金色に輝く華麗なるウマ娘(笑)の物語 作:朧月夜(二次)/漆間鰯太郎(一次)
【勝ち組ウマ娘】雑談配信43走目【黄金旅程】
「どうも、リョテイでーす。今日もテキトーにやってこうや。報告もあるし」
ソファーの上に胡坐をかき、ローテンションの幼女がいる。
リョテイである。スルメを咥えながらタブレットを見ているが、配信と同時に画面の中のコメントがすさまじい勢いで流れだした。
:とりあえずお布施しときますね ¥10,000
:相変わらずのローテンションで芝
:高かった事なんて他人煽る時くらいなんだよなぁ……¥3,000
:ド畜生で芝生えるむしろ煽り顔がインスタ映える
:でも可愛いんだよなぁ……オッサンだけど
:俺のロリコンセンサーもビンビンなんだけどオッサンなんだよなぁ
:ロリコンニキは早々に出頭してもろて
URAの公式動画ソーシャルサイトである「ぱかチューブ」で、登録者数のトップを誇る人気チャンネルがある。
その名は「キンイロちゃんねる」なのだが、勿論キンイロリョテイの個人チャンネルだ。
ここでは彼女がレースの無い週末に、リョテイ本人が飲酒をしながら雑談をするという生配信が行われている。
今日もそうだ。
19時から開始された配信には、既に5千人以上のリスナーが集まっており、開始前からスーパーチャットが飛び交っていた。
このチャンネルにおけるスパチャの名称は「飲み代」であるが、お前らが好きで酒代を奢ってくれるんだからスパチャ読みはしないとリョテイは断言しており、その豪快さが逆に受けているらしい。
とは言え純粋なリョテイファンは7割程度で、時折後ろに見切れるマルゼンスキー目当てのファンも混じっていたりする。
ちなみにマルゼン宛のスパチャは「ガソリン代」と言う名称で呼ばれている。
元々は生配信はしておらず、チャンネル開設当初は、いわゆる「やってみた系」の動画を投稿していた。
その内容は「皇帝シンボリルドルフを褒め殺してメスの顔にしてみた」とか「酒気帯びでレースをすると勝てるかやってみた」とか、再生数は稼げるが、投稿の度に上層部から説教を貰う類の物で、炎上系に片足突っ込んだ内容である。
中でも「サイレンススズカを救いたい」シリーズは、救いたいと言いながら実質スズカ煽りになっており、シリーズの累計再生数はエグい。
スズカのトレーニング姿やレースの動画を見ながらツッコミを入れつつ、胸の空気抵抗がライバル達より優れているのに勝てないのはおかしい等と真剣な表情で煽りつつ、最後は一緒に酒を呑んで気分転換しようやとか、揉めば大きくなる説があるから、俺ならいつでも揉むと締める、一種の様式美を踏襲したネタ動画である。
そもそも投稿を始めた理由は、リョテイはレース成績は鳴かず飛ばずの為収入は低い。
ゆえにマルゼンスキーの実質ヒモ状態なので、それを嫌って捻りだした金策が、動画の広告収入で稼ごう! と言う安直な物だった。
とは言えレース会場で見せる破天荒なキャラで、勝てない癖になんか面白いと人気があったリョテイなので、チャンネル登録者数は初期から結構な数を稼いでおり、収益化も早かった。
しかし動画編集は面倒臭いので、暫くしてから生配信に切り替えて今に至るのだ。
ちなみに動画投稿は相変わらず続けているが、これはトレセン学園の後輩で、ネットやPCに強い娘にバイト代を払い編集をさせている。
さて配信の際のリョテイは、黒いタンクトップに、ふんだんに金色のスパンコールがあしらわれたスパッツと言う姿で、胸には何かしら文字が書いてあるのが定番だ。
ちなみに本日は『実質ダービーバ』である。意味が分からない。
本人曰く、ダービーよりも200メートルも距離が長い阿寒湖特別に勝利したのだから、ダービーよりも偉業であり、実質ダービー勝利って言えるよね? と言う意味らしい。
そんなリョテイは、スポンサーをしてくれているビール会社から提供された期間限定ビールをジョッキに注ぐと一気に飲み干した。
これも毎度のお約束だ。
ジョッキを掲げ「んじゃ皆と乾杯しよう。3・2……」とカウントダウンした途端、いきなりフライングして呑むという謎の儀式である。
:で報告ってなにさ
:それそれ
:焦んなって。どうせ深夜までやるんだし
:ネキ酒豪過ぎてなぁ
:ウマ娘の肝臓どうなってんの?
