元野生児は異端ですか?   作:犬吾郎

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 アニメで初めて「古見さんは、コミュ症です。」を見てから一目惚れして、思わず衝動的に書き出した作品です。
 温かい心で見て頂けたら嬉しいです。


初めての友達

 伊旦高校入学式、2週間前

 

 

A.M. 5:30

 

「はっ、はっ、はっ…」

 

 春の空はまだ薄暗く肌寒い。そんな中、少し速くランニングをする。まだほんの少し冬の名残りが残っているのか呼吸で出た息が白く染まり消える。

 この時間帯の空が俺は1番好きだ。薄暗いながらも薄いピンク色をした空が、時間が経つにつれて赤く染まり、いつも見ている青に変わる。そんな色の移り変わりがハッキリと感じられるこの時間がとてもお気に入りだ。

 

 ある程度ランニングで身体が温まったら、家から30分程の公園で軽く体操から始め、筋トレ、シャドーを行う。

 これは、小学生の頃から自分で決めて続けて来た所謂ルーティンと言えるモノだ。

 これが終わって初めて1日がスタートする。

 

 でも、毎朝の日課に変化が起きていた。

 

「………(ジー)」

「(やっぱり、今日も来てる)」

 

 それは、約2週間前。中学を卒業して直ぐのあの日から始まった。

 

 

 中学卒業後 2日後

 

「ん?」

「………(ジー)」

「あのぉ」

「ビクッ」

「何か御用で」

「(ピュン!)」

 

 

 中学卒業 約1週間後

 

「………(ジー)」

「(また来てる)」

「すみません。お騒がせしましたか?」

……コ、コロ、ロロロロロロ…(ブルブル)」

「コロ?(コロって、何だろう?)」

「ビクッ!(ビュン!)」

 

 

 中学校を卒業してから、何故か女の人が日課を陰から覗き見る様になっていた。背丈からして、多分俺と同じくらいの歳の子だと思う。

 最初は挨拶をしようと近づいたら、直ぐに全力疾走で逃げられてしまった。敵意を感じないから、暫く様子見をして居たけどやっぱり女の人は観ているだけだった。

 

 何で観ているのか気になるから今日は前から一生懸命に考えて来た作戦を実行に移そうと思う。

 

 そう考えている内に、朝の日課が終了した。まだ、あの女の人は観ている。

 よし。やるぞー、おー。

 

「チョイチョイ(手招き)」

「ピクッ」

「チョイチョイ(手招き)」

「………」

「チョイチョイ(手招き)」

「………(ジリジリ)」

 

 あ、来てくれた。ジリジリとだから凄く遅いけど、それでも来てくれてる。

 

 女の人が近くまで来たら、地面に座って近くにあった石を使って俺は文字を書き始めた。これが俺の考えた作戦。

 お話してくれないなら、字でお話しよう作戦。

 

 カキカキ…。

 

 ジー。

 

 俺が字を書いている所をじっと見てる。いつもだったらもう走って逃げているから、今日の作戦はやはり効果が出ていた。

 

 俺は書き終えてから立ち上がる。女の人と一緒に俺が書いた字を見た。

 

「「………」」

 

 おはようございます。はじめまして。やせい じん ともうします。さいきん、よくみかけるようになったので、おはなしをしてみたいとおもっていました。こわがらせていたらごめんなさい。

 

 ……うん。改めて見ても酷い字だ。そこいらの小学生の方がまだ綺麗な字を書けている。しかも、漢字が一個もない。何だか恥ずかしくなってきた。

 

 

      【野生君は字が苦手】

 

 

 俺は生まれてから人より字に触れる機会が少なかったせいもあり、最初は平仮名さえもまともに書く事が出来なかった。今では平仮名と片仮名を何とか書けてはいるけど、漢字は読めても書く事が出来なかった。 

 お医者さんの診断によると、一種の学習障害・書字障害であると判明した。中学でも、漢字が出来ないからテストでは毎回必ず全教科分の居残りをして先生から漢字を教えて貰っていた。でも、どうしても漢字だけは書く事が出来なくて、補習は何とか合格出来たけど、いつもギリギリの点数だった。

 進学校の伊旦高校も推薦で受験して難関の筆記はあったけど、殆ど面接だったから俺でも何とか中卒せずに高校に合格することが出来た。

 

 カキカキ…。

 

 女の人が座って俺が使っていた石で何か書き始めた。

 

 おはようございます。初めまして。古見硝子と申します。怖がってはいませんよ。毎日朝早くから運動されていて、とても尊敬をしていました。

 

「「………」」

 

 

     【古見さんは字が綺麗】

 

 

 …物凄く綺麗な字だった。けど、気にせず別の石を使って書き始める事にした。

 

 はじめておはなしができましたね。なんだかうれしくおもいます。

 私もこんな風にお話しをしたのは初めてです。ありがとうございます。

 いえいえ。こみさんも、あさのうんどうをされているのですか?

