと……エンジェルヘイロー?」
「キングですわ、キング!」
「時には童心に帰ることも大事なんだよ。隣の長さんを見ろ。童心にしか帰ってねーだろ」
「いつの時代の子供だ私は⁉︎ リアタイで見てたら貴様より年上だろう私は!」
そう言いながら、銀時は気合を入れるように二人に声をかける。
「とにかくテメーら、やるからには負けんじゃねーぞ。缶蹴りってのァ戦争だ。誰かが蹴ったら勝ちじゃねェ、缶を倒せば勝ちなんだ」
「名前の意味!」
「そんなわけで、投石用意」
「昔の戦争か!」
銀時の号令で、足元の石ころを手にする銀時とキング。
「って、キングヘイロー! 君まで何している?」
「いえ、確かにキングとして負けるのはちょっとゴメンですので」
「万が一にもセイウンスカイに当たったらどうするつもりだ?」
「実は昨日、併走の待ち合わせをお昼寝でドタキャンされまして」
「報復するつもりか⁉︎ とにかく、石はダメだ、石は!」
慌ててルドルフに止められ、二人は手を引っ込める。
「んだよ、うるせーなー。長さんの癖に体を張ること恐れやがって」
「まったくだわ。時には非情に徹することも勝負には必要ですのよ?」
「非情ではなくラフプレーというんだ貴様らのは!」
「わーったよ。じゃあ手を変えよう」
まぁ、それなら助かる。あんまり悪どい手を使って事故でも起きたら最悪だ。
ほっと胸を撫で下ろす横で、ヌッと銀時とキングが手を振り上げる。
「タライ用意」
「手を変えるって、手の中のものを変えるって意味じゃないから! ていうかどこから持って来たそのタライ⁉︎」
「発射」
「投げるなああああああ‼︎」
直後、グワアァァァァンッッ……と、直撃した後が公園中に響き渡る。セイウンスカイの頭に。
「ああああ! 思いっきりヘッドショット!」
「キングゥウウウウ‼︎ 頭に当てて良いのは上からだけだと言ったろオオオオ‼︎ 横から当たるなんてド○フでもやってねえぞおおおお‼︎」
「わ、私の所為なの⁉︎」
「どっちも共犯だああああ‼︎」
慌てて駆け寄ろうとした三人だが、スクッと普通にスカイが立ち上がった事で、滑り台の柱の影に3人とも隠れる。流石、ウマ娘。パワーが並外れているだけあって、耐久力も高い。
……が、それは決して怒りへの沸点には別問題である。かつて無いキレ顔を披露したセイウンスカイは、ジロリと飛んで来た方向を睨み付ける。
「……ヤバい、ヤバいわよ。あの顔は私も見た事ない……」
「み、見つかったら……?」
「猫の餌にされる」
確かにやばい。
ゆらりと歩き始めるセイウンスカイは、真っ直ぐとこちらに歩いて来ていた。滑り台の足元にいることがバレているのか、それとも中にいると思われているのかは謎だが、このままでは見つかる。
「ど、どうするんだ……?」
「こうなったら、柱を利用してセイウンスカイの動きに合わせて回れ。そして、奴が俺達の身を通り過ぎた直後、一気に走って缶を蹴り飛ばして逃げるぞ」
「缶蹴りを続行している場合なのか⁉︎」
「しっ! そろそろおしゃべりはやめないと!」
との事で、三人とも黙る。ゆったりした足取りのセイウンスカイは、滑り台の下、柱の後ろを見て回る。
その視界にあわせて、三人とも実に器用に見つからないよう回る。慎重かつ静かなその動きは、まるで忍者のようにさえ思えた。
そして、セイウンスカイの身体が三人の体を追い抜いた直後……三人とも走り始めた。それにより、セイウンスカイの頭上の耳もピクッと反応する。
「見つけた殺す」
「走れええええ‼︎ バレたああああ‼︎」
「もう走ってるわああああ‼︎」
「ていうか今、殺すって言ってなかった⁉︎」
背中を追うセイウンスカイは、ふと気がつく。銀時とヘイローはともかく、先頭を走るふざけた格好のウマ娘は、何だかやたらと足が速い気がした。
トレセン学園の生徒でもないのに何者なのか非常に興味があったが、そんなのは仕留めれば分かる事だ。
そんなわけで、まずは手前側の二人を仕留める。怒りにより身体能力を向上させ、一気に銀時とキングの間にくると、タンッとジャンプし、両サイドに廻し蹴りをぶちかました。
「キングヘイロー、天パ先生、長さん見〜っけ」
「ぐほっ‼︎」
「ぶはっ⁉︎」
蹴り飛ばされ浮き上がる二人の足を、セイウンスカイは掴む。それと同時に、残り1人をロックオンするなり、一気に両腕に力を込める。
「かーんふーんだ!」
「踏まされたあああああああ‼︎」
ぶん投げられたヘイローはルドルフの背中へ、そして銀時は缶に突っ込まされた。
×××