:いやウマ娘がじゃない、ネキだけがおかしいの
:せやな。マルゼンお姉さんはすぐへべれけになるしな
:マルゼンお姉さんの酔う所さぁ……
:やめろ。わかるけど言うな
:あー! いけません! あーお客様! あー! えっちすぎます!
:エッチコンロ点火!エチチチチチチチチチw
:ちゃんと勃つまでやれ単芝やめろ
「お前ら元気だねえ。で、報告だけどさぁ……うん、京都新聞杯……負けましたぁ」
:は?(現地で見てた)
:これは芝
:あのさぁ……¥300
:ほんまつっかえ
:もうやめたら?ウマ娘
:前回のイキりからのコレは芝2400
:ススズちゃんが草葉の陰で泣いてますよ?
:おいススズちゃんを勝手に56すな
鈴:(´・ω・`)
:本人見てるwwwww
:しょぼんとしてる
:ススズちゃん!僕は応援してるよ!
:ワイも!
鈴:(*´ω`*)
:ああ^~可愛い
:可愛いしその顔文字は絶対流行る!
:流行らないし絶対に流行らせない
:当たり前だよなぁ?
「なんだよスズカも見てんのか。ならどうすっかなぁ言っちゃおうかなぁ? どことは言わないが、俺のとある肌着のサイズが一段階アップしました! なんだろ、成長期って奴なのかな? プスッ」
:マジで!?
:大 正 義 キ ン イ ロ リ ョ テ イ ¥30,000
:煽り全一草
:A地点からB地点まで?
:Fooooooo↑
:祭りじゃー!祭りじゃー!
鈴:(#^ω^)ビキビキ
:あっ(察し)
:ススズちゃんはモデル体型だから……
:決着、ついちゃったねえ!
鈴:絶対に許さない。菊花賞で決着つけるから。それに神戸新聞杯で私の方は二着だったし負けてないもん
:ススズちゃん……長距離無理だってばよ……
:張り合うススズちゃん可愛すぎて芝3000
そんな訳で始まった生配信だが、この日は後半、リョテイが菊花賞に登録を完了したと報告。だが俺が出るのだから実質勝利確定だし、勝利の宴を今やるぞと死亡フラグみたいな事を言い出し、朝方4時まで配信は続いたのである。
さて自身の名が本当はステイゴールドだったと認識したリョテイ。
マルゼンにそれを彼女に告げた。彼女に縋っていたのは真名を知ったことで不安定になったからだ。
その翌日、リョテイはルドルフの元へと向かい、登録名をステイゴールドに変えてほしいと願った。
事情を詳しく聞いたルドルフはそれを快諾し、URAにそれを持ち掛けた。
ウマ娘にとって名前は神聖な物である。そうなれば正しい名前を使うのは当然とルドルフは考えた。
が、駄目。
既にデビューし、キンイロリョテイの名が認知されているため、無用の混乱をファンに与える懸念があるとの回答だ。
すまなそうにそれ伝えるルドルフだったが、本人は特に気にした風でもなく「ま、そうか」とあっさりと納得。
自分がそれを認識出来たからまあいいわと引いたのだ。
しかしこの結果、彼女は今までピーキーだった自身の性能を少しばかり制御できるようになった。
強いアイデンティティの確立のお陰だろう。
とは言えローギアとトップギアの間にセカンドギアが増えた程度なので、スタートで全開にしたなら、スズカの様に大逃げをうつしか選択肢はない。
なので結局は後ろからのレースをするしかないのは今までと変わらないが。
それでも細かな微調整を使える可能性が出たのは大きい。
なので真名の判明以降、リョテイはトレーナーである池江氏にウマ混みでのポジショニングについてのトレーニングを重点的にやってくれとオーダーを出した。
そして何より、ダービーで惨敗し腐っていたサイレンススズカの前に立ち、堂々とライバル宣言をした。
曰く、チキンハートのスズカちゃん、俺がお前の前を走るから、せいぜい怪我しない程度についてきなwwww 大量の草を生やして煽る様に言ったのだ。
その上でリョテイはどうにか賞金額を積み重ね、クラシック戦線の最後、菊花賞への出走登録をクリアできたのだ。
だからこそのライバル宣言だったのだが、残念ながらスズカに長距離適正は無く、菊花賞には出走は出来ない。
一応トレーナーに掛け合ってみるもあっさり却下である。
とは言えだ、表には出さないだけで、来年の秋の天皇賞まではこいつにストーキングしてやると決意したリョテイは、
「ま、グレイトな俺みたいに長距離走れない優等生のスズカちゃんが可哀そうだから、順位で勝負してやんよ。次走はマイルCSだろ?」
「リョテイちゃんだって重賞勝ってないでしょ!? 偉そうに言わないでよ!」
