トレセン学園銀八先生。   作:バナハロ

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数字に出ない点数もある。

 春が終わるころと夏が始まる頃の間の季節。だが、五月はまだ暑いと言う時期ではない。それなのになんとなーく暑いような感じがするのは、湿気の所為だろう。

 

「あー……ムシムシすんなぁ……」

「分かるわ……私も、髪パサついて来ちゃって……」

「つーかこの部屋、クーラーとかつけらんねーの? 最新設備が揃った学校なんだろ?」

「バカ言え。まだ作られて二ヶ月ほどの組織にクーラーをつけてやれるほど、経費は簡単に引っ張って来れん。そこのお茶を入れるためのテ○ファールだってだいぶ頑張って理事長に買っていただいたのだ」

 

 新設備を指しながら言ったエアグルーヴが「そもそも」と繋げて言う。

 

「この程度で暑がってどうする。まだ本格的な夏が始まる前だと言うのに」

 

 一人、強気な態度を見せるのはエアグルーヴ。生徒会の仕事を持ってきて、黙々と続けていた。

 その堅苦しいセリフを聞いて、銀時は心底腹立たしい声を出して言った。

 

「出たよ……暑さに耐えてりゃ、とりあえず根性あると思ってるタイプの奴。アレ絶対、修学旅行とかの温泉でサウナ入ったら嫌いな奴と一緒で、意地でも出ねータイプだぜアレ」

「黙れ。私はそんな子供みたいな遊びはしない」

「いやいや、するでしょう。ゴールドシップ先輩とかと被って挑発されたら絶対、乗りますよね」

「なっ、なんだ貴様まで! 大体、スカーレットに言われたくはない!」

「な、なんでですか⁉︎」

「おーい、そこでヒートアップすんなコラ。蒸し暑いのがさらに暑くなんだろうが」

「貴様が蒔いた種だろうが!」

 

 エアグルーヴに怒鳴られても銀時はどこ吹く風。鼻をほじりながら続けた。

 

「そもそもよォ、前から思ってたんだけど、ムシムシって擬音、なんかイラつかね? なんでムシムシだけ蒸しるをそのまま擬音にしてんだよ。全然、ムシムシって感じしねーよ」

「いや、貴様何処にキレてる?」

「気持ちは分かるけど、どうしようもないわよ。そんなの」

「分かるのかスカーレット?」

「なんかこう……せめて俺らだけでも別の擬音考えねーか? ムシムシとかいうシカトを推奨するような擬音じゃなくてよ、せめて暑さを緩和するようなやつ」

「良いわね」

「良いのか⁉︎」

 

 こいつ本当に大丈夫か⁉︎ と、エアグルーヴは心配になった。どうにもなんだかスカーレットの感性が少しずつズレてきている気がする。

 

「じゃあ〜……まず、エアグルーヴくん。何か言ってご覧なさい」

「わ、私からか⁉︎ ……じゃあ、ヒエヒエとか?」

「はい、バカですかオメーは。もう使われてる擬音使ってどうすんだよ。悪魔の実的に洒落になんねーよ」

「あ、暑さを緩和する奴と言ったのは貴様だろう!」

「だからって逆張りしてどうするんですか。伝わりにくいでしょう?」

「そ、それはそうか……じゃあ、スカーレットならどうするんだ?」

「そうですね……」

 

 一瞬だけ考え込んでから、スカーレットは答えた。

 

「……カイオーガとか?」

「思いっきりポケモンだが⁉︎ 良いのかそれで⁉︎」

「おー悪くねーかもな。あめふらしによる梅雨のイメージを出しながら、みずタイプの伝説のポケモンを使う事で涼しさも演出してる。良いアイデアだ」

「なんでそこまで深読み出来るんだ今の解答で!」

「銀さんならどんなのにするの?」

「俺か? 俺なら……そうだな。『このまま うごかず ふたつの ときを まて』とかどうだ?」

「なんで擬音に長文を使ってんだああああ‼︎ ていうかそれ、レジアイス捕まえる時の奴だろう⁉︎」

「あーそれも涼しそうで良いわね。むしろホラー感あるし」

「もう暑さを表現する気ゼロなんだな!」

「あーうるせーなー。なんなんださっきから暑苦しくグチャグチャグチャグチャ。そこまで言うんならテメーが決めろよ」

「な、何故私が……」

「では、エアグルーヴ先輩。よろしくお願いします」

 