さて、第二ゲームはキングヘイローが鬼。銀時は、今度はルドルフとグラスワンダーと木々の方に隠れる。
「ふぃ〜……殺されるかと思った」
「殺されててもおかしくなかったがな」
「まったくですよ?」
グラスワンダーがニコニコ微笑みながら告げる。
「そもそも缶蹴りでタライを投げるな。勝てば良い、にも限度があるだろう」
「だよな。やっぱ大き過ぎると狙いが定まらなくなるもんな」
「そういう問題ではない!」
「そんなわけで、ボウル用意」
「だから投げ物はやめろ!」
手元にあるボウルは、これまたド○フのコントでよく使われていたものだ。
「安心しろ。このサイズなら手元は狂わねーし、万が一当たっても怪我はしねーよ」
「当たらなくても怒られるだろう! いい加減学んだらどうだ⁉︎」
「その時は、もうこっちにこいつを持って来た」
言いながら銀時は、木の後ろに隠してある原チャリに手を置いた。
「いやだからそういう事じゃないと……!」
「発射!」
「させるか……あっ!」
止めようとしたが、それによって明後日の方向へボウルは飛ぶ。そこそこな速さでキングヘイローの頭上を大きく飛び越えたそれは、カツンっと音を立ててひょこひょこ動く黒い耳の上に直撃した。……ナリタブライアンとマラソン中のエアグルーヴの頭に。
「「あっ」」
ジロリと一発でこちらに顔を向ける。やばい、と思ってあたりを見回すと、すでにグラスワンダーは別の場所に隠れに行っているのが見えた。
直後、一気に走り出してきた。
「このチリチリたわけがああああああああッ‼︎」
「「ぎゃああああああああああああああッッ‼︎」」
銀時は原チャリに跨り、ルドルフは走り始めた。
×××
それから、約30分後。なんだかんだ言って撒いた二人は、万事屋の教室に戻って来ていた。
「はぁ、ふぅ……なんだか、普段のトレーニングより疲れた気がするよ……」
「俺もだわ……何処かの誰かがガス抜きの仕方も分からねえっつーからよ……」
「ほとんど君が蒔いた種だろう⁉︎」
「テメェだって賛同してやったことだろ!」
「私は何も投げてない!」
「止めずに見てただけでも罪だって先生に習わなかったか⁉︎」
「だから、先生はお前だろ‼︎」
なんて言い合いになりながら、二人とも小さくため息をつく。
ストレスが溜まりっぱなし……のはずなのに、ルドルフの胸の奥では、何故か少し清々しさがあった。
……思えば、だ。今まで割と長くウマ娘達の代表である為……そして「誰もを導く頂点となり、皆を導くウマ娘で有りたい」と強く願って来た。
だから、こんな風に喧嘩に近い本音をぶつけ合える相手は初めてだった。……いや、それだけではない。何なら、後輩たちと気兼ねなく遊ぶ、なんてことも初めてかもしれない。まぁ、ほとんど邪魔しかしていないが。
その自身の中の「スッキリ」という感覚を理解したとき、ようやく目の前の男が言っていた「ガス抜き」という言葉の意味を理解した気がした。
「銀時先生」
「あん?」
「今日は、付き合ってくれてありがとう」
「何だ急に、気持ち悪ィ」
「そう言わないでくれ。……それで、だ。また予定が無くなるような日があれば、ガス抜きに付き合ってくれるか?」
「勝手にしろ。次は、加○茶の衣装でも用意しておいてやる」
「いや……仮装はもう勘弁してくれ……」
そう言いつつも、思わず笑みが漏れてしまった時だった。
ガラッと勢い良く教室の扉が開かれる。姿を現したのは、エアグルーヴだった。薙刀を持って。
「見つけたぞ」
「「あっ」」
やべっ、と二人して肩を震わせる。
「え、待ってエアグルーヴさん? 何その薙刀?」
「グラスワンダーから借りた」
「薙刀がありなら木刀くらい良かったんじゃねえの⁉︎」
「黙れ。そんな話はどうだって良い」
まずいまずい。ガチギレしている。銀時がギッギッギッと隣を見ると、ルドルフはカツラと鉢巻を取って髪を下ろし、耳を出していた。
「ま、待ってくれエアグルーヴ! 実は私はルドルフだ!」
「あっ、テメェ汚ねーぞコラァっ‼︎」
「知るか! そもそも私は君の投擲を止めようとしただけだ!」
「嘘でーす! この人も一緒になって投げてましたー!」
「嘘はお前の方だろ! 本当に教師か君は⁉︎」
その直後だった。エアグルーヴは「え、もしかして使ったことあるの?」と思ってしまう程に鮮やかな太刀筋で、机を一つ両断した。
「……何にしても、同じ事です。二人とも、覚悟は出来ていますね?」
「「……」」
この後、普通に怒られた。
ちなみに後日、何故かこの学園に「長さん」と呼ばれる伝説のウマ娘がいるとかいないとかという噂が流れたとか何とか。