併せの相手であるサイレンススズカとストレッチをしながら煽り合っていた。
なんだかんだで構ってくるリョテイを邪険に出来ないスズカだった。
「つか重賞勝ってないのはおめーもだろ。けどこの秋はどっちもG1だしな。て、あっ(察し) ごめーん気が付かなくって(笑) スズカちゃんダービー出てたっけ(笑)」
「くっ……それを言ったら戦争でしょう!?」
「くはは、ばーか! 悔しかったら追い付いてみろや貧乳!」
「絶対に許さないっ!」
その日は夕暮れまでリョテイを追いかけ回す事になったスズカ。
それを外ラチのところで見ていたそれぞれのトレーナーは、顔を見合わせ苦笑い。
とは言えリョテイの無尽蔵なスタミナに引きずられ、結果的にスズカのトレーニングになっているからと、トレーナー達は放置することに決めたようである。
「今日こそ捕まえるからっ!」
それでも追いかけているスズカの顔は笑っていた。
そんな彼女を見つめるリョテイは、
/\/\/\∧
< バーカ! >
V\/\/\/
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/ ヽ
\ m {0}/"ヽ{0}m /
|っ| ヽ_ノ と|
/ ム `ー′ ム \
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| /\_ノ ̄ ̄ヽ
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/ ノ | / \
`/ / ノ /
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コーナーのは入り口で振り返ると、満面の笑みで煽るのであった。
仲良きことは美しき哉
◇◆◇◆
リョテイはしこたま怒られた。
誰にかと言えば同居人兼保護者のマルゼンスキーにである。
理由はマイルCSの前に天皇賞に出走したサイレンススズカが惨敗し落ち込んでいたのだが、最初は励ますつもりで話しかけたリョテイが、途中から煽りになってしまい泣かせてしまったからだ。
これには当人も相当に慌ててしまった。
同期であるスズカとリョテイが、互いに悪態を付きつつも頻繁に併せを行ったり、基礎トレーニングを一緒にしたりするのは、何だかんだ言いつつも、メンタルの弱いスズカを引っ張っていくリョテイに対し、彼女のトレーナーは相乗効果を期待しているからだ。
なので普段から煽り合いを繰り返している姿は目撃されている訳で。
ただデビュー戦以降のスズカは、言ってしまえば鳴かず飛ばずの中途半端な成績を続けている。
それが存外、彼女の心に重くのしかかっていた様で、リョテイの煽りがきっかけとなり、スズカは号泣したのである。
彼女のトレーナーは「最近不安定だから君は気にするな。少し時間をおいてまた頼むよ」とリョテイを帰したのだが、その事を夕食の際に話すと、マルゼンスキーがガチな感じで怒ってしまい、「いい? あたしが遠征から戻ってくるまでに仲直りしておくことっ!」と言い含められてしまった。
「つってもなぁ……別に故障した訳でもねえしな……」
リョテイは遠征に出かけるマルゼンスキーを見送った日の夜、いつもの居酒屋で晩酌をしながらボヤいていた。
夕方頃、学園の授業が終わったスズカを捕まえては見た物の、ツーン! とそっぽを向かれ取り付く島も無かった。スズカは見た目こそ清楚だが、存外気性が荒いのだ。その上頑固でもあるし。
なのでリョテイはひとまず撤退し、彼女のトレーナーから情報を集めて居酒屋へやってきたのである。
「それになあ……」
大好物であるイワシの丸干しを頭から齧りつつリョテイは思う。
スズカをなんやかや構うのは、ひとえに史実の様に回復不能の故障をしたり、それに近い怪我を負って欲しくないからだ。
けれどこの前の天皇賞の結果は4着だったのだ。
展開はかかりにかかった結果、後半失速しての負け。
つまりおおよそ史実に似た展開だったともいえる。
史実ではいぶし銀の名ジョッキーであるカワチが鞍上を務めるも、彼がさじを投げた程に大暴走して6着と惨敗しているのだし。
ただ着順はワンツーがエアグルーヴとバブルガムフェローと言う史実と同じだったがスズカは4着で、しかも最後バテた後も必死に食い下がっての結果だ。
なのでリョテイは首を傾げるのだ。
もしかして史実通りにならんのでは?
