トレセン学園銀八先生。   作:バナハロ

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クロスオーバーの醍醐味は、異世界のキャラクターが如何にいろんなキャラと関わるかが面白いとこだと思っています。
何が言いたいかと言うと、アオハルは多分やらないけど樫本理子が出て来ます。


秘密の共有で得られる絆は限られている。

 トレセン学園の施設はどれも最新式……しかし、古典的なトレーニング方法が効果を発揮する事もある。腕立て伏せとか兎跳びとかそう器具を使わずにできる奴……そして、スタミナを鍛えるためのプールとか。

 プールは全身の筋肉を使う上に、呼吸が出来ない水中での活動でもあり、肺活量を鍛えることも出来るため、かなり効果的なものだ。

 故に、今日もプールを使ってトレーニングするウマ娘とトレーナーも少なくない。……まぁ、まだ梅雨前なので多くもないが。

 さて、そんなプールのトレーニング中、ピピーッという笛の音が響き渡り、全員が音の主の方へ顔を向ける。

 

「はぁーい、休憩ターイム。唇紫になって来ただろ? 全員、1分間プールサイドに上がって身体を休ませろー」

 

 その言葉にザワザワとザワつくような声が響き渡る。今まで休憩時間なんて各々でタイミングを見計らっていたから、動揺しているのだろう。

 その銀時にやんわりと声を掛けるのは、やはり大人であるトレーナーだった。

 

「あ、あの……すみません。休憩はわれわれ、トレーナーが責任を持ってウマ娘達を見ているので、一斉に取る必要はないと思うのですが……」

「はい、そこ。黙り腐ってください」

「いや黙り腐るって何?」

「今のご時世、みんながみんな松○修造ってわけにいかないの。『出来る!』『あと一回!』『根性!』は子供を追い込む洗脳ワードだと思われる時代だからね。実際、根性ってステータス一番いらないし」

「何の話⁉︎」

「ていうか、根性ってステータスなんだよ。どうやって数値化してんだよ。拷問の訓練か何かか? 何で根性でパワーとスピードが上がるの? 良いとこスタミナだろうが」

「なんか言っちゃいけないこと言ってませんか⁉︎」

「とにかく、子供の教育になんだかんだ将来を見越して一番、必要なのは周りに合わせる協調性だから。こういうところでみんな一緒に休み、みんな一緒にまたトレーニングする。型破りな事ばかりやらせたって、常識が身についていなかったら社会不適合者になっちゃうからね」

「良いこと言ってる風だけど、今まで休憩時間をまとめて取ろうなんて風潮なかったから! あんたが一番型破りなことしちゃってるから!」

「あーもう、うるせーな。今日のプールの責任者は俺なんだよ。各々で休憩取らせて万が一、事故起きたら怒られるの俺なんだから。そういうめんどくせーの排除してーし、さっさということ聞けや」

「それが本音じゃねえかああああ‼︎ ふざけんなあんた⁉︎」

 

 そのツッコミで、何人かのウマ娘は無視してプールの中に戻ろうとし始めていた。

 

「ふーん。お前らそういう態度取っちゃうんだ。じゃあ良いよ? 好きにすれば? プール舐めてるとマジ取り返しのつかないことになるからね。知らないよ俺?」

「知らなくて良いわ! こっちもあんたの事情なんて知ったことじゃねーし! ……よし、ライス。もう一往復行っておいで」

「うん! ……うん?」

 

 その直後だった。急に、ザブンッ‼︎ という強烈な水飛沫と共に、中央で泳いでいたウマ娘の姿が消えた。

 

「え……いま、あそこにいた子……消えた……?」

「う、うそ……だろ?」

 

 その後、消えた地点からゴボゴボ……っと、泡が弾けだす。それが、徐々に激しくなり、同時にやたらと力が込められ、血管が浮き出た片手が藁でも掴もうとするように激しく動く。

 

「お、お兄様……! 誰か、溺れてる!」

「ま、マジかよ⁉︎」

「チッ、しまった。やはりこうなったか! 周りのウマ娘は皆、離れろ! ここは俺が……!」

 

