人類銀河帝国 コリント朝 功臣列伝資料 「サテライト8班リーダー ケニーの日記」(航宙軍士官、冒険者になる異伝) 作:ミスター仙人
3月16日
レリコフ元帥の幕僚であるブルゾン大尉にマジノ線の要塞と城壁を案内して貰った。
流石にこの100年間スラブ連邦の攻撃を退けてきた大防御戦線だけ有り、城壁の厚みと要塞の重厚さはかなりのものだ。
しかし、自分達は先のスターヴェーク王国奪還戦争に於いて、敵であるアロイス王国への援軍に来たアラム聖国が使用した、大砲と野砲で一点集中攻撃されたら、城壁どころか要塞でもそれ程時間を掛けずに陥落するであろう。
スラブ連邦が、あの大砲や野砲に匹敵或いは凌駕する兵器を持っていない保証は無く、いや、スラブ連邦は国境を2大国である『アラム聖国』と『崑崙皇国』と接していて、国境紛争を繰り返しているのだから、大砲や野砲に匹敵する兵器を持っていると考えるべきだ。
その様な事を思いつつ要塞の階段を登り、スラブ連邦が30万人駐屯しているという付近を備え付けの望遠鏡で観察した。
流石に丘に阻まれて見えないが、50キロメートルの距離に敵の軍勢が居ると云うのは、守備兵にとって相当不安だろうとブルゾン大尉に聞くと、
「・・・確かにストレスを感じていますね、然も今までと違い到着次第攻撃と云う行動をせず、ジッと駐屯したままで特に動き出さずに居ると云うのは、ひたすら不気味ですよ。」
と答え、ブルゾン大尉自身が不安なのだろう、不気味なものを見る様子で敵軍のいる方向を眺めている。
3月20日
駐屯地用に使う巨大ドームのインフラ整備が完了し、魔導列車用の駅及びプラットフォームも出来上がったので、ドンドンと物資が搬入し始めた。
巨大ドームの天井はエネルギーフィールドで覆われているので、北方な為に度々降ってくる雪を完全に防ぐ事が出来る。
特別にドームとしては異例の陸上戦艦と陸上空母の発着スペースも設けられ、物資の搬入搬出そして人員の乗り換えもスムーズに行える様になった。
周囲の荒野も演習がてら土地を均していったので、将来は広大な街が出来上がるのではないだろうか。
3月25日
アラン様の乗る陸上戦艦『ビスマルク』がその勇姿を水平線上に見せて、鉄道の横を通る幹線道路脇を悠々と此方に向かって進んで来る。
ビスマルクは将来ハイウェイ(高速道路と云うらしい)を通す事を考えて、その船首に有るドリルを稼働させて、邪魔になる山や丘を現地民と相談の上で粉砕しながらやって来たそうだ。
何れ公都セシリオと『マジノドーム』(結局名称はこうなった)は、一直線のハイウェイで繋がるのだろう。
3時間後マジノドーム内の大会議室で、アラン様始め帝国軍上層部とレリコフ元帥とその幕僚達そしてノルデン諸国連合の代表団との会議が開催された。
レリコフ元帥とその幕僚達は、かなり前から陸上空母やマジノドーム建設工事に接していた事もあり、それ程はビスマルクに対して恐れては居らず、寧ろ頼もしげにご覧になられているが、ノルデン諸国連合の代表団はマジノドームとビスマルクに対して恐怖に近い感情をお持ちの様だ。
まあ、考えてみれば無理もあるまい。
此処は、防御拠点で有るマジノ線が有るだけの、謂わば見捨てられた土地でしか無かったのだが、突然マジノドームと云う50万人が住める巨大な都市が出来上がり、鉄道と幹線道路が公都セシリオから繋がって物流の一大拠点となった。
実際の処、ノルデン諸国連合の各首都も此れほどの規模の都市機能は有しておらず、戦時はともかく通常時も帝国が此処に居座ったら、スラブ連邦とは別の脅威と考えてしまうだろう。
その辺りの機微をいち早く感じたのだろう、
「ノルデン諸国連合の代表の方々に要請したい。
御国の優秀な政務官やテクノクラート(技術官僚)を、此の『マジノドーム』に派遣して戴きたい。
我々が此の地を去った後のドームの運営、インフラ設備の保守や利用等を早期に習熟して貰い、このドームに設置されている『魔法炉』によってこの広大な荒野を豊かな土地へと、変貌させる取り組みに参加して貰いたいのだ」
とアラン様は、熱意を持ってノルデン諸国連合の代表団に訴えられた。
ノルデン諸国連合の代表達は、面食らった様に呆然とされていたが、1人の代表が我に返り質問された。
「・・・・・素晴らしいお話ですが、先ずは援軍要請に速やかに応えて頂いた事と、マジノ線に対しての様々な支援と武器や武具等の供与、更にはインフラ整備による物流の円滑化により、此の地は北方に於ける一大拠点になりました。
此の様に莫大な経費と物資を掛けられた拠点を譲られても、我々には直ちに支払える様な予算や資産は存在しないので長い期間での借款になった場合、ノルデン諸国での分担割合等で新たな火種を抱える事になります。
・・・叡明でなるアラン皇帝陛下には、その辺りに於ける画期的な提案やお知恵が有ると推察されますので、是非その辺りをご開陳頂きたい!」
と要望してきたので、アラン様は、
「・・・此れは誤解を招いた様だ。
我々『人類銀河帝国』はマジノドームをお譲りするに当たり、一切の経費や権益をノルデン諸国に対して要求しません。
ただ此方としては要望として、鉄道関係とインフラ構築関係の運賃や敷設工事等で発生する様々な経費は一律20%の消費税としての課税に留め、それ以上の関税や地方税等の上乗せ課税は止めて頂きたい。
此れ以降の他の国にも、同じ様な提案をさせて貰っていて、概ねの賛同を得られている為、既に工事に着手している国は多く存在します。
物流や人流による経済の発展による国家に齎す富は、今までの人頭税や所得税での国家所得を遥かに凌ぎます。
どうぞ、この新しい形での『西方教会圏共栄構想』への参加を、我々は切に願います!」
と説明された。
ノルデン諸国連合の代表達は、目を白黒させ面食らった様に呆然とされていたが、先程質問した方と他に2人程は、此の『西方教会圏共栄構想』の持つ巨大な利権に気付いた様で、周りを気にしながら思案に耽り始めた。
相変わらずアラン様は、皇帝になられてもこの辺の政治的な取引や、経済的な発想に於いて天才であり、我等としては、相手をさせられる側が気の毒でしか無いと思った。