ただ楽観視した結果、史実通りになった場合は目も当てられないから彼女は困っているのだ。
だいたい史実と違うのはリョテイもそうだろう。
ステイゴールドは今のリョテイの様に地方から中央へ移籍なんて話はなく、デビューから中央所属であるし。
この辺の検証はちゃんとしなければとリョテイは考えている。
次走は菊花賞だ。
おそらく何となく走っていると史実の結果に落ち着くんじゃないかと彼女は疑っている。
つまり自分の意志で足掻くと結果は変わるという推察。
そこでリョテイは菊花賞を本気で勝ちに行ってみようと決めた。
史実ではマチカネフクキタルが勝利し、ステイゴールドは8着だったが、着差を見ると割と混戦だったため、言ってしまえばどれが勝利してもおかしくない内容だった。
ならば自分が能動的に動いた場合、どんな結果に至るのか。
それで大きく史実と乖離していけば、スズカに対して抱いている懸念も薄まるといったところか。
「問題はだ、足が痛いとかそういう奴だな……」
天皇賞後、疲れを抜くため数日間休養に努めたスズカだが、下半身の張りと若干の痛みを訴えていた。
一応トゥインクルシリーズは、その開催日のレースが全てが終わると、出場した選手はオフィシャルドクターによる検査を受けるルールになっている。
表面上は見えない故障があった場合に洒落にならない結果になるからだ。
ウマ娘は時速70km近くで疾走し、素の身体能力も人間の数倍以上ある。
しかし骨格はほぼ人間に近い形態だ。
つまり人間が陸上競技で走るノリで、彼女たちは芝や砂の上を猛スピードで駆け抜ける訳だ。
だからこそ小さな故障があると大事故につながり、それは死を含んだ惨劇に発展する可能性がある。
それゆえの神経質なまでのドクターチェックが必要なのである。
幸いこの時のスズカは疲労こそある物の、疾患や怪我は特に見当たらなかったという。
その後トレーナーが命じ、再度精密検査をするもやはり結果はシロ。
トレーナーは恐らくメンタル部分から来ているのだろうと判断した。
そこにリョテイとの一件があったという流れなのだ。
ただ本人は痛いと言っている訳で、そこを根性論で走れとは言えない。
そもそもトレーナーライセンス試験の必須科目に「心理学」が含まれているのは、ウマ娘を正しく走らせるには、精神面がかなり重視されているからだ。
だからこそスズカのトレーナーは、無理強いをせず、暫く息抜きに専念してもらおうと決めたのである。とは言えこのまま鬱が続けば、マイル出走も見送らなければならないが。
「現代医学でシロだってんなら……もうアレしかねえだろうなぁ。しゃあねえ、やるか」
そうしてリョテイは方針を決めた様だ。
ただし、マルゼンスキーからのオーダーは、言い過ぎた事を謝罪した上での仲直りであるが、リョテイはいつの間にかスズカの痛みをどうにかしなければと考えていた。
「…………腕が鳴るぜ」
リョテイは珍しく21時前に晩酌を切り上げると、不敵な笑みを浮かべながら帰路についたのである。
◇◆◇◆
「お、お邪魔します……?」
「なにキョドってんだよ。マルゼンの奴はいねえよ」
「う、うん」
リョテイに一日中お出かけに連れ回されたサイレンススズカは、夕方となり最後に連れてこられたのは、リョテイが居候するマルゼンスキーのマンションだった。
しかし友人の家に遊びに来たというノリでは済まされない豪華なマンション。
それに加え、普段のリョテイとは別人の様なお出かけ、いやもうこの際デートと言っても過言ではない一日を過ごしたスズカは、今更になってリョテイと二人きりと言うシチュエーションに謎のドキドキを抑えられずにいた。
どうしてこうなったか、それは今朝まで話を戻す必要がある。
土曜日、レースの予定が入っていないウマ娘はオフになる。
自主練に勤しむ娘も多いが、基本的にトレーニングのスケジュールはトレーナーが組む関係で、おおむね休日にする娘が多い。