 そう言いながら、銀時がプールに飛び込んだ直後だった。顔が水面から沈むまでの間に、爪先が水底に付かないことに気が付いてしまった。

 

「あだばああああああ‼︎ た、助けてくれええええええッッ‼︎」

「「「「お前も溺れんのかよおおおおおおお‼︎」」」」

「深かったんだ! 思ったより深かったんだ!」

 

 全員からのツッコミが炸裂した直後、溺れていたはずのウマ娘が普通に水面から顔を出し、スィーっと銀時の身体を腕に掛けてプールサイドまで運ぶ。

 出て来たのは、ダイワスカーレットだった。

 

「泳げない癖に何でこんな作戦立てたのよあんた⁉︎」

「グフッ、ゴホッ……! いや、足がつく深さだと思ってて……」

「競泳プールが浅いわけないでしょうが!」

 

 なんなら溺れていたウマ娘も仕込みだったとバレ、トレーナー達は無視して再び泳がせ始めてしまった。

 そんな時だった。そのプールサイドに、新たな声が響き渡る。

 

「待ちなさい、皆さん!」

 

 その声で、またウマ娘とトレーナーは動きを止めるハメになった。顔を上げると、そこに立っていたのはプールサイドなのにスーツ姿の女性だった。

 全員が全員、見たことある。というより、見たことがない人間はいないだろう。

 

「……誰だ? あの姉ちゃん」

「何言ってんのよ。樫本トレーナーでしょうが」

 

 一人を除いて。

 

「私はあの方が言うことにも一理あると考えています。事故とオーバーワークを少しでも減らすために、休憩は他のウマ娘と一斉に取る……それを一度、試験的な意味合いでも行ってみるのは如何でしょうか?」

「……」

 

 その厳格な声と態度に、言っていることは銀時と同じでも、周りのトレーナー達は従うような素振りを見せた。

 一先ず、ウマ娘を切り上げさせ、プールサイドに上がらせてタオルで身体を暖めてやる。

 その絵面を眺めながら、銀時は少し驚いた様子でその女性を見る。

 

「スゲーな……もしかして、キシリア様か何かなの?」

「違うでしょ。……トレーナーとしてかなりの実績を残してるから、みんな何も言えないだけよ」

「ふーん……出て来たニキビを潰すともっと面倒になるから放置してるみてーな話か?」

「なんて例えしてるのよ!」

 

 なんて話していると、その銀時にも樫本理子から視線が向けられる。

 

「?」

「……一先ず、一分間です。それが終わったら、参りますよ。リトルココン、ビターグラッセ」

「「はい」」

 

 いつのまにかその日の責任者は理子になっていたが、そのまま今日の依頼はなんなくこなし終えた。

 

 ×××

 

「大変だったな、スカーレット」

「まったくですよ……この人、まさか泳げないとは……」

「うるせーな、お前らだって簡単に素直になれねーだろ? それと同じだ」

「う、うるさいぞたわけが!」

「ぶっ飛ばすわよホント⁉︎」

「ツンデレのお手本かお前ら」

 

 そんな話をしながら、翌日の万事屋では愚痴大会が開催されていた。

 

「そもそも、俺の言ってること間違ってたか? アホばかりのウマ娘達に好き勝手泳がせたりなんてしたら、確実に事故が起こるだろ」

「理屈は分からないでもないが、最後にぶっちゃけたのが良くなかっただけだろう。……というか、なんでぶっちゃけた?」

「本音だったから」

「ならダメに決まってるだろう! それが本音なのが何となくわかっていたから貴様の言うことなど誰も聞かなかったんだ!」

「仕方ねーだろ。実際、本音だったんだし。どうせ事故なんて起こりゃしねーよ」

「言ってることめちゃくちゃだぞ貴様!」

 

 本当に適当な男である。良くもまぁ口がそこまで回るものだ。どんな育ち方をしたのかさえ気になってくる。

 