 スカーレットにまで言われ、仕方なくエアグルーヴは言う事にした。

 

「……せめてカイオーガにしろ。呼びやすい」

「はい、じゃあこれから『ムシムシ』のことはカイオーガと呼ぶように」

「はーい」

「マジか……」

 

 まぁ、仕方ないと思い、もう面倒臭いので二人に合わせることにした。

 

「……とにかく、梅雨になれば今よりもっとカイオーガする。貴様ら、今の段階でグチグチとグチ垂れる暇があるなら……」

「あーあ……ムシムシすんなー、この季節」

「ホント、ムシムシするわよねー……」

「……」

 

 ブチッ、とエアグルーヴは眉間に皺を寄せる。書類を全て机の上に置き、指を鳴らしながら二人の元へ歩いた。

 

「貴様ら……そこに直れ。一発お見舞いしてやる。特にスカーレット、貴様にはキツいのをお見舞いしてやる」

「えっ」

「そう怒らねーでやれよ。たまにはボケる側に回ってみてーって言うから、俺が台本作って言わせただけだ」

「……スカーレット。あれに憧れるのはよせ。生意気さも度を越すとクソガキになるだけだ」

「す、すみません……でも、ちょっとだけ楽しかっ」

「よせ。スカーレット。頼むから」

「は、はい……」

 

 生徒を間違った道に進ませるわけにはいかない。というか、忘れていたがスカーレットもまだ中学生。まだまだ色んなものに影響されてもおかしくない年齢だ。

 もう少しちゃんと見張っておかないと……なんて身構えているエアグルーヴを全く無視して、ふと銀時は思い返したように言った。

 

「てか、お前ら試験勉強は?」

「平気よ、別に」

「私も問題ない。こう見えて成績も優秀だ」

「こう見えてって……どう見てもそうだろ」

 

 誰がエアグルーヴを見てバカっぽく見えると言うのだろう。

 

「でもまぁ、試験前ならわざわざこうして万事屋なんてやる事もなかったかもな」

 

 思った以上に試験の悩みとか来ないものだった。もっと殺到するものだと思っていたが、まぁそれ以上に普段の銀時の授業の様子を見ていれば聞きに来る生徒なんていないだろうが。

 すると、スカーレットが「あ、そうだ」と思い出したように言った。

 

「そうだ、銀さん。次の試験ってどんな感じなの?」

「あん? 言うわけねーだろ」

「言いなさいよ! あんたの普段の授業からどんな問題が出るかなんて皆目検討つかないんだから!」

「知るかよ。一教師として、そんな八百長みたいな真似は出来ない」

「普段から少年漫画をモデルにして授業する奴に教員としての矜持があるわけ⁉︎」

 

 全くだ。信用がないにも程があるセリフである。それでも銀時はのうのうとした顔のまま続けて言った。

 

「ま、そんな怒るな。そんな難しい問題じゃねーから。そんなに気負うような事ァねーよ」

 

 そう言いながら、銀時は欠伸をしてジャンプを読み進めた。

 

 ×××

 

 中間試験の日。今日の試験は国語。スカーレットは不安だった。何が不安って、試験の内容である。

 何せ、担当はあの坂田銀時。どんな試験が出るのか胸をドギマギさせながら待つ。

 基本的にこの時間、他の生徒は次の試験に向けて最後の追い込みをするところだが、誰一人としてそれをしている者はいなかった。何をすれば良いのか分からなかったからだ。

 ……いや、正確に言えば、何人かいる。テスト勉強らしきことをしている人が。

 