そんな中、リョテイはおそらくスズカがまだ寝起きだろう時間に彼女の寮に突入した。
カギは管理人室からパクってきた。
案の定スズカはベッドの中にいた。
太平楽な寝顔である。
それを眺めていたリョテイは、むくむくと、ある衝動が湧いてきた。
そう、定番である寝起きドッキリをしてみたいというクソみたいな欲求である。
思わずムフフと笑いが漏れそうなのを必死でこらえ、リョテイは小声で「おはようございまーす」とスズカの横に潜り込んだ。
瞬間、スズカは驚いた時のネコの様にピョーンと飛び起きた。
そりゃそうだ。
温かい布団の中でヌクヌクしている所に、外からやってきたリョテイの肌はひんやりしているのだ。そんな状態でいきなり抱き着かれた結果がコレである。
その姿がツボに入ったのか、腹を抱えて笑い、顔を真っ赤にしたスズカに怒られたリョテイ。
とは言え目的はそれじゃない。
ああ、もう煩い。騒ぐなと有耶無耶にし、出かけるから着替えろと言い放つリョテイ。
今日は軽めのリハビリメニューをこなそうと考えていたスズカは首を傾げる。
それに自分はリョテイに怒ってたんだったと思い出し、ツーンと顔を背けるも、子供みたいなリアクションはやめろとリョテイに逆ギレされ、結局は一緒に外に出る事になったのだ。
寮生が外出するには許可が必要だが、リョテイは昨日のうちに学園の事務課にスズカの外出許可はとってある。
用意周到な事だが、事前に今日の目的を話し、スズカのトレーナーがサインをくれたのだ。
その書類を見せ、無理やり納得させた形である。
身構えるスズカだったが、意外や意外。
リョテイは「まずは腹になんか入れるべ」と、繁華街の裏通りにある洒落たカフェへとエスコート。
偉大なる日本人メジャーリーガーに倣うのだと謎の理論で、野菜たっぷりの朝カレーを堪能。
最初はツンツンしていたスズカだったが、美味しい物を食べてご機嫌になったのである。
それが終わるとタクシーをとめ、二人は一路代官山へと出た。
何故こんなお洒落な場所に!? と慌てるスズカの手を引き、リョテイはいくつかのショップへと入る。
そこで「ガキっぽい服ばっか着てるんじゃねえよ。せっかくスタイルがいいんだ」と投げやりな口調で言うと、店員を呼び止め、「こいつにコンサバ系で適当に選んでくれ。ああ、白を基調に緑の差し色が入っているのとかいいかもな」等と、スズカが目を白黒させてる間に状況は動いていく。
リョテイの中の人は生粋のアウトローだが、裏の世界で男を張るには、女性の扱いも要求されるらしい。そのせいかスズカはちょろくも流された。
それでもスズカは年頃の女だ。
お洒落な服を色々と試着していると、いつの間にか気分も華やいできた。
そしてスズカが何着かの服を気に入ると、「それ、ウマ娘用にカスタム頼むね」と、手直しが終わったら寮に送ってもらう様に手配をかけ、二人は外にでた。
ちなみに支払いはスズカの知らぬ間にリョテイが済ませている。
昼になり、今度は麻布十番に出ると、リョテイが行きつけだという高そうな焼き肉店に入り、ブランド牛を堪能。
その頃にはスズカもすっかりとリラックスしており、いつものようにチクチクと毒を交えながらも、リョテイとのお喋りを楽しんでいた。
そして再度タクシーに乗り込んだ二人が到着したのが、高級そうなタワーマンションの前だった。
どこなのここと慌てるスズカにリョテイが一言。
マルゼンのマンションだけど。
ピョーンと尻尾を尖らすスズカは「嘘でしょ……」と挙動不審。
そりゃそうだ。既にシニア期に入って久しいマルゼンは、ルドルフとは別系統で後輩達に畏怖されている存在なのだ。
とは言えズンズンと中に入っていくリョテイに、結局はスズカも観念したのである。
玄関の豪奢な自動ドアの前に立つと自然と扉が開く。
住人のみが持つスマートキーで、何もせずに入れる様になっているのだ。
そしてエレベーターホールまで続くエントランスは、天井が高い吹き抜けになっており、海外の有名家具メーカーのレザーソファがいくつも鎮座している。