「まぁ、そう怒鳴んなよ。結局、事故なんて起こらずに終わったんだから良いだろうが。なぁ?」

「あんたは溺れてたけどね」

「お前もだろうが」

「アタシのはフリよフリ! てか、あんたが溺れさせたんでしょうが!」

 

 そんないつもの万事屋のグダグダが、何となく日常化しつつあった時だった。コンコンとノックの音が聞こえる。

 

「あ、どうぞ」

 

 そのスカーレットの声で顔を向けると「失礼します」という挨拶と共に入って来たのは、昨日の樫本理子であった。

 

「か、樫本トレーナー⁉︎」

「こんにちは。ダイワスカーレット、エアグルーヴ。……そして、坂田銀時先生」

「席をご用意いたします。……こちらへどうぞ」

「ありがとうございます」

 

 エアグルーヴが見事な手捌きで席を用意し、その後に続いてスカーレットが紙とペンを用意する。その紙はノートではなく、エアグルーヴがこの万事屋用にわざわざ作った用紙である。

 

「あの、こちらにお名前と相談内容をお願いします」

「構いません。……が、プライバシーは守られるのですよね?」

「勿論です。この記録も、後から見直すためなどではなく、単純に記録としてとっているだけですので」

「……なるほど」

 

 そんなに周りに知られたくない内容なのだろうか? 気になったが、とりあえず書き終えるのを待つ。

 そんな中、緊張気味のスカーレットが銀時の耳元で囁くように聞く。

 

「……トレーナーさんが何の用なの?」

「……知るかよ」

「もしかして……昨日のプールの件? でも、銀さんにむしろ賛同してたわよね?」

「なんか学園の改革とかなんとか言ってたな……その革命軍の頭数に数えられたりとかか?」

「ええ……困るわよ、それ」

「俺もだよ。俺ァ、FFは7より3とか4のが好きなんだからよ」

「何の話よ」

 

 なんて話していると、書き終わったのかペンを置いた。

 

「書き終えました」

「預かります」

「……他言無用でお願いしますね?」

「わーってますよ」

 

 返事をしたのは銀時。その紙を拝見し、書かれていたのは……。

 

『もう少し体力をつけたいです』

 

 あ、アバランチどころかスペランカー並みの相談内容だったああああ‼︎ と、銀時は吹き出しそうになる。

 

「恥ずかしながら……私は昔から運動が苦手でして……」

「はぁ」

「私も今後はまたウマ娘を導き、彼女達の健康面を管理し、共にトップを目指そうと考えています」

 

 厳格な表情のまま、そう語り始める。もしかして、体力をつけたいと思うようなことが、実際にあるのかもしれ……。

 

「そのためには、チームメイトとの交流も必要不可欠と考えていますが……あの子達の体力に、私ではついていけません。トレーナーたるもの、ウマ娘の足を引っ張るようなことだけは避けなければいけません。どんな事があっても」

「それで、体力ねぇ……」

 

 分からなくもない、と思う銀時の横でスカーレットが「あの……」と口を挟んだ。

 

「それで……なんで銀さんなんです?」

「銀さん? ……ああ、彼の事ですか。慕われているのですね」

「っ、し、慕ってなんかないです! ほんと軽蔑してるので! 基本的にアタシ、この男のこと嫌いですから! 良い歳してジャンプばかり読んでますし、医者に止められるほど糖分ばっかとってますし、いつもいつも身勝手で人を振り回してばかりですし!」

「目の前で言っちゃうんだ」

「つまり……子供の目線になってものを考え、行動出来る……と。素晴らしい方ではないですか」

「どんな好意的解釈⁉︎」

 

 スカーレットのツッコミにも気付かず、理子はウンウンと頷きながら続ける。

 

「実を言うと、昨日のプールでの件……あなたのその生徒を守ろうとする姿勢はとても好意的に感じられました。如何にウマ娘と言えど、まだ子供。外部的要因を除いても、オーバーワークで身体を壊すこともあり得ます。それを管理すると言う考えには賛成しております」