「目 耳 鼻 舌 身 意……人の六根に好 悪 平‼︎ またおのおのに浄と染……‼︎ 一世三十六煩悩、飛ぶ斬撃を見たことあるか? 一刀流……“三十六”……‼︎ 煩悩鳳‼︎」

「ズバーン!」

「受けてやるぜ、サバイバル」

 

 あれが一番、試験勉強っぽい。ちなみに技を放ったのはライバルのウオッカ。あれがライバルとか死んでも嫌な気がしてきた。

 さて、そんな中、教室に担当が入ってくる。

 

「うーっす、お前ら席につけー」

 

 半数以上が席についている。

 

「今更詰め込んだところでもうおそーい」

 

 何を詰め込んでいるのか。少年漫画の技の詠唱? 

 

「日頃から予習復習してるやつには敵わないの」

 

 だから何の予習と復習? ワンピース? 

 そんなツッコミが浮かんだスカーレットだが、死んでも口に出さない。試験前だし、優等生だから。

 トントンと紙の束を教壇で整えた後、配布を始めた。

 

「全員、スタートの合図があったらひっくり返して答案を始めろよ。それまでに問題見た奴は、今から教壇の上でランバダ踊ってもらうから」

 

 試験失格とかじゃないの⁉︎ なんて思いつつも我慢。時計は秒針が再び12を刺せばスタート。

 緊張気味にテスト用紙の裏面を見たあと……なんか隅の方にメモ書きがしてあるのが見えた。

 

『寿限無寿限無うんこ投げ機一昨日の新ちゃんのパンツ新八の人生バルムンク=フェザリオン、アイザック=シュナイダー、三分の一の純情な感情の残った三分の二はさかむけが気になる感情。裏切りは僕の名前を知ってるようで知らないのを僕は知っている。留守するめめだか数の子こえだめメダカ……今のメダカはさっきと違う奴だから。池○メダカの方だから。ラー油。ゆうていみやおうきむこうぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺビチグソ丸』

 

 どういう意味なのかさっぱり分からなくて、思わず髪をかきむしって突っ伏してしまった。なんでいきなり寿限無⁉︎ いや、寿限無の皮を被った別のものだが、大分意味が分からない。と言うか試験用紙の裏に何を書いてんだあの天然パーマは! 

 完全に集中力が途切れた時だった。

 

「はーいスタート」

「……。……!」

 

 あまりにさりげなく言われたため、少し遅れてスタートしてしまった。名前とクラスを書こうとした直後、思わず半眼になる。

 

『三年Z組 トレセン 太郎』

 

 なんで名前がもう書いてあるのよおおおお! しかもこれお手本用に作った奴の名前でしょ! だからメモ書き裏に載ってたわけ⁉︎ あとZ組ってどんだけ生徒数多いのよ! 

 なんてツッコミをする中、クラスメートが手を挙げる。

 

「先生ー、これ何処に名前を書けば良いんですか?」

「あん? ……あー、じゃあもう書いてある奴に横線二本入れて上に書け」

 

 との事で、全員が従って名前を書く。いよいよ問題スタート。まず第一問は漢字の穴埋めらしい。

 

『問一 次の□に当てはまる漢字を書きなさい。(配点1問3点)

(1) □風紊れて□神啼き、天風紊れて天魔嗤う『□天狂骨』』

 

 いや一問目から例文漫画かよ! と強く思った。というかなんでそれだけ漢字があるのに埋める漢字自体は簡単なものなのか。

 

『(2) か□はめ波』

 

 いやそこひらがな! なんで漢字あるのにそこなら穴空けた! 

 

『(3) □ングホーントレイン』

 

 伏字になってない! ていうかまた漢字じゃない⁉︎ あといつの時代の漫画チョイスして問題出してんの! 

 

『(4) 南○水鳥拳』

 

 四角がなくなってる! そんなとこ間違えるな! 