傍らにはホテルの受付めいたカウンターがあり、コンシェルジュが控えている。
リョテイは慣れた様子で軽く会釈するとエレベーターへと向かう。
その後ろをキョロキョロと落ち着かないスズカが続く。
エレベーターもまた特別で、20階以降の高層階専用に分けられている。
当然中も広くゆったりとしたキャパだ。
慣れた様子で行先の階層ボタンを押すリョテイ。
最上階の25階であった。
到着したフロアはどこの高級ホテルだよとツッコミたくなる毛足の長いカーペットが敷かれた小ホールで、降りて左右にそれぞれ玄関が一つずつ見える。
そう、最上階には二軒しか部屋がない。
ペントハウスの様な構造をしているのだ。
そしてとうとうスズカはマルゼンスキーが家主である部屋に入った。
だがすぐ帰りたくなった。
想像したよりも数倍エグかったのだ。
(そう言えばリョテイちゃんの生配信の時に、妙に豪華な天鵞絨のカーテンが見えてたけど……)
リビングに通されたスズカが見たのは、リョテイの放送では見慣れた景色だった。
どうやらベランダに面した窓にかかっているカーテンをバックに彼女は放送をしているのだと合点がいったのだ。
でも俯瞰してみると、こんなに大きなマンションだったとは……と呆れるスズカ。
そんなスズカの内心をあざ笑うかのように、リョテイはリビングに立ち尽くす彼女に向かって、とんでもない物を突き出した。
「えっ? リョテイちゃん、これ……なに?」
「ん? いや俺、準備があるからさ、お前はシャワー浴びてそれに着替えてこい。いいな?」
「嘘でしょ……」
「嘘じゃねえ。今日のお出かけは前座だ。目的はこれからなんだよ。いいからとっとと着替えてここに戻って来い」
「…………はい」
スズカが手渡されたのはシンプルに言うと水着である。
ただしとんでもなく露出面が広い。
いわゆるマイクロビキニ。
ヒモの部分が白く、プライベートゾーンを覆う布部分が緑と芸が細かい。
だがヒップの部分はTバックだ。いやヒモだ。
けれどリョテイが醸す謎の迫力に負け、スズカは耳をへにょらせながら浴室へ。
そして律義にマイクロビキニを纏い、胸や鼠径部を手で隠しながら戻ってきた。
「来たか。このベッドにうつ伏せになってくれ」
「ぇぇ…………」
スズカの目に映るのは、リハビリーテーションの看護師が着ている様な白い施術着を纏ったリョテイの姿である。
そして三人掛けの黒いレザーソファーはどけられ、そこに真新しいシーツが敷かれた簡易ベッドがあり、そこに寝ろと指をさしている。
結局スズカはリョテイの圧に負け言うとおりにした。
ほぼケツ丸出しだが。
しかしリビングは温度調整されており、不思議と寒くない。
「えっと、リョテイちゃん? な、何をするの?」
「あん? いやお前、診断は出ないけど足が張るだの痛いだの言ってたろ? それ、多分メンタルからくる坐骨神経痛だと思うんだよな」
「坐骨神経痛?」
そう言ってタブレットのブラウザにドクターが解説する坐骨神経痛についてのWEBページを見せつつ説明する。
そのドクターはスポーツドクターと言う資格を持ち、人間だけじゃなくウマ娘のリハビリも行うその道の権威らしく、骨盤周辺の図では、ウマ娘の物も載っているため、リョテイの説明にも説得力が増す。
「でな、俺は二週間ほど、スポーツマッサージの先生に師事して習得してきた。だからこれからお前にマッサージを行う」
「リョテイちゃん……うん、ありがと……」
メンタルが不安定で成績に影響を与えている。
それはスズカ自身も自覚している。
本当は逃げて勝ちたい、けれどその自信が持てないのも事実。
その理由は足元の弱さだ。
サイレンススズカとしての無意識の本能か、目を閉じればレースでの最適解が逃げと言うのはわかるのだ。
ただイメージトレーニングをすると、逃げた先に何かこれ以上行ってはいけないという強迫観念に襲われる。