「あ? お、おう?」

「その上、泳げないながらにウマ娘を助けようと飛び込む覚悟、感服いたしました」

「いや、アレは……」

「昨日の件だけではございません」

 

 単純にサボりたかっただけ、と言おうとするスカーレットを遮って理子は続ける。

 

「サクラバクシンオーを助ける為に自ら身を投げ、そちらのエアグルーヴの身を守るため、刃物を持つ男の前に立ち塞がる……そこらのトレーナーなどより余程、ウマ娘に関して考えられている方だとお見受けします。私が私自身の弱みを相談する相手は、あなたのような方に、と考えておりました」

「いえ……ですから」

「まぁ、話は分かりましたよー」

 

 割と長い期間黙っていた銀時がスカーレットの台詞を遮った。目の前でベタ褒めされたわけだが、この男はどうするのか? と、スカーレットとエアグルーヴはチラリと銀時を見る。

 

「要するに、強くて優しくて生徒の事を一番考えているGTG(グレートティーチャー銀さん)に、人並みの体力がつけられるよう助言をして欲しい、と。そういう事ですね?」

 

 調子に乗っている、引くほど舞い上がっていらっしゃる、とスカーレットとエアグルーヴは内心でツッコミを入れながら固まってしまう。

 

「ええ、そういうことです」

「お任せ下さい。あなたをクリリン並みに強くしてみせましょう」

 

 いやお前がクリリンより弱いだろ、と二人揃ってツッコミを入れる中、銀時は気付かずに立ち上がった。

 

「じゃ、まずはやっぱり形から入ろうと思います」

「形、と言いますと?」

「何事も目に見えるところから入った方が気合が入るでしょう」

「ふむ……確かに?」

「そんなわけで、こちらで動きやすい格好を用意しました」

 

 いつ用意したの⁉︎ と二人にまた内心でツッコミを入れられつつも、銀時は立ち上がり、掃除用具入れを開ける。そこから、スーツをしまうハンガー付きの袋が数枚、出て来た。

 

「好きなのを選んで着替えて下さい」

「流石の用意の良さですね」

 

 いや初耳です、ホントいつ用意したのこの人? と二人がツッコミを入れる中、銀時は席を立った。

 

「では、30分後に土手集合で。まずはどれだけ体力が無いのかを見たいので」

 

 まぁ確かにスタミナがない、と言ってもどれだけ無いのか見ておくのは必要だろう。その為には、なんだかんだ大事なのは走り込みだ。

 

「お前らもジャージに着替えて来い」

「……ええ」

「……大丈夫なのかこれ?」

「まぁ、やるときはやる人ですし……」

 

 との事で、二人は銀時と一緒に部屋を出て行った。

 

 ×××

 

「はぁ……正直、憂鬱です」

「分かるが……これも仕事だろう」

 

 話しながらジャージへの着替えを終えたスカーレットとエアグルーヴは走る前から疲れた様子で土手へ向かった。

 

「こんな事してて本当にアタシ、ウオッカに勝てるのかな……」

「それは、銀時ではなくスカーレットの問題だろう? 元々、彼が私達を集めたのではなく、私達が彼について行くことにしたのだから」

「そうですけど……やっぱ焦りがないと言ったら嘘になりますよ」

「……まぁ、仕方ないだろう。ついて行くと決めた以上は、私達に必要なのは銀時から何を学ぶか、に集中することだ」

 

 そうだ。悪い人では無いのは分かっているが、元々レースにおいては素人。何かを盗むつもりで彼と共にいないと、本当に時間の無駄になってしまう。

 改めてそう胸に秘めながら土手に到着すると、既に銀時は到着していた。いつもの白衣姿とサンダルのまま、原チャリを横に置いて。

 

「「お前は走る気ゼロかああああああ‼︎」」

 

 二人揃って飛び蹴りが背中に炸裂した。ズシャアアアアッッと転がる銀時。

 