 はい。高校の入学式まで時間があるので、その間身体を動かしたいと思い、朝の散歩をしています。

 さいきんはうんどうをしないひとがふえていますが、やっぱりあさのうんどうはとてもきもちがいいですね。

 私も朝の散歩は気持ちが良くてとても好きです。同じですね。

 

 それから暫く文字で会話を続けた。

 気が付けば公園の地面が文字で埋め尽くされる程に文字を書いた後が広がっていた。

 

 そういえば、なんでさいきんはオレがうんどうしているところをみていたのですか?

 

「……!(ピコン)」

 

 古見さんの頭からネコ耳らしく髪が跳ねると、古見さんが持っていた手提げから何か取り出した。中からタオルが取り出された。

 手渡されたそれは、俺が何処へ無くしたと思っていたタオルだった。

 

………。……こ…こ、れ。忘、れ、ものを。と、と、届っ、け、たく、て

 

 初めて古見さんの声を聞いた。掠れる位に小さな声だったけれど、とても綺麗で、俺の好きな日本三鳴鳥の一つに数えられるオオルリの様だった。他のウグイスやコマドリの様に大きな声で鳴かなくても、心に響く。そんな声をしていた。

 その声を聞いた瞬間、俺の胸の辺りがお日様に当たったように温かくなった。

 

「ありがとう古見さん。俺が忘れたのを拾ってくれたんだね」

「(コクコクッ!)」

 

 古見さんの表情はあまり動いていなかったけど、何処か嬉しそうに首を縦に振っていた。

 

 

 

 

古見硝子side

 

 初めて、男の子とお話しが出来ました。

 中学校を卒業してから入学式まで時間があるので朝は散歩をする様に心掛けていると、偶々近くまで来ていた公園で運動をされていたやせいじんさんを見かけました。

 やせいさんは、とても運動が上手な様でボクシングの動きやバク転も難なくこなしていました。格闘技をされているのでしょうか?

 

 やせいさんが帰られた後、ブランコの手摺りに引っ掛けてあったタオルが残されているのを見て、渡してあげなくてはと思ったのですが、自宅が分からず、結局やせいさんが公園に来た時に渡そうと決めました。

 でも、どうしても声を掛けることが出来なくて、いつもやせいさんから話し掛けて貰えても話す勇気が出なくて逃げてしまいました。

 

 今日はやせいさんが手招きをしてくれて、迷惑なのではと思いながらゆっくり近づくと、字でお話しをする事になりました。

 …少し文字を書くことが苦手な様子でしたが、声を出さずに会話を出来るのでつい長い時間会話を続けていました。

 

 会話をすることに夢中で今日公園に来た目的をやせいさんの文字で思い出し、タオルを拾って約2週間が経ち、漸く渡すことが出来ました。

 

 その時にやせいさんのお顔を初めて良く見ることが出来ました。

 前髪が長くて遠くだとよく分かりませんでしたが、日本人らしい黒髪とは対照的に、暗い所でも良く見えそうな黄色の目が特徴的で、思わずジッと見てしまいます。

 黄色の目をしている人は、所謂アンバー(琥珀色)と呼ばれて海外では偶に俳優さんで見かけることがあるそうですが、日本人では黄色の目を持っている人を見るのはやせいさんが初めてでした。

 吸い込まれそうなアンバーの目に、大人になりかけている男性らしく、子供っぽさを残しながら大人な雰囲気が感じられる目鼻の整った容姿をされています。

 声は声変わりをしていて少し低く、落ち着く声をしていました。

 

 …この人とだったら、もしかすると  になってくれるかも。

 

スゥ〜……

 

……あっ、あの

「どうしたの?」

 

 やせいさんが不思議そうな顔で私を見た。顔を見た瞬間、緊張で顔が強張って身体が震え始めました。

 

あ、あ、あばばばばばばば…(ブルブル)」

「……えいっ」

 

 ぷに

 

ピャッ!

「お話しするの苦手なんでしょ?ゆっくり、自分のペースで良いんだよ」

 

 誰からも会話が苦手なことを気づかれた事がないのに…。思わず驚いてしまいました。

 

 

     【古見さんはコミュ症である】

 

 

 やせいさんは私の頬っぺたを一回ムギュッとして静かに私が話すのを待ってくれていました。

 それから、何度も深呼吸をして。

 

…よ、よっ、よけっ、れば…!と、と、とも、友達っ、に、なって、くれ、ま、ままま、せん、か…!

「……!」

 

 言えた。初めて、友達になって下さいと、言えました。やせいさんは少し驚いた表情をしています。もし、断られたりしたら、私は…。

 

「…はい。よろしくお願いします」

 

 今、何と言われたのでしょうか。

 

『よろしくお願いします』

 

 確かに、そう聞こえました。もしかすると、これは夢の中ではと思って頬っぺたを引っ張ったら、痛みがあります。

 夢じゃない。

 

 思わず涙が溢れてきて、しゃがみ込んだ私を心配したやせいさんは、あたふたしながらも先程手渡したタオルを私に渡してくれました。タオルを眼に当てて泣いていると、静かに背中を摩りながら何も言わずに泣き止むまでそばに居てくれました。

 

 この日、私はやせいさんと初めてお友達になり、私にとって、決して忘れる事が出来ない思い出になりました。




 オリ作では、入学前にほんの少しだけ勇気を出して友達が作れた古見さんにしています。
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