その正体が何なのか、スズカは理解できないが、結局は足が壊れやすいから、無言の自己防衛ではないか? と言うカウンセラーの言葉を一応納得している。
そういう答えのない問いと、自分の理想と、世間からの期待と、全部がないまぜになり、スズカはモヤモヤしていた。
だから言葉には出さないが、スズカはリョテイに感謝をしている。
高等部一回生で転入してきて、同期としてデビュー。
スズカの方が重賞挑戦は多いが、成績としてはお互い似たようなものだ。
そういうシンパシーもあるし、リョテイの何事にも動じない性格で、引っ込み思案な自分を無理やり引きずり回してくれる事で、余計な事を考え鬱になる時間も減った。
胸の事は少し言い過ぎだとは思うが、おおむね好ましい友人ではあるのだ。
だからマイクロビキニはアレだが、自分のためにわざわざマッサージを習ってくるなんて……スズカは密かに感動していた。
「んじゃやるぜ。アロマオイルを使うから、少しひんやりするぞ」
「う、うん」
とは言えだ、ほぼ半裸を晒している事に心臓バクバクのバクシンシーンなスズカである。
「ひゃうっ!?」
リョテイが瓶からたらりとオイルをスズカの背中に落とした。
瞬間スズカの尻尾がピーンと立った。
だがリョテイは気にせず、スズカの背中のオイルを延ばしていく。
背骨に沿って腰の辺りから首筋までゆっくりと親指を軽く指圧しながら行ったり来たり。
最初は身構えたリョテイだが、思ったよりも本格的で驚いてしまった。
「んうぅ……くすぐったいよぉ……」
「我慢しろ。もうすぐ血行が良くなって熱くなってくるから」
「はふぅ……わかりましたぁ……」
くすぐったさに身をよじるが、リョテイは構わずに続ける。
リョテイの手は子供の様に小さいからか、妙にくすぐったく感じる様だ。
だが慣れてきたのか、スズカは気持ちよさに身体をだらりと弛緩させた。
トレーナーにマッサージを受けた事は何度もあるが、これほど気持ちよかったことは無い。
だが、
「あっ、ん……ちょ、リョテイちゃん、そこおしり……」
「あのなスズカ、骨盤の周辺はな、多くの神経が通っている。だがな、臀部の肉は分厚い。なんで少し手が沈むくらいに押し込む必要があるんだ」
「んっ、そ、そうなの?」
「そうなの。お前が言う張りはだ、おそらくメンタルの不安定からホルモンバランスが崩れてな、新陳代謝が弱っている。そうなるとな、本来外に出される老廃物が停滞し、リンパの流れを阻害する。だから俺に任せろ。全部外に出してやるからな?」
「あっ、うん、わ、分かったから、そのリョテイちゃん、耳元で囁かないで!?」
そして言質を取ったリョテイは手をオイル塗れにすると、遠慮なく臀部を鷲掴みにし、ぐいぐいと刺激していく。
足は指の一本一本、丁寧に指圧し、次は踵や足首、ふくらはぎと移り、この辺りはタイ古式マッサージがベースなのか、スズカの綺麗な顔に苦悶がにじむも、その痛さが心地よさに変わっていく。こうなるともう、スズカはリョテイの手管を信頼していた。
だがそれが太ももに差し掛かった所で怪しくなる。
太もも周辺はソフトタッチとなり、ゆっくりと体重を掛けながら、リンパ腺に沿って手首に近い手の腹の部分で流していく。
そして鼠径部周辺にたどり着くのだが、スズカは事前に説明されていた、骨盤周辺には神経云々に納得してしまったので、くすぐったさより謎の気持ちよさが勝ってはいるも、「マッサージだしこういう物だよね?」と気にしなかった。
リョテイの手がソフトタッチからフェザータッチに変化する。
スズカのヒップの外観をなぞる様にくるりくるりと踊り、太ももの内側へと滑り込んでいく。
「んっ、ふっ、あん……りょていひゃん……そこらめぇ」
「………………」
施術中であるという自己主張なのか、リョテイは甘い声を漏らすスズカに反応を見せない。
若干目が野獣の眼光に見えなくもないが……。