「何であんたが言い出したランニングであんただけ走る気ゼロなのよ⁉︎ アタシ達にまで着替えさせておいて!」

「せめて原付は置いて来い! 自転車ならともかく、貴様体を動かす気さえゼロだろそれ⁉︎」

「うるせーなー……疲れると汗かくだろうが」

「あたりまえ体操みたいな事言わないでくれる⁉︎」

「アレだけ期待させていた人に、そんなやる気ない姿を見せてどうする! 早く着替え……いや、着替える前に原付を置いて来……!」

「あの……すみません、お待たせしました……」

 

 来てしまった。樫本トレーナーが。二人して恐る恐る振り返ると、その理事長は下半身は腰に巻かれた花柄のパレオ、上半身は胸の谷間が強調されたジーンズの上着、頭にはサングラスをかけた、二年後にシャボンディ諸島に集合した悪魔の子みたいな格好になっていた。

 

「あの……これ、衣装間違ってませんか?」

「「うがああああああ‼︎」」

「うおおおおおおお⁉︎」

 

 再び二人の蹴りが転がっている銀時に炸裂した。

 

「な、なんて衣装を選んでるのよあんたは⁉︎ セクハラよ、セクハラ!」

「樫本トレーナーも、何故律儀に着ているのですか⁉︎ 他にもいくつか衣装あったでしょう!」

「いえ、あの……他は泥棒猫とか海賊女帝とかで、露出度が高かったり、走りにくそうだったので……」

「じゃあスーツのまま来れば良かったでしょう!」

 

 確かに、と今更になって納得する理子。この人、意外と天然なのかもしれない。

 

「とにかく、着替えて下さい! お似合いですけど、視線をかなり集めてしまいます!」

「そ、そうさせていただけると助かります……」

「銀時! ついでに貴様もだ! あと原付置いて来い!」

 

 そんなわけで、また30分後に集合することになってしまった。

 

 ×××

 

 さて、再び土手沿。今度こそ、全員土手沿に集まり、四人は走り始める事にした。

 

「じゃあ走りますが……掛け声を決めまーす」

「何故です?」

「なんかそれっぽいからです」

 

 如何にも適当な返事だが、まぁ走り込みをする際、掛け声をするのは定番といえば定番だ。

 

「掛け声の内容は、俺が『ダイワ』と言ったら、三人は『スカーレッツ』と言って下さい」

「分かりました」

「分かった」

「分からないわよ! なんでアタシなの⁉︎ あとなんで最後だけ英語っぽい発音⁉︎」

「5回に一回はハ○スって返して」

「いや下らないわ! 殴りたくなるほど下らないわ!」

「じゃあ行くぞー。ダイワ」

「「スカーレッツ」」

「ホントにやるの⁉︎」

 

 身勝手に始まったわけだが、まぁエアグルーヴも理子も、反対する理由もなかったのでノってしまった。

 なので、仕方なくスカーレットも乗ることにする。

 

「ダイワ」

「「「スカーレッツ」」」

「ダイワ」

「「「スカーレッツ」」」

「ダイワ」

「「「スカーレッツ」」」

「タイヤ」

「「「え、マ○ゼン?」」」

「何で合わせられんだよ」

「「「何で打合せにないことやるの⁉︎」」」

「強いて言うなら『○ゼン』のが良かったな」

「「「何の話⁉︎」」」

 

 なんて銀時の自由気ままにランニングは続く。

 

「ダイワ」

「「「スカーレッツ」」」

「ダイワ」

「「「ハ○ス」」」

「ダイワ」

「「スカーレッツ」」

「ダイ……あれ、今カギカッコ減ってなかった?」

「「?」」

 

 銀時のその声で、後ろにいた二人も足を止める。二人ということは、もう一人足りないわけで。

 振り返ると、ジャージ姿の理子は、まるで絨毯にでもなったかのように倒れ込んでいた。

 