 

『(5) 一着を□指すダイワスカーレットは、部屋でうさぎのぬいぐるみを抱いて寝ている』

 

 なんで人を問題に出すの! ていうか適当な嘘つかないでくれる⁉︎

 と、最初の問題からだいぶ神経をすり減らされた。そもそもこれ、どの問題も簡単過ぎる。

 

『問二 次の文章を現代語訳しなさい。(配点:5点)』

 

 古文だろうか? まぁこれならジャンプから出題しようがないし、ようやくまともな問題が……。

 

『3の倍数の時にアホになります』

 

 古文ってそっちの古文んんんん⁉︎ ていうかなんて答えるのが正解なの⁉︎

 

『問三 次の文章を読んで、以下の問いに答えなさい。(配点:1問2.5点)』

 

 長文……いや、三文しかないので、短い文の中に答えがあるタイプのあれだろう。配点も大きいし、ここは逃せない。ちなみに配点の小数点はスルーした。

 

『「抱かせろ』

「男の人っていつもそうですよね……! 私たちのことなんだと思ってるんですか⁉︎」

「他に何ができんだよお前に」

「そ、それは……!」』

 

 中学生の国語の問題に何処から出題してんだああああ! よくSNSの広告に流れてくるアレでしょこれ⁉︎ と、スカーレットは頬を赤らめる。

 

『(1) 次のうち、問われた女性の方が言ったセリフを選びなさい。

 い、「斬る」

 ろ、「伸びる」

 は、「盗む」

 に、「隠れる」』

 

 キャプテンクロのとこ懐かしいですね! と、もはや同調したような感想が浮かんでしまう。

 

『(2) 男性が女性をなんだと思っているのか答えなさい。

 い、性玩具

 ろ、空気嫁

 は、立場を利用して不純異性交遊をしたいのではなく、あくまでも付け上がられないため、フェアな取引をするための交渉。

 に、に、にー……「に」はないわ。「は」までで考えてみて』

 

 ないなら作るな! と言うか選択肢適当すぎるだろ! 一つだけ明らかに熱の入り用が違いますが⁉︎

 もはや殴り書きでもするかのように「は」を選ぶと、次の問題を見た。

 

『(3) 天然パーマを直す方法を書きなさい(科学的根拠を示せた人には1点おまけします)』

 

 文章から読み取れない問題きたあああああ! ていうかなんで問題の癖に交渉してきてんの⁉︎

 こんなの答えられるか! と、思って次の問題に行く。

 

『(4) カストロがヒソカに負けた一番の要因を書きなさい。

 い、自らの適正にあっている系統の能力を選ばなかったため。

 ろ、自らの適正にあっている系統を把握していなかったため。

 は、自らの適性を知る術を教えてくれる師匠がいなかったため。

 に、なんだかんだ、普通に実力差』

 

 関係ないのに、ようやくまともに難しい問題きたああああ! どれも正解に見えて答えが複数ありそうなのが腹立つ! ていうか最初から思っていたが、選択肢に「いろはに」を使われてるの腹立つ! 

 ここだけ微妙に悩みつつも、次の問題に行った。

 

『問四 先日、銀さんが深酒した理由を答えなさい。(配点:20点)』

 

 いやだから知るか! もう国語の問題じゃなくて、ただのあんた一人の反省会でしょうが! つーかこの問題一問でどんだけ大きな配点⁉︎

 もうツッコミ疲れた、というようにスカーレットが肩で息をする中、最後の問題に移った。本当に定期試験でもブレない教員である。もはや少し羨ましくさえ思えてきた。

 この試験の時でさえ自由な感じ。不正行為を防ぐために来たくせに、ジャンプから1ミリも視線を上げない太々しさ……どうやったらそんな神経が太くなるのか学びたいとさえ思う。

 そんな風に思いながら、最後の問題に目を移した。

 

『問五 ここまでの問題で、あなたの中に芽生えたツッコミを全て記しなさい。(配点:最高50点)』

 

 限界だった。気がつけば、席から立ってジャンプを黙読しているアホンダラに飛び蹴りをかましていた。

 

 

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