ちなみにくちゅりくちゅりと音を立てているのはリョテイが塗したアロマオイルの音である。これだけはハッキリ言っておきたかった。
そして内ももをすり合わせるスズカが真っ赤な顔で悶える事数十分。
リョテイの手がスッと離れる。
名残惜しそうなスズカの縋る様な表情。
しかし、
「んじゃ前もやるから仰向けになってくれ」
「嘘でしょ……」
絶望のスズカ。マッサージの気持ちよさに、あちこち敏感になってしまった。
こんな状態で仰向けになるという事は……これはイカンぞとスズカは慌てる。
だがリョテイは無慈悲であった。
気持ちよさに弛緩したスズカの身体を、リョテイは米俵でも転がすように楽々と仰向けにひっくり返した。小さくてもウマ娘の膂力を舐めてはいけない。
「あ、見ちゃダメっ」
慌てるスズカだが、リョテイはやはりスルーし、アロマオイルで再度ヌルヌルにした手を、スズカのウエスト辺りからマッサージし始めた。
「ひゃ、んんうっ!? あん、ちょ、リョテイちゃん、だめ、くすぐった、あんっ、ほんとだめなのぉ……」
水揚げされた青魚の様にピチピチと身をよじるスズカ。
「リンパの流れは全身を巡っているんだ。大丈夫だスズカ。マッサージをしているんだ、気持ちいいのは当然だろ?」
羞恥に顔を朱に染めるスズカにリョテイは言う。
その表情は「当たり前の事なのにどうしたんだ?」と言わんばかりの、心底不思議そうな様子。
そうなると押しに弱いスズカは、「あれ?もしかして私が間違っているのかな?」と混乱してきた。そうしてスズカは流された。
だんだんと気分が乗ってきたのか、リョテイはそれまでのルーティンめいた動きを捨て、かなりギリギリのラインを攻めていく。
何やら半ば白目を剥きながら気持ちよさそうにしているスズカの姿に、本来の目的であるスズカの痛みや疲れを抜くという物から、この女をヘロヘロにするのはなんだかとても楽しい! にズレてきていた。
そしてこのマッサージは数時間にわたって続き、最終的にスズカが悲鳴の様な嬌声と共に、身体を痙攣させた挙句に失神し、「あ、やっべ……」と我に返ったリョテイが、慌ててスズカをバスルームに連れ込んでオイルを洗い流し、寝巻代わりのジャージに着替えさせた事で終了となった。
その後目を覚ましたスズカは、あまりの快感の衝撃のせいか、その時の事を覚えていなかった。
リョテイはこれ幸いと「お前かなり疲労がたまってたな……揉み返しが強いみたいだ。ほらローズヒップティーとホットチョコを淹れたから、ゆっくりと飲むんだぞ」と菩薩の様な表情で言った。
普段のトムとジェリーめいた関係から一転、妙に優しいリョテイにスズカは深く考えず、なんだかこんなリョテイちゃんは可愛いな、等と考えている。
知らぬが仏とはよく言ったものである。
結局この日のマッサージはそれなりに効果があったのか、或いは一日中レースの事も考えず、思いっきりデートをしたことでリラックスできたのか、翌週にはスズカも本調子に戻り、彼女のトレーナーから感謝されたリョテイであるが、罪悪感が酷いのか、キナ臭い顔で手を振っただけだったという。
これで一応マルゼンからのオーダーである、「スズカと仲直りをする」はクリアした訳だが、それはそれとしてもう悪乗りしてマッサージなんかしないぞ、と心に誓ったリョテイであった。
当然である。友人のアヘ顔を見て気まずくない訳がないのだから。
AA対応のフォントであるMS Pゴシックが見つからないのでデフォルト設定。なので閲覧側のブラウザ設定によってはAAがずれてるかもしれません。一応目次の右上にある閲覧設定で「ルビを表示」に設定すると、自動的にデフォルトフォントがMS Pゴシックになるそうですが、詳しい事はわかりません。ごめんなさい。
あとマルゼンスキーが好きでこの作品書いてるところがあるのに、気が付くと圧倒的スズカ率で驚くんだが?
別に特に好きって訳でもないのよ?
☆マックスで覚醒凸してるだけで、別に好きじゃないんだよ。