「……何してんの?」

「なん、でも……ありま、せん……! ちょっと腰と股関節と膝と足首に、キただけです……!」

「下半身の関節全滅してるじゃねーか! 本当にス○ランカーか⁉︎」

「な、なんのこれしき……あうっ」

「これしきで、生まれたての子鹿みたいになってっから! 立てなくなってっから! ……ったく、しゃーねーな。エアグルーヴ」

「大丈夫ですか?」

 

 エアグルーヴが肩を貸して立たせてあげる。

 

「歩けますか?」

「問題、ありません……!」

「銀時、ダメそうだぞ」

「この貧弱さでどうやって生きてんの?」

 

 タンスの角に指をぶつけただけで死にそうだ。だが、当の理子は肩で息をしながらも確かな視線を持って銀時を見上げる。

 

「わ、私なら……本当に問題ありません……!」

「いや問題しかないだろ」

「このくらい……あの子達のためであるならば……!」

「……」

 

 不甲斐ない、と言わんばかりのオーラだった。その気迫は、銀時も思わず押し黙ってしまうほどのものだ。

 

「……続けるからには、土手一周するまでは休ませねーぞ」

「が、頑張ります……!」

「俺、ドSだから。その辺覚悟しとけ」

 

 そう言いつつ、とりあえず銀時はエアグルーヴに目を向ける。頷くと、エアグルーヴは理子を肩から離した。

 

「ダスカ、ちょっと」

「? 何?」

 

 銀時は、スカーレットを手招きし、少し耳元で話した後、走り込みを再開した。

 

 ×××

 

 さて、ランニングもいよいよ終盤。銀時達にとっては歩いた方が早い速度ではあるが、それでも走り続けてはいられている。

 だが、エアグルーヴの中で不安が大きくなって来ていた。何故なら……。

 

「ヒィーっ、ヒィーっ……!」

「……おい、銀時。大丈夫なのか?」

「何が」

「彼女、呼吸と呼べるか分からない息の仕方してるぞ」

「やるっつった以上はやらせてやった方が良いだろ」

「だが……死にそうだぞ。今にも」

「そう思うんなら、横で応援ソングでも歌ってやれよ」

「っ、わ、私が、か?」

「そうだよ」

 

 言われて、エアグルーヴは顎に手を当てる。

 

「……や、やはり……『負○ないで』とか『r○nner』とかか?」

「バッカお前ホント、バカだわ。なんでそんなバカな回答をバカらしくバカにできるわけ?」

「ブッ飛ばすぞ貴様! バカバカ言い過ぎだ! 最後訳分からんし!」

「こう言う時は、クロスオーバーらしくいけよ。そんなわけで、銀魂のopメドレーをどうぞ」

「なんだそれは! 歌えんぞ私⁉︎」

 

 まぁそれは冗談にしても、銀時は真剣な顔で提案した。

 

「しかし……そうだな。やっぱ誰でも聞いたことある名曲が良いよな?」

「それはそうだが……」

「よし、千の風でいこう」

「どんなチョイスだ! ホントに風になってしまうだろう⁉︎」

「英語にすると速そうだろうが。サウザンド・エアーだぞ? エアグルーヴ的にもぴったりだろうが」

「いやしょうもないし腹立つわ、理由が!」

「じゃあエアーマン○倒せないとか」

「エアー繋がりはやめ……!」

 

 なんて話している時だった。後ろからドシャっと倒れ込む音が耳に響く。振り返ると、理子が転んでしまっていた。

 

「! か、樫本トレーナー!」

「だ、だいじょうぶです……!」

「大丈夫ではないでしょう!」

「エアグルーヴ、手は出すな」

「っ、ぎ、銀時……⁉︎」

 

 ゴールまであと10メートル弱。

 

「ほれ、あと少しだ。トレーナー殿。根性見せろ」

「っ、は、はい……!」

 

 立ち上がり、ゴールに向けて何とか走り始める。ヨロヨロと弱々しい足取りではあるが、それでも一歩ずつ確かに歩みを進める。

 その様子を、エアグルーヴは黙って眺める。正直、もっとクールで冷徹なイメージがある人だと思っていたが、ウマ娘のためならば、ここまで本気で必死になれる人だとは。

 トレーナーの中には、こんなに担当のために本気になれる方もいる事に、ギャップに近い何かを感じられずにはいられない。もしかしたら……トレーナーにここまで尽くしてもらうには、こちらもトレーナーに歩み寄る必要があるのかも……そんな風にさえ感じる。

 ……そして、ようやくゴールに辿り着いた。

 

「はーい、お疲れさん」

「はぁ、ひぃ……ふぅ……!」

「お疲れ様です。こちら、タオルです」

「あ、ありがとう……ござい、ましゅ……!」

「じゃ、次は逆回りでもう一周な」

「鬼か!」

 

 アホなことを言う天パにエアグルーヴがツッコミを入れた時だった。そんな三人のもとに、バタバタと駆け寄ってくる二つの影があった。

 

「か、樫本トレーナー⁉︎」

「何してるんですかっ?」

 

 慌ただしく駆け寄ってくるのは、リトルココンとビターグラッセ。その後方からゆっくり歩いて来るのは、ダイワスカーレットだった。

 そういえば、途中からいなくなっていたことを思い出している間に、二人はヘトヘトの理子に歩み寄り、声を掛ける。

 

「な、何があったんですか……⁉︎」

「走り込みがしたいっつーから、とりあえずガンダーラまで走らせただけだ」

「はああああああ⁉︎」

「と、とにかく……保健室!」

 

 なんて話しながら、二人は理子を連れて保健室に向かう。

 その背中をぼんやり眺めながら、スカーレットが銀時達と合流する。

 

「銀時の仕込みか?」

「そうです。二人に、偶然を装って合流させろって」

「あんだけ向いてねーなら、わざわざ周りに合わせる事ァねーだろ。……そもそも、ああやって10代の娘が汗だくの大人の汗とか一切、気にしねーで担いでやれるほど慕われてんだ。そもそも依頼に来た意味も無さそうなもんだろ」

「しかし……運動音痴を知られたくなかったのだろう?」

「だから濁して伝えたろうが。あの後、どう言うかはトレーナーさんの自由だ」

「……なるほど」

 

 そんな話をしながら、とりあえず一先ず終わった、とホッと一息ついた。

 

「ま、明日も来るようならまた明日、走り込みだな。お前ら、相手してやれ」

「いやあんたも来るのよ」

「俺はアレがアレだから」

「もしかして貴様、私達を舐めているのか?」

「うーっし、じゃあ今日はかいさーん。お前ら、気ぃつけて帰れよー」

 

 そんなわけで、解散した。

 

 ×××

 

 〜後日談①〜

 

 ダイワスカーレットは、荷物を取りに万事屋の教室に来た。あの後、せっかくなのでエアグルーヴと一緒にトレーニングをして来た。早めに解散してしまったのだし、時間は有意義に使わないともったいない。

 で、その後は既にシャワーも浴び終えて、あとは寮に帰るだけ……なのだが

 で、魔がさした。さしてしまった。

 ふと気になった、掃除用具入れ。開けると、やはりいくつか衣装が入っている。

 

「……」

 

 綺麗だったなぁ、と同性ながらに思う。それは勿論、理子のロビン姿である。元々、黒い髪を伸ばしているクールなタイプという点がかぶっていると言うこともあって、とても良くお似合いだった。少し色っぽくて、正直、写真に収めたいくらいだった。

 なんとなく、手に取った一枚を広げた。じーっとチャックを下ろして中を見ると、緑と白のビキニにジーンズ、そして天候棒まで用意されている。

 ……ワンピースの作者が考えたキャラクターの衣装なだけあって、やはり可愛い。こんな大胆な格好で表を歩く気にはならないが、一度くらい着てみるのも悪くないかも……なんて思ってしまった時には、着替え始めてしまっていた。

 カーテンを閉めて、シャルルっとリボンを外し、まずは上半身から着替え、続いて下半身。

 それと、せっかくナミの格好をするのならリボンを解いた方が良いかも、なんて思ってしまったり。

 

「お、おお……意外と……」

 

 良いかも、なんて思いつつ、天候棒を手に取って構える。

 

「“雷光槍=テンポ”‼︎ なーんて……」

 

 なんてポーズを決めて、一人ニヤニヤしている時だった。コツコツと足音が廊下から聞こえて来て、一気に正気に戻った。

 誰か来てる、とすぐに理解し、床を見る。着替えるのは間に合わない。というか、着替えの放置はまずい。ブラジャーまで落ちているから。

 慌てて回収すると共に、机の下に隠れた。直後、ガラッと入って来たのはエアグルーヴだった。

 

「……ふぅ、スカーレットはもう帰ったのか? 更衣室にスマホを忘れていたのだが……」

 

 自分が蒔いた種だったことに、心底後悔する。

 

「仕方ない。しばらくここで待つか」

 

 探しに行ってあげてー! と、自分の事ながらに涙目になってしまった。

 さて、待つとなればエアグルーヴが来るのは椅子の方だろう。足に当たらないよう、気を付けなければ……なんて身構えている時だ。机の下から見えるエアグルーヴの下半身は、掃除用具入れの前で止まった。

 え、まさか、と本人が行動に移す前に、スカーレットは理解する。嫌な予感がしたからだ。

 そして、何を思ったのか下半身だけのエアグルーヴは教室の鍵を閉めた後、スカートを脱ぎ始めた。

 やめてー! なんて思っている間に、エアグルーヴはサクサク着替えを続ける。

 

「ふむ……これは中々……」

 

 海賊女帝となって満足げに頷いていた。そんな様子を見て、普段とのギャップから生まれる尊さに、身悶えしそうになってしまうのを必死に抑える。身体が机にでも当たれば、もう台無しだ。

 そう思っていたのだが……。

 

「“メロメロ甘風”! ……なんてな」

「ふっぐぐっ……!」

 

 限界だった。ガタッと背中を強打し、机が倒れる。それにより、ビクッと肩を震わせたエアグルーヴが、恐る恐る顔を向ける。

 バレた以上は仕方ない。スカーレット(ナミ)も恐る恐る、身体を出した。

 

「……」

「……」

「……いた、のか……?」

「……は、はい……着ました……」

「……そ、そうか……」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 赤面するとかそんなんじゃなくて、単純に気まずさが二人の間でせめぎ合う。

 やがて、年上であるエアグルーヴの方が口を開いた。

 

「……まぁ、なんだ。この件は、我々の間で……」

「は、はい……」

 

 二人はこの日から、親友になった。

 

 ×××

 

 〜後日談②〜

 

 翌日、銀時が廊下を歩いている時だった。

 

「あの、坂田先生……」

「あん?」

 

 振り返ると、そこに立っていたのは理子の教え子であるウマ娘だった。名前は確か……。

 

「……リトルオーズ.Jr?」

「リトルココン!」

「ああ、はいはい。どしたの?」

「あんたに聞きたいことがあるんだけど……その……」

 

 恥ずかしそうに両手をモジモジと太ももの前あたりで擦る。もっとハキハキした子だと思っていたが案外、気弱なタチなのだろうか? 

 どちらにしても、文句を言われる可能性も否めないと思い、黙って聞く。

 そして、決心したのか、リトルココンは握り拳を作って叫ぶように懇願した。

 

「樫本トレーナーがロビンのコスプレをしたのは本当⁉︎」

「……は?」

「可能だったら、写真とか欲しいんだけど!」

「……」

 

 この子も大概、アホの子なのか、となんか馬鹿馬鹿しくなった銀時は、ため息をつきながら言った。

 

「写真なんてねーよ」

「っ、そ、そう……」

「……けど、コスチューム自体はある。だから、欲しけりゃくれてやるから、あとはテメーで上手く着せろ」

「! せ、先生……!」

 

 この日から、リトルココンの新たなる戦いが幕を開けたが、それはまた別の話。

 

 

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